人の噂も。



ドリーム小説
妖蛇の出現により世界は再び崩壊、滅亡の危機へと向かっていた。
だが生き残った英傑達の前に現れた女仙かぐやによって、過去へ戻り未来を変える事ができるようになった。
ただ簡単に過去に戻れるわけではない。
人によって戻りたい過去があり、その場に自分がいた場合のみかぐやの力で過去へ戻れるのだ…。

そして今、散り散りになっていた英傑達は一つの下へ集まろうとしている。

「………」

少しずつ仲間が集まり、本拠地となっている陣営も少しずつ大きくなり始めていた頃。
ある青年がかぐやに視線を向けている光景が見られるようになっていた。

「まただ…また見てる」

「?」

再出発の仕掛け人と言うか発起人?のような一人である司馬昭。
彼が呟く。

「誰が何をですかい?」

隣にいた島左近が簡潔に問い返す。

「ん。ほら…あいつさ…最近かぐやの事を見てんなぁと思って」

司馬昭が指した方には北条家の、当主氏康の料理番と言う青年の姿があった。
氏康は行方不明中なのだが、本拠地である小田原城を救った事により、北条家家臣も司馬昭達と行動を共にするようになっていた。

「へぇ。それはそれは」

左近は己の顎を数回なぞり、ニヤッと笑う。

「何も興味がなさそうな面をしているのに、やっぱ年頃なんですかねぇ」

「あ。それって、やっぱ…」

「かぐやさんを見てる。なんて、普通は」

「そうだよなぁ。そういう事だよな…あ、けどよ、あいつは確かお転婆姫がそばにいるじゃん?」

「東国の美女って呼ばれてもいるんですよ、一応」

「え…すげぇな。それ。けどよ、俺はあの二人はできていると思ったんだが…違ったのか?」

「さぁ?どちらかと言えば…司馬昭さんと元姫さんみたいな関係なんじゃないですか?」

「お、俺と元姫?いや…違うだろ、それも」

戸惑う司馬昭に左近は笑う。

「ま。見ているだけなら何も問題はないでしょうよ」

「そうだけどさぁ…女ってめんどくせぇだろ?」

色々と…。なんて司馬昭が後頭部を掻きながら言った。
それを見て左近は更に豪快に笑った。



***



「はっ!くしょいー…あー…」

甲斐姫が豪快にくしゃみをした。
その辺もう少しおしとやかにできないものかと、周囲は呆れるが。
突然のくしゃみだから仕方ないだろう。

「甲斐、風邪?」

尚香が甲斐姫に問う。

「んー違うと思う。なんか急に鼻がむずむずして…」

「じゃあ誰かが甲斐の噂でもしていたのかもね」

「どうせ悪い噂でしょうけどね」

熊姫だとか、怪力姫だとか、この世界でも好き放題言われている。

「いい噂かもしれないじゃない。あまり後ろ向きに考えるのはダメよ?」

「あたしが後ろ向きになるのは、周りの所為よ。好き勝手言ってくれるんだから」

ただ、半分は甲斐姫の行動にも問題はあると思われる。

「あーでも…周りが何といおうと、意外に一人ぐらいは甲斐の事をわかってくれているかもしれないじゃない」

尚香は前々から気になっている事をそれとなく放り込む。
甲斐姫はそんな人いない。などと気にもとめていないが。
尚香にはある青年がそうだと思っている。
ただ、後々。青年は尚香が思っている以上に鈍いのだと気づくのだが。

「でも。体を壊さないように気をつけなさいよ。この世界、不安定だものね、色々」

「ありがとう。尚香、気を付けるわ…って、はっくしょん!!」

2度目のくしゃみ。

「あー…本当に誰かあたしの噂でもしてんじゃないでしょうねぇ…」

鼻を啜る甲斐姫。
そこへ、くのいちが姿を見せた。

「大丈夫?まぁ気落ちしちゃう気持ちはわからなくはないけどさ」

と突然慰められた。

「流石に今回は男泣きしちゃうかぁ。でも、きっとそのうちいい人現れるからさ」

ぽんぽんと甲斐姫の背中を数回叩く。

「はぁ?なに?それ??」

意味が解らないと甲斐姫はくのいちを睨むように見た。
またこの娘は人をからかって…。

「えー?今泣いていたんじゃないの?」

「泣いてないわよ。単にくしゃみをしただけで」

「ありゃ…あーそれはすみませんでした」

「その前に。その慰め方が気になるわね。甲斐が気落ちしちゃうって…何かあったの?」

尚香が小首を傾げる。

「知らないんですかい?あー…そりゃそうだ…にゃはは。なんでもないですぜぃ」

そこまで言って何でもない。と言うわけにはいかないだろう。

「じゃあ、あっしはこれで」

「ちょい待ち」

甲斐姫はくのいちの首根っこを掴む。

「あきらかに可笑しいじゃない。なんでもないなんて説得力ないわよ、あんた」

白状しろと甲斐姫は拳を握りしめる。

「暴力反対ー!言いますって!」

これが余計に甲斐姫の怪力姫に繋がる要因になると思われるのだが…。

「にゃはー失敗、失敗。いやーあのですね。ちょっとばかし、みんなの噂になっていることがありましてぇ」

本当に失敗したと思っているのか微妙なのだが。
くのいちは二人に事を話した。

「え。がかぐちんの事を見てる?」

甲斐姫、尚香とともに司馬昭達と行動を共にしている氏康の料理番、
彼が最近女仙かぐやの事を見ている事が多いそうなのだ。

「えー。それって…」

「今までありもしなかった展開!がかぐちんを好きかもしれないなんて!…って、それでなんであたしが気落ちするわけ?」

今までそれっぽい話がなかったわけではないが。
基本どちらかと言えば、に対し騒ぐ女の子達が多かった。
自身、少々人に壁を作っていたので、誰かに好意をなんて話は初めてだった。
だけど、そこで自分が人に慰められることにつながるとは甲斐姫は思っていなかったらしい。

「いやーそれはさー」

正直に言っていいものかくのいちは言葉を濁す。
一緒に居た尚香は意味が簡単に通じたようで。

「大方、周りは殿と甲斐の仲を疑っていたのよね。だけど、殿がかぐやに興味を見せたと言うことは。
甲斐は殿に振られちゃった…って思っているんじゃないの?」

「あたしが…に…?なんでよー!!」

二度のくしゃみは偶然だろうが、それを周りが噂していたと考えても可笑しくない。
甲斐姫は冗談じゃないと憤慨する。

「怖いにゃー!けどさ、ちんがかぐやちんを見ているのは本当の話だよ?たまに話しかけようとしているのを見た事あるし。けど、中々それができない見たいでさ」

「へ、へー…」

「甲斐とかぐやじゃ性格も行動も正反対よね…ま、私も人の事言えないけど」

「う…」

少しだけ気落ちした。
誰にも分け隔てないと言うか、甲斐姫に対しては比較的友好的なも、恋愛に関すればお転婆娘よりも、お淑やかな子の方が好みなのかと。
だが、そんな話。自分には関係ないわけで…。

「いいんじゃない、別に。が誰を好きでも。あたしには関係ないわよ。つーか、勝手に人で遊ぶな」

軽くくのいちの頭に手とうをかます。

「痛いにゃー」

さほど痛くないのに、くのいちはわざとらしく声を出して非難する。
甲斐姫はそれに対し、にししと笑ってもう一発くらわした。

「他の人にも言っておきなさいよー。まったく」

だけど、どこかで心は晴れなかった。



***



周囲が自分の噂をしているなどまったく気づいていない
けど、その噂は半分本当だった。

(多分…無理だよな…けどな…)

かぐやに話しかけようとしていた事。
話しかけたくても、内容を気にしてしまい中々上手くいかない。
それを周囲に、くのいちなどに目撃されてしまい噂が先行していくのだ。

(女々しいよな…ここに来て…けど、すっきりさせた方がいいような気もする…)

いや。
多分。かぐやに断られた、否定されるのをどこかで嫌がっているのだ。
そう考えてしまう自分はやはり女々しいのかもしれない。

「あの…様」

「は?…うわ。あ、あぁ、何ですか?」

考えすぎて、呼ばれた事に驚いてしまった。
しかも、自分を呼んだのはかぐやだ。

様は…何か私にお話があるのですか?」

「え…あ、あー…」

「何度か、視線を感じていました。私に何か御用でしょうか?あれば遠慮なく申してくださいませ」

遠慮することはない。とかぐやは微笑む。
あれだけ見ていれば本人が気付くもの仕方ないだろうと、は頭を掻いた。

「あの…他の奴らに内緒にしてもらえますか?」

「はい」

「かぐやさんは人の過去に戻る力を持っていますよね?…それは、俺の過去にも戻ることはできるんですか?」

内緒にするほどの話かと誰かが聞けば思うだろうが。
周りが思っている過去とは、の言っている過去とは別物だ。
ここにいる人たちは恐らく、大半が妖蛇出現の際、あの時こうしていれば…のようなものだ。
大事な仲間を救えなかったあの時、救うために過去に戻り、過去を変える。
それがかぐやのお蔭でできているのだ。

様の過去…」

は今一度周囲に人がいないのを確認してから、かぐやに自分の過去を話す。
それは、妖蛇どころか、遠呂智出現前でもなく、北条家、氏康に出会った頃の事だ。
聞き終えたかぐやは申し訳なさそうにかぶりを振った。
それだけで、には無理な話をしたのだと容易に分かった。

様の仰る過去は、今の世界では無理でございます。それ以前に…」

「あ。あぁいいよ。言いたい事わかります」

誰もが思っていた事。
過去に戻れるのならば、こうなる前の世界。妖蛇が出現する前の過去に戻れればいいのにと。
だけど、今のかぐやの力では無理らしい。
だから、氏康の事も…。

様。申し訳ございません」

深々と頭を下げるかぐやには慌てる。

「そんな!かぐやさんの所為じゃないです。俺が…自分勝手に思っていた事で…けど、それって。
もし戻れたとしても…解決しないって話だなと…なんか無茶苦茶言っていますけど」

さんは…帰りたいですか?元の、ご自分のいらした世界に…」

きっと。
この世界に平和が訪れたならば可能である話なのだろう。
かぐやの力で帰れるかもしれない。

「………さぁ…帰ったとしても、どうなのか…」

はかぐやからの視線を逸らして自嘲気味言った。

様…」

話をそらすわけではないが、もう一つ気になっていることをはかぐやに言った。

「あ、あの…お願いってわけじゃないんですけど…その、様≠チて呼び方なんとかなりませんか?
俺…他の人たちと違って、立場ある人間でもないから…」

「そう申されましても…」

かぐやは困惑する。
にしてみれば、かぐやと言う存在は俗に言う某昔話に出てくるお姫様なのかな?と思え。
逆に自分が彼女をお姫様扱いしても可笑しくないだろう。
だけど、同じ姫なのに、まったくそんな扱いをする気もなれない存在が近くにいる為に。
最近、姫という存在にも疑問が出ている。
それ以前に、かぐや自身、仙界のものだから少々浮世離れした面はあるのかもしれない。

「では…一体、どのように呼ばれるのがいいのでしょうか?」

質問を質問で返されたとは苦笑する。
何も知らないと素直に聞き返してくる本当にお嬢様のような存在だなと。

「えと…さん…ってのもなんか変だし…かといって、くのちゃんみたいに砕けすぎているのをかぐやさんのイメージに合わないし…
姫さんは俺の事を殿と言うから、これが無難だろうな…あぁ、甲斐みたいにでもいいですけど」

「…え、えと、…と?」

若干かぐやの頬が赤く染まるも、呼びなれていないやり方に照れているのかもしれない。

「なんですか?かぐやさん」

それがわかってて笑いつつもは受け答えする。

「かぐやさん。変なことお願いしてすみませんでした。この話、忘れてくださいね」

「いえ。さ…にも色々思うことあるのでしょうから。私の方こそお役にたてず申し訳なく」

「それだと、また話が戻るので、終了にしましょう」

「はい。あ、でも…」

「?」

「今度。の故郷のお話をお聞かせくださいますか?」

「俺の?聞いても面白いかわからないけど…いいですよ。かぐやさんには俺の過去、話しちゃったし」

知っているのもごく一部。と言うより氏康ぐらいだ。

「ありがとうございます。楽しみにしておりますね」

かぐやは女仙で、もしかしたら色んな時代を渡る事ができるのかもしれない。
その時、少しでものいた世界の時代を垣間見た事があって、興味があるのかもしれない。
それはかぐやに聞いてみないとわからないが、それはまた今度でいいだろう。



***




がかぐやと話をしているのを目撃した甲斐姫。
あぁ、上手く言ったのかと単純に思った。
これで、自分は周囲から振られたとさらに思われるのだろうか?
まったく関係ない話なのに、いい迷惑だとぼやく。

「甲斐。どうした?難しい顔をして」

!な、なんでもないわよ…あ、あれ、かぐちんは?一緒じゃないの?」

目の前に一人。

「あぁ。さっき少し話をしたけど、用事済んだし」

「そ、そう…」

用事って…。
告白を用事の一言で済ますのもこの男らしいが。

「か、かぐちん。可愛いもんね…」

「何言っているんだ?お前は」

「や、その、みんながね。がかぐちんに惚れているとか、なんとか言っているのを聞いたから〜」

性格的に誤魔化す、嘘を吐く。と言うのができない甲斐姫は正直に言ってしまう。
言い終わったと同時に、それがのお気に召さなかったのが瞬時にわかった。

「………か、からったわけじゃないのよ?別に」

「つーか、英傑さん達でも、そう言うくだらねぇ話をするんだな」

「くだらないって。心配してんじゃないの?みんな、あんたの事を…」

「心配される道理がねぇ。大体、俺は別にかぐやさんに惚れているわけじゃねぇし」

「だ、だって。いつもあんたがかぐちんを見て、もどかしいような態度をとっていたらしいから」

は頭を強く掻いた。

「それは単に、聞きたいことがあったからで」

「聞きたい事って?」

「え…か、かぐやさんの力の事で、ちょっとな…」

「かぐちんの?…あんたも考えていたの?お館様の事!」

「え?あ、あぁ…まぁ…」

「そうよね!お館様の事、心配よね…なんかさ、あんま期待できないらしいじゃない…でもさ、かぐちんの力があればってあたしも思うわけ」

そうだ。
は仲間だ。北条家という場所の。
だったら、彼もいまだ行方不明中の氏康を心配するだろう。
なんだ、そうなんだ。
そう思ったら、甲斐姫は不思議と笑みが零れた。

「けどさ、心配するだけ無駄じゃね?」

「は?何言うのよ」

「いや。俺や甲斐が心配していたなんてお館様が聞けばさ、大体なんて答えるか想像つくだろ?」

甲斐姫は思い浮かべる。氏康の言いそうな事を。

『あぁ?俺の心配だぁ?手前らみたいな餓鬼に心配されるほど俺は老いぼれちゃいねぇよ』

とか。

『俺の心配なんざ百年早ぇんだよ』

みたいに言われるだろう。
なので、想像してみて甲斐姫は思わず吹いた。

「そうね。心配するだけ無駄かも」

いや、そう思いたいのかもしれない。
だけど、そんな話をしていると、少しは気が晴れる。

「お館様なら大丈夫よね、きっと…」

「大丈夫だろ。どっかで酒でも飲んでいると思う」

「そうよね。あぁ〜あたしの心配もどっかに行っちゃったわ」

「そいつはよかった」

が口角を緩めて笑ったので、甲斐姫は一瞬反応に遅れた。
多分。
氏康だけじゃなく。
みんなの噂が、あくまで噂で真相は別にあったので安心したのかもしれない。

「あんたさ…ずるくない?」

「何が?」

「………色々よ」

だけど、それを口にするのは癪なので、しばらく黙っていようと思った。
なんで?とか。
考えても、答えがわかっているようだけど、まだ気づきたくないのかもしれない。










19/12/31再UP