心地よい。



ドリーム小説
「はー。なんであたしモテないんだろ…」

「………」

「何回あたし、同じ台詞繰り返してるんだろう」

「それさ…独り言?俺に言ってんの?」

半分項垂れている甲斐姫のすぐそばで、青年が一人呆れていた。

「別に…」

青年、は甲斐姫の一言に。ふーん。と適当な返事をした。

「甲斐はモテたいのか」

「モテたい!…って、なんであんたに言わなきゃならないわけ、あたし」

「今更だよな。甲斐のモテたい発言を俺は耳にタコができるほど聞いているから」

「じゃあ今更聞き返さないでよ」

「じゃあ今更俺の前で言うな」

「ぬ」

「あ。いいや、俺がどっか行けばいいだけの話だ」

元々この場で書物を読んでいたのそばで甲斐姫が騒いでいただけだ。
は書を閉じ、そのままどこかに行ってしまった。

「ちょ、ちょっと!」

いつもの事ならばいいじゃないかと甲斐姫は言いたかったが、そう何度も聞かされる方はたまったものではなかったのだろうか?

だけど、少しだけ寂しいのかもしれない。
こうしたいつものやり取りで相手にされないのが。

ここは魔王遠呂智が時空を歪めて作った、三國と戦国の世が融合した世界。
幾多の困難が訪れるも、人々は仙界の者達の手を借り、一つになり魔王を倒した。

3度目の危機。
今再び、人間は滅亡しようとしていた。
八首の大蛇、平清盛の復活、妖蛇の集結。

敗北を繰り返し、諦めかけた時、女仙かぐやの出現と協力により。
過去へ戻ることができた。
そこで改めて、散って行った仲間達を救い、新たな未来の為に、今力を蓄えていた。

皆が願う、あの時あの場でこうしていたら。と言う想いで今多くの仲間を救えている。
だけど、甲斐姫とが願うあの人を救う過去へは残念ながらいけないでいた。

仲間が多く集うも、そこに自分たちの願う人がいない事が寂しい。
その寂しさを分かち合うのではないが、自然とに甘えていたのかもしれない。

「あ〜あ〜いい男が沢山いるのになぁ〜」

生憎、妻帯者であったり、彼女持ちあったりする。
中には念願の独り者もいたのだが、性格とかどこかが残念だったりするのだ。
この状況下で、そんな事を話していられるのは未来を変えることができる。
少しずつ好転していると思っているからかもしれないが。

「甲斐ちゃんどうしたん?」

下から感じた視線と少女の声。
子供と言っても可笑しくない年頃の少女。
元々敵であったが、今は一緒に行動し、仲間と認めて欲しいと頑張っている少女卑弥呼だ。
卑弥呼と甲斐姫は出会った当初から、少しだけ感じるものがあったようで。
仲間になってから妙に懐かれていた。

「ちょっとねー。なんでモテないのかぁと思って」

子供に愚痴るのもどうかと思ったが、誰かと話をして気を紛らわせたいのか甲斐姫は先ほどのモテたい発言を卑弥呼に向けていた。



***



(今、モテたいとか言ってもしょうがないと思うが…むしろ、なんとかさせてからゆっくり考えればいいのにな…)

まぁ、多少は余裕が出てきたことなのだろう。
は先ほどの甲斐姫の発言に首を傾げていた。

「ねぇ。甲斐がどこにいるのか知らない?」

「あ。姫さん。あっちに居ますよ。阿呆な独り言を呟いていますけど」

を呼び止めたのは孫尚香。呉のお姫様。
だが、武芸に長け弓腰姫と呼び名もあり、甲斐姫といい勝負のじゃじゃ馬ぶりを見せていた。
彼女は妖蛇に襲われた際、国から逃げ、小田原城にやってきた。
甲斐姫たちが彼女らを匿い、以降行動を共にしていた。
性格も甲斐姫とは合うのだろう、よく一緒にいる。

「なぁに?阿呆な独り言って…」

「いつものご病気みたいなもので。モテたいとか、何で自分はモテないのかとか」

そんなに口にしてどうするんだ?とは思っていた。

「それ!」

「はい?」

尚香に人差し指を突き付けられた

「なんで甲斐みたいないい娘がモテないの!?」

「…って俺に言われても…」

数歩引く

「甲斐はとってもいい娘じゃない。見た目だって悪くないわ。明るい性格だし」

いつも近くにいるならばわかるだろう?と尚香は問い詰めてくる。

「黙っていれば。の話だと思いますけどね、俺は」

「そんな事ないわよ」

「姫さんこそ、甲斐のどこを見ているんですか?あんなに漢らしい漢、その辺にいませんよ」

「そ、その例えもどうかと思うけど…そもそも、あなた達がそう言う風に甲斐の事を扱うからダメなんだと思うわ!」

両手を腰に当てて、に向かって頬を膨らませる尚香。

「俺の所為ではないと思いますけど?俺が北条に世話になる前からの話ですから」

「そんな風に余裕ぶっていられるのも今のうちよ!ネメアさんは結構甲斐の事を認めているみたいだし」

「ネメアさんって…」

あぁ、あの長身金髪男か。とは顔を思い浮かべる。
そう言えば、あんな感じの男が好みだとは甲斐が言っていたなと。
二つの世界が融合したこの地であるが、妖蛇出現により他にもこの世界に迷い込んで来た人々がいる。
その代表がネメアと言う男だ。

「別にいいんじゃないですか?それで甲斐にしてみればいい事だろうし」

「え、えっと。ちょっと違う」

「?」

「と、とにかく。今のままじゃ甲斐がネメアさんのものになったら困るでしょ!」

「いや、別に」

「困るのよ!」

なんで逆ギレされるのだろうか、謎だ。

「しっかりしないと、もう!」

一方的に言われて困るのはこっちだとぼやきたいが、尚香は甲斐姫の下へ行くのだろう。
に言いたい事だけ言って背を向けてしまった。



***



「鈍いわ。あの人鈍すぎるわ」

尚香は晴れない気分に苛立ってしまった。
余計なお世話と思いつつ、に対し甲斐姫を売り込んで見たのだが。
彼の反応は淡泊いや、むしろ悪かった。

「あ。尚香ちゃーん。何してん?」

「卑弥呼。甲斐を捜しているのだけど」

「甲斐ちゃんならあっちにいるでー」

卑弥呼は笑顔で尚香の横を過ぎていく。
何かいい事でもあったのだろうか?と思いつつ、目的の甲斐姫のとこへ向かう。
ご機嫌だった卑弥呼に対し、甲斐姫はどこか遠い目をしていた。

「甲斐。捜したのだけど…どうしたの?」

「あー尚香ー。甲斐ちゃんは男にはモテず、女の子にモテましたのさ。って話」

「はぁ?」

卑弥呼と話をしていたそうだ。
甲斐姫の反応、と言うかノリを卑弥呼は大変気に入ったそうで。
尚香は先ほど卑弥呼の機嫌がよかったのかと話を聞いて納得した。

「なんか大変ね、甲斐は…」

「そうねぇ。自業自得な面もあると思うけど」

「本気でネメアさん狙っちゃえば?」

「え?しょ、尚香さん?何を突然」

「だって、尚香の事をちゃんと見てくれそうじゃない」

「えと、でも、あの…今そう言う事を言っている時期じゃなくて」

もじもじと珍しく指を絡めて恥ずかしがっている甲斐姫。
と言うより、ネメアとの話は甲斐姫の中では本気ではないような?
見ている尚香がじれったく感じてしまう。

「もう。モテ系二人組の目標はいい男を狩る!でしょ。だったらいい男を狩るしかないのよ!」

尚香もその辺は協力すると言ってみる。

「そ、そんな話もしたけど…えーと…大体、尚香には大事な人がいるわけで」

「いるけど。狩るのは甲斐だもの」

「無責任ね…」

「だって、甲斐ってばいつもの押しがないんだもの!」

猪姫と言われるほどの前向きな姿勢なのが甲斐姫の売りだとも思うのだが。
あ、だとすると。先ほどの言っていた漢らしい、漢ってのに当てはまるような気もする。
だけど、今の引っ込みはきっと。

「そんなにあの彼が気になる?」

「ど、どの彼よ!」

「いつも甲斐と一緒にいる…殿」

「は、はぁ!?べ、別にあたしはのことなんか!き、気にしちゃいないわよ」

瞬時に顔を赤くした甲斐姫。
強く動揺しているではないか。

「そうなの?」

「そうよ!」

「その割にいつも一緒にいるじゃない。仲が良くていいなぁって思っていたけど」

尚香は自分の大事な人とは会えていない。
だから、いつも一緒にいる二人が羨ましいなと思って。
モテたいとか、何でモテないのだろう?なんて甲斐姫が口癖のように言うが。
そばにいる人がいればいいじゃないかと。
甲斐姫に言わせれば付き合っているわけでもない。仲間だ。と言い切るのだが。

「な、な、何言っているのよ!」

「じゃあ甲斐は気にならないの?殿のこと」

「ならないわよ。なるわけないじゃない!」

「ふーん」

今はそう言う事にしておいてあげよう。
尚香はそれ以上ツッコむのはやめた。



「それでな!それでな!」

甲斐姫と尚香が武器屋にでも行こうかと陣地内を移動中。
これまた元気のいい声が聞こえた。

「ほんま面白いねんで!」

卑弥呼がに一生懸命身振り手振りで話している。
普段なら興味なさそうな態度を崩さないも。
子供には優しいようで。
書は閉じて、卑弥呼の話を胡坐を掻いて聞いている。

「甲斐ちゃんは熊殺しで強豪を次々倒すねん。で、ある日かっこいい敵が現れて…
甲斐ちゃんの熊殺しを初めて破る!そっから…恋が始まんねん!」

「現れるのか?そんな強い男」

卑弥呼がに話している内容が甲斐姫の耳にも届き、甲斐姫が慌て始める。
隣にいる尚香は面白そうだとあえて甲斐姫を宥めて聞き耳を立ててしまう。

「現れるに決まってるわ。そんで、甲斐ちゃんの怪力をほどいた腕で、甲斐ちゃんを死ぬほど抱きしめんねん!な?な?面白いやろ、甲斐ちゃん!」

「甲斐つーか、そう言う想像できたお嬢が面白いと俺は思うよ」

卑弥呼を見て小さく笑う

「あいつ…子供にはあーゆー顔平気で見せんのよね…」

「甲斐?」

人に壁を作っておいて、だけど、小動物にもあまり関わりたくないと言っている青年。
情が移るからとか言って。
けど、子供には無条件で気を許してしまっているようだ。

「せやけど、うち甲斐ちゃんなしじゃもう生きられへん!甲斐ちゃん大好きやねん!」

「へぇ…モテて念願叶ったりだろ、甲斐は」

「お兄ちゃんは?」

「ん?」

「お兄ちゃんも甲斐ちゃんの事好きやろ?」

ぞわっと甲斐姫の背筋が凍った。
あいつは、はなんて答えるのだろうか?
聞きたいような聞きたくないような?
反応がいつも通りのものなのか?
でも、我慢できなくて…。

「俺は…」

「ちょ、ちょっと!あんたら何、人をネタにして遊んでんのよ!!」

「「あ。甲斐」」

と尚香の声が重なる。
ずかずかと二人の所へ行く甲斐姫。
聞いていられなかったのだろう。

「甲斐ちゃん!えー、うちネタになんかしてへんよ?ただ、お兄ちゃんに甲斐ちゃんが面白いって話してただけやん」

「それがネタにしているってのよ」

軽く卑弥呼の頭に手とうをかます甲斐姫。

「でも卑弥呼が楽しそうでいいじゃない」

尚香が笑いながら話に加わる。
一応妲己と言う存在を気にしてのことだろう。
卑弥呼には何の警戒もしていないようだが、妲己には警戒をしているのが現状だ。

「じゃあ。面白話を聞かせてくれたお嬢に、これやるよ」

手を出して。と卑弥呼に言う
卑弥呼は素直に右手を出した。

「はい。飴玉」

「え。うちにくれんの?」

「おう。沢山作ったから、好きなだけ食べてもいいよ」

料紙に包んだ飴。
本当に沢山あるようで、卑弥呼の小さい手には大きすぎる感じだ。

「おおきに!…あ、なぁお兄ちゃん…これ、他の人にもわけてもええか?」

あげたい人がおんねん。
卑弥呼が少し悲しそうに言う。
誰に分けてあげたいのか、容易に想像できる。

「俺に聞かなくても、それはお嬢にあげたものだから。お嬢が好きにすればいいんだよ」

「う、うん!じゃあ、最初は甲斐ちゃんと尚香ちゃんにもあげる!うちの大好きな人だからな!」

はい。と飴を二人にもあげる卑弥呼。

「あと。お兄ちゃんにも」

「俺は…ありがとう」

いいよ。と断ろうとしたのがわかった。
けど、卑弥呼がを気に入ってくれているのもわかっていたのか。
はちゃんと飴を受け取った。

「ほなら、うち行くなー!」

卑弥呼はその大事な人の所へ行くのだろう。
元気に駆けて行った。

「喜んでくれてよかったじゃない」

「そうね…けど、いつの間に飴なんか作っていたの?」

甲斐姫と尚香は飴を口の中へ放り込んだ。
久しぶりに食べた気がする。

「ん。まぁ、なんとなく。俺ができる事ってこのくらいだしな」

「それって…卑弥呼を元気づけようと?」

「お嬢だけじゃないよ…世界がこんなになっても、暮らしている人がいるんだよ。
子供も結構いたからな…まぁ、子供が喜ぶものって言って思いついたのこれくらいだから」

「餌付け得意だもんね、は」

「失礼な奴だな」

「でも一番に餌付けされちゃったのは甲斐でしょ?いつも、殿が作ってくれたもので、これが美味しかったーとか言ってるじゃない」

「い、言ってないわよ!」

「結局のところ。さっきの質問答えていないわよ?殿」

尚香はここぞとばかりにに詰め寄る。
さっきの質問は卑弥呼がに聞いていたものだ。
は尚香には卑弥呼に見せていた表情とは違って呆れを混ぜている。

「聞いてどうするんですか…」

「いいじゃない。気になるもの〜」

「俺は気にならないし。聞いてもしょうがないでしょ」

は立ち上がり、軽く服を払った。

「ま…甲斐はそのまんまでいいと思うよ、俺は」

それが彼からの答えのようだ。
二人の顔を見ることもなく、は行く。
そろそろ食事の支度があるようで。

「そのまんまでいいって。よかったわね、甲斐」

ぽんと尚香が甲斐姫の肩に手を置くものの。

「べ、別に…」

そっぽを向く甲斐姫。
だけど、自分の事で何かを言ってくれるのが珍しいから。
少しだけ口元が緩む甲斐姫だった。








19/12/31再UP