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「はぁーもてたいっ!」 口癖のつもりはないけど、ついついそう叫んでしまう。 一人の時にすればいいものを、決まってそこに誰かがいる。 いや、誰かと言うより確実いつも同じ男がいる。 「そんな事平気で口にする奴は大概もてないな・・・ちったぁ学習しろよ」 「煩い。アンタには関係ないでしょ」 結構謎の多い、お館様専属の料理番。 「ないけどさ。煩く言われたくないなら、どっか別の場所で叫べよ」 一応忠告してやっているんだ。 そう面倒臭そうに言う。 何よ、あたしがどこで何をしようが勝手でしょうが。 「あんたこそ、どっか行きなさいよ。なんでいつもあたしの近くをうろちょろしているのよ。 あ?なに?もしかして・・・実はあたしに惚れているんじゃないの?」 「・・・・・・・・・幸せでいいな」 なっ! ものすごく馬鹿を見る眼差しだったわよっ! ムキー!すごくムカツクわね!! 「場所見て言えよ、場所を。この室に居たのは俺が先。後から甲斐が来て勝手に喚いたんだろ」 しかもまったくあたしを見ようとしないしね。 「・・・・・喚きで悪かったわね」 壁に背中をつけて本を読んでいた。 片膝立ててそこに頬杖ついた片肘乗せて。 開いた左手で器用に本を読み頁を捲っている。 「面白いわけ、それ」 「別に・・・」 「別にって、面白くないのに読んでいるの?変なの」 の視線は常に本に向けられている。 ちょっと面白くない。 人と話をする時はその人の目を見て話すものでしょうが。 「面白いとか面白くないとか関係ない。知識として頭に叩き込んでいるだけだ」 「?」 「所謂レシピ本だ、これは」 「れし、ぴ?」 たまにはあたし達の知らない単語を発する。 なんだ?と首を傾げれば失敗したと面倒臭そうな顔をする。 意味がわからない。 それがを見ていてムシャクシャする理由かもしれない。 謎の多い理由がそれ。 「料理。の本だ・・・・保存食とか覚えて損はないだろ」 「ふーん」 あぁお館様専属の料理人だもんね。 戦にも着いて来るし。 専属って言っても、他の料理番と一緒になって作っているけど。 腕は悪くないわよね。 お館様が気に入っているくらいだもん。 たまに、あたし達の知らないもの作って食べさせてもらうけど、それは結構楽しみにしている。 あくまでこっそり、密かに楽しみにしているんだけどね。 なんか、面と向かって言うのが癪なのよ。 「「・・・・・・」」 急に会話がなくなった。 まぁ面白くないとか、なんとか言っても、基本真面目な奴だから本に集中したんでしょうね。 あたしが邪魔しちゃったようなものだし。 そのあたしはと言えば、どっかに行く用事もないし、やる事もない。 なんとなーく、その場に腰を下ろして膝を抱えてみる。 暇っちゃ暇なんだけど、立ち去る気がしなくて。 まぁたまにはこんな日もいいかなって。 「・・・・・・・・」 耳に届くのは頁を捲る音だけ。 あんま聞きなれない音だけど悪くないわよね・・・・。 その音へと目を向けてしまう。 抱える膝に頭を乗せて、目に入るのはその頁を捲る手。 「・・・・・・」 刀は持たないけど、包丁は握る手。 結構長い指よね・・・あれ、もしかして女のあたしより綺麗な指先してない? 思わず自分の手と見比べてしまうけど。 って言うか、器用に本を読むわよね。 疲れないのかしら、その姿勢・・・。 あ。そう言えばの顔、こんなに長く見るのって初めてよね・・・。 真正面から向き合わないわけじゃないし、見た事ないってわけじゃなくて。 なんて言うか、普段ちょっと身長差があって、の方がちょっと背が高いから見上げたりするわけで。 今は、誰も邪魔をする人がいないから、マジマジ見れちゃうわけで。 まぁも黙っていればいい男の部類に入るのにねぇ・・・・。 ・・・・・。 ・・・・・・。 ・・・・・・・。 ってぇ!!?あ、あたし何考えているわけ!? いやいや、落ち着け、落ち着け、あたし! 違う、違う。そう、そう!一般論よ、一般論! たまーにそんな話を聞くわけよー。 城の侍女達がね、噂してたりするわけで。 ちょっと無愛想だけど、たまに笑った顔を見るといいなーとか。 黙って力仕事を手伝ってくれる姿がいいとか。 料理のできる男ってなんかいいわよねーとか。 とか、とか、とか・・・・。 うっ・・・な、んだろ・・・・ものすごーく恥かしいんですけど! チラッと静かに本を読む姿を見ると、なんて言うか。 あーこんな顔をするんだとか、他の子達は知らない顔かもとか・・・。 「なに?」 バチッと目が合った。 「えっ!?な、なにってなに?」 「人の顔見て、まだなんか文句あるのか?」 文句って・・・・別に文句なんかないけど。 なに?こいつから見て、あたしって普段文句ばっかたれているわけ? 「別にないわよ」 「あぁそう」 また本に目線を合わせてしまう。 マジマジ見ていたから気に障ったのかも・・・。 あれ、なんかちょっとがっかりしている自分がいるんですけど・・・。 なんだろ、これ。 さっきから、変よ、変。 こいつのことをちょっと観察しただけなのに〜 単なる興味本位って言うか。 珍しいもの見たなって思ったからで・・・。 なのに、ちょっとこう、胸の辺りがドキドキ、チリチリする。 「甲斐」 「な、なに?」 声、うわずってないわよね? て、あたし、何緊張しているわけ? 「変な顔」 「は?」 「さっきから一人で百面相してる」 み、見ていないようで見てたの、こいつ!! なんだろ、すごーーく恥かしい!! あたしってばどんな顔していたのよ! 「あ、あたし!鍛錬してくる!だ、誰か手合わせしてくれるといいな!」 居た堪れなくなってあたしは室から逃げるように飛び出した。 あーもーなんでこうなっちゃうわけ? 次からどんな顔をしてに会えばいいのよ!! って言うか、どうしちゃったの!あたしってば〜〜!!? 【片手で本を読む、その仕種が。】 「本当・・・飽きねぇな、甲斐の奴・・・・」 一人になり、静かな室で青年はくつくつ笑ったそうな。 19/12/31再UP |