編み目。



ドリーム小説
越後の上杉家との睨み合いがいまだに続いている北条軍。
甲斐の武田家からの援軍で勢いは増しているが、戦は戦。
そう簡単に終わるはずがない。
一進一退の攻防戦を繰り広げている。

「うーわー。ちん、上手、上手〜もしかしてあたしより手際がいいかも〜」

炊事場から少し離れた場所でそんな声が上がった。
甲斐姫は聞こえた声の主と聞こえた名前に何事かと思って顔をのぞかせた。

「なにしてるの?」

「編み物。くのちゃんに教わっているんだ」

「えっ・・・・男のアンタがなんでよ・・・」

切り株に腰掛けて、並んで座っていた氏康の料理番と甲斐からの援軍の一人くのいち。

「別にいいだろ。時間があるから」

ちん上手だよ〜ちょちょーっと教えただけで上達するんだもん」

くのいちが人を褒めるなど珍しいなと甲斐姫は思った。
褒めるにしてもどこか嫌味とか別の意味を含んでいそうだから。
けど、今は純粋にを褒めている。

「だからって、なんで編み物なのよ」

「んー?くのちゃんの撒いてるマフラーが可愛いね。って話をしていたらさ」

「えへへっ〜実はこれ、あたしのお手製なのだー」

「へー・・・でも、そのくらいたいしたことないんじゃないの」

甲斐姫の言葉にとくのいちは同時に鼻で笑った。

「なによ!言いたいことがあるならちゃんと言いなさいよ!」

「だってねぇ〜」

「たいした事ない。なんて言うほどやったことねぇだろ?甲斐は」

「そ、それは」

「編み棒持つより、刀握っている方が絶対多い」

「う、煩いわね!」

確かにその通りなのだが。

「くのちゃん。ここはどうすりゃいい?」

「そこはねー」

くのいちも生徒の上達ぶり、呑み込みが早いのが嬉しいのかに飽きずに付き合っている。
なんとなく場違い。存在を無視されているようで甲斐姫には面白くない。

「・・・・・・」

ふとが口を開く。

「今度、甲斐に編んでやろうか?」

「は?別にいいわよ・・・・」

「そうか?まぁ別にいいけど・・・・腹巻きとか似合うと思うけどな」

「なんでよっ!」

「にゃはははは。いいじゃん、お似合いだよ〜」

からかわれているのだろうか?くのいちまで楽しげに笑うし。
甲斐姫は二人に背を向けてその場を離れた。



「まったく、なんなのよ、アイツってば!」

そう言うところが漢らしいって言われるんだよ。との声が聞こえてきそうな感じで歩く甲斐姫。
簡単に言えばガラが悪そうと。
ここ数日で顔をあわせることが多くなったから、と言う青年を知る事になった。
なったけど、向こうはさほど自分には興味がなさそうに見える。
甲斐姫が断りの返事をすると、「まぁ別にいいけど」とあっさり引く。

「ッて言うか、腹巻きって何よ!腹巻きって!!もう少し可愛らしいものとかでいいじゃない!!」

腹巻き貰って喜ぶ女がいるか!?
憤慨して声を荒げてしまう。
それとも何か?から見れば自分は女の子。と言う規格から外れているのか?
漢か?男じゃなくて、漢という部類に入るのか!?
しかもくのいちには「可愛い」って物だとしても軽く褒めやがって!

「どうかされたのですか?甲斐殿」

「幸村様!」

振り返って思わず半音声が高くなってしまった。
従者のくのいちは生意気だけど、主人の幸村はとても素敵な人だ。
ただ、少し鈍いと言う気はする。

「いいえ、別に〜」

ニコニコっと笑みを作ってしまう。
幸村に変な姿を見せたくなくて。

「幸村様こそ、どうしたんですか?あの子でも捜しているんですか?」

「いえ。少し体を動かそうと思いまして。誰かと手合わせしていただきたく」

「そうなんですかー・・・・・あー・・・・えーと。よろしければあたしと手合わせしていただけますか?」

「甲斐殿と?えぇ喜んで」

(よしっ!)

幸村に見えぬよう拳を握る甲斐姫。
少しでも幸村と居られるなら万々歳だ。

(ふふーんだ。そっちそっちで仲良くするなら、あたしはあたしで幸村様と仲良くやるんだから!)

ウキウキしながら幸村の後を追う甲斐姫だった。



***



ちん。ちん。あの子放っておいていいの?」

「はぁ?・・・・・それって甲斐のこと?なんで、俺が一々面倒見なきゃならないわけ」

くのいちに教わりやってみた編み物。
自分は案外家庭的なものが得意だったようだ。
家政婦としてどっかの大名に雇ってもらおうか。そんな風に考えてしまう。
と言うより、氏康に使ってもらっているようなものだが。

「だって、ちんにかまってもらえなくてつまんなーい。って顔をしてたよ」

「逆に聞くよ。俺と一緒に居て平気なの?幸村が他所の女と仲良くしていても知らないよ」

「ぬあっ!そ、それは〜あ、ありえそうで怖いけど〜あたしがそれについて云々言うわけにはいかないし〜」

くのいちが頭を抱える。だがすぐにの横顔を見上げる。

「って、あたしが幸村さまの事を・・・・その・・・・」

「好きなのは知っている。見ていればわかる」

「そ、そうなの!?忍び失格じゃーん!」

大袈裟にその場に項垂れてみせるくのいち。

「けど、肝心の幸村はダメダな。鈍いにも程がる」

「だよねー。にゃはは、可笑しい。普通だったら人にばれて恥かしいとか思うのに・・・・。
ちんにばれても恥かしくないや。むしろ、こうやってお話できて楽しいかも」

編み物の手を止めずには小さく笑った。

「俺のこと、女友達。ッて風に見えているんじゃねぇの?悪いけど、俺そっちの人じゃないよ?」

「わかってるよー。ちんはどっからどう見ても男の子だよー」

「寧ろ甲斐の方が漢らしいけどな」

「あー。聞かれても知らないぞー」

どこからともなく「ふざけるなー」と殴りこんできそうだ。
だけど、そう考えてしまうとやはり甲斐姫の事は女の子と言うより漢と例えてしまうのかもしれない。

「でもさ・・・ちん。いつも一人で居るよね・・・・ちんの性格ならみんなと仲良くやれそうなのに・・・・」

くのいちに言われて、手が止まる
だけど、すぐに何事もなかったように手を動かす。

「さすが忍び。そう言うとこ・・・よく見てると思うよ」

ちん・・・・」

極力他人と一緒に居るのを避けている。
くのいちから話かけて来なかったら、今もきっと一人だった。

「別に苛められているわけじゃねぇから。それだけはわかって」

「あ、うん」

「よし。できた」

完成したマフラー。大して模様もつけずに同じ網目で編んだから時間も掛からずに済んだ。

「中々のデキじゃね?」

「うん。初心者とは思えないよ。すごいね、ちん」

「じゃあ。これやるよ」

「え?でもさ、折角編んだのに・・・・」

くのいちの手にマフラーを乗せる

「俺が持っていてもしょうがないからさ。あんま物に執着しないし・・・って言い方は教えてくれたくのちゃんに悪いな」

ちん・・・・」

「俺、そろそろメシの仕度しなくちゃ。ま、それはくのちゃんの好きにしていいよ」

は立ち上がり、炊事場へと戻っていった。



***



くのいちはが編んだマフラーを持って歩いていた。
折角上手に編めているのに。
自分で使えばいいのに・・・。それが嫌なら自分で誰かにあげればいいのに。
物に執着しないと言っていた。
なんとなく、物だけでなく、人そのものにも執着しないように見える。
極力誰かと一緒に居ないように。一人で居る事を望んでいるような・・・。

「くのいち」

「・・・・・・あ。幸村さま・・・・」

幸村と甲斐姫が一緒に居た。

「幸村様に手合わせしてもらちゃった。さすが幸村様はお強いですね」

「そんな。私などまだまだです」

甲斐姫は上機嫌だ。
いつもなら何かしら茶々を入れるくのいちだったが、のことが気になってしまってそれどころじゃなかった。

「これ、あげる」

「は?何よ、急に」

の編んだマフラー。
好きにしてとは言った。だったら好きにしてやろうと。

ちんが編んだんだよ。すごいよね」

「へぇ・・・・」

ちんのこと・・・・・もっとかまってあげてよ」

マフラーを甲斐姫に持たせるくのいち。

「はぁ!?」

「だって、ちんがなんか・・・・・可哀相・・・・」

「くのいち?」

幸村以外の心配などしたことなかった。
まったくしないと言うわけじゃないけど、主人である幸村が無事ならと思ってしまう部分があった。
だけど、他人と距離を置くに寂しさを感じたのだ。

ちんのこと、一人にさせないで」

「何言っているわけ・・・・」

「いいから!さ、幸村さま行きましょう!ほら、さっさとちんにお礼を言いに行ってきて」

幸村の背中を押すくのいち。

「ちょっと!」

甲斐姫は意味がわからないとくのいちを非難する。

「ねぇ。知ってた?ちんが話しかけるのって氏康様とあんたぐらいなんだよ?」

「は?」

用がない限り、が誰かに話しかけるのはあまりない。
話しかけられれば返事はするけど。
もっと自分を出せばいいのに、わざとそうしないように見える。
それでもまだ話しかけることのできる存在がいるならいい。



***



甲斐姫は一人取り残されて唖然とする。
無理矢理くのいちから持たされたもの。
自分が幸村と手合わせとはいえ楽しんでいたから、それの腹いせか?などと思ったがどうやら違うようだ。
なぜなら、彼女はずっとを気にしていた。
彼女が想いをよせているのは幸村。
それは甲斐姫も知っている。知っているから妙な張り合いをしてしまっている。
だからを必要以上に気にするはずはない。
単に心変わりしたと言えば随分軽い想いなんだなと思うが、そうでもないのはわかる。

ちんのこと・・・・・もっとかまってあげてよ」

ちんのこと、一人にさせないで」

「ねぇ。知ってた?ちんが話しかけるのって氏康様とあんたぐらいなんだよ?」

さっきは二人して自分の事を小馬鹿にしたような物言いだったのに。
短時間で何があったのだろうか?

「・・・・・・・」

それでも手に持つそれをなんとなく首に回した。

「あったかいじゃない・・・・」

誰にあげるものでもないらしい、それ。
完成させるのが目的だったようにはなんとなく思えなくて。
行き場をなくしたそれを悲しんだくのいちが、甲斐姫に行き場を求めたような・・・。

「あーもう!」

あの子は何かに気づいたんだ。
だから自分にあんな事を言ったんだ。
仕方ないと甲斐姫は炊事場に向かった。

「・・・・・・ねぇ」

向かうと他の料理番たちと夕餉の支度をしていた
黙々と作業しているが、見た印象がいつもと違う。

「なに?」

それでも甲斐姫に気づいたは反応してくれた。

「あの子がくれるって言うから貰ったんだけど」

「あ、そう。作業の邪魔」

「ぬっ・・・・」

いつもならばここで噴出して場を立ち去るのだが我慢だ、我慢。
同時に思う。
やっぱり変だと。
淡々としている部分はあるが、今の彼から冷たさを感じる。

「あーもー!ちょっと来なさいよ!!」

「おい!」

甲斐姫はの腕を無理矢理掴む。

「借りていくわよ!」

一応他の料理番たちに声をかけて。
彼らはポカンと口を開けたままだが。

「なんだよ・・・・」

「なんだじゃない。話をするときは人の目を見るって言われなかった?」

「なに、急に婆みたいなこと言ってんだ?」

「あ、あんたねぇ・・・・・」

怒るな、怒るな。これではの思う壺だ。
甲斐姫は軽く咳払いをする。

「ちゃんと見なさいよ。ほらー・・・・」

「・・・・・・」

「いいデキじゃない。他にあげる子いなかったの?」

は面倒臭そうに立っている。

「ッて言うか・・・・あの子に心配かけるようなことやめなさいよ。
なんかあるならちゃんと話ぐらい聞いてやるわよ。はあたしと同じでお館様に仕える仲間でしょ」

「・・・・・」

「な、なによ・・・文句あるわけ」

「別に心配かけたつもりはないけど・・・・くのちゃんのお節介。はー忍びの洞察力はすごいな、本当」

やはり何かあるようだが、どうやらまだ話す気はないようだ。
別にいい。
聞きたくないわけではない、今はまだいい。ということだ。
根気よく付き合っていつか聞きだしてやる。
いや、聞き出す前に、悩みとやらがいつの間にか解決していればいいのだ。

「次は」

「ん?」

「次にまた編むときはもっと可愛らしい模様とかつけてよ。これはこれでいいけどさ」

「自分で編もうって思うわないのか?」

「そ、それでもいいけど。あたし不器用だし・・・・」

「じゃあ教えてやるよ。ま、俺も言うほど編めるほどじゃないけど、基礎はくのちゃんに教わったしな」

暇なときに一緒にやろうか。そんな話になった。
きっと周囲の者が聞けば、あの甲斐が編み物!?と驚愕されるかもしれない。
けど、不思議とそんなことよりも、少しだけに興味を持った自分に驚いた。

(あの子が、気になるような事を言うからよ・・・・)

けど、はどうだろうか?
少しは自分に興味を持ってくれただろうか?







19/12/31再UP