彼女から見て。



ドリーム小説
「あーどっかにいい男いないかなぁ」

成田氏長には多少気は強いが美しい姫がいる。
甲斐姫。
姫と呼ぶには少々男勝りといったところだろうか?
その彼女の最近の口癖が先のそれ。

「いるじゃん。氏康様が」

「あんた馬鹿じゃないの」

「つーか戦の真っ最中に、んな話をしているお前が馬鹿じゃねぇの?」

「あんたに言われたくないわよ!あたしはやる事をちゃんとやっているのよ!」

甲斐姫は突っかかってきた青年に反論する。
ただ青年の言うとおり現在関東の北条領に越後の上杉謙信が進攻しており利根川の地で睨み合いが続いている。
甲斐姫は北条方の一兵として参戦している。

「俺もやる事はやっていますよ?」

「どこがよ」

「大体あんたなんなのよ。お館様にくっついている割りには何もしないで」

「だって俺、刀持てないし。単にメシ作りに来ているだけだし。あ、お館様の命令でね」

「なんかむかつくわ」

状況が状況なだけに彼の物言いが甲斐姫の神経を逆なでしているようだ。
青年の名は
どこの馬の骨なのかは甲斐姫にはわからない。
いつ頃かは知らぬが北条氏康のそばにいた。
本人曰く「北条さんちの居候です。けど、料理が好きだからそこそこメシの仕度をさせてもらっています」
だそうだ。

「あ、そうだ。甲斐はクマみたいに怪力があるんだってな」

「な!だ、誰がよ!!」

「真田さんちのくのちゃんが言ってた。ちょうどよかった。これかき混ぜて、力いっぱい」

竹筒を甲斐姫に渡す

「俺、もう手が疲れてさー。ここハンドミキサーねぇからすげー面倒」

甲斐姫は手渡されたもの、竹筒を覗き込む。

「なにこれ・・・・」

甲斐姫には見たこともないぬるっとしたような感じのものが入っている。

「いいからやる。あとで舐めさせてやるから」

「いいわよ、なんか気持ち悪い・・・・」

「あ。馬鹿にしたなぁ。後でほえ面かくなよ」

は右手を数回振っている。疲れたといいながら手を摩り。

「人に頼みごとをしてその態度はなによ」

「早くやれって、お館様に出すんだから」

あんた何様だよ。そう思いながらもが感動するぐらいのデキにしてやる。と甲斐姫は竹筒の中身を棒でかき混ぜ始めた。




「うりゃーーーーー!!」

これでもか!と言うくらい竹筒の中をかき混ぜる甲斐姫。

「おーさすがクマ姫」

が大袈裟に拍手をする。

「だ、誰がクマよ!!」

はその側で七輪を用意し網の上でするめイカを炙りだした。

「ほ、本当・・・・なんなのよ・・・・」

出来上がりが甲斐姫にはわからないし、何を作っているのかもわからない。
腕が疲れてきた。

「甲斐でも限界か?まぁ普通手でやるもんじゃねぇしな」

「あ、あんたね・・・・」

「ま、いいや。サンキュー・・・おぉ、さすがクマ姫。結構できてんじゃん」

だからクマ姫じゃない。そう反論したかったが、疲れてそれどころじゃなかった。
は竹筒の中身を躊躇することなく指につけて舐めた。

「イカちゃんもちょうどいい具合に炙れたし。よーし、お館様に持って行こう」

「ちょっと!あたしにちゃんとお礼ぐらい言いなさいよ!」

去ろうとするを甲斐姫は呼び止める。
は「は?」と軽く首を傾げた。

「だ、だから・・・礼ぐらい」

「言ったじゃん。サンキューって。何、それ以上になんかあるの?」

「さ、さんきゅう?」

「あぁ、ありがとうって意味。面倒くせぇわ、本当ここって」

肩を落としそうな勢いでは息を吐いた。

「そうだ。マジ食ってみ美味いから。ほら」

炙ったイカの足を一本千切り、竹筒の中身のものをつけて甲斐姫に渡す。

「え・・・」

「半分は甲斐のおかげで出来たものだしな」

嫌味しか言えないような奴かと思えば、ニッと笑う。
甲斐姫は渋々であったが、するめをパクッと噛んだ。

「あ・・・なに、これ」

少し酸味があるなと思ったが、嫌な味じゃない。

「な?美味いだろ。醤油だけよりも醤油マヨネーズの方が俺は炙ったイカは好きなんだ」

「醤油まよね?」

「違う、違う。これはマヨネーズ。調味料のひとつだな」

「まよねえず・・・・・ねぇ!もっとちょうだい、それ」

「あ?ダメだって。これはお館様に出すんだ。そんなに量もねぇし」

「また作ればいいじゃない」

甲斐姫は初めての味が病みつきになりそうなくらいはまってしまった。

「馬鹿言ってら。さっき自分が散々苦労しただろうに。甲斐がかき混ぜる前にも俺自身が疲れる程かき混ぜたんだぞ」

は甲斐姫を置いて歩き出す。
どうしてもまだ欲しければ自分で氏康に頼めと言って。



***



氏康の陣には彼だけでなく、武田からの援軍としてやってきた真田幸村がいた。
彼に付き従うくのいちも。

「お館様。前に話したもの作ったから食ってみて」

の後ろから甲斐姫が顔を覗かせる。

「ずるい!お館様、ずるい!あたしにもください!!」

「うわっ。本気で実戦しやがった」

は呆れた視線を甲斐姫に送る。

「なんだい、うるせーな。客人の前で恥かしいじゃねぇか」

煙管から紫煙を燻らせる氏康。

「だって、こいつが」

。俺にはちゃんと名前があんの。こいつとか言うな」

ムッとするに甲斐姫はややあってから言いなおす。

があたしに作業を手伝わしたんです。だからもう少しくらい食べたいなーと思って」

「なになに?そんなの美味しいの?」

くのいちがに聞く。

「こら、くのいち」

見っとも無い事をするなと幸村に軽く諌められるも、ではなく甲斐姫が答えて盛り上がってしまう。

「病み付きになりそうな味なのよ!」

「えー。いいな、興味ある〜」

「だから、これはお館様にだっての。酒のつまみだぞ・・・一応」

とっとと氏康に食べてもらおうとは彼の前に炙ったイカと竹筒を置いた。

「で?これがお前の言っていた奴か」

「そうです。材料は簡単に揃うけど、作るのに苦労するんですよね。まぁ最初は少しだけつけてみてくださいよ」

騒ぐ女子どもは無視して氏康に説明する

「まぁ悪くねぇな・・・けど少しくどくねぇか?」

「んーそうっすかね?俺はこのくらいでちょうどいいんですけど、醤油つけたらもっといいかも。
相性いいんですよ、醤油とマヨネーズって。明太子やケチャップにもあうし」

とりあえず氏康に合格点はもらえたようで安堵した様子の
だが甲斐姫とくのいちが分けてくれと騒ぐ。

「はぁ・・・・うるせぇな。わかったから食え」

氏康がいいと言うのだからと甲斐姫とくのいちは喜んで食べ始めた。

「す、すみません。氏康様」

幸村が謝るも、お前も食えと逆に氏康に進められてしまった。

「わー本当、なにこれ、なにこれ〜」

少し前まで何やらいがみ合っている様子だった甲斐姫とくのいちも、そんなことがなかったかのように楽しんでいる。

「お館様・・・俺、お館様の為に苦労したんですけど?」

「お前が美味いもの作るのが悪いんだろ。それに俺だけが楽しむのも勿体無い」

褒められているのだろうなと思うと悪い気はしないのか、の表情は柔らかい。
その顔を甲斐姫はなんとなく見てしまった。

(こいつってば・・・よくわかんない)

知らないことだからけで・・・。

殿。これはいったいなんなのですか?」

幸村に聞かれる。

「マヨネーズ。調味料だと思ってくれればいいよ」

「へぇ。ちんが考えたの?」

「まさか。レシピあっての話だよ」

「れしぴ」

「あぁ。またやったか・・・本当面倒くせぇ」

頭を掻きながら苦笑するもはそれ以上は言わなかった。
甲斐姫にはそれが何を意味しているのかよくわからなかった。

「野菜につけて食うのもオススメだな。稀に合わない食材もあるけど」

「すごいですね、殿は」

「ねぇねぇ。作り方教えてよ」

幸村やくのいちにも気にいってもらえたようだ。

「えー・・・・あぁ一応北条家の秘密の味って事で内緒にしておこう」

「なんでぇそれは。勝手なこと決めるんじゃねぇよ、ど阿呆が」

「いやいや、作るのが本当面倒なんですよ。さっきも甲斐に手伝ってもらったから」

かき混ぜると言う作業だけを甲斐姫は手伝ったのだが。
確かにあれだけでもかなり疲れた。

「くのちゃんにクマみたいな怪力だって聞いてなきゃ無理だったね」

「あんたまだそれ言うか!!」

「怪力がないと作れないのかぁ。それじゃああたしには無理だよね〜」

「あんたまで!!」

思い出したかのように甲斐姫とくのいちが騒ぎ出す。
幸村は困惑ぎみで、は知らないと陣を出て行く。
結果氏康に「うるせぇ!」と怒鳴られることになるまで続くのだ。



***



「まったくもー・・・あんたの所為でお館様に叱られたじゃない」

一人だけ逃げたを追ってきた甲斐姫。
は設けられた炊事場にいた。

「知らないよ。くのちゃんと勝手に騒いだ甲斐が悪いんだろ」

は一人鉄鍋を洗っていた。

「ねぇ」

「ん?」

「あんたって何者?」

。それ以上でもそれ以下でもないよ」

「変な奴ってよく言われない?」

「言われない。けど、ここじゃあそう見られても可笑しくないね・・・・甲斐もそう見えたから言うんだろう?」

甲斐姫に顔をむけずただただ鍋をゴシゴシと洗っている。

「さっきから・・・あんたのそれ意味がわからない。こことかこっちとか・・・」

なんとなくの機嫌を損ねたような感じがする。

「言葉のまんまその通り。けど甲斐にはまだ教えてやんない」

「な、なによそれ・・・・」

「もっと仲良くなったら教えてやるよ」

は振り返ってニッと笑った。

「な、仲良くって」

赤面しそうになるのが自分でもわかった。

「べ、別にあたしはあんたのこと知りたいとか思わないし」

「あ、そう。俺も別に甲斐のこと知りたいとか思わないし」

あっさり言われて少し寂しさが過る。

「え・・・な、なによ・・・」

「知る必要ないっつーか、わかりやすいから、甲斐は。男欲しいーって」

「い、いいじゃない別に!あたしの周りにはだらしない男ばっかりで」

「あーはいはい」

はそれ以上甲斐姫にかまう気がないのか、鍋を洗うことに集中しだしてしまう。
全く持って意味がわからないだらけの謎の男。
あまりこちらから関わるのを止めようと甲斐姫は決め込むが。
なんだかんだで長い付き合いになるのは言うまでもない。








19/12/31再UP