相即不離。



ドリーム小説
下剋上の世の中。
武将たちが次々と名乗り上げて戦渦を広げていった。
近江では浅井長政が、安芸では毛利元就が、四国は長曾我部元親が、三河では徳川家康が。
甲斐は武田信玄、越後は上杉謙信…。

そして尾張は織田信長が…。

その信長は第六天魔王を名乗っていた。
今一番油断できない勢力だろう。

「天下取りねぇ…これが俺の知っている戦国時代ならば誰が天下統一するかわかるんだけど…」

生憎歴史の流れが微妙に違う戦国時代だった。
今、青年が一人。
のんびりと大きな館でくつろいでいた。

さん、暇でしょうがないってお顔をしていますね」

「喜多さん。まぁ暇なのは本当だしね」

青年のそばに腰を下ろした年上の女性喜多。
そっとお茶を淹れ出してくれた。

「俺、留守番だしさー。かと言って俺には刀持って戦うことはできないんだけどね」

戦に出てしまったこの館の主。
どこまで勢力を拡大しているのだろうか。
館の主は奥州筆頭伊達政宗だ。
は政宗と出会って以降居候でここにいる。

「政宗が天下とったら…いい世の中になるのかなー」

「あら、さんは殿の天下を望んでおられないのですか?」

「ん?民の一人で言うなら、誰が天下とってもいいんじゃないのかな。
戦が終わるって言うならさ。ただ…民の生活を苦しめるような奴に天下を取ってほしくないとは思いますよ?
…とすれば、政宗は合格っすよね」

重臣が聞けば生意気な口ぶりだろう、彼の物言いは。
喜多も昔から政宗に仕えているが、の一言で腹を立てるほどではなかった。

さんに合格点をいただけで、殿も喜ばれるでしょうね」

と小さく笑ってくれる。

「だといいね。余計なお世話って言われちゃうだろうけど」

呵呵と笑う

「暇だからなー早く政宗帰ってこねぇかなー」

風が吹くと桜の花びらが宙を舞う。
綺麗なものだ。
だけど、喜多と二人きりで愛でるのは少々寂しい。
男としてならこれはラッキーなことだろうけど。
まだまだ自分は子供のようだ。
綺麗なお姉さんよりも、やんちゃな友達と一緒に居る方が楽しいようだ。



***



政宗達が帰還したのはそれからすぐだった。
お帰り!と明るく出迎えたものの、政宗の機嫌はあまりよろしくなかった。
攻めに行った小田原は武田に(策略であえて武田に北条攻めをさせた結果だが)
駿河は織田の手に渡ってしまったそうだ。
ただそれだけならまだしも、初めて目にした織田信長に圧倒されてしまったようだ…。
戻ってきてからずっと、一人で刀を振るい、それ以外は物思いに老けている。
政宗に仕える若武者たちは、政宗は天下取りを諦めたのではないかと心配になった。

「なーに、イライラしてんのかなー政宗は」

…。うるせー」

雲行きが怪しい天気。
今にも雨が降りそうな感じで。ちょっと気持ち悪い。

「はぁ…帰ってきたから遊べるかなと思ったけど、無理っぽいな」

「俺は手前みてぇに暇じゃねぇんだ」

「…。だろうね、毎日バカみたいに刀振るってるのに忙しいみたいだしさ」

政宗が強くを睨む。
も負けずに視線を離さず受け止める。
そらしてしまえばそれは負けだ。
こっちはわざと挑発しているのだから。

「何が言いてぇ」

「それ。精神統一にもなんもなってないと思って。剣術のド素人の俺にもわかるくらいイライラしているし」

「………」

「何考えてのことか知らないけどさ。お前のやりたいようにやればいいじゃん」

「知ったような口をきくなよ」

「まぁそうだけど…政宗にはすげー頼りになる人たちいっぱいいるしさ。
ま、俺はなんの役にも立たないただ飯ぐらいだけどな」

自覚はあるんだ。とはニシシと笑う。

「暇人君は団子でも買いに行こうかなー」

雨も降りそうだから早く行こうと。は政宗のそばを離れた。

「お。そこの兄ちゃん!」

「ん?」

館を出たとき、見知らぬ男に声をかけられた。
ド派手な衣装に長身の刀を持っている。おまけに肩には小猿が乗っかっている。

「何か用?」

「独眼竜に会うにはどこに行けばいい?」

「政宗?なに?刺客?派手だね」

の物言いに男は派手に笑う。

「はっきり言うなぁ。いや、普通に話をしに来たんだ」

「ふーん。でも今、ご機嫌斜めだよ。話を聞いてくれるかどうか」

「それでも俺は会って話をしなきゃならないんだ、今後の為に」

「………」

彼が何者かわからない。
わからないけど、刺客ではなさそうだ。
嘘をつくように見えないし、悪い男にも見えない。
政宗が彼に対し油断し負けるようにも思えないから、素直に政宗の居場所を教えた。

「この先に居るよ。兄さんが政宗のご機嫌を直してくれるといいんだけど。
そうなったら、お礼として美味い団子ご馳走するよ。今買いに行くからさ」

「ありがとうな!けど、団子もいいけど、俺は美味い酒の方がいい」

「残念。俺、未成年だから酒は飲まないんだ」

「み、せいねん?どう見ても俺と変わらない年頃なのに…まだガキなのかい?」

は口角をあげて笑う。
ここでは十五前後で元服、成人だ。
だけど、はここの生まれ育ちではない。別の場所。
自分の年齢では親の脛をかじって暮らしていた未成年だ。
だからあえてそう口にする。
自分と彼らは違うんだ。
きっと彼らから見れば甘ったれに見えるだろう。
だけど、人を斬ったなんだと簡単に覚悟を決めてやるなんてことはしたくないから。
暇人、居候としてのらりくらりと過ごしているのかもしれない。

「ま。とりあえず、そういう事で。じゃあごゆっくり〜」

男に手を振りは足早に去った。



***



「前田慶次に夢吉か。ふーん…ま、慶次君の用事はすまなかったみたいだけど、政宗の機嫌はよくなったので、お約束の団子ね」

は政宗と話し合いと言う名の喧嘩(?)をし合った前田慶次を自分の室に招いていた。

「悪ぃね、

慶次はにも警戒心を抱くことなく遠慮なく室で寛いでいる。
慶次はの出した団子を美味いと頬張っている。

「それでさ、慶次君はこれからどうするの?」

「んー?しばらく様子見?独眼竜が何をするのか気になるしね。俺は振られちゃったわけだけどさー」

慶次は政宗に東国の武将をまとめあげて、連合軍として織田信長を倒そうという提案を出したのだ。
政宗は端から聞く耳は持たなかった。それどころか誰かの下に付く気はないと断ってきた。
それでも話を聞いてほしければ力づくでと言われて刃を交えたそうだ。

「俺は…慶次君の考え嫌いじゃないよ。無理はあるけど」

「あら、無理ってはっきり言うなよ〜」

「いや、だって自分が天下取りに名乗りを上げている面子がそう簡単に組むと思えないよ。
上杉謙信と武田信玄のように互いをわかりきった存在ならまだしもさ。
政宗みたいな若造には無理無理」

慶次は無理と言われてそうか?と唇を尖らせる。

「だけどさ。あいつが乗れば、引っ張り上げてくれる存在ではあると思う。うんうん。上の立つ存在としては俺は政宗を評価するな…ま、俺が評価したところでどうにもならんけど」

団子を頬張りつつ慶次は頷く。

「なぁはなんで自分を卑下するような言い方するんだ?」

「ん?いや本当のことだし。俺みたいな暇人君に言われても説得力ないし」

「でも独眼竜のことをよくわかっているみたいじゃんか」

「よくわかっているのは小十郎さん。俺はそれほどでもね」

竜の右目と称され、政宗の幼いころから共に歩んできた存在。
にとっては怖いお兄さんであるが、頼れるお父さんみたいだ。

「お前って不思議な奴だな」

「そうでもないよ。ただの臆病者だよ」

戦するくらいなら逃げた方がいい。そういう奴だ。



***



「あらまぁ。朝から騒がしいと思えば…」

。またしばらく留守にする」

若武者たちが忙しなく動いている。
戦の準備を始めているようだ。
政宗はやって来たを見て自信ありげに笑った。

「はいよ。気を付けて、どこまで行くのさ」

「ちょっくら尾張まで。魔王を倒しに」

「…魔王のおっさんに怖がっていたみたいなのに?それとも慶次君の話に乗ったの?あれ俺はいい話だと思うけどさ…いてっ」

ペチンとは政宗に額を叩かれた。

「誰がだ。それに誰かの下に付く気は俺はねぇ。俺が直々に魔王退治に行くんだよ」

けど。と政宗は続けた。

「俺はそう簡単に死ねねぇんだよ。多くのものを抱えているからな。もちろん、それにはお前も入っているからな、。お前も俺の民の一人だ」

「それもそうだね。政宗がやられちゃうと、ここはまたバラバラになって大騒ぎだからな」

じゃあ頑張ってとは答える。

「だけどさ。誰かの下に付くとかじゃなくて、政宗が動けば自然と周りが付いてくるんじゃないかな?
俺はそう思うよ。その気はなくても勝手に打倒織田の連合軍はできるかもね。
ってことで、吉報が届くまで俺は大人しく留守番しているから…気長に団子でも食ってさ」

「俺が帰る頃には、美味い酒を用意しておけよ」

「俺未成年だから。お酒なんてわかんないよ?」

「いつまでもガキ臭ぇこと言ってんなよ」

今度は頭を叩かれた。
ただ、政宗は不敵に笑っている。

「ガキだよ。ガキだから、ダチと遊ぶのを楽しみにしてんだよ」

バツが悪そうな

「そうかい?だがお前が言ったんだぜ?俺の好きにすればいいって。だから俺は俺のやりたいようにやる。
俺の背中を任せられる存在もいて、留守の心配もしなくてもいい存在もいるからな」

背中を任せられるのは小十郎だが、留守の心配をしなくてもいい存在とは。
もしかしなくても自分か?
は参ったと後頭部を掻く。

「俺。本当になんにもできないけど?」

「気にするな。じゃあな、行ってくる」

出立の準備ができたと呼びに来た小十郎。
政宗は頷き歩き出す。

。畑のことも頼むぞ」

「はい。水やり等みんなと一緒にやりますから。小十郎さんは心配しなくていいよ」

あぁそういえば。何もできない、仕事はないと言っていたものの。
考えてみれば、自分が唯一できるのは小十郎の畑の手伝いだ。
性に合うのか、苦とも思わずやり続けていられる。
刀を持つより、鍬を持つ方がよほどいい。

「俺にできるのはそのくらいだな」

「何を言っている。それができるだけでも上等。さらに言えば、お前が政宗様の話を聞いてくださるだけでも十分なんだ」

は面倒くさそうな顔をする。

「なんかそれ、愚痴の捌け口みたいな?つーか、俺、政宗のこと怒らせてばかりだけどね」

「お前が気付いていないだけだ」

まだは納得しかねる様子で。

「それに今回の出兵は俺、じゃなくて慶次君のおかげだと思うけど」

「それも一つの要因かもしれんが、お前もまた一つの要因だ。ではな」

小十郎も政宗の後を追う。
は嘆息する。

「…可愛い女の子に懐かれているならともかく、図太い野郎に懐かれるのはどうだろうか?
…いやいや、俺が政宗に懐いているのかな?…」

馬の嘶き、男たちの喊声が聞こえた。
どうやら出立したようだ。

「さて。じゃあ素直に留守番をしときますか…・ってありゃ、慶次君もいないや」

室に居ると思っていた慶次の姿も消えていた。
一言、「ありがとうな!」と書置きがあった。

しばらくまた寂しいが、これも政宗が天下を取る日までの我慢だ。
そう思い、は昨日とは違いよく晴れた空に向かって気持ちよく伸びをした。








19/12/31再UP