今、居るべき場所。



ドリーム小説
政宗が政務に励んでいるそばで、はだらしなく横になって寝ていた。
時折パチンと音がする。

「・・・・・」

それはが持っていた「携帯電話」と言う代物だ。
折りたたみ式のそれをは開いては閉じ、閉じては開くの繰り返しだった。

「おい・・・うるせぇ・・・気が散る」

「あ。悪ぃ・・・・」

は携帯電話を懐にしまった。

「・・・・・・」

「どうした?なんかあったか?」

筆を滑らせ、視線は紙の上のまま政宗はに問うた。

「ん?んー・・・・なんかってほどでもない・・・・」

「その割りに大人しいじゃねぇか。いつもなら成実とバカやって遊んでんじゃねぇか」

「ははっ・・・・そんなに毎日バカやってんの?俺って」

互いに背中を向けたまま。

「俺がさ・・・・」

「あ?」

「ここ来てどのくらい経つっけ?」

「さぁな。どうだったか・・・お前は昔から居たみてぇに偉そうだからな」

「・・・・・・・・」

いつもなら「誰がだ!」と突っ掛かりそうなのに。
は反論してこない。
ただ、急にどうしたと言うのだろうか?

?寝てんのか?」

無反応のに政宗は筆を置き振り返った。
は以前横になったままだ。

「・・・・・・・おい」

の体を揺らそうと手を伸ばせば、は口を開いた。

「俺・・・いつまでここに居るんだろうな」

「?」

「いつになったら帰れるんだ?」

「ハッ。母親が恋しくてhomesickか?ガキだな」

答えない。だが政宗には見えた。
泣いているんじゃないかと思うくらい、耳が真っ赤だった。
図星だったかとの頭をくしゃりと撫でれば、その手を払われた。

「うっせなー。お前に何がわかるんだよ!」

体を起こし、政宗を強く睨んだ
ふてぶてしい態度を取られることはあるが、負の感情を向けられるのは初めてだ。

「俺が何かしたのかよ!いつものようにバイト行く途中で、友だちと携帯で話をしていただけだろ!」

その直後に政宗と出会った。
わけのわからない事になったと口にし、落ち込んでもそれで誰かに当たるような真似はなく。
今日まで楽しくやっているように見えた。
「見えた」だけで、実際一人で悩んでいたのかもしれない。

「政宗は母親が恋しくてとか茶化すけど、母さんだけじゃない!親父にだって、友だちにだって会いたいって思うだろ。
思っちゃいけねーのかよ!俺の大事な物全部手の届かない所にあるんだぞ!」

「だったらどうした」

「な、んだよ・・・・」

「別に俺がお前を呼び寄せたわけでもねぇ。たまたまあそこで会っただけだろ。
俺にどうしろって言われても困るな。帰れねぇもんはしょうがねぇだろうが」

そのうち帰れるだろう?そう言った方が気持ちは楽になるか?

「それでお前が何かしたのか?帰れるようにもがいてみたか?」

「そ、それは・・・」

「やりもしねぇでグチグチ言うな」

は口をつぐんだ。
グッと歯を噛締めている。

「でも、だったらどうすりゃ「いつまでも女々しい事してんじゃねぇ!」

携帯電話を何度も何度も眺めて弄って。
ふて腐れたように横になって。
そんな姿に苛々する。

「ふざけんな!なんでお前にそこまで言われなきゃならねぇんだ!!」

は政宗に飛び掛る。
手加減などという余裕もなく、勢いが勝って。

「ぐっ・・・・やってくれるじゃねぇか・・・」

一発殴られる政宗。
黙ってやられるような玉でもないのが政宗だ。
の胸元を強く掴む。

「政宗様!!」

騒ぎに気付いた小十郎達が止めに割って入る。
小十郎たちが室内へ入ると酷い有り様だった。
襖は破れているし、置物の幾つか壊れている。
目に入った光景は殴り合いをしている二人だ。

「離せよ!離せ!!」

を成実が押さえる。

。落ち着けって」

「うるせー!政宗に何がわかるんだよ!好き勝手言うな!」

「そのしみったれた根性が気にいらねぇんだよ」

政宗の言葉は余計にを煽る。

「政宗ェッ!」

「そんなに俺が気にいらないなら出て行け!」

ピタリと静まる室内。
が大きく目を見開いている。

「成ちゃん・・・手、離せ・・・」

離せばまた政宗に突っ掛かるのではないかと成実は危惧するが、その様子はなく。
は室から出て行った。



***



「おーい。梵天」

まだ機嫌は悪いだろうなと想像はつく。
だが成実は反応が来る前に障子を開けた。
本来ならば無礼な振る舞いであるが。

「やっぱ、拗ねてやんの」

ニシシと笑う成実。
政宗は柱に背をつけ外を見て、そのそばで小十郎が書翰を整理していた。
ストンと腰を下ろす成実。

「なんだ?」

「いなくなっちまった」

「?」

。本当にどっか行っちまったぞ」

じわりと腹が疼いたような感覚に政宗は襲われた。

「本当か?」

小十郎が成実に問う。
成実は本当だと頷く。
自室に戻ったのだろうと思って、様子を見に言ったが室内にその姿はなかったそうだ。
そして門番に聞けば、は自転車に乗って出かけていったと返事が返ってきた。

「梵天があんな事を言うから、が本気にしちまったじゃねぇか」

「知るか、そんな事」

政宗がこんな様子じゃ捜しに行かないだろう。
と言うより、一国の主がそんな事しないだろうなと。

「ちょっとそこまでー。って感覚ならいいけど、知らねぇぞ。鬼さんに取られても」

は無条件で懐いているからなーと成実に言われてしまう。
少し頭を冷やす為に出かけたのか。
ならば戻ってきた時には笑って許してやれよとまで言われてしまう。
だが夜になってもは帰ってこなかった。



***



なんて事はない。
は小十郎の屋敷に居たそうだ。
翌日、小十郎から聞かされて政宗は仕方なく重い腰を上げた。

「迎えに行かれるのですか?」

小十郎に聞かれて、なんだかバツが悪く感じる。
ガラじゃないし、なんで俺が?と言う気持ちもある。
小十郎の話じゃすでに成実は向かっているとも言うし。
けど、ここは自分から動かないとダメだと思って。
だから。

「いつまでもの世話を朱琉に任せたら悪いだろ?大変じゃねぇか・・・」

他者を理由にしてしまった。
迎えに言ってみれば縁側で成実と楽しそうにしていた。
聞こえてきた会話が片倉夫妻のことだったので、控えている小十郎がいつ怒鳴りだすかと思ったが。
可愛い奥方の手前怒鳴り散らす事もなかった。

「帰るぞ。いつまでも小十郎に迷惑かけてんじゃねぇよ」

「帰るってどこにだよ。俺には帰る場所なんかねぇよ」

「お前の帰る場所は俺が居る所だ。それで充分だろうが・・・・」

これが好きな女相手ならばカッコよく決まったのだろうが。
何が悲しくて男相手に吐いているのだろうかと。
成実には告白しているみたいだとからかわれるし。
だが、自分でもそう思ったので言い返せなかった。

「いいから、帰るぞ。新婚さんの邪魔しちゃ悪いだろうが」

そう口にすれば、はあっさり帰ると立ち上がった。
理由なんてそんなものだろうか?
引き際ってのを、も他者を理由にした。
お互いずるい事だと思うが、そうさせてくれる周囲に多少感謝してしまう。

城に戻る間、いつもと変わらないバカみたいな言い合いをしたが。
これが自分達の日常なんだなと改めて感じた。
いつまでこうして言い合っていられるのかわからない。
が感じた不安を自分もどこかで持っている。
あっさりここに馴染んだように、はあっさり帰ってしまうかもしれない。

「覚悟?」

夜。政宗の寝所にがやってきた。
彼なりに腹を割って話そうと言うのか、酒を持参してきた。
だが飲むのは政宗だけで、は茶を啜っている。

「政宗は言っただろ?俺が帰れないことは自分たちにはどうにもできないって」

政宗は黙っての話に耳を傾ける。
時折杯を口につけながら。

「成ちゃんもさ、願い続ければいつかは叶うかもしれないだろうって。
でも、願い続けるのとグチグチ悩むのとは違うだろ?
今どうやっても帰れる方法もわからないし、誰がこんな事したんだってのもわからない。
神様ってのが居るのなら、それは神様の悪戯とか気まぐれとしか思えないし。
だったら、帰る時期も神様次第のような気もする」

そこまで言って、は茶を一口飲んだ。
改めて言葉にするのは酷く緊張する。

「だから、その〜・・・・・もう、家のこととか持ち出さないでグチグチするのやめる」

「・・・・・」

「思い出してしみったれるのもカッコ悪いじゃん。
俺、ここに居る間、何ができるかまだわかんねぇけど、俺でやれる事見つけるよ」

「それがてめぇの覚悟って奴か?」

「まぁ、そうかな」

は頬を軽く掻いた。

「政宗はここが俺の帰る家だって言ってくれたし、成ちゃんも皆がいるって言ってくれた。
そう思えば、俺って結構幸せ者だよな。あの時政宗に出会わなければどうなっていたんだろうな」

自分が好き勝手にできるのも政宗が居てくれるからだろう。

「かと言って、流石に刀とか槍は持てないなぁー。誰かを傷つけるのはできない。
どんな理由があってもさ・・・・今まではそう言うところに居たわけじゃないから」

はそのまま床に畳に寝転んだ。

「政宗のこと、殴っただけでも・・・・すげぇ嫌な気持ちになった」

別に戦に出ろとは政宗も言わない。
そこは自分の好きにしろと思う。
甘い考えかもしれないが。

「小十郎さんの畑仕事を手伝うのも悪くないし・・・・ま。明日から探してみるか」

「一つだけ・・・」

「ん?」

黙って聞いていた政宗が口を開く。

「一つだけ間違ってるぜ・・・」

「何が?」

「思い出を封じる事はねぇ。別に思い出してもいいだろ?それを俺らに聞かせても問題はねぇ。
誰にだって思い出ってのはあるんだ。俺が言いてぇのは。それでメソメソするなってだけだ」

は政宗達の知らない話を沢山知っている。
親から聞いたとか、友だちから聞いたとか、自分で調べたとか。
それまでも封じ込める事はないと政宗は言う。

「家族の事だって、思い出してやらねぇと可哀相だろ」

「そう・・・かな?・・・・」

「あぁ。たまには思い出話ぐらい聞いてやる」

「ありがと・・・・それと。殴ってゴメン」

「俺も少々無神経すぎた」

お互い様ってことで、なんとなく笑ってしまった。
に対して、少々自分は甘いんじゃないか。
そう思う政宗であるが、悪い気はしなかった。








19/12/31再UP