君の居ぬ間に。



【後編】

ドリーム小説
!おーい!ー!」

「あ!いつきー!ただいまー!」

下から呼ばれた声に、は顔を出す。いつきの姿を見つけぶんぶん手を振る

「おかえりー!」

ぴょこぴょこ跳びはねるいつきの姿には思わず笑んでしまう。

「ありゃ。お前の妹か?」

「まぁそんなとこ。けど、いつき一人で来たのか?不用心だなぁ」

いくらそんじょそこらの男どもより強いとはいえ。
米沢からここはかなり距離がある。
だがすぐさまいつきの元へ駆け寄ってくる面々には破顔する。

「政宗ー!たっだいま〜!」

は身を乗り出し政宗に向けて手を振る。

「へぇ。あれが独眼竜か」

の隣に立つ人物が不敵に笑い政宗を見下ろしている。

「あの馬鹿・・・・」

のん気にへらへらと手を振っているとその隣の男に、政宗は舌打ちする。
ようやく船は停泊し、がその姿を四人の前に現した。

「ただいま!」

「おかえり。〜」

いつきがに飛びつく。

「わぁ。あはは、ただいま。いつき。元気だったみたいだな」

「おらは元気だ。も問題なさそうだな」

ぴょんと地面に立ち笑顔のいつき。

「うん。元気だよ、俺も」

「まったく。びっくりさせんなよー。何事かと思ったじゃんかー」

ぐりぐりとの頭を撫で回すのは成実だ。

「え?そう?なんでびっくりすんの?」

「おいおい」

まぁそこがらしいとも言えると成実は笑う。小十郎は苦笑交じりだ。

「息災で何よりだ。。だが、どういうことか、政宗様にちゃんと説明してくれないか?」

拱手し、を睨みつけている政宗。
思わず、成実もいつきも道を開けてしまう。

「問題大有りだ、馬鹿野郎」

「え・・・・な、なんで政宗怒ってんの?がっ!」

一歩。の前に進んだかと思うと、政宗は思い切りの頭を殴った。
は殴られた頭を摩り政宗に睨み返した。

「なんだよ!」

「おいおい。独眼竜さんよー。随分な挨拶だな」

呵呵と笑いながら、西海の鬼長曾我部元親が姿を見せる。
の頭をポンポンと軽く触れて。

「アニキ!」

「うるせぇ。こいつがどうしようもねぇから叱ってやっただけだ」

叱るって。何を怒っているのかもわからないと言うのに。

「愛の鞭ってところかねぇ。だが、話ぐらい聞いてやれよ」

「そうだ!そうだ!政宗は短気すぎるぞ。アニキみたいにもうちょい大らかになれ!」

アニキを見習え!と指差す

「あぁ?」

こいつみたいに?政宗は元親を一瞥する。

「おいおい。、そりゃ独眼竜に失礼ってもんだ。上に立つもんが誰かの真似なんざしてもしょうがねぇだろうが」

そいつにはそいつの考え方、やり方がある。

「おぉ。アニキ、カッコイイ〜」

ニッと笑う元親には感嘆の声をあげる。
いつきは成実の袖を引っ張る。成実はなんだ?としゃがみいつきに合わせる。

「あれはいったいなんだべ?」

「んーなんだろうねー・・・・・殿にライバルでも出来たってところかな?」

久しぶりの再会が妙にギスギスしてしまっている。
それもそうだ。
こちらはわからないことだらけなのだ。

「今日のところはここで一泊していきましょう。宿もすでに手配済みです」

小十郎は場の雰囲気を変えようとそう申し出る。

「アニキ。アニキも宿の方で泊まれば?すぐには出航しないだろ?」

「ん?まぁ、そうだなあ」

元親は政宗に視線を送る。
彼がご機嫌斜めなのは確実に自分の出現の所為だろうから。
だが、政宗は違った。

が世話になった。その礼がしたい」

と元親に言う。
ならば断る理由はないと元親は誘いを受けた。
一応部下たちには混乱を避ける為に大人しくしていろと言いつけて。





そんなに商業都市というほどではないが、小十郎の手配した宿は隠れ里的な静かないい場所だった。
政宗が襲われるような真似があっては困るだろうし。
この地を任している配下の邸に行くほどでもないから。
一人追加とはいえ、宿の者も慌てることなく受け入れている。

「奥州まで来て、温泉に入れるとはなぁ」

「俺も久しぶりだよ、温泉」

貸切なのか、客は自分たち以外にいない。
元親とは気持ち良さそうに湯船に浸かっている。

「結局さー。鬼さんとなんで一緒なんだ?は」

その間を割って入るかのように成実が訊ねる。
仲の良い友達が他の奴と仲良くしているのは、成実も面白くないと思うわけだし。
ちなみに小十郎はいつきを一人にさせられないと、一緒ではない。
いつきと室で待っているそうだ。
政宗は意外に大人しく湯船に浸かっている。

「アニキとか言ってるし」

「だって、アニキはアニキなんだって。ここんち皆、アニキのことそう呼んでいるぞ」

成実も知らないわけではない。ノリが自分たちと似ているよなと思ったことはある。
長曾我部は海の男たちというイメージを抱いていたが。

「年明けて、とある港町に入ったとき、チャリのタイヤがパンクしたんだ」

性能のいい自転車とはいえ、ずっと使ってきたし、舗装された道路ではない様々な道を通った所為か。
タイヤの、中のチューブの空気が抜けパンクしてしまった。
こういうことだ。というのをは説明する。

「ここに自転車屋ないじゃん?どうするかなーって困っていたところにアニキが声をかけてくれたんだ」

「毛色の変わった奴がいるなと思ったから。興味本位でな」

「そしたら、アニキが見てくれて、なんと直してくれたんだ!」

本当にあの時は助かったとは、その時を思い出し溜め息をついている。
南蛮のカラクリ技術をかじっていたから出来たことらしい。

「自分でもちゃんとしていたつもりだったんだけどさ。その後もアニキにチャリの整備してもらったしさ」

アニキは何でもできる人だーと尊敬の眼差しを送ってしまう
しばらく、元親の世話になっていたが、そろそろ春だと思ってお暇しようとしたところ。
元親が船で送ってくれると言うのでお言葉に甘えたのだ。

「だったら、それを一言書けよー。いきなり長曾我部の軍船が入ってきてびっくりしたんだぞー」

成実が軽くに向かって湯をかける。

「書いてなかった?あーごめんごめん」

「ったくよー」

成実は気が抜けてしまう。

「っと。俺は先に上がらせてもらうぜ。長風呂は得意じゃねぇんだ」

元親はそう言ってあがっていく。
成実も俺もと連れ立って出て行く。
広い湯船に政宗とだけが残る。

「あー・・・政宗くん。ただいま」

「あぁ?なに言ってんだ、今頃。つーか、それは聞いた」

「だってよー」

湯船に鼻先まで沈めぶくぶくと噴出している
面白くなさそうに政宗を見て。

「だって。なんだ?」

濡れた前髪をかき上げ、天井をジッと見つめる政宗。
は息が続かなくなり、顔を出す。

「なんか、ずっと不機嫌じゃんかー。アニキを連れて来たの面白くないのか?」

「・・・・・」

「政宗、言ったじゃんか。でっかい土産釣り上げて来いって」

「お前・・・・。鬼が土産か?」

は歯を見せ笑う。

「すごくね?土産っていうと、アニキに悪いけど。アニキと政宗に繋がりできたじゃん」

同盟とまでは行かなくても、小さな接点でもできれば得はあっても損はないはずだ。
そうは主張する。

「ほぅ。お前がそんな事を考えていたとはな。ただの思いつきだと思ったぜ」

「酷いなぁ。まぁ俺は単に好き勝手楽しんでいるだけだけどね」

各地で美味しいもの食べて楽しかったと。

「けどさ・・・・」

「?」

「場所によっては、楽しくない場所もあった。それって治めている君主の影響なのだろうけど。
そう思うと、政宗はすごいな。俺が知っている限り、ここは皆楽しそうだし・・・
俺も政宗の治めているここ好きだし、旅している間改めていい場所だって思った」

流石筆頭!そう言いながらは政宗に湯を飛ばす。

!てめっ!」

静かに入れ!と文句を言われてもは止めない。

「いやー。なんか自分で恥かしいことを言ったなぁと思って、あはは〜」

「わ、わかったから止めろ、馬鹿!」

「うわー。俺、すげー恥かしいー」

「やめろって言ってるだろうがっ!」

政宗は反撃だと、の頭を掴み、湯に沈める。

「ちょっ!ま!」

「止めろッて言ってるのに、やめねえからだ!」

はそれに対し、逃げようともがき暴れる。
政宗が手を緩めるとは這い出た。

「はーーー!政宗!死んじまうだろ!ひでぇことすんな!」

「お前が俺の話を聞かねぇからだ」

かと言って、このまま二人が大人しくするわけもなく。
風呂場だと言うのに、互いを湯に沈めようと掴み合いを始めてしまう。

「ひょろひょろしたお前が俺に勝てるのか?」

「うっせ!旅をして少しは力つけたんだ。今ここで政宗のことを負かしてやるぜ!」

「それこそ、いい土産だな。ハッ!まずはやれるもんならやってみな!」

「やったろうじゃん!」

ドッタンバッタン、バッシャバッシャ。
何をしているんだか、ここがいつもの館ならば良いのだが、ここは宿。
一般客は今、居ないとしてもそこで働く人たちが居る。
人の目と言うのはあるのに。
奥州筆頭がなにやっているのだろうか。
おかげで、そんな騒ぎを起こしていれば、いつも通りの展開を迎える羽目になる・・・・。

「政宗様・・・・・・・・」

こめかみに血管を浮かび上がらせ、口元を引くつかせている小十郎。

「や、やべ・・・・」

「ご!ごめんなさい!小十郎さん!」

いつもなら逃げ腰になるところだが、は素直に小十郎に謝る。
小十郎も場所柄の所為かあえて怒鳴ることも、くどくど説教をすることもなかった。





夕餉も楽しみ、もう寝るだけだった。
静かな宿の雰囲気に合わせるかのようにそれぞれが眠りについている。

「あれ?政宗寝ないの?」

が外を眺めている政宗の姿を見つける。

「お前こそ、どうした・・・」

「温泉入ってきた。何度入ってもいいものだね」

お蔭で肌はつるつるだと楽しげに話す

「んでさ。どうだった?政宗」

「あ?何が」

「飯食っている時、アニキと話していたじゃん。酒飲んで」

何を話していたかはにはわからない。
けど、二人の空気はそう悪いものではないとは感じ取っていた。
政宗は不敵に笑う。

「あぁ。お前のでっかい土産。ちゃんと受け取った」

役に立てた。そういう事だろうか?
ならば良かった。

「政宗とアニキなら話は合うだろうなって思ってはいたけどさ」

「そうか?」

「どっちも頼られるの好きなタイプじゃん」

「別に好きってわけでも・・・」

「俺にはそう見える。似てるよ、二人共」

そう言われても、政宗はどう反応していいのかわからない。

「だからかな。アニキと出会った時、政宗のこと思い出した」

「んな気色悪い話をされても困るんだが?」

「酷いなー。そこら辺はアニキとは違うな」

「比べられても嬉しくねぇよ」

「まぁ、そうか」

今回の一人旅。はどうだったのだろうか?
出立する前に比べて、筋力はついたように確かに見えた。
逞しくなったのだろうか?
根性は図太くなった気がする。
けど、根本的な部分は変わっていない。そこに安堵してしまう。
一緒に馬鹿やって、相変わらず小十郎から叱られて。
本当は人の上に立つ者としていけないことだろうと思うが。
と居る事で、幼稚な感情もあるだと気付かされる。
決して大勢の配下の前で、敵将の前で出してはならないものを。
気を許した者の前でだけ曝け出せる。
ただの年頃の青年という姿をさせてくれる。

(甘っちょろいことを言っていちゃ駄目なのはわかっているけどな・・・)

今しばらくは、このままでいさせて欲しいものだ。



「ん?なに?」

「Welcome home」

一瞬。何事?とは瞠目するも、すぐさまニッと笑い。

「ただいま」

と答えた。








19/12/31再UP