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君の居ぬ間に。
【前編】
それは奥州が本格的に冬に入る前のことだった。 「はぁ?見聞を広げる!?」 夕餉の時間。政宗、成実、小十郎、綱元たち四人と膳を合わせていたとき。 が政宗に言い出したことに、政宗は呆気に取られた。 「そうだよ。見聞を広げようと思って。っていうとカッコいいけどさ」 へらっと笑う。 炊き込みご飯におこげが入って嬉しいなぁとご機嫌で。 それをさらに一口食べた後に続ける。 「ちょっくら、日本各地でチャリの旅をしてくるよ、俺」 「チャリってのは、あれか。お前が乗っていた」 「そうだよ。政宗を轢いた奴だよ」 の大事な大事な自転車。 政宗がいくら乗せろと頼んでも、絶対に触らせてくれなかったもの。 荷台に乗せてもらえるだけマシなのかもしれないが。 「俺って言うとー。一人で行く気なのか?」 成実が問う。 「そうだよー。俺一人で気ままなに旅するんだ」 「平気かい?自転車などという物珍しい物で、一人でなどとは・・・」 小十郎に次ぐ堅物な御仁鬼庭綱元。伊達三傑の一人だ。 成実、小十郎と共に幼い頃から政宗に仕えている。 「なんとかなるよ。馬じゃ走れないところとか行けるし、これ」 「どうなさいますか?政宗様」 判断は政宗に。と小十郎は促す。 「なんで、政宗の許可が必要なんすかー。あ、旅費出してくれるの?なら頼んじゃうけどさー」 「そうだなぁ。条件を出すか」 政宗はニヤリと口角を上げる。 「俺もその旅に「「「却下」」」・・・・って、お前ら・・・・」 同行するなら許可する。そう政宗が答えようとしたとき、あっさりと三傑によって阻まれる。 「あなたが国を出てどうなさるのですか」 「梵天と一緒に行かせたら、あちこちで絶対問題が起きる」 「やるべきことが沢山あるのです。無理ですね」 小十郎、成実、綱元が順に言う。 「ま。早くて、春ごろには帰るよ。だから政宗は留守番で」 政宗の許可など関係ない。もう決定だとは旅に出る気満々だった。 「いつ出立する予定だい?」 綱元が準備も必要だろう?その準備を手伝おうと申し出てくれる。 「明日。早い方がいいから」 「一人で大丈夫か?梵天は駄目でも、俺が一緒に行ってやるぞ〜」 マブダチじゃないかと成実はここぞとばかりに売り込んでくる。 「一人で大丈夫だよ。そりゃあ成ちゃんと一緒なら楽しそうだけどさー」 成実だってやる事はあるだろうに。 「おい。お前ら・・・・」 「の好きにさせてあげたらどうですか?帰ってくると言ったではないですか」 「・・・・・あぁ、そうだな」 旅に出るのが楽しそうなを見たら、政宗はそれ以上言えなかった。 「んじゃまぁ。ちょっくら行って来ます!」 ここへ来た時に肩にかけていたバックを背負い、自転車に跨り、笑顔で手を振る。 「おう。気をつけてな!」 「病気や怪我には充分に気をつけるんだ。食事はちゃんととるんだぞ」 「無茶はするんじゃないぞ。危ないことには自分から突っ込まないこと」 成実は気楽に見送ってくれるのに対し、小十郎と綱元は保護者の気分が抜けないのか少々固い。 でも自分のことを思ってくれてのことだとはわかっているので、素直に頷いた。 お兄さんが沢山居るようなそんな気持ちにさせられる。 幼い頃の政宗は同じ様に感じただろうか? 「」 最後に政宗がやってくる。 「土産を期待しているぜ。どでかいもの釣って帰ってきな」 一回り大きくなって来い。そう政宗は言ってくれているのだろう。 政宗に拳を突き出す。 「おうよ。期待していろよな!」 政宗はその拳に、コツンと己の拳を当てる。 はペダルに脚をかけ思い切り漕ぎ、風を切るかのように出立していった。 「あーあー。行っちゃったなー。寂しくなるな」 「お前はそうだろう。いつもとくだらないことをしていたからな」 「くだらないってなんだよ!それは梵天も一緒だぜ」 成実と綱元はそんな軽口を叩きあいながら、館へ戻っていく。 「政宗様。風が出てまいりました。中へお戻りください」 「・・・・・あぁ」 もうの姿など視界にない。 あっという間に遠くへ行ってしまった。 馬でなら、今でも追いつく。 だけど、自分は奥州を治めるもの。仲間を、家臣を置いて勝手なことはできないのだ。 「帰ってきますよ。は」 「あぁ」 何事もなく、無事に帰ってくるのを待っている。 そのつもりだ。 が出立してから、たまに文が届く。 政宗が各地に飛ばしている黒脛巾衆はを見かけると、声をかけるのだ。 それで、用件があるなら奥州へ伝えますか?との彼らの言葉に。 は文を書き、彼らに託すのだ。 一応、あくまで黒脛巾衆が勝手にやっていること。 政宗が命じたわけではないことは付け加えておく。 だけど、にしてみれば。心配され続けているのかな?と思ってしまうようで。 彼らに見つかると苦い笑みを零すのだ。 文の中身はなんてことはない、どこそこで美味しいものを食べたとか、こんな人と知り合ったとか。 その程度。 だが、酷い目に遭う事も、病気怪我もなく楽しくやっているらしい。 「がいないと。こんなにつまんないもんかと思わなかっただ」 「ん?そうかい?いつきは、がいねぇと寂しいか?」 暖かい室で、焼いた餅を頬張りながら、いつきはそんな事を言った。 政宗はからの文を読んでいる。 「政宗は寂しくないだか?おらは寂しいだ」 でも、いつきがと顔を会わせるのは時々なので、言っているほど寂しくはない。 ただ。遊びに来て、その姿がないと。物足りないと感じるのだ。 自分より年上、大人なのに。政宗、成実を巻き込んで子どもみたいに遊んでいる。 小十郎には説教されて、綱元からは呆れられて。 それがいつきの見た、なじみの光景だから。 「寂しいねぇ・・・俺は別に」 「男はカッコつけたがるから、ちゃんと素直に言うだ。おらはんなの気にしねぇから」 自分より年下の、子どもにそのようなことを言われると思わず、政宗は軽く噴出してしまう。 「あー!なして笑うだぁ!」 「餅食いながら言われてもな」 「むぅ」 いつきは食べている餅みたいに頬を膨らました。 政宗はいつきの睨みを軽く笑う。 (寂しいねぇ・・・・) 以前と同じに戻っただけ。そうとは言えない。 はしっかりと奥州に、伊達家に根付いたから。 政宗から見れば、弟のようにも見えるが、悪友にも見える。 親友と呼べるだろうか? 上に立つものが、幼い頃から共に過ごした小十郎たちとは別に気を許せる友ができるとは。 (寂しいのかもな・・・) 特に今は。雪深く外は静かだから。 「今頃、どこに居るんだか・・・・」 春になったら帰るから。そう言っていたが、春はまだ先。 今は年が明けたばかりだ。 が帰ってくるのはまだまだ先だ。 雪も溶け、暖かい風が奥州にも吹き始めていた。 春が来たと物語るように草花が芽をだしている。 そんな時に、から文が届く。 「まだだか?はどうやって帰ってくるだ?」 いつきは辺りを見渡す。 ここは相馬の港町。はそこまで船でやって来ると文に書いてあったのだ。 「船って書いてあったんだろう?あいつどうやって船で来るんだ?」 成実もいつきと同じ様にキョロキョロしている。 それらしき船の姿はない。 「何もお前らまでついて来ることはねぇだろうが・・・」 綱元に留守を任せて、小十郎も加えて四人でやってきた。 大人しく館で待っていろ。そう政宗は言いたかったらしいが、自分だけずるいと成実といつきに押し切られたのだ。 逆に二人に言わせれば、政宗がわざわざ出ることもないだろうと。 そう言われると政宗が引き下がるしかなく・・・。 ただ迎えに行くのに、そんな大勢で行ってもと政宗は渋る。 「まぁまぁ。いいじゃないですか、政宗様。皆がの帰りを今か今かと待っていたんですから」 小十郎自身も畑仕事の手伝いがいなくて、ちょっと寂しかったりするのだ。 「まったく・・・・だけど、今日とは限らねぇだろうが」 大体この日ぐらいに到着だと曖昧なことしか書いていなかった。 海のことは政宗にはわからない。 シケで海が酷ければ到着も遅れてしまうだろう。早まることはなく・・・。 「あれ・・・・なんかデカイ船が入ってくるぜ・・・」 成実が指差す。 一隻の軍船らしきものだ。 「どこかの奴らが攻めてきたとか言うんじゃねぇだろうな・・・・」 到底商船や漁船とは思えない。大砲の姿もある。 急にきな臭くなったと政宗の中で緊張が走る。 「殿・・・帆に描かれているありゃあ・・・」 成実の目の色も変わる。強く鋭く自分で口にした軍船の帆を睨みつける。 「あぁ。あれは知ってるぜ・・・・七つ酢漿草・・・・長曾我部の家紋だ」 四国で名を馳せている西海の鬼の姿を思い出す。 とは言っても、直接会ったことはほとんどない。遠目から一度だけ見た程度だ。 政宗とは反対の左目を眼帯で隠している隻眼の武将。 よりによってこの独眼竜が治める地に、堂々と攻めてきたか。 「政宗様・・・・いかがなさいましょう」 を迎えに来ただけで、こちらに兵などないに等しい。 わずかな手勢で奴らと対抗できるだろうか? この港町は捨て一旦逃げねばならぬか・・・。 政宗自身は逃げなど性に合わない。単身でも相手に突っ込んで行く勢いはある。 だが、ここを戦場と化すわけには・・・・。 噂で聞く鬼の評判は悪くない。弱き者へ手を出すような真似はしないはずだ。 「仕方ねぇ・・・一旦引いて様子を見るか。小十郎、急ぎ・・・・ん?」 軍船の甲板に見知った男の姿を見つけた。 「!」 「え?あー、あー!マジで!?あいつ何やってんだよ!!」 成実も声が裏返るほど驚いてしまっている。 小十郎も同じく。だがいつきはその姿に喜び、港に入った軍船へと駆け寄っていく。 「いつき!!」 「おーい!ー!!」 鬼の船にいるという事は、が人質になっているかもしれないと言うのに。 「行くぞ、お前ら!」 いつきを放っておけるはずもなく、政宗たちはその後を追った。 19/12/31再UP |