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共犯者。
奥州筆頭伊達政宗の居城である奥州米沢城。 豪族同士の小競り合いを収めてきた政宗が帰還した。 政宗を出迎える面々はどれも強面な者ばかり。 「筆頭!!」と張り上げる声に、ここはどう考えても組だよな。 とには思えてしまう。 (お父さん、お母さん。今の俺は未知の世界に足を踏み込んでしまったよ) なんて思いながらシャクシャクと赤い野菜を食べていた。 「・・・・てめぇ、何してやがる?」 「おかえりー。五体満足で何よりー」 政宗がの前に姿を見せる。 は「ん」と笑ってそれを出迎える。 普通ならば頭を下げるものなのだろうが、生憎自分は彼の部下になった覚えはない。 「何をしているのか、俺は聞いているんだが?」 「トマト食ってるに決まってんじゃん。小十郎さんからのご褒美さ」 伊達軍の軍師、政宗の、竜の右目と称される片倉小十郎。 政宗が出陣すれば、当然彼も共に行く。 趣味の域を超えている畑仕事を、小十郎はに手伝わせていた。 なので、当然小十郎不在のときはが畑仕事をしていた。 小十郎みたいにできることは少なく、作物に水をやり、邪魔な芽を摘むこと。 雑草を取る。その程度だ。 先ほど畑に姿を見せた小十郎から、礼というか褒美として採れたてのトマトを貰った。 ちゃんと出来ていたかと畑の状態を確認されているとき、それはもう冷や冷やしたものだ。 「美味いよー。流石小十郎さん。流石俺って感じ?」 「てめぇは対したことしてねぇだろ」 「畑仕事をしたこともない、お前に言われたくないね」 シャクシャク、パクリ。 美味しいトマト。ご馳走様でした。 は口元を軽く拭う。 「なんで、俺がそんな事しなきゃならねぇんだ?俺は俺で忙しいんだよ」 「あー!小十郎さんの畑仕事をそんな事′トばわりしたー!小十郎さんに言いつけてやるー」 「誰もんな事言ってねぇだろうが!!」 「いーや。言ったぞ、確かに言ったー。俺にはそう聞こえたー」 絶対に小十郎にチクる。は上機嫌で政宗に笑みを向けた。 「。俺に何の恨みがある」 「ないよ。単純にお前が小十郎さんに説教されている姿が見たいだけだ」 そう。それは単なる嫌がらせ。 「あぁそうかい。そんな姿見せる前に、てめぇをボコボコにしてやるぜ?」 悪魔にも似た、邪悪な笑みをに向ける政宗。 この男ならばやりかねない。 逃げ出そうとすると、あっという間に襟首を掴まれた。 「マジでボコす気かよ!最低だ!暴力に訴えるなんて最低だ!!」 何とか逃げ出そうとするを羽交い絞めにする政宗。 「うるせー。言う事を聞かない悪い子にはお仕置きが必要だろ?」 誰が主人かわからせてやる。 政宗はそう言うも、はふざけるな!と防戦する。 「誰が主だ。俺はお前の部下になんぞなった覚えはねぇよ!」 「あ?何を今更。お前は俺のモノだぜ?」 全身に鳥肌が立つ。 「き、気色悪い!誤解されるような物言いをするな!変態!!」 「誰が変態だ!!」 ドタバタ騒げば、当然周囲にもそれが届く。 だが、最近では「あぁまた筆頭とか・・・」程度で済まされてしまう。 日常の一部なのだろう。 しかも戦帰りの政宗だったから、気分が高揚しているのかもしれない。 「いやー。俺が汚れるーー!!」 「てめぇこそ、誤解されるような事を言うな!!」 周囲が見逃しても、騒ぎを聞けば見逃せない立場の者もいる。 「政宗様!!何をしておいでか!!」 小十郎がやってくる。 政宗は舌打ちをし、は助かったと目を輝かせる。 「政宗が俺を苛めるんですー。しかも小十郎さんの畑仕事を侮辱したんですよーこいつ!」 「な!言ってねぇだろ!、てめぇ!!」 「俺、毎日一生懸命畑仕事を頑張ったのに、政宗の奴が、そんな事呼ばわりして・・・」 物悲しそうに目をそらす。 演技だ。うそ臭いの演技。 「政宗様・・・・・」 わかる。政宗の目には目に見えている小十郎の怒りが。 「いや、だからそれはな・・・小十郎・・・」 ちょっと待て。そうは言っても、の演技に見事騙されている小十郎には政宗の言い分は聞かないようだ。 まぁ、現場を見た瞬間、政宗がを羽交い絞めにし押さえつけてる姿を見れば。 残念だが、政宗の分が悪い。 「そこにお座りなさい!久々に説教して差し上げます!!」 は政宗の手が緩んだので、これぞ幸いと小十郎の背後に逃げる。 (くっそ・・・の奴・・・) この国の領主だぞ? 奥州筆頭、独眼竜政宗と呼ばれる、恐れられる男だぞ? にも関わらず。 政宗はその場に正座をさせられ小十郎の説教を受ける羽目になった。 *** 思えば、政宗との出会いは最悪というか、特殊だった。 その日はアルバイトに向かう途中で、自転車に乗りながらではあるが。 友達と携帯電話で話をしていた。 「違う、違う。東口じゃなくて、西口だって。忘れるなよ?今度の日曜だからな」 自転車に乗りながらの携帯電話の使用は、危険行為で違反だ。 けど、そんなにスピードを出していないからと、自分判断で平気で会話をしていた。 アルバイト代で溜めて買った、シティバイク。 ずっと欲しいと思っていたそれを楽しげに乗りまわして、いつものようにアルバイトへ向かう。 はずだった。 「えー?なに?なんだってー?」 あれ、電波が悪い? 友達の声が急に聞こえなくなった。 チカっと眩い光が差したかと思ったが、それは一瞬だったので大して気にもしなかった。 「なんだよー。おーい、もしもーし」 なんだ?いったい? 懸命に友達に話しかけるも音沙汰なし。 「可笑しいな・・・・あれ、圏外?」 どこの山奥だ。 電波が届かない場所になどいたわけではないのが。 首をかしげながら自転車を走らせる。 携帯電話を数回振る。 根拠はないのだが、振ると稀に電波が回復するからだ。 そして今一度、友達にかける。 プップップッ・・・。 「なんだよー繋がり悪いなぁ・・・」 軽く舌打ちし、コール音が聞こえるのを待つ。 ぶらぶらと自転車を走らせている。 だが、携帯電話に夢中となり意識が散漫している。 ふわっと目の前に人が姿を見せた。 「うわっ!!」 「がっ!!」 はブレーキをかけ、転倒は避けるも相手とぶつかってしまう。 「す、すみません!大丈夫ですか!!?」 は自転車から降り謝るが、ようやく異変に気付いた。 「あ、れ?」 目の前に広がるのはビル群や、行き交う車、忙しなく歩く人々ではなく。 馬を引く人。背負子を背負った人。大きな山が立っている。 「あれ?なんだ?なに?」 先ほどまで居た光景と被るモノが何一つない。 「てめぇ。どこに見て・・・なんだ、それは?」 一枚の着物を着流している隻眼の男。 を睨みつけるも、よりもが乗っている自転車に興味が向かう。 「なにって、チャリ。自転車だけど・・・」 「なんだ、どうやって動くんだ?」 「はぁ?どうやってって・・・こうペダルで漕いで・・・」 加害者と被害者のはずなのに、何平然と会話をしているのだろうか? 「へぇ・・・ちょっと貸せ」 「嫌だよ。なんで見ず知らずの人に貸すんだよ」 ぶつけた腹いせに壊されるのではないだろうか?不安になる。 「じゃあ売れ」 「もっと嫌だ。これは俺が溜めたバイト代でようやく買ったものだぞ」 自分で買えばいいだろう、店で。 そうは言うも、相手は首を傾げるだけだ。 「俺はそれを売っているのを見たことがねぇ。どこ行けば売っているんだ?」 「どこって・・・普通に自転車屋さんか、デパートとかホームセンターとか?」 「知らねぇな、そんな店は」 とは言葉を交わしているものの意味がさっぱり通じないらしい。 「ところでよ、お前・・・・さっき俺のことを」 それで轢いたよな?と自転車を指差す。 着物の裾をひらりとめくり血は出ていないが赤くすれている脚が見えた。 「あ・・・・え、えーと・・・」 「普通なら死罪になるかもしれねぇところだが・・・」 「はぁ!?なんでだよ!傷害罪ぐらいだろ!普通は!」 相手はニヤリと笑みを浮かべる。 「轢いた相手が悪かったな。俺はこの国の領主様だ。そんな大層な方相手じゃそう簡単にはすまねぇぜ?」 「な、なんだよ。国の領主って・・・」 今の日本は天皇陛下を国の象徴として、政治は民主主義で内閣総理大臣が・・・。 そんな事をぼそぼそと口にしてしまう。 目の前の男はただの「俺様」で今のは悪ふざけ。もしくは。 「お前のものは俺のモノ。俺のモノは俺のモノ」というジャイアニズムを持っているのではないか? うわ。最悪だ。 「政宗様!」 「うぉ。やべぇ見つかった」 強面、長身の男がこっちに向かってくる。 (え、あ、あれって、嘘だろ!!?本物、本物じゃねぇの!!?) ヤバイ相手とぶつかった。 そう瞬時に悟る。 相手はどこぞの組の坊ちゃまではありませんか? 跡継ぎ?二代目? これはヤバイ。謝って済むような気がしない。 俺、どっかの海にコンクリ詰めになって埋められちゃう? それともどこか遠いお国に売り飛ばされてしまう? はたまた、下っ端として永遠に日の目を見ない暮らしになっちゃう。 (冗談じゃねぇ。逃げるが勝ちだ!) ぶつけてしまった手前、こっちが悪い。 悪いが、この先の人生をできれば穏やかに過ごしたいのだ。 は自転車に乗り咄嗟に相手に背を向ける。 思い切りペダルを踏み込み走り出す。 「って、あれ?」 重い。 ずしりと荷台にちゃっかり何か乗り込んでいる。 「Hey!早く走れ!じゃねぇと小十郎に捕まっちまう!!」 「ちょ!お前、降りろよ!俺まで捕まるのが嫌だから逃げようと」 「誰が逃がすかよ、お前のことを」 追いかけてくる、いかにも組の人共々この男に捕まるのは勘弁だ。 仕方なく、は思い切りペダルを漕いだ。 あとで、この男はどこかに置いて行こうと思って。 「男とニケツする気ないんですけどー?」 しばらく走っていたが、追っ手の気配はない。 上手く逃げ切れたようだ。 「いいじゃねぇか。助かったぜ、お前がいてよ」 「じゃあ。さっきのはチャラな」 何が悲しゅうて男を背に乗せているんだ、自分は。 どうせなら可愛い女の子の方がいいのに。 けど、走らせても走らせても。 景色がのどかなものばかりで、所謂田舎の風景ばかり。 可笑しい。自分は普通にアルバイトに行く途中で、少々込み合った商店街通りを走っていたのだが。 「・・・・・なぁ、ここどこ?」 聞く相手が男しかいないので、男に聞いてみる。 さっき自分の国とか言っていた。 「ここは俺の国。奥州、米沢だ」 「よ、米沢!?米沢牛の?あの米沢!!?」 一気に血が冷えた気がした。 「ギュウ?ここの他に米沢があるかは知らねぇが、ここは米沢だぜ?」 「う・・・わ・・・・なに、それ・・・・」 自転車を止め、ハンドルに顔を伏せてしまう。 「どうした?お前・・・・」 *** 「くっそ・・・の奴・・・」 小十郎の長い説教からようやく解放されたものの。 子供じゃあるまいし、おやつは抜きだと小十郎に言われてしまう。 国のトップがそんなことを押し付けられるとは思わなかったが、そんな事ができるのは小十郎だけだ。 普段は政宗の指示をちゃんと聞く人物だが、間違ったこと、曲がったことをすれば、はっきりと それを正してくれる存在でもあり、たまに頭が上がらないときもある。 だけど、今回はどう見ても自分だけが悪いわけじゃない。 小十郎に説教されている政宗を、楽しそうに見ていたかと思うと、はふらりとどこかへ行ってしまった。 「まったく・・・・」 女ならば可愛げがあると思うが、相手はただの野郎だ。 とんだ拾い物をしてしまったと溜め息が出る。 なんで、拾った? 南蛮の品物のようなものを揃えていたから、少々興味は沸いた。 けど、それだけじゃなかった気がする。 『う・・・わ・・・・なに、それ・・・・』 『どうした?お前・・・・』 自転車から降りて、の顔を覗き込めば、酷く青ざめていて。 捨て置けないと思ったのか、近くの茶屋で訳を聞いた。 また信じ難い話ではあったが、嘘を言うような顔には見えなかったし。 だとすれば彼の言動や態度にも納得ができた。 『そんなことあるものなのかねぇ・・・』 『現に俺知らねぇし・・・携帯電話見て知らんとか言う日本人はいないぞ』 政宗に証拠として突き出した携帯電話と言うもの。 自転車も知らなかった。 『あー・・・・なんだよー俺が何したんだよー』 『まぁ団子でも食え。奢ってやるから』 見ず知らずの人ありがとう。はそう言って団子を頬張った。 『もう見ず知らずの仲じゃねぇだろ?小十郎から逃げた共犯者だぜ?お前は』 『は?あれは・・・』 『理由がどうあれ、共犯者だ。寝床ぐらい貸してやる。あとで一緒に小十郎に叱られてくれ』 行く場所、どう元の場所へ帰れるか。それがない今。 が政宗に頼るしかなく。 『ありがとう。厄介になるよ』 少し泣きそうな顔で笑ったのが印象的だった。 『お前はLuckyだぜ?最初に出会ったのが、この俺なんだからな』 それ以来、米沢城にいるのだが。 最初逃げ出すほどの印象を抱いていた小十郎には、逆に懐くほどになる。 まぁあれも見た目で損はしている面があるとは政宗も思った。 「まっさむねーくーん。遊びましょうー」 へらっと笑って顔を覗かせた。 「どの面下げて来るんだ?てめぇは・・・・」 拒絶の意味も込めて、政宗は背を向け横になる。 「あはは。拗ねるなよー。おやつ抜きぐらいで」 「そんなことじゃ拗ねねぇよ」 「ま。いいから、いいから」 政宗のそばに座り込む。 「ほい。腹減らね?さっきチャリで買いに行って来たんだ」 そう言ってが差し出すのは、出会った時に話を聞いた時使用した茶屋の団子だ。 「小十郎の言いつけを破ろうってのか?」 「俺が食べたいから買ってきたんだよ。だから一緒にどうだ?って話」 「へぇ」 「本当は酒でも差し入れてやれればいいんだろうけど」 流石にそれは小十郎にばれるだろうから。 それでも政宗の好きな酒饅頭だぞと。 「じゃあ遠慮なくいただくか」 政宗は身体を起こし饅頭に手を伸ばす。 「けど。お前、あそこの茶屋に行かなくても、饅頭くらいならどこにでも売ってるだろう?」 城下にはそれなりに店が軒並んでいる。 「そうだけどね。あそこのがいいんだ、俺は」 そんなに特別に美味い店でもないと政宗は思ったのだが。 「しっかし・・・食べても平気か?小十郎にバレたら煩いぜ?」 とは言いつつしっかり饅頭を食べている政宗。 小十郎は畑に行ったので大丈夫だとは答える。 「けど。いいじゃん。俺達共犯者なんだぜ?その時はその時でなんとかしようぜ」 だから、あそこの茶屋か。 政宗は納得する。 「その割にさっきはあっさり裏切ってくれたよな?」 「まぁ敵を欺くにはまず味方からって言うだろ?」 「使い方が間違ってるぜ?そりゃあ」 たいした戦ではなかったが、やはり帰ってきたなと政宗は思わずにいられなかった。 嫌いじゃないのだ。 この憎まれ口を叩く小生意気な青年が。 「共犯者だからな」 俺達は。 19/12/31再UP |