鬼哭、花笑み。



ドリーム小説
瀬戸内はとても穏やかだった。





【11】





松永久秀という男を倒してから数年。
元親は精力的に天下を手中に治めるべく進軍した。
西日本を元親の支配化となった時、同じく東日本は徳川家康が治めている結果となった。
二人は一度は武田を倒す為に同盟を結んだ仲。
奇妙な友情が芽生えて培われていたのも事実だ。
最後の決戦とも言える関ヶ原で両軍は睨み合う。
勝ったほうが天下統一者だ。

元親は今まで多くの強者と戦い勝ってきた。
負けた相手は様々な道へと進んだ。
元親の配下になる者。命を絶つ者。徳川に就く者。天下など関係なく野に降る者。
その様々な想いを背負って元親は進んできた。

関ヶ原の戦いは元親の勝利だった。
だが。

「悪ぃな・・・・」

砂浜を歩く元親と
元親の数歩後ろを歩くに元親はそう言った。
二人の時ならばと元親は眼帯を外していたのだが、今はその左目は隠されている。
が二度と頼むことがなかったからだ。
が言わない限り、元親からそれを外す事はない。

「何を謝るのでしょうか?」

「・・・・天下とれなかったからよ・・・」

その大きな背中をは目に入れる。
どんな表情かをからは見えないが、は小さく笑った。

「?」

「とれなかった。じゃなくて、あげちゃった。でしょ?」

「・・・・なんでぇ・・・知ってたのかよ」

元親は唇を尖らせる。

「佐助さんから教えてもらったしー」

「忍の癖にお喋りだな、あいつは・・・・」

元親は軽く頭を掻いた。

「それで?なんで私に謝るわけ?」

元親はの質問に顔を顰める。
その理由をちゃんとは知っているくせに、自分にそれを言わせようとしているからだ。

「アンタとの約束を守れなかったからな」

「・・・・」

約束。
武田を破った元親に、元親によって天下統一を果たせなくなった信玄の願いを守らせる。
それだけじゃない。
が好きだった人。真田幸村の望んだ信玄の天下を元親が変わりに背負えと言った。
元親は約束だと言ったが、結果関ヶ原の戦いでは長曾我部が勝ったにも関わらず元親は天下を家康に譲った。

「俺が治めるよりもよ・・・・家康が治めた方がいいって思ったんだよ」

「・・・今まで西半分治めていたくせに・・・」

は呆れてしまう。
今まで別に元親が領民を虐げるような悪政を行っていたわけではない。
ちゃんといい領主だったと思うのだが。

「いいだろ、別に」

いいわけないだろう。自分との約束はどうしてくれるんだ。

「俺はよ・・・・海の上でのほうが性にあっているんだからよ」

勘弁してくれと元親は言う。

「・・・・だからよ」

「それ」

「あ?」

「そういわれてしまうと、私にはなんも言えないんですけどね」

ずるいと思う。
だからは元親に背を向けて来た道を戻る。

「あ!おい!」

「着いてくんな!バーカ!」

の一言に元親は足を止めてしまった。
を呼び止めようと伸ばした手が行き場を無くして虚しく感じる。

「・・・・・あーくそっ!」

元親はしゃがみこみ頭を抱える。
これが天下をほぼ手中に治めていた男の姿かと思うと情けないようにも思える。

「・・・・話は最後まで聞けってんだ・・・・」

ガシガシと髪を掻く元親だった。



*



別に怒ってはいない。
怒ってはいないけど、なんとなく素直に「そうか」と答えられなかった。
自分のそれはあくまで「願い」で「強要」することではないのだ。
約束だとは元親は言ってくれたが、元親は元親のやりたいようにやればいいのだ。

「これからどうしようかな」

「これからって?」

「ありゃ、佐助さん」

思わず呟いていたかとは恥かしくなる。
相変わらず食事の準備は佐助の指示のもと行われる。
台所事情は佐助が全て仕切っている。彼以上に詳しい者はいないだろう。
今も味噌汁の具材となる大量の野菜を素早く切っている。

「これからはこれから。だって天下は徳川のものなんでしょ?」

「あーそうだねぇ」

「佐助さんは?もう戦ないんだから、忍のお仕事なくなっちゃうでしょ?」

別にそれだけが忍の役割ではないのだがと苦笑してしまう佐助。
だがまあ職と考えるならば多少は商売上がったりではあるかもしれない。
だからと言って、佐助自身は別にこれからがそう変わるようには思っていなかった。

「俺はこれまでと変わらず鬼の旦那について行くけど?」

「ふーん」

「まあ、一応ね。他の奴らには好きにしろってことにしてある。徳川に仕えるのも良しってね」

佐助達の故郷、忍の里側としては忍としての生き残りを考えれば徳川に仕えるだろう。
里側としてはすでに徳川にそう打診しているらしいし。
だけどと。佐助は笑った。

「旦那に仕えている奴らは全員、現状維持だよ」

「?」

「はははっ。旦那の人柄に惚れちゃったってところだろうね」

まあ、自分もそうだろうと佐助は思う。
元々の主家を滅ぼされる原因となった相手の一人だが、元親自身を疎ましく思えない。
仕事だと割り切って仕えできたが、今では彼の下で良かったと思える。
アニキと彼を慕う者たちの気持ちもわからなくないのだ。

「場所はどこだっていい。ただあの人の下でならば。ってことだろうね」

「・・・・」

ちゃん。ここが嫌い?そうじゃないでしょ?」

「あ・・・・・嫌いじゃないよ」

幸村を失って無理矢理ここに居ついたものだが、ちゃんとその気持ちには決着をつけた。
松永に捕まった時、助けてくれた元親はに言った。

『帰ろうぜ。俺達の家によ』

あれから数年も経っている。
ここが嫌などとは思っていない。
でも「これからを」考えてしまったのは、自分がここに居残る理由があるのだろうかと思ったからだ。

「・・・・え?な、なに?佐助さん」

佐助はニッコリ笑っての頭を優しく撫でる。

「考えることないよ。ちゃんはもう答えが出ていると思うけどね、俺には」

「・・・・」

「どうかした?」

佐助の顔をただジッと見ている

「都合が良いとか調子がいいとか思わない?」

「思わないよ。そんなこと」

「・・・・・でも、でもさ・・・・向こうが・・・」

「考えすぎ・・・っていうか、考えちゃうんだろうね、どうしても」

「うん」

佐助にはが思っていることが何かをわかっていた。
わかっていたから、後押しするような言葉を向けている。
それでもは始まりが良くないものだったから、自分からは言えないでいるのだ。
いや、が言わないとさらに始まらない。歩き出す事はないだろう。

ちゃんには心に残る人がいるから。かな?」

「・・・・・」

「はははっ。それは辛いなぁ・・・・・でも、まあ今すぐ決めろってわけじゃないし、いいんじゃない?」

「いいのかな・・・」

「いいよ。ゆっくり焦らずいきなよ」

ポンポンと軽くの頭を叩く。
なんだか本当の兄のような気分にさせられる。
信玄と幸村の変わりにずっとを見守ってきたからだろう。
できればこれからもそうしたいが。

(それは俺の役目じゃないよね・・・・いやぁ、兄代りってことなら問題ないか?)

佐助は咽喉の奥で笑う。

(鬼の旦那。辛いね、これは)

この先は次第でもあるが、元親次第でもあるだろうと佐助は思って。



*



もしもという話は好きではない。
ただ、物語を読んだあとに耽るもしもならば悪くはない。
もしもこんな道具があったならばいいなとか、自分にもこんなカッコイイ使い魔がいたらいいなとか。
黄金郷なんてすごいもの、あったら見てみたいなとか。
その程度のもしも話ならば別に・・・。

だけど、もしもあの時こうだったらならば・・・・という過去を思い返すことは好きではない。
「だったならば」と今更思っても仕方のないことだ。
引き返すわけでも、変わるわけでもないのだから。
それでも、最近思う。

「もし。あの戦で武田が勝っていたならば」

ということを。
信玄も幸村も死なずに済んで、きっと甲斐で変わりなく生活していただろう。
少しだけの変化というならば、きっと幸村のお嫁さんとして幸せになっていただろう。
そうならば、元親と出会うこともなかっただろう。

「出会わなかったら・・・か」

出会いたくなかったのだろうか?
出会いが最悪だったから。
もし、幸村の敵討ちなんてことをしなかったら出会わなかっただろう。
佐助を頼ってひっそりと幸村が眠る側で暮らしていただろうか?

「相手が、長曾我部じゃなかったら・・・・」

あの戦が徳川だけだったらどうしただろう。
徳川じゃなくて、また別の勢力だったら、元親との出会いもあんなではなかっただろうか?
あのような形で元親と出会いたくなかった。
そう考えているのだろうか。

なぜ、そう考える?
今更のことではないか。

『俺はよ・・・・海の上でのほうが性にあっているんだからよ』

元親に負い目を感じたのだろうか?
海に出向く、船上での方が元親らしいのをわかっていたから。
無理に自分の願いだといって押し付けたからか?
それを元親なりに果たそうとしてくれていたから。
無理矢理「約束」という形にした。

「あ。そっか・・・・私は」

そこまで考えてしまう理由がわかった。
わかったから、少し出かけてこようと思った。



*



「おっ。珍しくまともなメシじゃねぇか」

何年経ってもの作る料理に進歩は見られなかった。
信親は「いつか化けるかも」などと言っていたが。
なんとなく、わざとそんな料理しか元親に出さないように思えてしまう。
見た目は悪くとも味は悪くないものだから。
佐助が指示しているならばまあそうそう悪いものは出てこないだろうし、何年も食っても体調を崩すことない元親だから。
綺麗な形のお握りを元親は頬張る。
美味いなぁと笑いながら食うものの、正直の味になれているので少々味気ない。

「まともって言わないでやってよ、旦那〜」

佐助が苦笑しながら茶を持ってきた。

「わかってるって」

じゃなければ毎回食べないだろう。

「怒ってるのか?・・・・」

ちゃん?いや、別に」

「だったら、なんでだ?」

嫌がらせにもならない普通の握り飯だったから。
恐らくコレを握ったのもではないと元親にはわかっている。

「あー・・・・ちゃん。今いないよ」

「あ?」

「ちょっと出かけてくるって・・・しばらく帰らないと思うよ」

「・・・・そりゃあ・・・しばらくなのか?本当に・・・」

珍しく、いや初めて見せるのではないかという弱気な元親の顔。
何があっても不敵に笑っているのが元親だろうに。

「それ。自分で確かめてくればいいんじゃないですか?行き先は一つしかないですから」

「猿飛・・・」

佐助にしてみると、どっちもしょうがないなぁとしか思えなかった。
お互いがお互いを気遣いすぎている。
その領域に一歩でも無理矢理入り込めばいいのにとさえ思う。
入り込まれて喧嘩になろうが、喧嘩になった方が良いと思う。この二人の場合。
その方がすっきりするし、わかりあえるだろうから。

(本当。世話が焼けるね)



*



桜が満開だった。
数年ぶりにこの場所へ戻ってくるとは思わなかった。
いや、なぜ一度も帰ることをしなかったのだろうかと少しばかり悔やまれる。
一歩踏み入れてしまえば、悲しみに閉ざされるとでも思ったのだろうか?
悪い思い出ばかりじゃないのに。悪い、嫌だと思ったのは最後だけだ。
あとはどんなことがあっても、後々になって笑い飛ばせてしまうような事柄ばかりなのに。
心配だったのは、自分が姿を見せたことで周囲の人々にキツイ眼差しを貰ってしまうことだった。
今更どの面下げてやってきた!とか罵られるの覚悟はしてきたが。
だけど、そんなことはなく。どちらかといえば、のことを覚えている人はごくわずかだった。
あれ以来一度も姿を見せなかったのだが、そんなに面識のない人たちには
のことなど気にとめることもないようだ。
嬉しいような寂しいような。
甲斐で暮らしたのもそんなに長い時間ではなかったからかもしれない。
それと、もう自分の家と呼べる場所がここではなく、瀬戸内だったからだろう。

目的の場所は佐助に教えてもらった。
この辺だと言う地図も念のために書いてもらって。

桜の花びらが舞う中に目的の場所があった。

「ごめんね、遅くなって・・・・幸村君」

一度も来なくて、ごめんと謝る。大好きだった人が眠る場所に。
持ってきた花と線香を置き手を合わせる。
今でも幸村のことを思うとキュッと胸が痛くなる。
きっとこの先も忘れることなどできない人だろう。
のことを一人の女性として好きだと最初に言ってくれた人だから。
そんな彼をも好きだったから。
その名が刻まれた墓石をジッと見つめる。

「薄情者って怒る?・・・・本当、薄情者だね、私」

まだどこかで認めていなかったのだろうか?
幸村の亡骸とちゃんと対面したのに、あの顔はただ眠っているようにしか見えなかったから。
どこかで「もしかして」という思いがあったのかもしれない。

。この戦・・・・戦から帰ってきたら。そ、そそ・・・・それがしの嫁になってくれ!』

「私も幸村君のお嫁さんになりたかったよ」

『これからはにずっと作ってもらいたいものだ』

あの時、美味いと言ってくれたおはぎ。
見た目がすごく悪かったのに、全部残さず食べてくれた。

「ずっと、幸村君の為に作っていたかった・・・」

唇が振るえ視界がぼやけてきた。

「幸村君のこと・・・ずっとずっと好きだから、忘れないから。それでも・・・・・」

頬を伝う涙。
拭いもせずにただただ見つめる。

「それでも・・・・もう一人、好きな人できた。から・・・・これからもその人のそばにいていい?」

もしもと考えてしまったのは。想う人ができていたから。
今までずっと自分との約束に縛り付けてしまった人。
この想いを彼に伝える気はない。伝えられないだろう。
受け入れられるかもわからない。
自分はただの台所で働く者の一人かもしれないから。
実際、この数年。何かあったわけでもない。変わりなく暮らしていたから。
それでもは彼が魅せるものに少しずつ癒され少しずつ惹かれていったのだ。
気づかないうちに。

「・・・・・・・」

いい?などと問いかけても返事はないのは当然だ。
だけど、ケジメをつけたかったのかもしれない。
誰かが歩いてくるようで足音が耳に届いた。

「これからは、なるべく・・・来るようにするから」

涙を拭って立ち上がる。
幸村は領民に慕われていたから、誰かが墓参りに来たのだろうと思って。
帰ろうと反転すると。まさかと思う人物が立っていた。

「あ?え?な、なにやってんの・・・ここで」

「よう」

元親だ。

「何って・・・墓参りだろ?あと・・・・アンタを迎えに来た」

「え。迎えって、あ・・・黙って来ちゃったもんね・・・・一応報告してからじゃないとまずかったか」

雇われているようなものだもんね。
雇用主に黙って休みを取ってはまずいだろう。

「別に、んな事ぁいいさ・・・・」

元親はの横を通りすぎる。
幸村の墓前までやってきて、おもむろに持っていた酒瓶の封を切る。

「アンタが酒飲みかなんてのは知らねぇが、俺の故郷じゃ上等な奴だ。美味いぜ」

と酒を墓に流しかけた。
元親の行動にはわけわからず呆然としているが、口は出せず黙っている。

「真田幸村」

元親はどっかりとその場に胡坐を掻いた。

「アンタから欲しいもんがある。別にわざわざ申告しなくてもいいんだろうが、一応な」

そばに立つの腕を掴んだ。

「え?」

「こいつを貰うぞ。俺は一生アンタには敵わないだろうな、どんなに想おうが。
だけど、こいつを幸せにできるのは死んだ人間じゃねぇ。生きている人間だ。
今のアンタにはそれができないだろ?俺にはできる。だから、アンタからこいつを貰うぞ」

そして墓前に向かって頭を下げた。
可笑しな言い草と自分でも思う。
をそんな目に遭わしたのは、思いをさせたのは自分だ。
武田を倒し、大事な人の命を奪ったのは元親だから。
それでも、芽生える想いが。塞いでおくことができずに。ただただ・・・・彼女がそばに居てくれることを望んだ。

「約束だ。俺は沢山こいつを泣かした。けど、もう泣かさねぇから。大事にするから」

返事がないのは当然だから、元親は立ち上がりそのままを連れて歩き出す。
来た道を戻り、桜が舞う中を進んでいく。

「ちょ、ちょっと!アンタ」

「戻ってこねぇんじゃないかって思ってよ・・・・悪い」

「別に、ただ一度も・・・・お墓参りしていないから・・・・色々・・・思うことがあって」

元親は掴んでいた手を離す。

「さっき言ったこと、嘘じゃねぇ・・・・この先ずっと真田のことを想っていてもいい」

の顔を視線外さず、右目で捉える。

「そんなアンタをひっくるめて俺は、アンタが好きだ」

そんな事を言える、口にする義理ではないと思う。
だけど言わずにいられなかった。天下を家康に譲ってしまったことで、彼女がどこかに行ってしまいそうだと思って。
約束したのに。約束を破ったから。
バカみたいにくだらない言い争いして、他に誰も食う人が居ない料理を独り占めして。たまにのんびり浜辺を散歩して。
一緒に居られるのが、いつの間にか日常の一部になって、そばに居てくれるのを当たり前と感じていた。
いつの間にかこの先もずっと、そうであれば良いと思い描いていた。
彼女の心には忘れられない大切な人が居たとしても。

「どう足掻いたって、俺はアンタの一番にはなれねぇ。それでもいい」

「・・・・・アンタは」

「?」

「アンタは・・・・アンタにとって、私は、何番目?」

思わず噴出してしまう元親。ここまで言っているのに、今更何番目だぁ?

「決まってらぁ。一番目だ」

「アニキって慕うあの人たちよりも?」

「ああ」

「私、いつもアンタに酷いことばっかり言ったり、するのに・・・・」

「たいしたことじゃねぇだろ」

は俯き目を瞑ってしまう。
じゃないと泣いてしまうと思ったからだ。
元親のことをいつの間にか好きになっていた自分。
相手も同じように思っていてくれてたとは思わなかった。
嬉しいけど、素直になれないでいる。
なのに、元親はの想いを幸村のことを好きでいてもということを全てを受け入れてくれるというのだ。
都合が良すぎないか?元親は本当にそれでいいのか?
自分は元親をアニキと慕う者たちと一緒に、似たような位置に、今までどおり居られればいいと思っていた。

「おいおい。俺ぁさっき真田にアンタを泣かさないって、約束したばかりなんだがよ」

「ご、ごめん」

「そりゃなんだ?俺はダメってことかい?」

「ち、違う。アンタが私に優しすぎるから・・・・ずるいよ」

「確かにずるいな。俺はアンタの優しさにつけこんでいるからよ」

元親は笑いながらを包み込んだ。

「天下は家康にくれちまったけどよ・・・・一緒に世界の海、見ねぇか?ずっとよ」

世の中はまだまだ広い。
島国一つを制するよりももっと大きなものを相手にしたい。
だから世界の海へと目を向ける。
この国は家康がいるから問題ない。
自分は世界の海へと、他の国へと目を向けるのだ。
その時、が一緒にいてくれればいい。

「うん」

何かもっとちゃんとした言葉で元親に返事がしたかった。
あれこれ考えて出た言葉がそれだ。かっこ悪くて笑ってしまう。

「よし。決まりだ。帰るぜ」

は頷いてくれただけでも嬉しいから。
元親はの手を引き歩き出した。
泣いた顔で恥かしいと思いながらもも歩く。
少しだけ幸村の墓がある方向を振り返った。

「幸村君・・・またね」

今度来る時は世界の海の話ができるかもしれないよ。
そう心で呟いた。




歩きながら、元親の様子を窺う。
元親から言われただけでは、なんかずるいような気がして。
自分も同じ気持ちなわけだし。
しっかりとの手を離さないでいてくれる元親。
近くにいたのに、初めてだなとくすぐったい気持ちもある。
元親は今、どう思っているのだろう。

「あ、あのさ」

「ん?」

「さ、さっきの話」

「さっき?」

「その・・・・・なんか不公平だから」

「あ?」

なんで、そんなに凄まれなければないのだろうか。
だからと言ってここでいつもみたいな態度をとれば先に進まないだろう。

「私も。同じ」

「なにが?」

「アンタのこと・・・・・好きだって・・・・こと」

嘘ではない。本当のことだ。
でも、幸村を忘れられない想いもある。

「幸村君のこと、まだ好きな部分もあるけど・・・・・アンタのこと嫌いじゃないし。ずるいかなって思うけど」

ケジメをつけたかった。甲斐へ来たのはその為だ。

「言うつもりなかったん、だけど・・・・アンタ。幸村君の墓前で言ってくれたし」

「おい・・・それって」

は元親に笑いかける。
言葉の通りそのまんまだ。
元親にも伝わっただろうか?少し不安だが、繋いでいる手に少し力が入った。
伝わったようだ。

「そろそろ名前で呼んでよ。いつもアンタとかオイとかさっきはコイツだったし」

「・・・・・・・ああ。そうだな。アンタも俺のこと名前で呼んでくれよ」

「またアンタって言った」

「あ。悪い」

くすくすとは笑い、元親はバツが悪そうに髪を掻く。

「元親」

「なんだ、

呼んでみただけだが、こそばゆい。
でも、嬉しい。







終わり

19/12/31再UP