仲間だとか仲間じゃなくて。



ドリーム小説
元親の配下の一人で、主に情報収集をしている定吉君。
先ほど元親と次の航海についてのプランを練っていたのだが。
聞き忘れたことがあって、元親の室へと向かっていた。
アニキー。と襖の前で呼びかけようとすると、元親が誰かと喋っているのが聞こえた。
ああ、なんだ。先約か。
まあ、自分は急ぎでもないからあとでいいや。
と思って、その場を離れようとした。
だが。

「あのね!ア、アニ、アニキ。私が。ここからいなくなっても、平気だよね!」

と少女の声が。
あ。先約はか〜
相手じゃ時間的にすぐには済まないかぁと、用事はかなりの後回しになってしまうと溜め息が出た。
でも仕方ない。
可愛い妹分だってアニキと一緒に居たいだろうから。
それに、これは邪魔しちゃいけねぇぜ。野暮ってもんだぜ。
出歯亀はよくないと二人に気づかれないうちにと静かに去ろうとする。
だけど、また足が止まった。

「私ね、このまま黙ってここにいるの・・無理だと思うから」

「お前の口ぶりじゃ、ここを出て行こうって聞こえるぜ?あ?」

「・・・・・うん」

なんですと!!?
がここを出て行く!!?
そう定吉はうっかり声をあげてしまいそうになるが、慌てて口を押さえた。
なんで?
なんで、がここを出て行かねばならんというの?
アニキとあんなに仲が良いし、自分達もを可愛がっている。
それに毛利軍の元から戻った時に喜んでいたではないか。
誰かが苛めた?
いやいや、そんな馬鹿な真似する人間はここにはいない。
じゃあ、大勢の野郎どもの飯の仕度が嫌になった?
でも、不満を漏らしている姿など見たことないし、感じたこともない。
それを表立って言うような子ではないが、実はそう思っていたのだろうか?

「なにやってんだ?お前・・・」

「あ。しーっ!しーっ!」

自分と同じようにアニキに用があるのだろう、数人がやってくる。
定吉は慌てて人差し指を唇にあて静かにしろと言った。

「?」

「大変なんだよっ!」

小声で彼らに先ほど聞いた言葉を伝える。
彼らにも信じられないというようで、叫びそうになるがお互いの手でお互いの口を押さえ込んだ。

「をい!どういうことだよ」

「俺も今聞いただけだよ!」

「なんでだよー」

ぼそぼそとそんなことを言い合う面々。

「なんでそう思った?何か不満でもあんのか?飯の仕度すんのが面倒か?」

聞こえた元親の声に思わずピタリト襖に耳をつけて様子を窺ってしまう。

「そうじゃない。皆の食事の仕度をするのは嫌じゃないよ」

「じゃあなんだ。何か不満なんだ。いってみろぃ」

「・・・・・・不満なのは・・・・・」

ごくりと息を飲む面々。

「不満なのは・・・・・・アニキに対してだよ」

「俺、だと?」

「アニキ、私ね!アニキのこと」

ぎしぎしと音がした。

「「?」」

ぎしぎしと音がするのは襖から。
なんだか嫌な予感がする。

「「「「「ーーーー!!!」」」」

仲間達が涙を流しながら襖を蹴破ってきた。
無残にも元親の室の襖は破壊されてしまう。

「え?」

「おめぇら、なんだ!?」

元親を差置いて、彼らはを囲んだ。

「出て行くなんていうなよー」

「アニキの世話。そんなに嫌だったのか?」

「まさかアニキに何か酷い事されたのか!?アニキに限ってそんなことはねぇと思うけどよ!!」

好き勝手に言いたい放題の仲間たち。
だが、まあ元親が原因というのは遠からず当たっているわけで・・・。
それをちゃんと説明しようにも彼らの悲鳴やら叫びやらはたまた泣き声などで聞いてもらえない。

「考え直せよー。お前がいなくなったら毎日のメシがつまらないじゃんかー」

「そうだぜ!野郎ばっかで、冷めたメシなんてもう食いたくねーよー」

用は泣き脅しでにここへ留まらせようとしているらしい。

「あ、あああのね。みんな」

は困ってしまう。
まだ自分は何も元親に告げてはいない。
やり方が失敗したようだ。
最初に逃げ道を作ったのが不味かった。
ここから出て行くのは自分も嫌だ。だけど元親に嫌われたりなどしたら居辛いだろうと思い。
あえてあんな出だしで話し始めたのだが・・・まさか他の者に聞かれているとは思わなかった。
わんわん泣く手下達を見て、元親は口を一文字に結び、そのまま立ち上がる。
蹴破られた襖は仕方ないとして、話の内容が面白くないのだ。

「アニキ?」

「・・・・・・」

元親は室を出て行く。

「ちょっと待って、アニキ!私の話」

「うるせー!おめぇの話なんか聞かねぇよ」

怒気を露にして元親は引き止めること敵わずさっさと行ってしまう。

「アニキ!」

が立ち上がっても泣き喚いている仲間たちが邪魔で室から出ることができない。

「もう!みんな、泣かないでよー!!」

「だ、だってよ。おめぇ」

「話を最後まで聞いてよー!私がここを出るってまだ決まったわけじゃないんだよ〜」

まだアニキに話ができていないのに!とは地団駄を踏む。

「え、それってどういうことだ?」

「アニキの判断待ちってことか?」

「うん」

すとんとその場に座り込む

「アニキがを追い出すような選択をすると思わないんだけどなぁ」

「あの・・・・それは、私がこれから言おうとしていること次第なんで・・・・」

少し頬を赤らめる
その場にいた全員がそれで「あ」と声を漏らし気づく。

「おう。悪かった、それは俺たちが・・・な!」

自分達がしゃしゃり出た為に元親はいずこへ行ってしまったわけだし。
そう思いに謝る面々。

「は、早くアニキのところへ行けよ!」

「そうそう。もう次の航海の話も出ているからな。早いうちがいいって」

うんと頷き、みんなに急かされては室を出て行く。
残った面々はなんだか苦笑してしまう。

「俺たち余計な邪魔しちゃったよな」

「まぁな。でもこれでなんとかなるだろうし」

「あ。襖直さないとまずいよな」

「蹴破ったもんな、俺たち・・・・アニキに叱られる前に直すか」

いそいそと立ち上がり、壊れた襖の修理を始めるのだった。
その際定吉がぼそりと。

は考えすぎなんじゃないかなー。アニキはどう見たって・・・・」

と呟いたとか。



***



「なんでぇい、俺に不満ってのは・・・・」

岩場で潮風を受けながら元親は呟いた。
不満があるから出て行こうと思う。
自分は先ほど手下たちが言うような酷いことなどにした覚えはない。
寧ろ心配してしまうことの方が多いというのに。
それが余計なお世話というのだろうが。

「ま・・・・仕方ねぇか・・・・・そんなもんだな」

男ばかりの中に女が一人。
大量の食事の仕度、もっと年頃の女性としてはやりたいこともあるだろう。
がここを出て行きたいと思うのも仕方ないと思えてきた。
買出しのとき、咲と会えるのを楽しみにしているようだったし。
ここらが潮時なのだろう。

「アニキ!」

懸命に走ってきたのだろう、は肩で息をしている。

「・・・・・」

「アニキ、あのね」

「・・・・・・・いいぞ。好きにしろって」

「え」

まだ何も言っていない。
だが元親はの顔を見もせずに続ける。

「俺たちがいくら引きとめても、嫌々でここにいるのも嫌だろ?」

「アニキ・・・あの」

の言う・・・・俺への不満ってのはよくわかんねぇんだが・・・・悪かったな」

何も気づいてやれなかったと静かに呟く元親。
元親の中では、もう先ほどの話がココを出て行くことに繋がってしまっている。

「違う!アニキ違うの!」

は胸元でギュッと両手を握る。
元親にそんな事を言わせたいのではない、自分が彼に嫌われるのが怖くて言ったことだ。

「不満なんて言い方してごめんなさい。私が、私が悪いの。ただ、ただね・・・・」

少し息を吸い込む。

「私が今よりもずっと、もっと・・・・その・・・・欲深くなったから」

「?」

元親は意味がわからず目線をに向けた。
は耳まで真っ赤になっている。

「アニキにとって、一番の子になりたいって思ったから!」

「・・・・・・・おめぇ」

「ただの妹分で、いるのが・・・・もうね・・・・限界で。
そりゃあ、アニキから見てそんな対象じゃないとは思うけど・・・・私、アニキのことすごく好きだから!」

頼れるお兄ちゃん。
最初はそう思っていた。右も左もわからない場所で家族というものを作ってくれた人。
家族というより、一味に近いが、それでもは良かった。
でも、毛利軍の襲撃や自分を助けてくれたことなどで、それ以上の想いが自分には芽生えていたから。

「だから・・・・その」

言い切った。と思う。
これで元親の反応が悪ければ。居辛くなるのは決定的で、それでもまだ自分には咲が作ってくれた逃げ場があるから。
元親がの前に立った。

にそこまで言わせて、俺がカッコ悪ぃじゃねぇか」

「アニキ?」

「俺はとっくに想っていたさ」

少し乱暴に、照れ隠しなのか元親はの頭をなでた。

「アニキアニキって慕ってくれるのが嬉しかった。だけどそれ以上は望んじゃいけねぇと思った。
海で囲まれたここにお前を閉じ込めていたようなものだしな・・・・俺は俺で長いこと航海に出ちまうし」

それじゃあ不満も沢山あるだろうと元親は口にした。

「あ、あれは・・・・」

「なんだ?」

「・・・・・アニキが、私の・・・・」

胸元にできた傷を見たときの反応があまりにも淡白であった為だ。

「あ・・・・ありゃあ・・・・まあ、なんだ・・・・俺のせいで残っちまった傷痕がよ・・・・」

体を張ってのの行動に胸が張り裂けそうになった。

には無茶して欲しくねぇんだよ・・・・・馬鹿みてぇに笑ってくれさえいればよ」

「アニキ・・・」

鬼なんて言われる元親の想いがすごく伝わる。
優しすぎる人だと。
は思わず元親に抱きつく、ぎゅっと背中に腕を回して。

「アニキ。私、アニキのそばにずっと居ていい?」

元親の逞しい胸元に顔を埋める。

「駄目だなんて言った覚えはねぇよ。ずっと一緒に居てやるって言ったじゃねぇか」

大分前の話だが。

「これからもには寂しい思いをさせちまうだろうけどよ・・・・ずっとそばに居てくれや」

「平気。アニキが帰ってくるの待っているから。そして一番に“おかえり”って言うから」

「ああ。ありがとよ・・・」

元親は口許を緩め笑んだ。
はパッと顔を上げ、元親のことを見上げる。

「ね。アニキ。今日は何食べたい?アニキの好物沢山作ってあげる」

「俺の好物ねぇ・・・・」

少しだけ意地悪笑う元親。



「は?」

「もう我慢する必要はねぇだろ?」

元親はくつくつと笑うもは真っ赤になって口をパクパク魚みたいにさせる。

「わ、私は食べ物じゃなーい!」

そう言い元親から逃げようとした。
だが逃がすまいと元親はがっちりとを抱え込んだ。

。好きだぜ。これからもよろしく頼むわ」



***



「咲姉さーん」

買出しに出てきたのだろうの声に、咲はにっこり微笑んだ。
その声音からはきっとあそこから逃げずに済んだのであろうというのがわかる。

「いらっしゃい、ちゃん・・・あら」

「よぉ」

駆けて来るの少し後ろを元親がのんびりと歩いてきて、咲に手を軽く振った。

「元親様もご一緒とは・・・うふふ。良かったわね、ちゃん」

「あ、う、うん」

照れるに咲はくすくすと笑う。

「元親様は心配で着いてくるのですか?」

「別にいいじゃねぇか・・・・荷物持ちぐらいしてやるさ」

元親は適当にその辺に腰を下ろした。

「あらまぁ。西海の鬼と謳われる方を荷物持ちにさせるなんて、ちゃんすごいわねぇ」

「こいつは前からそうだぜ」

「だ、だって。買出しに来ているんだから、ただ遊びに来ているわけじゃないんだよー」

はいはいと元親は面倒臭さそうに答える。
そして咲に向かって言った。

「俺はまたしばらく航海に出る。だからまたこいつの事頼むな」

珍しく元親に頭を下げられた。
咲は瞠目するが、すぐさま頷いた。

ちゃんは私にとっても可愛い妹分ですよ。元親様に言われなくても大丈夫です」

自信たっぷりの咲。

「へぇ。そりゃ頼もしいな。だが、俺は可愛い妹分とは思ってねぇから。は俺の大事な女だからな」

「はいはい。わかっておりますよー。ここらでちゃんに手を出す馬鹿者はおりませんからご安心を」

「な、なんか二人とも怖いよー」

アニキも咲姉さんも独占欲が少々強いらしい。

「さ。姉さん、買い物しましょう。アニキのことは放っておいて」

「おい、

「そうね。女同士で買い物楽しみましょうね〜」

これは私の特権ですから。
咲は元親に恐れることなくそう言いきった。
さっさと行ってしまう二人に元親は頭を掻いた。

「なんだよ。俺のことすごく好き・・・なんじゃねぇのか?」

いとも簡単に咲に負けたと微苦笑する元親だった。









19/12/31再UP