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仲間だとか仲間じゃなくて。
は最近ずっと悩んでいることがあった。 気にしないようにしようと何度も結論付けるが、そこは年頃の女の子。 どうしても気になってしまうものだ。 が悩んでいること。 それはアニキ、元親のことだ。 「おう。どうした、?」 「べ、別になんでもないよ」 元親に問われてにっこり微笑む。 その微笑みを可笑しく思われなかったか内心ドキドキしてしまう。 が元親のことをなぜ悩むかと言うと、が毛利元就に連れ去られ、元親が助けに来てくれた。 その後の出来事だ。 は元親の室に呼ばれた。 神妙な顔つきの元親に、は拒絶の言葉を投げられるのではないかと緊張したが。 実はそうでなく、元親はの着物を剥いだ。 剥ぐというと少々誤解を受けるが、胸元を力いっぱい広げたのだ。 年頃の娘からすれば、元親のその行為を誤解してしまうのだが、元親は単にの肩から胸にかけて できた傷痕を見て顔を苦痛で歪ませたのだ。 自分の所為で負った傷。 元親には後悔の念でいっぱいなのだろう。 さらに恥かしいといえば、元親はなにを思ったのかその傷痕に口づけをした。 その後二人はそのまま男女の仲に・・・・。 にはならず、いつも通り。 そこがの悩みの種であった。 元親がをどう思っているのかは、自身は当然わからない。 だがの方は違う。 少なくとも、今回のことで元親を一人の男性として意識してしまっている。 元々アニキと慕っていたわけだし。 元親が死んだと元就から聞かされた時、自分も死んでしまおうと思ってしまったくらいだ。 (アニキは私のことどう思っているのかな・・・・) と日々考えてしまっている。 なんの得にもならないとわかっている。 でも、考えずにはいられない。同時に自分がいかに元親から女性とは思われていないのだなと感じてもいる。 「。この後はどうするんだ?今日はそんなに沢山買い込む予定じゃないし」 「時間はあるんだ」 仲間達との近くの町へ買出し。 は予定を尋ねられる。 「ああ。あるぞ」 「じゃあ、行ってくるよ。いつもの場所に」 思えば、あれ以来行っていない。だからちゃんと挨拶をせねばと。 それに元親のことを、話を聞いてもらいたいと思っていたから。 「よぉ。俺は何すればいいんだ?」 「「「「アニキ!!」」」」 またもちゃっかり買出し用の船に乗り込んでいた元親。 「アニキに頼むことなんてないですよ・・・・というか、アニキが買出しに来る必要なんて・・・・」 わざわざそんな事をと言いたいらしい。 だけど、来るなとはいえないし、すでに船は町へと向かっていたのでここで降りてくださいなどとは言えないだろう。 「まあいいじゃねぇか」 「はあ・・・じゃあに着いていってくださいよ」 「え!!」 思わず声を出してしまう。 「なんだ?俺が一緒じゃ嫌なのかよ」 「い、嫌じゃないよ・・・・その・・・・」 「はっきり言え。なんだ?」 「・・・・・なんでもないです」 はがっくり肩を落とした。 買出しの後行こうとしている場所に元親が着いてこられると困るのだが。 「えーと・・・大根、ニンジン・・・・・牛蒡をいつもの量でお願いします」 買い物する。 その後を元親が着いて歩いている。 歩くたびに元親には、の髪に挿してある鼈甲の玉簪が目に入るのでなんとなく頬が緩んでしまう。 ちゃんと挿してくれているのだと嬉しいのだ。 それは元親がにあげたものだから。 「はい。じゃあ船に運んでくださいね。お金は・・・はい」 ちゃっちゃと買い物を済ませていく。 時間があるなら、この後どこかで食事をするのもいいだろうと元親は考える。 だけど。 「はい、アニキ。これ持って」 「あ?」 突然渡されたものが元親にずしりと重みをかける。 「、これ・・・」 「味噌。それ持って先に船戻ってね。じゃあね〜」 はニコリと笑み元親を置いてさっさとどこかへ行ってしまった。 「おい!!」 これでは以前と同じではないか。 だが、預けられた味噌の入った樽を捨て置くわけには行かないだろう。 仕方なく船に戻ろうとする元親。 「・・・・・以前と同じか・・・」 ぼそり呟く。 だから心配になる。 「くそっ」 元親が買い出しに付き合った時、は荷物を元親に渡しどこかへ行ってしまった。 部下に聞けば、個人の買い物があるから仕方ないと。 でも、結果的に山賊風情に襲われて怪我をしたではないか。 あの時は元親がすぐさま駆けつけ山賊をボッコボコにしたので大事には至らなかったが・・・。 「・・・・・そういや・・・・」 あの時の元親を見るの目が怯えていた。 その後、毛利軍の急襲を受けて、更にはの安否が不明だったこともありおぼろげになってしまったが。 は自分を怖がっていたではないか。 今はもうそうではないが。 ちょっと思い出すと気分的にへこんでしまう。 「あれ、アニキ?どうしたんですか?そんな所に突っ立って・・・・」 買出し以外に情報収集もしている部下の一人が声をかけてきた。 ちょうど良かったと、元親は味噌の入った樽を彼に持たせる。 「ア、アニキ!?」 「味噌樽。船に持ってってくれや。俺はまだ行く所があるから」 まだそんなにとは離れていないはずだ。 元親はが走っていった方へ駆け出した。 *** 「咲ねーさん」 「ちゃん!久しぶりね。元気だった?」 が行こうと思っていたのは咲の所だった。 咲は唯一が頼ることのできる女性だ。 山賊たちとの一件以来咲の下へ中々来ることが出来ずにいたが、ようやく会えて安堵した。 「うん。元気」 「一応話は聞いていたんだよ。ちゃんが行方不明だって聞いたときは・・・」 薄っすら目に涙を浮かべてしまう咲。 「心配してくれてありがとう。私こそ、中々姉さんの所に来れなくて、それに・・・」 山賊たちに絡まれたとき、自分の所為で彼女を巻き込んだことを何度も悔やんだ。 余計なことに首を突っ込む羽目になった咲に申し訳なく思うが、咲は気にするなと言ってくれる。 「咲姉さん。私、またここに来てもいい?」 「勿論よ。変な子ね、遠慮する必要なんてないのよ」 咲に嫌われるのは嫌だった。 だからそう言ってもらえて嬉しく思う。 二人はその後、以前と同じようにの買い物を済ませ、お昼でも食べようと店を探していた。 「あ!・・・姉さんこっち!」 「え?」 角を曲がろうとした所で、元親が歩いているのを見つけた。 は慌てて咲の手を引いて路地裏へと入り隠れた。 「ちゃん?」 「・・・・・・」 元親が去ったことで小さく息を吐く。 「今の、元親様よね?なに、いったい・・・」 元親から隠れたことに咲は不審がる。 「・・・・うん、あのね。私姉さんに聞いて欲しい話があって・・・・」 「その話は元親様に聞かれたくないわけだ。しょうがないわね」 逃げられちゃって可哀相な元親様。と咲は苦笑した。 場所を砂浜へと移動し、二人は並んで腰掛けた。 は恥かしさもあってか、たどたどしく咲に今までのことを正直に話す。 聞かされた咲にしてみれば、同情してしまう面はあったものの。 それでがどうしたいのかよくわからなかった。 「異性として見られていないってわけはないと思うわよ?」 「そ、そうかな?」 「だって、玉簪をくださるなんてそうじゃないの?普通男性にはやらないものだと思うし」 なんでくれたのかと言う事を考えれば、単に今まで頑張ってくれたな。というご褒美みたいなものだろう。 「ちゃんは元親様に一人の女性、特別な目で見てもらいたいわけだ」 そうなのかな?と思いながらも小さく頷いた。 自分が元親に家族的な思いとは別のものを感じてしまったのだから。 「でも・・・・アニキから見ればやっぱり私は・・・・妹分みたいなものかなと・・・・」 それでもいいと思っていた。 なのに、今はどうだろう。段々欲が深くなってきている。 「アニキは皆のアニキだからって思っていたのに」 周りもならばいいんじゃないの?というような目で見る。 寧ろ、応援してくれているような形で。 「でも、アニキが違うって言えばそれで終わりだし・・・・」 終わってしまったら、今まで楽しく過ごせていた場所も失ってしまうのではないか。 どうしても悪い方向へしか考えることができない。 「それに、もうすでにアニキには大事に思う人がいたら・・・・」 「いるのかしら?聞いたことないけど」 「ほら、色んな所に航海で行くし・・・・アニキなら咲姉さんみたいな綺麗なお姉さんがいそうだし」 綺麗なお姉さんと言われて、咲はふふっと笑ってしまうが、すぐさまそれは捨て置き、の頭を優しく撫でる。 確実に自分だけを見てもらえている。とは普通でも考えにくいだろう。 最初から両思いでした。なんてことは少ないわけだし。 「確かに、元親様なら方々にそういう人がいても可笑しくないけど・・・でもねぇ、あの元親様でしょう?」 咲の兄弟たちは元親の配下だ。 毛利軍急襲の際、とりあえず兄弟たちは無事であった。 「あまりそういう話は聞いたことないけど」 どちらかと言えば、野郎同士で騒ぐような人だ。 「これはもう。ちゃんが元親様に気持ちを正直に伝えるしかないんじゃないの?」 「え!!?き、気持ちって」 「言わないと伝わるものも伝わらないわよ!」 「ね、姉さん〜」 「逃げ場は作ってあげる」 「え?」 咲は仕方ないと苦笑する。 本当はそう言うのは良くないとわかってはいるのだが。 もし、が元親に振られてしまうようなことになれば、彼女はあの根城で以前と同じようには住めないだろう。 「だから。もし、もしね。どうしても居辛くなったら私の所にいらっしゃい」 「咲姉さん・・・」 の双眸が揺らぎ、目に涙を溜めてしまう。 自分も元親に負けに劣らずに甘いと思う咲だった。 *** 咲に相談してから数日が過ぎた。 そろそろ元親が次の航海に出ようかと計画を立て始めていた。 「アニキ。今度はどの辺を回りますか?」 「そうだなぁ・・・・毛利の動きも気になるからあまり遠くには行けねぇか」 「九州の方では最近南蛮人の宗教集団が活発になっているらしいですぜ」 「南蛮人か・・・カラクリの技術は興味あるんだがな」 などと楽しげに話している元親。 毛利が気になるとはいえ、彼が狙ってくるのは自分の首だろうから、不在である場合ここが襲撃される事は ないとは思っている。 ただ。 気まぐれだといってを連れて行ったことだけが気になると言えば気になる。 「アニキ?」 急に黙りこくった元親に声をかける。 「いや、なんでもねぇ」 元親はいつもみたいに呵呵と笑った。 「もう少し近辺の状況を調べてから練るとするか」 「はい。じゃあ俺らで調べておきますんで、後でアニキに報告しますよ」 「おう。頼んだぜ」 とりあえず自分の室でのんびりするかと元親は室に戻った。 航海へ出れば、今回は近場とはいえ、またが寂しい思いをするだろうなと思った。 この根城にいる大半が元親と一緒に海へ出てしまうのだ。 残るのは数人。 一応にしてみれば気兼ねしなくてもいい、いつもの仲間だろうが。 だが寂しいと思っても一緒に航海に連れて行く事はできない。 船の上での戦闘などにを巻き込むわけにはいかないだろう。 しばらくは寂しい思いをさせてしまうが、沢山の土産と冒険話を聞かせてあげよう。 「・・・あの、アニキ。いる?」 控えめに自分を呼ぶ声。 「おう。いるぜ。どうした、」 声の主はすぐにわかる。 この根城では女は一人しかいない。 野郎どもとは違う高めの声音。 「うん。ちょっと話があって・・・・時間大丈夫?」 すっと襖が開けられる。 おずおずと顔を覘かせるに大丈夫だと元親は答える。 「どうした?話ってなんだ」 「うん。あのね・・・・」 は室に入ってきて、元親の前でちょこんと正座をする。 「あのね・・・・・あの・・・・・」 「?」 いつも以上に歯切れの悪い。まどろっこしいのは、はっきりしないのは元親が良しとしないことだ。 思わずなんだ?と眉間に皺を寄せてしまう。 はそれに気づいて、慌ててと言うより、急かされたかのように喋りだした。 「あのね!ア、アニ、アニキ。私が。ここからいなくなっても、平気だよね!」 「あー?なんだ、そりゃ」 「あ、えと・・・・ど、どうせ。そのうちそうなるだろうけど・・・」 「そのうちって、お前」 「私ね、このまま黙ってここにいるの・・無理だと思うから」 益々意味がわからない。 何の話だ? 「お前の口ぶりじゃ、ここを出て行こうって聞こえるぜ?あ?」 「・・・・・うん」 は頷いた。 19/12/31再UP |