今日はずっと一緒にいよう、明日はもっと一緒にいよう




ドリーム小説
ー!アニキが帰ってきたぞ!」

西海の鬼と称される長曾我部元親。
瀬戸内を中心に活動する海賊だ。
海賊と言っても全てを荒らしまわるわけでもなく、近海の漁村や一般の漁船を襲わずに
悪名として知られる商人や領主、村を襲うような海賊を相手にしている一軍だった。

「わかった。忙しくなるね!はりきって仕度しようか」

「おうよ!」

長曾我部軍の根城としているとある場所。
荒くれ者の海の男たちに交じって少女が一人忙しくなく働いていた。
少女の名は
ほとんどが男ばかりの長曾我部軍の中では負けじと日々ここで生活している。

「一ヶ月ぶりだもんね、アニキが帰ってくるの」

「きっとのメシを楽しみに待っているかもしれねえな」

「だったら嬉しいな」

は破顔させる。
純粋に元親が帰ってきたのが嬉しかった。
は元親に拾われた。
どういうわけか覚えていないが、長曾我部軍の根城である海に流れ着いた。
打ち上げられたと言ってもいいくらいだ。
行くあてもない、右も左もわからない。周りは怖そうな男たちばかり。
どうして良いかわからなかっただったが、元親はに住む場所と働く場所を与えてくれた。
そして、家族。

「俺のことはアニキとでも呼んでくれや」

長曾我部軍のほとんどが元親のことを親しみと尊敬をこめて「アニキ」と呼ぶ。
最初はそのノリについて行けなかったが、郷に入りては郷に従え。
恩を仇で返すような真似はしたくなかったから、アニキと呼ぶようになった。
元親は手下たちを自分の家族のように接する。だから彼らもアニキと慕うのだろう。
それに自身もなんだかんだと言いながらもそのノリが好きだったのかもしれない。

「どうせ宴会になるから、量だけは多くね。お酒入っちゃえば作法なんて関係ないし」

「作法もなにもあるかよ、俺たちに」

「ま。そうだよね。こっちはその方がやりやすいけどね」

の仕事は男所帯での食事の支度。
他にもできるかぎりのことはするが、元親から与えられたのはそれだ。
ただ、当然一人で何百もいる長曾我部軍の食事の支度などできないから
他の仲間たちと一緒にやっている。

「でもさ。これで当分アニキはここにいるよね」

「だな。一回航海に出て戻ってきたら長い休みをとるし」

「ちゃんと休んでくれるといいんだけどなー」

「そりゃアニキに言っても無理だな。あの人がじっとしているわけねえし」

「だよねー」

アハハと声に出して笑ってしまう。

「楽しそうじゃねーか。なんか面白いことでもあったのか?」

「「「アニキ!」」」

話題の人がやってきたので驚くものの、皆の目は嬉しさで輝いている。
元親は「おう!」と手を振り上げる。

「お、お帰りなさい。アニキ」

「おうよ。帰ったぜ。だから今夜はの美味い飯食わせてくれよな」

「はい!」

アニキに話しかけられた。それだけではさっき以上の嬉しさが湧いてくる。
元親に拾われたとはいえ、そうそう会う機会はない。
ここには何百もの人がいる。どちらかといえばその男たちに囲まれている事のほうが多いのだ。
それに忙しい。今も少しだけ声をかけられたが元親はすぐに別の場所に行ってしまう。

「よーし、頑張るぞー!」

元気よくは腕を突き上げた。



*



海に囲まれているのだから、普段から潮風にさらされている。
最初はそれが嫌いだった。
べたつくし、建物などにその潮がついてしまうし。
だが、慣れたからなのか、それとも吹っ切ったのかはわからないが大きく深呼吸したときに
鼻につく潮の匂いに安堵してしまう。
たまに大きな町に買出しに行った帰りに、その潮の匂いが鼻を掠めると帰ってきた、という気持ちにさせる。
それと、航海中の元親と同じものを感じられるのではないか?
自惚れだと思ってしまうが、海にでることができないには少しでも元親を感じられるものが欲しかった。
一緒に航海できたらどんなに嬉しいか。
だが、答えは否。
航海とは言っても元親たちが海に出るのは荒らしまわっている海賊たちと戦っているから。
ただ戦うのではない、それを収入源にしているからということもある。
非力なに根城での同じ仕事を与えられるはずもない。
悪く言ってしまえば足手まといなのだ。
だからいつも留守番だ。

元親が帰還して三日。
元親だけではなく大勢の仲間も一緒だから、いつもより仕事が多い。
それでも嬉しいから頑張る。
大変だなんて口に出しても顔は喜んでいる。
ただ、忙しいあまり、自分が食事をするのをたまに忘れてしまう。
作っている量が半端じゃないから、その過程の匂いだけで満腹になってしまうのだ。
脳がそう思わせているだけのことかもしれないのだが。
食べる気が起きないので仕方ないだろう。

夕餉の準備までまだ時間があった。
だから一人でのんびり外にいた。
潮風に吹かれながらゴツゴツした岩場を歩く。

「はー・・・・体がパキパキする」

立ち止まって大きく伸びをした。
運動不足なのかなと考えながら軽く首や腕を回す。

「おう。ここにいたのか、

「ア、アニキ!?」

声をかけられ振り返れば元親がいる。
流石に得物である碇槍は持っていなかった。だが、なぜここに元親が?と変に勘ぐってしまう。
なにやら自分を探していたような口ぶりだったし、だが呼ばれるようなことはしていないはずだ。

「ど、どうしたの?な、なに?」

元親は小さく笑う。

「なんだ、俺がお前に用があっちゃ可笑しいか?」

「お、おかしいわけじゃないけど・・・・」

元親に声をかけられたのは嬉しい。嬉しいが緊張もする。

「なんだあ?言いたいことはちゃんと言えよ。まどろっこしいのは嫌いなんだ」

「な、なんでもない!」

「そうかい」

ポンポンとの頭に軽く触れて元親は歩き出す。
用件はなんだろうか?と思いながらもも元親の少し後ろをついて歩いた。
静かな時間。
聞こえるのは波の音とコツコツと歩く音だけ。
ふと元親が口を開く。

「毎日大変だな。大勢の野郎の飯の仕度で」

それを与えてしまったのは俺だけどと呟いた。

「そ、そんなことないよ。私に出来ることって限られているし・・・・嫌いじゃないから」

一人で準備しているわけではない。ちゃんと当番制を儲けて仲間たちに手伝ってもらっている。
食べた仲間たちが美味しいって言ってくれるから。

「そうか?そういってくれるのは嬉しいぜ。だがよ、・・・・」

立ち止まって振り返る元親。
いつも手下たちに笑いかける顔ではない。
目を細めて少しだけ唇を結んでいる。

「アニキ?」

自分は何か悪いことでもしたのだろうか?
不安に駆られる。
他の誰に嫌われてもいいが、元親には嫌われたくない。

「お前・・・ちゃんと飯食ってるか?」

元親の口から発せられた言葉に一瞬呆けてしまう。

「は?」

「だから。俺たちの飯をはりきって作るのはいいが、その分お前はちゃんと食っているのか?って聞いているんだ」

「あ・・・・・」

食べていません。
なぜ、そのことを元親は聞いてくるのだろうか?
そんなフラフラになるようなことにもなっていないし、誰かに空腹を訴えているわけでもない。
元々他の者たちより食べる時間がずれている。
丸々食べていないわけでもないし。

「どうなんだ?」

「た、食べているよ」

「三食きっちりか?」

「・・・・・」



強めの口調。
は上目で元親を見る。キュッと拳を握る。

「す、少しだけ」

「あん?少しだけってのはなんだ?」

「・・・・・食べているときと食べていないときがあるか・・・な?」

「・・・・・・・・馬鹿野郎が」

吐き捨てるように溜め息の元親。
その態度にはビクビクしてしまう。

「あの、アニキ?」

「あのなあ。お前が俺たちの為に一生懸命にやってくれるのはいいが、
そのお前が倒れでもしたら元も子もないんだぜ?ちゃんと飯は食え」

「お、お腹が空かないだけだよ」

「病気か?」

「別に悪い所はないよ。ただお腹が空かないだけで・・・作っているとお腹いっぱいになったような」



西海の鬼と呼ばれる人に睨まれると縮こまってしまう。

「ご、ごめんなさい!ちゃんと食べます」

フッと和らぐ元親の表情。

「ならばいい。ちゃんと食えよ」

は細っこいからな。などと言いながら元親はまた歩き出した。

「細くないよー、だって腕とか太いし・・・たぷたぷしてるもん」

自分の右腕を掴みながら面白くなさそうにも歩き出す。

「なんだあ?お前のその腕のどこが太いってんだよ。可愛いもんじゃねえか」

「アニキにはわからないですよー」

「お前・・・・だからわざと食わないってんじゃねえだろうな」

「ち、違うよ!」

「だったらいいけどよ」

「あ、あのさ。アニキ」

「ん?」

「どこ行くの?ってか他に用は?」

が食べないことを心配してくれたようだが、それはもう済んだ。
でも根城には戻らずにどこかに向かって歩き続ける元親。
不思議に思っては訊ねるか、元親は眉間に皺を寄せる。

「別にどこって決めてねえよ。俺にさっさと帰れってか?」

「そ、そうじゃないよ」

ただ・・・。思うことがある。
それとも、自分がついていくことは意味がないのかもしれない。
元親が好きにフラフラしているだけで。
だったら一緒にいなくてもいいのかな。などと思いは歩くのをやめた。
立ち止まって海に反射する太陽が眩しく感じられる。
今日もまだまだ暑くなるだろうと。

!何突っ立ってんだ!置いていくぞ!」

「え・・・・私も一緒でいいんだ・・・・」

「何してやがる!」

「う、うん!」

早く来いと急かす元親には足場が悪い場所でも思わず駆け出していた。
だがそれが間違いだった。
ゴツゴツした岩場に足を取られて転んでしまった。

!」

「うーいたたた・・・・」

思いっきり足を挫いたような気がした。
元親が慌てて戻ってくる。

「大丈夫か?」

「あ、うん。我ながらドジだよね・・・・はは」

「んなことはいいんだよ。怪我してねえか?」

「大丈夫、だよ」

だが、立ち上がろうとした時、右足に痛みを感じ顔を歪めてしまう。

「怪我してんじゃねえか、どれ、見せてみろ」

ストンと有無を言わさずその場に座らされた
ここか?と痛む箇所を探す元親。
だがに答えを聞かずとも、すぐさま触れたときのの顔を見てその場所はすぐにわかった。
やはりというか、捻挫をしたらしい。
元親は持っていた手拭で挫いた箇所を固定する。

「こりゃ戻ってちゃんと手当てした方がいいな」

「う、うん」

「ほら、俺に負ぶさりな」

元親はの前にしゃがみ背中に乗るよう指示する。
だがはすぐにそうしようとはせずに戸惑っている。

「なんだ?」

「あ。えっと・・・・いいよ、歩いて帰れるよ」

「何言ってやがる。その足じゃ無理だぜ。それに足場も悪い余計に悪くする。遠慮なんてするな」

「え・・・・う、うん」

「なんだあ?俺に負ぶさるのが嫌だってのか?」

少し凄みを利かせていう元親。は違うと首を横に振り素直に元親に背負われた。
最初から素直にそうすればいいのだと元親は笑った。

「遠慮なんかするなよ。俺たちは家族だぜ?」

「遠慮っていうか・・・・だって」

「だってなんだよ。そういや、さっきも俺と一緒にいるのが嫌みてえな感じだったな」

少し距離を取られたことなど。

「ち、違うよ!アニキと一緒にいるのが嫌なんてことないよ!」

「だったらなんだ?」

まどろっこしいのは嫌いだと元親はよく言う。
だからは今度ははっきりと言葉にした。

「だって、アニキは皆のアニキだから!・・・・だから、ずるいとか思われたくないもん」

背負われているから自分が今どんな顔をしているのか見られないだろう。
だが自身はわかる。きっと酷く赤い顔をしているに違いないと。

「なんだ、そりゃ」

「なんだじゃないもん!アニキを独り占めなんて皆に悪い」

確かに多くの者が元親を慕うが、をそんな目で見ないとは思うが。

「そんなことあいつらが思うかよ。小さい男じゃねえぞ」

それに、怪我をした子を放っておく方が問題はあると思うだが。

「一度航海に出るとお前のことかまってやれねえからな。たまにはいいじゃねえか」

「アニキ・・・・・」

「今日だってはどうしているのか気になったからな。
他の野郎といちゃいちゃでもしていたらと思うと妙に腹立たしいと思った」

「いちゃいちゃなんかしていないよー」

「ならいい」

フッと口許を緩める元親。

「アニキは力あるよね。軽々と私のこと背負っているし」

なんとなく話を変えたくなった。恥かしさからかもしれない。

「あ?軽いじゃねえか」

「軽くないよ!私重いんだよ!・・・・・でもそうだよね、アニキはあのでかくて大きい碇槍振っているんだもん」

「あれと比べるのもどうかと思うが。を背負うなんてなんてことねえよ」

「ありがとう、アニキ」

「なんだい、急にどうした?」

「ちゃんとお礼言っていなかったから」

自分が知らぬところで、元親は見ていてくれたみたいだったから。
色んなことを沢山含めて礼が言いたくなった。

「あーその、なんだ・・・・怪我が治るまで仕事しなくていいからな。食事の仕度は他のやつらにやらせる」

「大丈夫だって」

「いいや、ダメだ。その分治るまで厭きないように俺が相手してやっから」

「ア、アニキは忙しいでしょ」

「すぐに航海にでるわけじゃねえから平気だ。とにかく決まりだ。よっと!」

元親は突然走りだした。
足場が悪いところでもピョンピョン跳ねていく。
しっかり掴まっていろなんて言われるからは元親の首にかじりつく。

「明日も、明後日もずっとお前の相手してやっから」

だから覚悟しておけ。
丘の上にいる間は一緒にいたいと思うのだから。

「まずは挫いた足を診せねえとな。きっと今日明日は一人じゃ歩けねえぞ」

「ア、アニキが一緒にいてくれるんでしょ?」

「おうよ。だから安心しな。ま、別に怪我なんかしていなくても一緒にいてやるさ」

そんなことを言われると自惚れてしまうではないか。
元親は今どんな顔をしているのだろうか?
少し気になるが、そうなると自分の顔を見られるわけだから止めておこう。
きっとさっき以上に顔は赤く染まってにやけてしまっているのだから。








19/12/31再UP