曖昧模糊



ドリーム小説

「長篠で重症!?そ、それで…」

「今は武田の好意に甘え、そちらで療養を」

突然の知らせで驚く
は現在、奥州をまとめ上げている独眼竜、伊達政宗の下に身を寄せていた。
信じられない話だが、ある日戦国の世に来てしまい、偶然政宗に出会い拾われ世話になっている。
世話になっているものの、政宗にはつい憎まれ口を叩き、意地を張るようなことをしてしまっている。
その政宗が負傷したとの知らせが城に届いた。
政宗は乱世で第六天魔王を名乗り、各国制圧に乗り出した織田信長を倒す為に。
信長の居る尾張を目指していた。
武田や上杉からの同盟の申し入れがあったが、それらを蹴って伊達軍のみで攻めに上がった。
同盟は蹴りはしたものの、それは武田上杉両軍の予想範囲内のようで、逆に伊達を信長包囲網の先陣を切らせるような形になっているらしい。
だが、負傷とは…。

(なんか嫌だなぁ…政宗が負ける姿とか想像できない…)

人の上に立つ姿が当たり前で、その背中に皆が着いて行く。
負傷し、床に就くなど想像できない。
純粋に心配する。
けど、自分では何もできない。
その武田の館に行ったところで、追い返されるのが関の山だ。
だから、ここで政宗の帰還を待つしかないのだ…。

それから数日、不安などから眠れない日が続いた。
だが政宗は帰って来ない。
それどころか。

「…本能寺に向かった、んですか…へぇ…」

脇腹を銃弾が貫通したとか、掠めたとか普通なら馬に乗って出かけられるようなものではないと思うのだが。
政宗は織田信長を討つために本能寺に向かったと知らせが届いた。

さらに数日後に知らせが届く。
その信長を反織田連合とも取れる、各地の武将とともに倒したそうだ。

そしてようやく政宗が帰還したのだが。
信長を討つことは容易ではなかったようで、負傷した脇腹の傷も開くことになったし、右手もその戦いで負傷し満身創痍とも思えるほどだった。

「しばらくは、国の回復に力を入れるしかねぇか」

「左様で」

国の回復もそうだが、それ以前に政宗にはゆっくり療養してほしいと、私室に押し込められていた。
ただ、ゆっくり。などと政宗の性格からは考えられないだろうし、そのうち寝飽きると動き出すに違いないと、常に小十郎がそばに居ることになった。





「あれ?お嬢どうした?」

「なんか不機嫌っすねー」

廊下を歩くに政宗配下の良直、左馬助、孫兵衛、文七郎が呼び止めた。

「こっち来て握り飯でも食わないか?」

「嫌なことがあったならば、俺らでよければ話聞くっすよー」

ちょいちょいとに手招きする面々。
としては放っておいてほしい気持ちもあったが、彼らの好意に甘えることにした。

「私、不機嫌な顔してました?」

「してたしてた。頬が餅みてぇに膨らんで」

簡単に感情が顔に出てしまう幼稚な自分に呆れる。

「んで。どうした?」

呼び止める際にも出ていた握り飯を差し出された。
その一つを取って、一口食べる。

「どうしたってほどでもない…と思うんですけど」

この所抱えているものだ。

「私。何しているのかなぁって思って」

「お嬢が?何を?」

「えと…なんかすごく苛々するんです…政宗に対して…」

彼らの敬愛している筆頭に対して失礼というか、彼らを怒らせるような真似をしたらと思うと正直話すべきでなかったかとも思う。
だが彼らは怒ることなく居てくれた。

「筆頭に?なんで?」

「………」

「筆頭が、お嬢に何かしたのか?いや、しねぇだろ」

「えと、伝え方がおかしいのかも。その、後から話を聞かされるだけって結構精神的に悪いような…」

今回の事は特に…。
戦に出る。それは政宗が天下統一を目指しているから。
奥州の平定もその為に成したものだ。
織田信長を討つのも、その一歩に過ぎない。
日の本のほとんどを制圧した信長を倒したことによって、今再び乱世と呼ばれ始めていた。
これからもその戦が増えるだろうと思う。
思うのだが…。

「まぁ…お嬢が戦に出ることはねぇしな」

「そうですけど…体ボロボロにして帰ってきて、でもなんでもない顔をして。私、これでも心配したのに…政宗の反応が何というか…」

一人、ここで皆の帰りを待っている間、すごく不安で心細いと思ったのに。
お前が気にすることではない。と言われているような。

「そ、そりゃあ。筆頭がお嬢に心配かけまいと。元気な姿を見せた方がいいに決まっているし」

「そうそう。簡単に弱音を吐く人じゃねぇよ」

「私に弱音を吐くような人じゃないのはわかっています」

別にそんな間柄ではない。

「あ。そうじゃなくて…えーと。なんて言えばいいんだこりゃ」

良直達が困惑している。

「と、とにかく。なんか精神的に悪いんです」

はもう一口握り飯にかぶりついた。

「お嬢…」

「心配するだけ、なんか無駄っていうか、損をしたって言うか…」

「お嬢。そう筆頭に言えばいいじゃないか」

「は?」

「筆頭の事を心配していた。って言えば筆頭喜ぶっすよ」

「べ、別に私は」

は赤面する。

「散々口にしておいて、今更心配していませんっての可笑しいぞ?」

良直達に笑われる。

「私に言われたところで、別に…」

はツンと顔を逸らし、握り飯を食べている。

「まぁ、お嬢が筆頭に対し素直じゃないのは今に始まったことじゃないし」

「じゃあまぁ…お嬢は結局どうして欲しいんだ?筆頭に」

「………どうしてって…」

そう考えると、どうして欲しいのだろうか?
無茶をするななどとは言えない気がする。
自ら単身で敵陣に突っ込むような男だ、政宗は。
自分が言わずとも、小十郎が口を酸っぱくして言うだろうし。
無茶させないように、常に小十郎がその背中を守るだろうし。
戦において、口を挟むようなことはできないし…。

「簡単でも、いいから…一言…何か、言って欲しいのかも…」

目線を落とす

「重症だって聞いたけど、そのまま平気でまた戦に行っちゃうから…。
私は、結果しか聞けないから…待っている間、嫌な事ばかり考えちゃうし。
考えすぎて、苛々して、不安になって、その繰り返しで、でも…」

は一度唇を噛んだ。

「なんだ。ってぐらいあっさりなんでもない顔をして帰ってきて…。
なんか…その辺の事、聞いちゃいけないみたいな感じで…」

自分の中に湧き出た消化不良な思いをどうしてくれるのだと、ぶつける相手がいなくて苛立つのかもしれない。

「お嬢…」

「お嬢はなんだかんだで、筆頭の事を好いているんだなぁ」

その一言は余計だった。

「はぁ!?んなわけないです!変な事言わないでください!!」

は立ち上がる。

「別にいいです。最初から私には関係ないことだし、余計なお世話って話だろうから!」

「わ、わかった!わかったから、怒らないでくれよ、お嬢」

「ほ、ほらほら。まだまだ握り飯はあるぞー。食おう、お嬢!たんと食おう!」

良直達はを宥める。
は小さく息を吐き、再びその場に腰を下ろした。

「お前が余計な事を言うからだろ?」

「わ、悪かったって。つーか、難しいなぁ女の子って…」

の話を聞く分には、どう考えても政宗を心配している風にしか聞こえないのに。
黙々と握り飯を食べているに、良直達はため息を吐いた。
だが、はぼそり呟く。

「………心配はしたんです。重症だって聞いたから…」

「「「「…………」」」」

が赤面しつつ、少し目元が光って見えるのは気のせいだろうか?
良直達は顔を見合わせ、小さく笑う。
けど、余計なことは言うまいと自分たちも握り飯を食べた。





二度あることは三度ある。とでも言うのだろうか?
政宗の傷も癒え、奥州でも不安材料がない為か。
政宗は再び天下取りの為に動き出した。
手始めに武田と上杉が川中島で戦を開始すると言うので、そこを攻めに行った。
武田には政宗の好敵手真田幸村が居る。
対織田の時は共闘したのだが、いつか勝負をつけると誓いを交わしていたから。

そして川中島で対戦するも、そこにさらに乱入する軍が出てきた。
豊臣秀吉率いる軍だ。

用意周到に策が練られ実行されていたようで。
伊達軍の中に密かに間者が入り込んでいたらしい。
後手に回る結果が続き、奥州に戻ってからも油断できない状態だった。

その間者を泳がすつもりが、小十郎は逆に豊臣軍軍師竹中半兵衛により捕まってしまう。

小十郎を欠くだけでも、伊達軍には痛手なのに。
平定したはずの奥州各地の豪族が急に政宗に反旗を翻した。
裏で豊臣が引いているらしいことはわかったが、政宗は兵を引きつれ出陣した。

「負けた?嘘でしょ…」

届いた知らせに愕然とする。
豪族たちを退けはしたものの、現れた豊臣秀吉によって政宗は負けたと。
政宗も負傷し、今まだ目が覚めない状態だと言う。
今は豊臣や敵国に政宗を狙われないように、居場所を隠して政宗が目覚めるのを待っていると言う。

「また、何もできないんだ。私…」

小十郎が居てくれれば、政宗が負けることもなかったのだろうか?
結果論でしか考えられないけど。
以前と同じ状態の自分に、また悔しく感じた。
今は政宗が目覚める事だけを祈り、早く帰還してくれればと…。

だが、の願いは空しく。

「…大阪に向かった、へぇ…」

は唇を噛みしめる。
政宗は目覚め、明け方帰還したと。
だが、そのまますぐに大阪、豊臣を倒すために出立してしまったのだと。

「本当に、あの時と同じ。繰り返しだ…」

帰還したことに気付かなかった自分が悪いのか。

「何か一言ぐらい言えっての…」

伝える価値もない存在なのだろうか?

「もういいもん…勝手にすれば…」

胸がチクチク痛む。
なんで、こんなに政宗の事ばかり考えて。
一人で苛々、ハラハラしているのだろうか?

「お嬢はなんだかんだで、筆頭の事を好いているんだなぁ」

良直の言葉が思い出される。

「そんなんじゃないもん…」

はかぶりを振る。
自分はただの居候だ。
政宗配下の者たちは「お嬢」と呼んで慕ってくれるものの。
政宗とはくだらない意地のようなものを見せてしまう。

だけど、なんだろう。
この苛々とモヤモヤしたようなものは…。

「なんだろう、私って…」

政宗から見て。





政宗達が帰還した。
捕らわれていた小十郎も無事で、一緒に帰ってきた。
館内は喜びに溢れ賑わいを見せている。
だが、は一人その賑わいから距離を置いていた。

静かな部屋で膝を抱えて、ぼーっと庭を眺めている。

「なに、してんだろ…私」

いじけているのだろうか?
拗ねているのだろうか?
素直に政宗達の帰還を喜べばいいのに。
無事に帰ってきたことを知って、安堵した自分がいるのに。

今までの事があるから、素直に顔を見せるのが嫌なのかもしれない。

「なんだ。ここに居たのか」

「………」

政宗がやって来た。
その口ぶりではを捜していたようだ。
だがの視線は庭に向いたままだ。
政宗はの態度に気にした様子もなく、その隣にどっかり胡坐を掻いた。

「向こうで騒いじゃいるが、お前は混ざる気ねぇのか?」

「…おかまいなく…」

「It is an embarrassing person 俺に言いたいことがあるならはっきり言えよ」

はチラリと政宗を見る。
無事に戻ったとはいえ、負った傷がそう簡単に治るわけもなく。
体に巻かれた包帯が目に入る。

「言いたいことかぁ…」

「聞いてやるから、言え」

なんでそんなに上から目線なのだろうか?
少し呆れる。
だけど、今言いたいのは。

「この館から出てもいい?」

「あ?」

「今まで世話になっておいて、恩を仇で返すみたいな感じだろうけど。どっか別の場所で暮らしたい」

「I do not understand a meaning お前。何言ってんだ…」

いきなりすぎるとは自身も思っている。
だけど、嫌なのだ、もう…。

「ここに居ると、苛々するし、胸がチクチク痛むし、なんか精神的によくないから」

「だから、言いたいことがあるなら言え」

「………今、言った。もう政宗の顔の見えないところか、噂も入らないような場所で暮らしたい」

「俺の顔を見て言ってみろ」

体ごと政宗に背を向けてしまう。
今、自分がどんな顔をしているのかわからない。
わからないから、政宗に顔を見せるのが嫌で。
でも、さっきからずっと胸のあたりがチクチク、シクシクする。
は膝に顔を埋めてしまう。
隣からため息が聞こえた。

「あぁそうかい。じゃあ好きにしな」

「っ…」

遠ざかる足音。
政宗は自分の態度に嫌気がさしたのだろう。

「だって…だって…」

鼻の奥がツーンとし、じわりと涙で滲んでくる。

「お嬢!」

「どうしたんだい?」

ドタドタと慌ただしい足音がいくつか聞こえる。
声からして良直達だとわかる。
彼らはを囲んでいるようだ。

「筆頭が…なんか不機嫌な様子でさぁ。俺らとすれ違うものだから…」

「こんな痛い想いするなら、もう、そばに居るのやだ」

「お嬢。それって、前に言ってたことか?」

は答えない。
答えない代わりに、政宗に向かって言えなかったことを吐き出した。

「私だけ、何も知らされることなく、一人で待っているの、もう嫌。
後で結果を知るだけで、その間、あれこれ考えて…なのに、政宗はなんでもない顔をして帰って来るし。
帰ってきても、何も言わないし、苛々とかちくちくとか、それまで湧き出たもの、どうすればいいのかわからないし」

政宗は言ってみろとは言ったものの、政宗を前にするとそう簡単に吐き出すのが悔しくて。
意地を張ってしまう。
張った結果が、今の状態になってしまったのだが。

「だったら、もう、政宗の事なんか考えないでいたいもの。私だけバカみたい」

政宗に対して、いや、彼にだけ。
こうした意地を張って、本音を隠して、逃げるよう真似をして。
どうしてそこまで?と言えば、多分、きっと。

「A beginning say ま、それだけ惚れられていたってことか」

呆れたような声が頭上から聞こえた。
思わず顔をあげると、良直達だけでなく、去ったはずの政宗が拱手しそこに居た。

「な、なん、で…」

「お前の性格だ。俺がいなくなれば本音で話すだろうと思ったから」

「すまねぇ、お嬢」

良直達は話を引き出させる為にあえて呼んでおいたようだ。
の顔はみるみるうちに赤くなっていく。
今の今まで吐き出したことをすべて政宗に聞かれていたのだから。

「常日頃から、俺の事を考えていたんだな、可愛いことをしてくれるじゃねぇか」

ニッと口角を上げて笑う政宗。

「ち、ちがっ」

「今の話を聞いて否定しても真実味ないぜ?ま、心配かけまくったのは悪かった」

政宗はの前にしゃがむ。
良直達は邪魔をしちゃ悪いと静かに退散する。

「し、心配なんか…」

「俺としては情けねぇ姿を、に見せたくねぇんだ。戦の話も聞いたところで楽しくねぇだろ?」

「………」

「気遣ったつもりが、格好つけたつもりが、かえってお前を不安にさせたんだな。sorry」

わしわしと幼子みたいに頭を強く撫でられた。

「私はっ!……」

違うと言おうとしたが、寸前でそれを呑みこんだ。

「あんたの、その姿を見て、安心するけど…怪我をしたって話、後で聞かされるのすごく嫌。
なのに、そのまま次の戦に向かっちゃうし…私に話してもしょうがないと思うかもしれないけど…」

思わず政宗の着物をギュッと掴んでしまう。

「無茶するなとは言わないけど、無茶しないで!」

「…言っていることおかしくねぇのか?」

政宗はくくっと喉の奥で笑う。

「うっさい!重症なくせに、こっちの気も知らないでほいほい戦に行くようなバカに言われたくない」

自身。
何をどういっていいのか、困惑してしまって。

「バカだけど…バカだけど…気にしちゃうくらい…政宗が…好き、みたいだから…」

だから、ずっと一人で悶々としていたのだ。
素直になれないのも。
一つ一つの事に感情が揺れ動くのも。

全部。

政宗の事が好きだから。

「だったら、俺のそばから離れるなんて言うな…お前がそばにいねぇと。俺は誰に俺の天下を見せればいいんだ」

体を引き寄せられた。
政宗の胸に頭を押し付けられた。

「そ、それは…民とか…小十郎さん達とか…」

「そこは素直に頷いておけ。お前もそこに含まれてはいるんだ」

の為に天下を取るわけではない。
だけど、にも見てもらいたい、感じてもらいたい伊達の天下だ。

「…うん」

「さっきの話。ナシでいいよな?俺のそばに居てくれるよな?」

「うん…」

この所ずっと感じていた苛々にモヤモヤ、チクチクもスッと消えていく。
現金なものだと自分に呆れる。
呆れるけど、もっと早くにちゃんと素直になればよかったと思えた。









19/12/31再UP