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道。
縁側でぼんやりしていたら、政宗がやって来て。 「暇ならでかけるか」 と。 まぁ別に嫌ってこともなかったし、城下に赴くのもいいなぁと思っていたので頷いた。 美味しいもの食べて、何か珍しいものでも見つけられたいいなぁと思って。 気に入ったものでもあれば尚のことだと。 なのに。 「ね。どこに向かっているわけ?」 徒歩で向かうも、町中ではなく、山の中。 は知らずに政宗の後をついていくだけなのだが。 山道をえっちらおっちら歩くだけ。 「さぁな」 「さぁなって!」 政宗は後頭部で腕を組んで歩いている。 「どこでもいいだろ、そのうちどっかに着く」 「はぁ!?」 「たまにはこんな日があってもいいだろ」 政宗自身、目的なく歩いているらしい。 立夏は途中で帰るわけにも行かずに政宗の後を着いていくしかない。 他の道を知らないし、今、どこを歩いているのかもわからないのだ。 普段出かけるときも、小十郎や、成実。喜多や若武者たちなど誰かと一緒で。 行くにも町が多いから、こんな誰が通るかもわからない山道の中など知らないのだ。 「ねぇ」 「あ?」 少し前を歩く政宗に話しかける。 「何かあったの?」 「いや、別に。なんもねーよ」 「そう?」 少しだけ心配になった。 何も目的もなく歩く、散歩しているだけの政宗に。 いつもは奥州を纏め上げ、天下統一の為に忙しなく動いている。 それを放っての今だから。 でも悲観しているようでも、悲壮そうな面をしているわけではない。 まぁそんな面を自分に見せるような男ではないが。 政宗の気が晴れるならばいいだろうと考えることにした。 「でも、疲れた〜ここ、どこー」 歩いても山の中。 民家があるわけでも、茶屋があるわけでもない。 は歩き疲れたと政宗に文句を言い始める。 「どこって言われても、どこかなんて俺も知らねぇな」 「それ可笑しくない?」 「何が」 「だってこの辺は政宗の治めているところだろ?主が知らないッて」 「そう言われても知らねぇものは知らねぇ。細けぇ道は下の者の方が詳しいからな」 そもそも政宗も一人でふらふら出歩く事はないから。 「ねー。小十郎さん達心配しているんじゃないの?」 「そんなガキじゃねぇぞ」 「子どもとか大人とかじゃなくて。主が中々帰ってこなければ心配するだろうって話」 「・・・・・」 恐らくすでに騒ぎになっていそうな時間ではある。 「はっ!まさか、これって計画的なもの!!?何か見た!私捨てられに行く途中!!?」 「なんだ、その展開」 「生活に困って山の中におばあさんを捨てる息子って、昔映画でやってた! それとも、ヘンゼルとグレーテルみたいな?どっちにしても政宗に捨てられる!!」 「阿呆」 「私、伊達家の財政を圧迫するほど食べていたかな・・・・散財するような真似はしていないけどな・・・・。 どっかに捨てられるくらいなら、今の内に逃げて、どこか身の安全を保証してくれる所に行かなくちゃ」 頬を両手を覆って至極真面目に考え始める。 「そのボケに対し、どこまでツッコめばいいんだ?俺は」 「ボケ扱い?酷くない?確かに政宗はツッコミ属性だけど、私はボケ属性じゃないと思う」 「最初から捨てる目的なら徒歩でなんか来るか」 「その方が油断するよ?」 「捨てられてぇのか、お前は」 「政宗が捨てたいって思うならしょうがないかなーとは思うけど。居候だし、厄介者とか」 政宗の顔が歪む。 半分怒ったような顔を見せ、の手を強く握った。 「政宗?」 「居候とか言うな。厄介者なんて誰も思ってねぇよ」 「・・・・・あ、えと・・・・・」 は目線を下げる。 軽く唇を噛んで、何をどう口にしようか迷う。 伊達家全ての人に丁重に迎えられているわけではない。 当主である政宗がいいと言うから、大半の者はを受け入れてくれる。 だけど、中にはの素性が知れないと警戒し、見張っているような者もいるのが事実。 素性が知れないは仕方ない。 はここよりずっと遠くの時代から飛ばされて来たのだから。 それを全てに説明するわけには行かず、政宗とそれに近しい者しか知らないのだ。 「は俺が選んだ女だ。誰がなんと言おうがどっしり構えてろ」 「・・・・・・ありがと」 最初は政宗の興味を引いただけの存在だったのかもしれない。 別時代の知らない知識を披露して、言っていること考えていることがこの時代の女性と違うから。 けど、という子を政宗は一人の人間として好意を向けてくれた。 最初は客人扱いだったのも、今では政宗の大事な人として見られている。 ただ、それ以上に話が進まないのは、やはりを快く思っていない存在が反対しているからかもしれない。 伊達家の将来を思って、迎えるならばそれなりに由緒ある家柄の者をと。 も、政宗の事を思えば、一歩踏み込むのが怖い。 この先がわからないから。 いつか、ふと、元の場所に帰るかもしれない。 そうなると、もう二度と政宗とは会わないかもしれない。 いつもはくだらない事を言いあう、友だちみたいな関係を楽しんでいるが。 そのさらに一歩を踏み出さないようにしている自分がどこかに存在しているのだ。 わかっている。 も、すでに政宗の存在を一人の異性として意識してしまっているから。 でも、隣に立つのが自分でいいものかと迷って、一歩後ろから、彼の背中を見ているだけで・・・・。 「他人の意見なんざ、どうでもいいんだよ。は俺についてくればいい。見捨てやしねぇよ」 だから、今も、この手を離すものかと、しっかり握られている。 「さっき話した映画は、まぁ親子仕方なくって言うか・・・結論は私もよく知らないんだけど」 「?」 「ヘンゼルとグレーテルは、二人で知恵を絞って、勇気を出してちゃんとお父さんの所に帰るんだよね。 それで親子で幸せに暮らすのかな?確か。私と政宗もそうなるといいね」 「ちょっと待て」 「ん?」 「その二人は兄弟か?」 「そうだよ。ヘンゼルがお兄ちゃんで、グレーテルが妹だよ」 政宗が嘆息する。 「その例え話は他にねぇのか?俺とは兄弟じゃねぇ。好きあった者同士だろうが」 「す、好き!?」 は頬を赤く染める。 「なんだ?その反応・・・・・今更だろうが」 「い、いやぁ、えと・・・・」 政宗は全面的に好意を向けてくれているものの、は比較的それを出さないようにしていたから。 捻くれた態度、可愛げのない態度をとってしまうことの方が多い。 だから、自分が政宗を意識していることなど知られていないと思っていた。 「ずっとお前を見ていた。だからわかる」 「えっ!?」 「お前の目を見てりゃあ・・・・お前が、が俺をどんな風に見てくれているのかわかるんだよ」 「・・・・・」 「目は口ほどにものを言う・・・・って言うくらいだ。あながち間違っていねぇな」 フッと目を細めて穏やかに笑う政宗。 「目は心の鏡。とも言うか」 「そ、それはどういう意味?」 「同じようなことさ。目はその人の心の中を映し出す鏡であり、目を見ればそいつの心の様子がわかるって例えだ」 「ふーん・・・・政宗はわかるんだ、私の心の様子」 「わかる」 胡散臭い。って思う部分もある。 わかるって言い切ると、ありえないだろうと思う。 ただ、政宗は人よりも何か見えるのかもしれない、わかるのかもしれない。 そう思える部分がある。 病により、片目を失い、悲観し絶望しつつも、這い上がった隻眼の武将。 唯一残った目だからこそ、何かが見えると。 (難しい事はわからないけど、嬉しいって思えちゃうな) 現に、が隠していた不安のようなものを政宗は気づいていたから。 だから、あえては吹っ切れたように明るい声を出す。 「早く行こう、政宗」 「ん?」 「お腹空いちゃった。沢山歩いたんだよ」 「そうだな・・・・そのうちどっかに出るだろうが」 「こんな所にお店?あるかなー・・・細い道ばかりだし、周りの景色も変わらないし」 「心配することもねぇさ。道は必ずどっかに繋がってるもんだ。遠回りしようがな」 「同じ台詞、10分後も言えているといいけどね」 同じ状況が続くものじゃないかとは思って。 だけど政宗は自信たっぷりに、それはない。と言い切った。 運がいいのか、どこまでも続きそうな山道を歩いていると、一軒の小さな民家を発見した。 お水だけでももらえないだろうかと、尋ねてみると。 住んでいた老夫婦が握り飯を用意してくれた。 黙っていても、政宗が誰かと言うのを気づいていたのか?と思ったが。 向こうが何も言って来ないし、政宗が警戒している様子もないので、素直に御馳走になった。 何より、この老夫婦は単純に親切でしてくれたことかもしれないから。 「道?あぁ、もう少し歩けば大きな通りにでるよ」 人里離れたという場所でもないようだ、ここらは。 少し休憩できた事で、老夫婦に礼をいい二人は再び歩き出した。 「あ。本当だ!大きな通り、開けた場所に出たよ!・・・・・って、あれ?」 教えられた大通りに出たのだが、なんだか見覚えのある場所だと思った。 「道は必ずどっかに繋がってるって言ったろ?」 「・・・・・そうみたいだね」 は苦笑する。 この道を辿っていけば、も知っている政宗の居城に着くのだから。 「一山越えた。ッて言っても、そんなに大きな山じゃなかったんだ」 「かもな。ガキでも駆け回るような山だからな。だからって油断すりゃ大事になるけどな」 「なんだ、政宗は最初から場所がわかってんじゃん」 「そうか?」 「そうだよー」 「わかっているつもりはねぇんだけどな。なんとなく・・・ってぐらいだな」 政宗もそう深く考えないで歩いていただけの話のようだ。 「目的なんざどうでもいいんだ。今日はと一緒に過ごす時間が欲しかった。ただそれだけだ」 「政宗・・・・」 聞いてて恥かしいと思うが、もう政宗に見透かされているかと思うと。 素直に喜んでもいいんじゃないのかと思う。 「なぁ、」 「なに?」 「道は繋がってたろ?だから、もしこの先・・・・俺達が離れ離れになっても・・・・絶対また繋がるさ」 は瞠目してしまう。 それはが抱えている、もうひとつの不安で。 いつか自分が政宗の前から消えるのではないかと言うこと。 それがあるから、自分の想いなど隠していたから。 そこまで政宗に気づかれていたというのか。 「それも・・・・私の目が言っていたこと?」 「あぁ。時折見せる物悲しそうな目がな・・・・・ただ、俺もたまにお前が消えちまうんじゃねぇかって不安だった」 「政宗・・・」 自分だけではなかった事に驚いた。 政宗はを想っていてくれる中で、湧き出た不安を感じていた。 けど、は・・・・。 「道。繋がってたもんね、大丈夫だよ、多分」 そう言って、自分から政宗の手を握った。 「そうか。お前がそう言うならそうなのだろうな」 「早く帰ろう。小十郎さん達心配してるよ」 「どうだかな」 知っている道を歩く。 辿り着く先に待っている人が居るはずだ。 「今日は政宗の気晴らしになったのかな?」 「あ?・・・別に、俺は」 「またどっか行こうね。適当にぶらぶらするのもいいよね」 「そうだな」 少し恥かしいけど、手でも繋いで行けたなら楽しいのかもしれない。 19/12/31再UP |