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独り占め
「なんだあの猫は・・・・」 イカれてやがると政宗はブツブツ文句を言っていた。 「もだ。俺よりもあんな猫がいいのか?」 ここ最近、愛しのあの子はどこからともなくやってきた黒猫にご執心だ。 政宗が戦で長いこと不在だった間にいつの間にか館に住み着いていたという野良猫。 悪さをしなければ別にどうってことない存在。 猫一匹で目くじら立てるほどでもない。 だが問題はその黒猫の名だ。 はその黒猫に「政宗」と自分と同じ名を与えていた。 なんで、猫なんかにと憤慨したくなるが、理由を聞けば。 「なんでって・・・この子が政宗に似ているなぁ・・・って」 「その・・・政宗が戦で居ない間、寂しかった時にこの子が居てくれたから毎日楽しかったし」 「この子見てると政宗を思い出すし・・・・」 とか言われてしまって、怒る気持ちがどこかに消え。 変わりに愛しさが芽生える。 可愛いことしてくれるなぁと。 普段意地を張って突っぱねるようなが、実は自分がいなくて寂しかったと言う始末。 「俺だと思って、可愛がっていたのか?こいつを」 「え!?そ、それはちょっと違うようなぁ・・・・」 そう言われると、悪い気はしない。 にもそんな一面があったのだなと思うと口角が緩む。 「そうか、そうか。そんなに俺がそばに居なくて寂しかったのか。猫に俺と同じ名をつけて・・・」 「そ、それは・・・・」 「中々可愛いことしてくれんじゃねぇか、」 「あ、あの・・・・・だからね」 幼子にやるみたいにの頭を撫でてしまった。 「O.K。これからは寂しくならねぇように毎晩可愛がってやるぜ」 「すんな!」 「遠慮す、ってえ!!」 毎晩と言わずに、会えなかった分今からでも。 そう思っていた矢先に、黒猫から顔を叩かれ、手の甲を爪で引っ掻かれた。 どうやら黒猫は政宗を敵と認識したらしい。 にべったりくっつき、政宗に対して威嚇をしてきた。 「まさに政宗様そっくりですね」 「成実!」 今日も今日とて黒猫の所為でとの時間を邪魔をされた政宗。 ブツブツ不満を漏らせば、そばに居た成実にそう言われてしまった。 「どこが俺に似ているって?」 「黒猫殿は殿を独り占めしたいのでしょう?そんな独占欲の強い所は政宗様そっくりですよ」 さらりと笑顔で言われた。 成実が言うには、の視線が誰か一人に注がれているのが、どんな理由であっても。 政宗は気に入らないだろうと。 先の戦に出る前、が小十郎に引っ付いて畑仕事に行くのを面白くなさそうにしていた。 それがいい例ではないかと。 「そ、それはだな・・・・」 「だから殿も黒猫殿に政宗様と同じ名をつけたのかもしれませんね」 「・・・・」 「あと。殿にそっぽ向かれると、政宗様はなんでもない振りをしてどこかに行ってしまいますし。 猫みたいですよね、その辺も。これが犬なら尻尾と耳が垂れて落ち込むでしょうし・・・あぁ」 ポンと成実は手を叩く。 「犬って言うと真田幸村殿を連想しますね。あの方はまさに犬ですね、犬」 「それはどうでもいいんだよ」 話がそれる。 「小動物の可愛さなどに勝てるはずもありませんから、ムキになるのだけはおよしくださいね」 大人気ない真似はするな。 成実にそう釘を刺されてしまった。 自分はそんなガキではないと言い返そうとしたが、成実曰く。 「殿限定で、大人気ない真似をするんですよ、あなたは」 と言われた。 自分をよく知っている家臣、いや、従兄弟だけに的を射ているようで反論できなかった。 *** 「・・・・・・」 昼下がり。 縁側で腰を下ろしたが居た。 だが、政宗は面白くないものを見た為に唇を尖らせてしまった。 「?政宗、どうかした?」 「どうもこうも・・・」 見下ろすの膝の上で丸くなって寝ている黒猫の姿が。 今にもそこからどかしてやりたい衝動に駆られるも、成実にキツク言われている。 大人気ない真似はするなと。 だからグッと堪えての隣に腰を下ろした。 「いい身分だな、こいつは」 「あー。これ?気持ち良さそうに寝ているよね〜本当可愛い」 そう言っては優しく黒猫の頭を撫でた。 「お前は・・・・」 「ん?」 政宗は腿に片肘を付く。 「そいつが居れば別にいいのか?」 「何が?」 「だから・・・・」 の顔を見れず、且つ目線が定まらない。 自分が口にした事が急に恥ずかしくなった。 大人気ない真似はするなと釘を刺されつつも、今の自分はその大人気ない事を言おうとしていたのでは? 「いや、猫・・・好きなのか?」 「んー・・・犬でも猫でも動物は好きだよ。でも、猫にこんなに懐かれたのは初めてかも」 「・・・・」 「・・・・」 なんとなく、無言になってしまう。 どの道の興味は黒猫に注がれているだろうから仕方ないとも思える。 以前は無言だろうが、縁側で何もせずに二人で過ごす時間に居心地の悪さなど感じる事はなかった。 けど、今はどうだ。 自分に注がれる事のないの視線、興味が薄れていることに面白くなくて。 一緒に居てもつまらない。 (ガキみてぇに拗ねてンのか、俺は・・・) 少し乱暴に頭を掻く。 仕方なしに政宗は立ち上がった。 「政宗?」 は政宗を見上げるも、政宗はそれに向けることなく背を向けその場を後にした。 それから数日、政宗は一人の時間を多く過ごした。 あー、これも大人気ない態度なのだろうなと政宗は自分でもわかっていた。 結局成実の言うとおりなんでもない振りをしつつ、のそばから離れた。 黒猫に彼女を盗られてしまったのが面白くなくて。 誰も入る事のない、自分だけの空間、書斎で政宗は横になった。 肘枕をしぼんやり過ごす。 (結局成実の言うとおりになっちまったな・・・) が黒猫に夢中なのが面白くなくて。 邪魔をするわけでもなく、なんでもない振りをしてその場を離れる。 猫みたいだと言われても仕方ない。 と言うより、猫ってそうなのか? 自由気ままで、遊ぼうと手を伸ばしても、気分次第。 興味がなければ近寄りもしない。 その反面、自分が構って欲しいと思えば相手の都合などお構いなしにじゃれてくる。 そういう奴だろ? 自分はそこまでではないと思うのだが・・・。 「政宗ー」 戸の前での声がした。 「・・・・・」 捜しているのは自分ではないなと思って無視を決め込む。 なんだ?と戸を開け姿を見せても 「あんたじゃないわよ。猫の方よ」 って言われるのがオチだ。 「おーい。政宗ー」 再び聞こえるの声。 猫だもんな。思いもよらないような所に隠れているのだろうか。 「いるんでしょ。返事ぐらいしなさいよ」 スッと戸が開く。 「?」 何?と政宗は体を起こした。 開いた戸の向こうにが立っている。 「・・・」 「もう人が呼んでいるのに、無視するなんてさー」 「あ、いや・・・・俺はてっきり黒猫を捜しているもんだと思って」 「名前を同じにしちゃったからややこしいか。ごめんね」 「別に気にしちゃいねぇよ」 嘘だな。本当は酷く気にした癖に。 の前ではカッコつけたいものなのだろう。 「そう?けど、本当あの子政宗みたいだよ」 「そう言われてもな・・・素直に喜べねぇな」 政宗は頭を掻く。 「・・・・そう。この前の話、あれ・・・考えてみればそうだなーって思ったんだ」 「?」 「政宗達がいなくて寂しかったのは本当。 その間相手にしてくれた黒猫君が政宗っぽかったから、毎日飽きずに楽しかったってこと。 だけど・・・・政宗が帰って来たのに、あんまお話していないなーと思ったわけで」 「それはお前が黒猫にかまってばかりで・・・俺に威嚇するような奴だし」 「うん。あそこまでとは私もびっくりしたけど」 黒猫にしてみれば、自分よりも政宗を構うのが許せなかったのかもしれない。 に手を出す不届き者と言う目で見られたようにも思うのだが。 「こっちの大きな黒猫もかまってあげないとって思った」 「・・・・誰が黒猫だ」 「政宗」 「あのなぁ・・・」 そんなに自分は猫系なのか? 「「・・・・・」」 政宗はバツが悪く。 はニコニコしている。 「あのさ」 「?」 「そっち行っても平気?」 「平気って・・・・」 思えばはずっと廊下に立ちっぱなしだ。 少々手狭ではある割りに書物などが沢山積んである。 政宗一人が過ごす為の室なのだ、この書斎は。 だから誰一人としてここには立ち入らない。 小十郎や成実であってもだ。 は遠慮しているのだろう。 「正座できるか?」 「あ。バカにしてー。正座ぐらいできますー」 それぐらいしか室に余裕がないと政宗は言う。 「邪魔になるようなことはしないよ。お邪魔しまーす」 入って来たは戸を閉め、壁に背を着け正座をする。 小柄ではないが、が一人入ったことでも室内は手狭に感じる。 だが、これ幸いと政宗はごろりと横になった。 「ま、政宗!?」 の膝に自分の頭を乗せて。 「狭いんだからしょうがないだろ」 「だ、だったらもっと広い室にすればいいのに・・・」 「俺一人のときはこのくらいでちょうどいいんだ」 考え事をするにも充分で。 「黒猫は良くて、俺はダメなのか?」 「だ、ダメとか、考えたことないし・・・って、私、政宗と話がしたくて来たんだよ。寝たら」 「この格好でも話はできる」 「しょうがないなぁ・・・」 頭上からの嘆息が漏れる。 「本当大きな黒猫だ」 「そうかい」 そう言って頭を撫でられた。 猫扱いされるのは心外だが、滅多にそんな事をされないのでつい目を瞑ってしまう。 「そういや、いいのか?黒猫放っておいて」 「うん。多分平気なんじゃないかな。だってさっき可愛い白猫と一緒だったよ」 「ほー」 黒猫も彼女を見つけたのかなどと思った。 「でも薄情な奴だな。あっさりから白猫に鞍替えか?」 政宗はくつくつと喉を鳴らして笑った。 は失礼な事を言わないの。とペチンと額を叩かれた。 「いいんだよ、別に。だって猫だもん。自由気ままなんだよ」 「振られて寂しいか?誰か俺のところに来たのか?」 「政宗はどうなのよ。私が来て嬉しいですかー?」 少し頬を上気させは言った。 「そうだな。黒猫からお前の膝枕を取り返せたくらい嬉しいな」 「うっ・・・」 が言葉を詰まらせた。 真正面からそういう風に言われるのが相変わらずなれないようだ。 「そ、その〜猫政宗は、政宗が不在の間、私のこと守ってくれていたからいいのよ」 「あ?なんだ、急に」 「色々と。言ったじゃん。寂しかったけど、あの子が居たから良かったし、ま、政宗がそばにいたみたいだって」 身代わりではないが、寂しさが紛れた。 はそう言いたいらしい。 「・・・・・」 「なによ・・・・」 「いや、別に」 ただ、自分も随分単純だと思った。 拗ねていたここ数日。 これだけの事であっという間に腐った気持ちがどこかに言った。 「しょうがねぇから、俺が不在の時は黒猫にお守りをさせておくか」 「な、なにそれ・・・」 「俺の代わりだ」 そう言った政宗に、は面白くなかったのか政宗の鼻をキュッとつまむのだった。 政宗は怒りもせずにただ笑うのだった。 それから、数ヵ月後。 「政宗ーーーーー!お前、女の子だったのーーー!!?」 「てめぇ!何バカなこといいやがる!」 庭から聞こえたの声に政宗が驚き怒鳴った。 自分が女だと?何変な事をと思い室から飛び出した。 だが。 「政宗、来てよ、ほら!」 「あ?」 違うとは政宗の袖を引っ張る。 そして縁側の下を覗きこむと。 「・・・・・あ、子猫・・・・」 「ここ最近猫政宗のお腹が大きいなぁと思ってはいたけど。子ども産んでた!」 黒猫がどうやら雄ではなく雌だったようだ。 そしていつの間にか縁側の下で出産をしていたようだ。 「相手はあの白猫か?つーか、なんでこいつが雌だと気づかなかった」 「うん。気づかなかった。なんでだろうね?」 「雌に政宗って名前はどうなんだ?」 「・・・・・でも名付けてから随分経つし、呼べば返事するし・・・今更だよ、今更」 「・・・・・」 政宗はこれは困ったと眉を顰めた。 「どうかした?」 「俺はてっきり黒猫が雄で白猫が雌だと思ったからなぁ・・・・」 「うん」 「白猫にって名付けて呼んでいたんだが・・・・逆だったか」 「はぁ!?何人の名前つけてンのよ!」 「白猫がお前に似ていると思ったからだ。まぁ今更だな」 は勝手なことをしてくれたと項垂れる。 まぁそんな事もあるだろうと政宗は猫達に視線を向け笑った。 19/12/31再UP |