独り占め



ドリーム小説
流石に暇だな・・・って思った。

広い室に自分ひとりと言うのは。
室だけでない。
このお館中、人の姿がいつもの半分、うーん、半分以下だから。

ここは奥州筆頭伊達政宗公の根城。
はなぜだか知らぬが、伊達家に、政宗の世話になって暮らしている。
とてもじゃないが、以前の生活とは比べものにならないくらい贅沢だ。
いや、金を使って遊んでいる贅沢とかではなく。
お姫様みたいに何もしないくていい贅沢?
食事とかすべて用意されちゃって、本当することがない。
掃除、洗濯って言う家事全般、私にやらせてくれない。
ちょっとやってみようと手を出すと。

「お止めください!私どもが殿に叱られてしまいます」

と女中さんっての?侍女って言うの?働いている女性達に慌てて止められる。
私は別にお姫様でもお嬢様でもない、一般庶民なんだけど。
その殿。政宗様に気に入られてしまったおかげで、なんか別格扱いになっている。

じゃあ、そのお姫様は普段何をしているのか?
お姫様たちを見習って何かしようかと思えば、習い事中心の生活だった。
資格を取る為にユーキャン的な教育ならば私も頑張ってしまう所だけど。
どうにもこうにも、これがまた性に合わない。
お花やお茶、踊り、箏・・・あとなんだっけ?
いわゆる、お嬢様が習うものばかりで。
そんなん、ずっと室内に籠もっていられるほど私が大人しくしてられるはずもなく。
余計にストレスが溜まるだけだ。

たまになんていうの、教養的な写経とかはやったりするけど。
筆でモノを書くってのがあまりやったことがなくて。
小学校の習字の時間ぐらいか、冬休みの宿題の書初めぐらいだし。
難しい漢字ばかりで大変だけど、お茶やお花よりは面白かった。

面白くても1日中やっていられるほど集中力はないわけで・・・・。

体を動かすようなことをしたいなって思って。
薙刀とか、剣稽古をさせてもらおうかなと思ったけど。
誰も相手にしてくれない。

「筆頭に怒られちまいますよー」

「姐御に怪我でもさせちまったら・・・」

とか言われる始末。
って、待てや!誰が姐御だ、誰が!
そもそも君らの言う筆頭は危ないからダメとか、ンなこと一切言わないよ!
好きにしろって、この辺結構放任だよ!
つーか、多少の怪我はしょうがないよ、擦り傷とか、青痣作っちゃうような打撲とか。
その辺覚悟してこっちも頼んでいるもの。

けど、結局筆頭の顔色窺っちゃうような感じで。
あまり無理強いをして、命令みたいになるもの嫌だからこっちが引く羽目になって。

じゃあ他にないかな?
筆頭の顔色を気にしないで済むようなことはないかな?
と思ったとき、小十郎さんが作法衣姿でどこかに行くのが見えたから、頼み込んで着いて行った。

「わ!畑だ、畑!!」

「趣味でやっているようなものさ」

小十郎さんは菜園を作っていた。
食事で出される野菜の中には小十郎さんが育てたものとかがあるとの話し。
あ。もしかして、これならいいかもと思って小十郎さんに更に頼み込んでみた。
小十郎さんのお手伝いをさせてくださいって。

「あちこち汚れちまう」

「私土いじり大好きなんです!」

「しかし、政宗様が・・・」

「政宗は関係ないです!部屋に閉じこもってるのつまらないし、お日さまの下の方が健康的です!」

「仕方ねぇ・・・手伝ってもらうか」

小十郎さんは私が室内で飽き飽きしていることに気づいていてくれたらしい。
政宗達とお話しする時間は楽しくても、結局一日中ってわけじゃない。
彼らには色々やるべきことがあって忙しいから。
ひとりの時間が自然に増えてしまって。
だから何かをしたいと思ったけど、することが見つからなくて。
さっきも言ったけど、写経は一日もできないし。
畑仕事も小十郎さんと一緒の時にって条件付きだけど。
結構楽しかった。
簡単なガーデニングぐらいしかやったことない私だったから。
余計に本格的な畑仕事は楽しかった。
これがまた普段使わないような場所の筋肉が痛くなったりしてね。
最初は筋肉痛との闘いでもあったけど、今はなれて筋肉痛もなくなった。

まぁ、ただね。

「最近小十郎と楽しそうだな、お前・・・」

「うん。楽しいよ」

「ちっ・・・・即答かよ」

なんか政宗に拗ねられた。
政宗と話す時間はあるけど、小十郎さんと一緒にいる時間の方が増えたからね。

だけども。
その小十郎さんも今は不在。
小十郎さんだけでなく、政宗も。
伊達軍は現在南下して領土拡大の遠征中。
どこその何々家を相手に戦をしている。
すると、このお館にいる人の数も必然的に減った。
いつも顔を合わせていた人達の大半が政宗と一緒に戦に行ってしまった。

それが、今の私が暇な理由。

小十郎さんとの畑仕事も、水やりとか間引きとかちょっとしたことしかできない。
小十郎さんがいないと、下手なことできないし。
写経するにもつまんなさの方が勝って集中できなかった。

知っている人、仲の良い人が戦に行く。
今までの私ならばそんな経験をするはずもなく。
戦争が起きても、自分の知らないような遠くの国での話。
だけど、ここでは身近に起きている。
怖さとか不安もある。
今まで普通に会えていた人と、急にサヨウナラをするかもしれないし・・・。

その辺はできるだけそうならないように、私としては祈るくらいしかできないけど。

そんな時に、一匹の猫に出会った。

「お、お、おー?」

どこからやってきたのか、いつの間にかお館に入り込み住み着いていたらしい野良猫。
全身黒で、すらりと伸びた尻尾が綺麗に見えるし。
なんとなく誰かに似ていると思わせるその顔。
こっちが構おうとしても見向きもしないで逃げてしまう。
かと思えば、いつの間にか擦り寄ってくるし。
お菓子を食べていたりすると尚の事ね。

政宗達がいなくても、この黒猫との奇妙なやり取りがいい暇つぶしになった。
しばらくすれば、向こうも私の顔を覚えてくれたみたいで呼べば近寄ってくるようになって。
体を触らせてくれるようにもなった。

他の人に聞いた話。
黒猫はちょくちょくこの辺りをうろついており、お館の人達にもそこそこ知られた存在だと言う。
だからそれぞれが好き勝手に名前をつけて呼んでいたそうだ。
黒猫も処世術を持っていたのか、よく懐く人には懐いて、反応の悪い人には一切近づかなかった。

「君の名前。何にしようか・・・色々呼び名があるみたいだけど・・・」

今も私の膝の上でちゃっかり寝ている黒猫。
そこが指定席となったみたいに。
たまに、狩りをしたらしく、雀の死骸を見せられた時はどうしようかと思ったけど。
少なくとも私は、黒猫に気に入られたようだ。

「タマ、ミケ・・・じゃありきたりだし・・・ポチ、太郎は犬だよね・・・・」

私の膝の上で寝ている黒猫の頭を数回撫でる。

「なんとなーく。政宗に似ているんだよね、君は」

すると小さくにゃあと鳴いた。

「ありゃ・・・政宗?」

私を見つめる目が青い綺麗な色をしていた。

「うんうん。なんか政宗っぽい・・・・・政宗って呼んじゃおうか?」

冗談のつもりで言ってみれば、黒猫はまた小さく鳴いた。

「もしかして・・・・他の人もそう呼んでいたんじゃないでしょうね・・・」

自分の殿と同じ名前なんて普通なら無礼にもほどがあるだろうけど。
けど、政宗みたいだなって思ったのは私以外にも居たようだし。
黒猫が返事をしたみたいに聞こえたから、私は黒猫の事を政宗と呼ぶことにした。

「政宗。おいで〜ね、ね、これつけても平気?」

って猫政宗に話しかけても返事が返ってくるわけでもないけど。
つけても平気?ってのは首に鈴ってわけじゃないけど、ちょっといいなぁと思った青い布。
そんな高価なものでもないけど、綺麗なスカイブルーが政宗って感じもするし。
あ、あー。人と猫の政宗が混ざってきてる。

けど、猫政宗と一緒に居ると楽しくて、寂しくないからついね。
スカイブルーのスカーフって感じで、猫政宗の首につけてみた。
嫌なら自分で取り外しそうだし。そういう仕草を見せるだろうと思って。
けど、猫政宗は嫌がる様子もなくて毎日それをつけてくれた。
お館の人達にもその姿が定番になったのか、微笑ましく見てくれるし。
たまに猫政宗の話で盛り上がって楽しかった。



それからしばらくして、戦を終えた政宗達が帰還した。

「・・・・・あれ?」

私はお館内をうろうろする。

。どうした?」

「あ、政宗・・・うん、ちょっとさがしもの・・・」

「何をだ?」

「うん。ちょっと・・・」

政宗の事は置いといて。
今構っている暇じゃないんだ。

「ちょっとなんだよ。言えよ、手伝ってやるぜ」

「いい。多分・・・」

「?」

折角の政宗の厚意なんだけど、多分政宗と一緒じゃ見つからない気がした。
私が捜しているのは猫政宗。
政宗たちが帰還してから姿を見せなくなった。
やっぱり、お館に人が増えたからなのかなぁ・・・。
いつも以上に人の気配がいっぱいあるから逃げてしまったのだろうか?
ここ数日ずっと顔を見せてくれない。
野良猫の猫政宗だからお館以外にも住む場所、餌をもらえる場所とかあるのかもしれないけど。

まさか、まさか!猫ギライの誰かに外に放り出されちゃったとかないよね?

さん?どうかしました?」

「あ。喜多さん!」

喜多さんは小十郎さんのお姉さん。
私のお世話を一番にしてくれる頼りになる人。
猫政宗に関しては喜多さんも知っている。

「喜多さん。あの子見ませんでした?この所ずっと居なくて・・・・」

「あの子?誰のことだ」

政宗はまだ着いてきたのか・・・。
喜多さんは政宗を見て困惑する。うっかり名前を出せないという事だろう。

「え、えぇ・・・それはですね・・・・」

「なんだ、はっきりしねぇな」

「「・・・・・」」

喜多さんと二人して顔を見合わせてしまう。
まぁ喜多さんは猫政宗事を「政宗」と呼ぶ事はないのだけど。
本人が知ったらどうなるのかなぁと思うわけで。
そう呼んだ事に罰でも与えるのだろうか?
私はともかく、他の人が罰を受けるのは勘弁したいし・・・。

「あ、のね。政宗」

「にゃあ」

「「「?」」」

足元から聞こえた鳴き声。
3人ともそろって下を向いてしまう。
そこには、私があげたスカイブルーのスカーフを巻いた黒猫政宗が座ってこちらを見上げていた。

「あー政宗、いたー!」

「あ。さん・・・」

思わず私は猫政宗を抱き上げてしまう。

「もう〜ずっと捜していたんだぞ。どこに行ってたの。心配したじゃんか」

抱えて頭をよしよしと撫でると猫政宗は私に顔を摺り寄せてきた。

「急に人が沢山戻ってきたらびっくりしちゃったのかな?でも大丈夫だよ、誰も政宗を苛めるようなことしないから」

見た感じ、怪我をしている様子もないので平気かな?

「じゃあ、いつもみたいに小十郎さんの畑に一緒に行こうか。今日は小十郎さんも一緒だけど平気だからね〜」

これで一安心。
私は猫政宗を抱いて小十郎さんのところに行くことにした。
けど・・・・。

「ちょっと待て、

頭をがっつり正面から掴まれた。

「・・・・・あ。人間の政宗サン。いらっしゃったのすっかり忘れていました・・・」

「あ?」

「ギャー!痛い、痛い、痛い!!」

ギリギリと締め付けるな、阿呆!
しかも目が怖い。

「その猫どうした?」

「・・・・・どうしたって言うか・・・普通に前から居たけど」

「それでそいつの名前だが・・・・」

「ま、政宗君って言います。以後よしなに・・・・」

「よしなに・・・。じゃねぇ!なんで俺と同じ名んだ!」

「な、なんでって・・・」

キレるか、やっぱり。
でもさ、そのね・・・・。
喜多さんに助けを求める目を向けるが、喜多さんはすまなそうにしているだけだ。
それはそうだろうな。
いつもは頼りになる人だけど、この人も基本政宗に仕えている人だし・・・。
とりあえず、納得してもらえるかわからないけど、何か言わなくては。
猫政宗が処分されるのは絶対に阻止せねば!

「なんでって・・・この子が政宗に似ているなぁ・・・って」

「あ?」

どこが?と言いたいのだろうな。
ま、言われて喜ぶ人間は居ないね。

「その・・・政宗が戦で居ない間、寂しかった時にこの子が居てくれたから毎日楽しかったし」

「・・・・」

「この子見てると政宗を思い出すし・・・・」

あ。なんかちょっと恥かしい。

「俺だと思って、可愛がっていたのか?こいつを」

「え!?そ、それはちょっと違うようなぁ・・・・」

って、政宗が私を見てニヤニヤしている。気持ち悪い・・・・。

「そうか、そうか。そんなに俺がそばに居なくて寂しかったのか。猫に俺と同じ名をつけて・・・」

「そ、それは・・・・」

寂しくなかったわけじゃないけど。
別に政宗だけがいなかったわけじゃないし、小十郎さんも成実さんも綱元さんもいなかったし。
リーゼントの彼らもいなかったし・・・。
猫政宗は、政宗にどこか似ているなーって思ってつけた名前であって、別にそばにいないから身代わりにしたわけじゃ・・・。

なんか、私が身代わり作っちゃうくらい政宗を思っていると思われたみたいなんですが・・・?

「中々可愛いことしてくれんじゃねぇか、

「あ、あの・・・・・だからね」

人の頭を掴んだ手が今度はわしわしと撫でられた。

「O.K。これからは寂しくならねぇように毎晩可愛がってやるぜ」

「すんな!」

「遠慮す、ってえ!!」

「あ。政宗」

猫政宗がするりと私の手から移動したかと思うと、政宗の顔にパンチを食らわせていた。
あー・・・猫パンチだ。初めて見た。

「なに、しやがるこの!!?」

猫政宗、今度は政宗に手の甲を爪で引っ掻いた。

「政宗!大丈夫?・・・あーあ・・・引っ掻かれちゃった」

「政宗様!」

「あ、そうか。政宗は私のこと助けてくれたんだね。ありがとう〜」

猫政宗を抱えなおす。
にゃあと小さく鳴いたので、それが返事みたいに聞こえてなんだか可笑しかった。
政宗には申し訳ないと思ったけどね。

「じゃあ小十郎さんとこに行こうか。きっと待たせちゃっているし」

「お、おい!!」

「政宗は喜多さんに手当てしてもらうといいと。じゃあね〜」

政宗には悪いけど。
今はこの子と一緒の方が楽しいんだよね。
・・・・。
あれ?結局の所・・・・私は拗ねているのかな?
戦とはいえ、ずっと放っておかれたのが寂しくて。


うん。なんて思っても口が裂けても言えないな。









19/12/31再UP