雪消風



ドリーム小説
長い長い冬が去っていく。
雪解け水が陽の光にキラキラと反射して眩しいが、不思議と笑顔になる。


冬は嫌いではない。
冬には冬なりのいい事もある。


けど、少しずつ薄着になっていくのが、春に近づくのが嬉しいと思える。
子どもじゃないのに、はしゃぎ回るわけでもないのに。
気分は子どもみたいにはしゃいでいる。


春になったからと言って、これと言って何かが変わるわけでもない日常。
やる事はいつもと同じ。
でも、嬉しいんだ。

辺りが桜色に染まっているのが。

野原一面黄色に染まっているのも好きだ。

雪原の白銀色も綺麗だが、色鮮やかな花々で染まっている方が好きだ。

少しだけ、ここは春の訪れが遅いから。

だからようやく来たなと待遠しくて嬉しいのかもしれない。

・・・・ほんの少しだけ寂しくなるのも事実。

でも言わない。内緒の内緒。

隠す必要はないのだけど・・・・。
ううん。
隠すとかじゃない。
言えないだけ。



「寂しい」



…なんて。

恥かしさと、可愛くなさを感じて。

意地っ張りで、素直じゃない。
それが「私」なのかもしれないから。





「わ〜いつきちゃん、可愛い〜」

「そ、そうだか?な、なんか照れるべ」

がパチパチと手を鳴らすものだから、いつきは余計に恥かしさを感じてしまう。
照れ臭いと。

「だって似合うよー。可愛い、可愛い」

もつけてみればいいべ」

「私は似合わないからいい。いつきちゃんみたいな子がつけるからいいんだよ」

頑なに拒否する
なんかずるいべーといつきは頬を膨らます。

「でも、は器用だな。こんなもの作れるなんて。おらじゃうまく作れねぇべ」

「簡単だよ。ちょっとコツさえ掴めば誰でも作れるし」

いつきを連れて館を出た
長い冬の間いつきが村から出ることがほとんどなかったので、久しぶりに会えてとても嬉しい。
二人して、河原に来ていた。
一箇所、シロツメクサの咲いている場所があったので、がそれをみて花飾りを作り始めたのだ。
そして可愛いといつきを絶賛したのは、その花飾りをいつきの頭に乗せてみてのことだ。

「小さい時に、よくこうやって作ったんだ。今でも作れたから自分でもちょっとびっくりだけど」

一度作ると止められないのかはまた新しいのを作り始める。
次のは誰に渡そうか?
通りかかった子ども、女の子でもいればいいのだが。

「持ってかえって政宗にでもかぶせてやればいいべ」

いつきは花飾りを政宗と言う不似合いの組み合わせにニシシと笑う。

「政宗?・・・・政宗にやってもしょうがないよ」

面白いよ、それ!きっとの反応はそんなだろうといつきは思ったのに。
は乗り気ではないようで、微苦笑しているだけだ。

「それよりも。小十郎さんの頭に乗せたらびっくりだよねー」

その方が面白いよ。そんな風には話をそらす。
そういえば、政宗の姿を見なかった。
が館を出るのに、「いってきます」と告げた相手は小十郎で。
護衛でもつけようかと言ってきたのも成実で(はそれを断っていたが)
いつもはうるさいくらいにを構う政宗の姿はなかった。
何故だ?そう考え始めるいつきのことをは読み取ったのか、淡々と花飾りを作りながら答えた。

「んー?政宗は単に忙しいだけだよ」

「いそがしい?」

それはまぁ、奥州を纏める男だ。並みの忙しさではないのは容易に想像がつく。

「奥州筆頭は伊達じゃないってね」

「そんなもんだべか?」

「そんなもんだよ」

の膝元にちょこんと頬杖をついて見上げるいつき。
立てた足をぶらぶらさせて。

。それでいいだか?」

「ん?いいッて何が?」

「政宗が忙しくて寂しいんでねぇか?」

「・・・・・・・へそで茶を沸かしたくなるようなことを言うね、いつきちゃん」

口角を引きつらせる
何か変なことを言っただろうか?いつきは首を傾げる。

「別に・・・・顔を見ない日なんてよくあることだし、寂しいとか思わないし」

そういえば、は人一倍素直じゃない。こと政宗に関しては。
だから直球だろうが変化球であろうが、政宗に関しては天邪鬼な態度をとる。
という事は、いつきの口にしたことは間違いではない。
きっと寂しいのだ、は。

「春が来ても、のその氷みたいな固さはちっともとけねぇんだな」

「なに、その雪女みたいな扱い」

「まんま言葉の通りだべ。は政宗に対してもっと素直になったほうがいいべ。政宗も喜ぶだよ」

自分より幼い子に言われてぐうの音も出ない。
別に好きで意地を張っているわけではないのだ。
ただなんとなく、政宗の前に出ると思っていることとは反対の言葉が出てしまうのだ。
可愛げのなさに、そのうち政宗には厭きられてしまうだろうと思うとしょげている自分もいるのだ。

(近い将来そうなりそうで怖いなぁ・・・・でも、そうなったらそうなったで自分が悪いわけだし)

厭きずに構ってくる政宗に甘えているのかもしれない。

?どうかしただか?」

「ううん。なんでもない」

そう笑ってみせるも。
こういう風になんでもない振りを見せてしまうのがダメな証拠なのかもしれない。





いつきが村に帰ると言い出し、途中まで見送った。

「今度は私が村に遊びに行くね」

「うん。待ってるだよ!村のみんなもが来るのを喜ぶべ!」

いつきの村の人たちは気さくな人たちばかりでも好きだった。

「政宗と一緒に来るといいだよ。その時はうんとご馳走用意して待ってるだ」

殿様の政宗には物足りないだろうが、庶民には庶民の美味しいものがあるんだといつきは自信たっぷりに胸を張る。
政宗と一緒に。
その言葉には頷けられなかったが、本当に近いうちに遊びに行く事は約束した。

「気をつけてね〜」

女の子一人で帰すのは不安ではあるが、いつきはそこらの男よりも腕っ節がある。
よほどのことがない限りは大丈夫であろう。
いつきを見送りさぁ自分も戻ろうかとした時、いつきが反転して戻ってきた。

「いつきちゃん?」

「はぁ・・・はぁ・・・・いいこと教えてやるべ」

に教えようと思っていたことをすっかり忘れていたそうだ。

「あんな。この先に社があるのを知ってるだか?お地蔵様があって」

いつきが指差す方をはつい見てしまう。
簡単な説明を受けて、知らない場所ではないとは頷く。

「そこの桜がすごく大きくて、すごく綺麗なんだべ!」

「へぇ。今度花見でしようか?」

「それもいいだが、多分その頃には散ってるだよ・・・・」

つい最近見て満開だったそうだ。
それでは次の機会の頃には葉桜になっていそうなのは予想できる。

「んでな。昼間も綺麗なんだけども、夜はもっと綺麗なんだべ!」

「夜桜かぁ・・・・・」

外灯に照らされる夜桜などは見たことがある。
確かに綺麗だよなと思うが、ここではそんなものはない。
だけど、今夜は満月だそうだから、月の光に照らされる夜桜はもっと綺麗に見れるだろうと。

「今夜・・・見に行けたらいいなぁ」

流石に夜となると、外に出れるかわからない。

「政宗と一緒に見に行けばいいべ。なら安心だべ」

「え・・・・だから、それは・・・・」

「見たら話を聞かせてもらうべ!楽しみだー。んじゃあな〜」

いつきは言いたかったことはそれだけだと、満足げに駆け出していく。

「あ。いつきちゃーん!!」

いつきはいつきになりに、政宗とのことを思ってくれているのだろう。
味方になってくれるのは嬉しい。
嬉しいが・・・・。

「多分、無理だよ・・・・いつきちゃん・・・・」

いつきの背中を見送りながら、はぽつり呟いた。





政宗からは常日頃から、好きだ、好きだと言われても。
がそれに答えたことはない。
恥かしいのと、素直になれないと、自信がないから。
いつも前を向いている政宗。
人の上に立つ存在として、強い存在。
武家のしきたりも知らない自分。ある程度自由気ままに生きていた今までだから。
武家社会にはどうも馴染めない。
奥州を纏め上げる政宗の隣に、そんな自分が居てもいいものか?と首を横に振りたくなる。

今はまだいいだろう。

「バカじゃないの!」「そんなの知らない!」などとツンと顔をそらしても。
「可愛くねぇなぁ」と苦笑する政宗だろうが。
周りはそうも行かないだろう。
伊達家安泰の為に早くに奥方を。なんて話もちらほら出ているようだし。
そんな話が浮き彫りになった場合、重臣たちからはきっと彼に相応しい姫君でも引き合わされるだろう。
遊び友達としては、は問題ないのかもしれない。
けど、伊達家のこれからを思えば、と言う子は伊達家にとってはふさわしくないだろう。

(今までの素直じゃない、子ども染みた態度の所為なんだろうけど・・・・)

政宗だけだ。
政宗にだけ、素直になれない自分が居る。

(やだなぁ・・・最近、余計にそんなことばかり考えちゃう)

心の奥底で。頭の片隅で。きっと政宗に忘れ去られてしまうのを恐れているのかもしれない・・・。

『政宗と一緒に見に行けばいいべ。なら安心だべ』

一緒に行きたい。
夜桜とは言わないから、普通に花見をしたい気分はある。
あるけど、今の政宗にはそれを願い出る気にはなれない。

(・・・・現に、今日は一度も顔見ていないし、今も・・・・)

夕餉の時間。
は自分を世話してくれる小十郎の姉、喜多と一緒に食べていた。
政宗は小十郎たちと一緒に食べているようだ。
忙しいんですよ。と喜多は説明してくれる。
うん。わかっている。
冬の間、降り積もる雪の所為で政宗の天下統一のための計画が中断していた。
何もしていなかったわけではないが、他国へ侵攻することは適わず。
ジッと領内を守っていた。
邪魔な雪も融けて、様々な準備に追われて今が一番政宗は忙しいのだ。
本人のやる気を削ぐようなことはしたくない。
ジッと耐えていたのを知っているから。

さん。どうかなさいましたか?」

食が進まないようだと喜多が心配している。

「い、いえ。その・・・・」

なんでもないといつもなら言ってしまいそうだが、いつも喜多には隠し事をできない。
ここでの母のような姉のような存在だから。
つい喜多には本音を漏らしてしまうのだ。

「いつきちゃんが・・・・この先に綺麗な桜が咲いているって教えてくれて」

いつきが教えてくれたことをは喜多に話す。
昼間でもいいが、今夜夜桜を見に行けたらいいなと。

「夜。お一人でですか?それは危のうございます」

「大丈夫ですよーそんな遠い場所でもないし、危ない場所でもないですよ?」

喜多は政宗に伝えようと言うが、はそれを反対する。
今一番忙しい政宗の邪魔になるような真似はしたくないと。

「喜多さんはお暇ですか?喜多さんと一緒なら怖いものもないと思いますけど」

「申し訳ございません。少々抜けられぬ用事がございまして」

喜多はすまなそうに頭を下げる。
女中頭である、喜多は女中たちを集めて何やら話し合いがるらしい。
奥を纏める者としてやることは沢山あるのだなとなんとなく思った。
喜多は今夜でなければダメなのか?明日では無理か?と日をずらすそうに願い出てくる。
本来ならばそうしたい所だが、桜がもう散りそうであるのと、満月が出ている今夜が条件的にいいのだ。

「でしたら、小十郎を共につけますゆえ」

政宗が忙しいのに、その一番の家臣がそばを離れられないだろうに。

「大丈夫ですってー。すぐに戻りますから」

大丈夫と一点張りの
そんな根拠はないだろうに。

(うーん・・・・こんなことなら黙っておけばよかったかな・・・)

だが夜抜け出したとなれば、余計に心配をかけてしまうだろう。
夜桜見物を諦めるのが、一番なのかもしれない。





日も沈み、満月がぽっかり浮かんでいるのを見て、は館を飛び出した。
暗くて夜道は歩けないだろうかと心配だったが、満月の光が道を作ってくれている。
こんなにも月光とは明るいものなのかと変に感心してしまった。
たった一人で、何かあるんじゃないかとドキドキビクビクしてしまうも。
いつきに教えてもらった社を見つける。

「わぁ・・・・本当・・・・すごい」

樹齢何十年の桜の樹だろうか?
大きくて太い幹。根をどっしり地面に張っている。
桜並木のように連なっている光景も見事ではあるが、一本どっかりと構えている雄大さも見事だ。
が見上げてしまうほどに大きい桜。
満開ではあるが、確かにもう少し遅かったら見れなくなっていたかもしれない。
花びらが風に揺れて散っていく。
それが余計に幻想的な光景を生み出している。

「・・・・・癒されるっていうのかな・・・・安心するなぁ・・・・」

漠然とした不安を抱えていたから余計に。
その気の緩みを許してしまい、ポロッと涙が零れた。

「うわ。や、やだ!!」

慌てて涙を拭う。
だけど、止め処なく涙が零れる。

あぁそうか。政宗と一緒に見たかったんだ。

いつか厭きられてしまうのが怖いのだな。

政宗のこと、ちゃんと好きだったんだな・・・・。

一気に不安が出てしまう。
一つ一つを認めるたびに、チクリチクリと胸が痛む。
だけど、いい。
どうにもならないが、ここで全部吐き出してしまえば、明日からは何か変わるかもしれない。

「すぐには、無理でも、少しだけ、明日から、少しだけ、意地を張るのをやめる、から・・・・」

そこまで言って大きく息を吐く。パンパンと軽く頬を叩いて。
よし、帰ろう。踵を返そうとするが、聴こえてくる蹄の蹴る音。
まっすぐこちらに向かってくる。

!」

「え、政宗・・・?」

一頭の馬がやってきたと思えば、そこから政宗が飛び降りる。
ツカツカとその勢いが衰えることなく真っ直ぐにに向かってくる。

「馬鹿野郎!」

怒鳴られてしまい、思わず身を竦ませる
だがすぐさま息苦しくなる。

「まさ、むね?」

「室に行ってみればお前の姿はねぇし・・・・一人で外に出たなんて聞いて心配したじゃねぇか」

息苦しいのは政宗が力強くを抱きしめているからだ。
自分の腕の中にちゃんとが居るのだと確認しているかのように。

「ご、ごめ、ん・・・その、あ、あぁ!喜多さんのこと怒らないで!私がどうしても行きたいって・・・
喜多さんは、明日にした方がいいとか、小十郎さんを共につけてくれるとか色々言ってくれたんだけど・・・・」

語尾が段々萎んでいく。

「せめて俺に一言声をかけろよ」

「え、えーと・・・その・・・・政宗、忙しいから・・・・」

「お前・・・・全部人のことばかりだな。もうちっと自分のこと前に出せよ」

政宗は力を緩め、の顔をのぞきこむ。

「べ、別に、私は・・・・ん・・・冷たい・・・・・」

ポタリと頬に雫が落ちてきた。
雨など降っていないのに。

「あ。悪ぃ・・・・がいねぇって飛び出して来たからなぁ・・・・・濡れた髪のまんま来ちまった」

湯上りでの室に顔を出せば、その姿がなかった。

「ちょっ!バカはそっちでしょ!!?風邪でもひいたらどうするのよ!」

「あ?だから言ったろ。お前が心配で」

「心配してくれてどうもありがとう!でも、あんたが風邪をひいたらもっと大変なことになるでしょ!」

これはあとで、小十郎や成実に説教される覚悟はしておいた方がいいだろう。

「ただでさえ、今忙しいのに。これで身体を壊したら・・・・・あ、そうさせちゃったの、私の所為なんだけど・・・」

政宗は忙しいから。
そんな理由で自分からも政宗と距離をとっていた。

「それでも、政宗が倒れたら嫌だし、そうなったら、花見も一緒にできないし、いつきちゃんの村に遊びも行けないし」

少しだけ。
ほんの少しだけ・・・いや、さっき思った。意地を張るのをやめて。

「政宗と、一緒が、いいの」

一歩進めと、政宗の背中に腕を伸ばす。

「一緒に、この桜、夜桜見たかったの」

政宗の背中に回した手が震える。
一緒に居たい。それを伝えるだけですごく緊張してしまう。

「だったら、また明日来ようぜ。一緒によ・・・・」

「だって、政宗・・・・忙しいから・・・・」

これが答えだと言わんばかりに今度はを優しく包み込む。

「俺だって一晩中動いているわけにはいかねぇんだぜ?それこそ休憩は必要だろうに」

でないと過労で倒れてしまう。それの方が問題だ。

と過ごす時間ぐらい欲しい。それが短い時間であってもだ。お前と一緒の時間があれば疲れも吹っ飛ぶ」

「じゃ、じゃあ・・・・明日、また一緒に来てくれる?」

「あぁ」

「今度いつきちゃんの村にも行ってくれる?」

「あぁ」

「私のこと、厭きないで、いてくれる?」

「それこそ、無理な話だな。俺がを厭きるわけないだろう?俺の方が手放す気はねぇさ」

誰か他の奴にでも奪われでもしたら、たった一人でも大軍の中にでも乗り込んで行く覚悟はある。
それくらい、政宗にとってが大事な存在だから。

一歩どころから二歩も三歩も進めたような気がした。

「んじゃ。風邪ひかねぇうちに戻るか」

「うん」

「明日の晩。この桜、堪能させてもらうからよ・・・・それまで散らすんじゃねぇぞ」

政宗は桜に向かって不敵に笑った。









19/12/31再UP