意地っ張りが隠したもの。



ドリーム小説
「ねー政宗。明日暇?」

珍しくがそんな事を聞いてきた。

「あ?なんで、そんな事を聞くんだ?」

日当たりのいい縁側で横になっている政宗。
体は起こさず目だけでの姿を捉える。

「暇かどうか聞いて何か問題でも?忙しいならいいよ、別に」

くるりと政宗に背を向ける
たいした問題でもないのか、政宗に答える気がないのならば、どうでもいいらしい。

「別にあんたじゃなくても、小十郎さんか成実さんにでも頼むしぃ」

昼寝の邪魔をしてごめんなさいね〜と気取った口調ではその場から去ろうとする。

「おいっ!」

政宗は飛び起き、の腰に手を伸ばす。

「うわっ!」

そのまま手を回して、政宗の膝の上に座らされた。

「な、何するのよ!バカ!!」

「勝手な解釈をするからだろうが、そっちから訊ねておいて」

腰に回された手、背中に感じるぬくもり、耳元で囁くように話す声。
どれもこれも、には恥ずかしい、止めてくれとこの場を逃げ出そうと暴れる要因になる。

「なんだよ、暴れるな」

「だったら解放してよ!」

「うるせー。だったら話せよ」

「話すから離せー」

これ以上強引なことをすると、に嫌われかねない。
政宗は渋々を解放する。
真っ赤な顔して睨みつけてくる様が、政宗には可愛く見えてしょうがない。
伊達政宗と言う存在を知っている女たちは、こぞって自分をよく見せようとしてくる。
甘い言葉でも囁くものなら、いとも簡単に落ちていく。
だがは違う。
愛の言葉でも囁けば、思いっきり、しかも露骨に嫌そうな顔をする。
しまいには。

「あんた、バカじゃないの」

と酷く言えば、蔑むような目を向けてくる。
そんな目を向けられてても、政宗は笑ってしまう。
普通ならば怒るところなのかもしれないが、彼女ならばと思ってしまう自分がいる。
それに彼女のそんな行動は半分、いや半分以上が照れ隠しでもあるだろうから。

「で?明日、俺が暇なら何だって言うんだ?」

「ちょっと私の買物に付き合って欲しいんですけど」

政宗が頭を掻きながらあぐらを掻いている。
はその向かいにちょこんと正座をしている。

「買物?」

「そ。買物。欲しいものがあるから、荷物持ちを政宗に頼もうと思って」

いい度胸をしている。
仮にも奥州筆頭という立場の男を荷持持ちに使おうなどとは。
いくら身分の高い女であろうとも、普通は考えないだろう。

「へぇ。俺に荷物持ちねぇ・・・」

「さっきも言ったけど、忙しいなら別にいいんだ。小十郎さんか成実さんに頼むし」

それはそれで面白くない。
あの二人は政宗が一番に信頼している者たちではあるが、のことが絡めば。
油断は出来ない存在でもある。
しかも自身が二人を政宗以上に頼っている部分があるから。
だが荷物持ちを頼もうとするならば、妥当な人選なのかもしれない。

「まぁ、でも。荷物持ちなんていうほど沢山買うわけじゃないし。
もしかしたら、何も買わないかもしれないから。ちょっと見たいだけなんだ、お店を」

「なんだよ。言えば、出入りの商人を呼んでやるぜ?」

「そんなの駄目だよー・・・・あ、駄目っていうか悪いからいい」

「?」

何が駄目なのだ?と思ったが、外に行きたいのか?と政宗は思った。
その相手に自分を選んでくれたのならば、これを断る理由はない。

「いいぜ。明日付き合ってやるぜ」

いつもは自分が誘う方だ。
彼女からの誘いなんて滅多にない。

「本当?お仕事とか大丈夫?」

(おっ・・・・珍しいな)

素直じゃない性格のが、珍しく素直に喜んでくれている。
自然と政宗の口角が緩むが、軽く咳払いをして目線をから外す。
ふいに見せたその喜びが悪くない、くすぐったいから。

「忙しいなら無理しなくていいからね」

「問題ない」

「でも、小十郎さんに聞いてからの方が良くない?」

としては無理やり外に連れ出すことや、仕事の邪魔をしてまでと言うのは嫌なのだ。

「なんかありゃ、呼びに来るだろう。小十郎が」

「大丈夫なら、いいのかな・・・・」

「自分から誘っておいてどうなんだ、お前」

政宗は小さく笑う。

「だってさー」

でもも表情を和らげた。

「じゃあ、明日付き合ってね、政宗」

「あぁ」

は楽しみだと言いながら立ち上がる。
そして軽やかな足取りで戻っていく。
その後姿を見ながら、不思議な気分になる政宗。

「いったい何を企んでいるんだ?あいつは」

買物に行きたいから付き合え。なんて誘い方。
癪ではあるが、自分以外の者をは誘って出かける事のほうが多いのだから。
でも、その誘いに喜んでいる自分がいるのも事実だ。





「あれー。小十郎さんたちは一緒じゃないんだ」

それが残念ともいえるようなことを言う

「あぁ?人をデートに誘っておいてよく言うぜ」

「だ、誰がデートだ!買物って言ったでしょ、か・い・も・の!」

そんなに強調をしなくてもいいのに。

「で?どこに行くんだ」

「そうだねぇ。政宗はどこ行きたい?」

「あ?」

「今、欲しいものとかあるならついでに見ていけばいいじゃん。掘り出し物とかあるかもよー」

いつもは出入りの商人から見せてもらう品しか買わないだろうからと。

「って言われても。別に欲しいものなんかねぇな・・・・」

とはいえ、を一瞥する政宗。
欲しいものといえば、彼女自身。完全な、完璧に。
追いかければ追いかけるほど逃げてしまう。
なら追うのを止めて待てばいい。そうは思っても、その間別の男に盗られてしまうのではないか?
そんな不安に掻き立てられる。

ふと思う。

自分との関係ってなんだろうかと。
少なくとも嫌われてはいないと思う。
ただ正面からぶつける想いをあえて受け止めないように、さらりとかわしてしまっているような。
本気で恋愛をするのを怖がっているようにも見えた。

「どうかした?政宗」

覗き見るの視線。

「なんでもねぇ」

くしゃくしゃとの頭を少し強めに撫でた。

は何を探しているんだ?欲しい物があるんだろ?」

「あるよー。それをこうやって探しているんだけどねー」

きょろきょろと見回している

「あ。政宗、あっち!」

小店が多く立ち並ぶ通りへとは政宗を引っ張る。

「なんだ?紅が欲しかったのか?」

細かい手作業で作ったものを売る店。
政宗は目にしたのは紅専門の小店。

「は?違うよ」

「いいのがあるかもしれねぇ。見てこうぜ」

「政宗。紅が欲しいの?まさか自分がつけたいとか・・・・痛っ」

の額を軽く叩く。
面白がってでもそういう話はしないで欲しい。
真に受けたり、面白がったりして噂を広めようとする輩がいるのだから。
誰が聞いているのかわからないというのに。

「お前の気に入るのがあるかもしれないだろ?」

「私?どうかな〜」

「少しは見かけだけでも女らしくしてみろ」

いつもの軽口のつもりだった。
けど、は政宗の言葉を真に受けたのか、拗ねたような面白くなさそうな顔で黙ってしまう。

?」

「あ。紅はいらない。そういうのは喜多さんと一緒の時に探すから」

政宗には余計なことを言われたくないといわんばかりに。
は紅屋に背を向ける。
そして勢いでそのまま向いの小店に入ってしまう。

(どうせ、女らしくないもん。だからって化粧すれば女らしくなるっての?)

政宗に色目を使う女性たちを何人も見たから。
あんな風に自分になれと言うのか?それは御免だ。
そんな自分らしくないことできるわけがない。
そういう女性の方がいいのならば、最初から自分になどに構わないで欲しい。

「いらっしゃい」

店主だろう、男がに声をかける。
その瞬間。鼻孔に墨の香りがついた。

「あ。ここ筆屋さんだったんだ」

沢山ある筆。墨など置いていないのに、何故か匂いが感じられた。
筆=墨。書道というイメージで出てきたものなのだろうか?
店主は自ら筆を作って売っているらしい。
店主はいかにも職人という風格を漂わせている。

「筆。筆かぁ・・・・おじさん、手にとってもいいですか?触っても」

「どうぞ。自分がいいと思ったのを選んでおくれ」

あまり多くは語らない人なのだろう。
熱心に筆造りに精を出している。
は一本手に取る。
軽く筆先に触れる。
当たり前だが、とても柔らかい。筆を自分の手の甲にあててみる。

「あ」

この筆で何か書いてみたい。
そう思わせる何かを感じる。
使いやすい。書き手に対して負担をかけないような、書き手のことを思って作られたもののような。
これがいいのではないか?と名案が浮かぶ。
筆はいくらあっても損はないはずだ。

「ここの筆って、おじさんが一人で作ったの?」

「あぁ」

「・・・・・一本仕上げるのにどのくらいかかります?」

「ん?材料にもよるが・・・」

「じゃあ、ひとまず。この一本をください!それで詳しい話をしにまた明日来ますから」

店主・職人はよくわからないといった風ではあったが、また来ると言うのならば深く追求するのを止める。
来た時に話を聞けばいいかと思って。

「まいど」

「じゃあ。また明日来ますので〜」

上機嫌で筆屋から出て行く

!急に消えたから探しただろうが」

政宗が勝手にいなくなるなと叱る。

「あ。探し物が見つかったから・・・ごめんね」

自分の巾着にしまいこんで、何を買ったのかは見せない
紅より気に入るものがあったのかと政宗は思うことにした。
先ほどとは打って変った機嫌の良さだったから。
紅がいいんじゃないのか?とちょっと薦めたらあれだ。

「探し物ってなんだったんだ?」

並んで歩きだす二人。
少しは気になる。の探し物を。

「筆」

「筆?意外なものだな」

「結構いい感じだったよ。あ、茶屋でお団子でも食べていこう!見せてあげるから」

政宗を引っ張っては茶屋へと向かった。





茶屋の縁台で頼んだ団子を食べつつ、先ほど買った筆を政宗に見せる

「ね?いいでしょ?これ」

「使ってみねぇことにはわからねぇが・・・まあ見た感じ悪くねぇな」

政宗は茶屋の者に水を持ってくるよう頼んだ。
すぐに運ばれた湯呑み。それに水が一杯入っている。

「何するの?」

政宗のやろうとしていることが気になり、覗き込むように聞いてくる

「試筆」

湯呑みの水に筆先をつける。

「あー!私が最初に使おうと思っていたのに!」

「墨じゃねぇから気にするな」

どの道最初を政宗にとられた。
政宗は持っていた料紙に筆を滑らせる。
水だから当然なんて書きこんだかはにはわからなかったが。

「結構なものだな。書きやすい」

その政宗の一言には破顔する。

「気に入った?その筆!」

「ん?あぁ。いいんじゃねぇのか」

「良かった・・・・あ!」

政宗が気に入ったと言って、は安堵する。
だがすぐに慌てて口をつぐんで、平静を装おうとする。

「俺が気に入ったからって、なんでが喜ぶんだ?」

「べ、別に」

「お前。素直じゃねぇけど、嘘はつけないよな?」

ん?との顎を持ち真正面が見据える政宗。

「こ、こんな所で何するのよ!ば、バカ!!」

言わなければ、その口塞ぐぞ。などと政宗は言う。
口封じの塞ぐではなく、言葉の通りの塞ぐことだろう。
それがなんなのか、安易には想像できて真っ赤になって逃げる。

「それはそれで傷つくんだが・・・」

「だ、だって。政宗が変なことしようとしたから・・・・」

「変なこととは失礼だな。好きな女に手を出して何が悪い」

政宗からのストレートな物言いに、はいまだになれない。
だからいつも意地を張り、己を隠す。

「そ、それ。政宗はいつもそう言うけど・・・」

「あ?」

「私、お姫様みたいな綺麗でも、可愛くもないし、おしとやかでもないし、す、素直じゃないし」

いったい、そんな自分のどこが?って思って、わからなくなる。
政宗は水で濡らした筆先を拭って布に包む。

「自分のことをそう卑下するもんじゃねぇよ・・・・俺が好きな女なんだぜ、は」

「だ、だから」

「素直じゃねぇ性格も、少々お転婆すぎるところも。俺は好きだけどな」

嫌い、興味がなければ最初からかまうものか。
それにからかうだけからかうなんて趣味の悪い真似をするような男に見えたならば心外だ。

「さ、さっき少しは女らしくしろって、政宗は言った・・・」

「あぁ?んなの気にしてんのかよ。特に意味なんかねぇ。いつものことだろうが」

ただ。そんな事を、自分の一言を気にしてくれるという事は悪い気はしない。
は俯き、少し強めに拳を握った。

「あ、あのね!もうすぐバレンタインだから」

「は?」

急にどうした?

「政宗にはいつもお世話になっているし、何かあげようって思って、その。でも・・・。
政宗はいいものとか、私の手が届かない珍しいものとか持っているから、欲しいものがあるのかわからなくて。
一緒に買物でも行けば、何か政宗の気に入るものが見つかるかなって・・・・思って・・・・」

だから今日、政宗を誘って見たのだと言う。
小十郎や成実に聞くのは簡単だ。彼らはなんでも知っている。
それは頼りになるが、それはそれで、面白くなくて。
自分の力で見つけたものを、政宗が喜んでくれれば嬉しいなと。

「それで筆か?」

「・・・・・・地味な贈り物だとは思うけど。政宗はほぼ毎日筆って使うから・・・・何本でもあって損はないし」

一旦館に戻ってから、どんなものか試してから改めて、先ほどの店の筆職人に注文をしようと思ったのだ。

「俺の為にってのがいいねぇ・・・・んじゃあ、これはありがたくもらっておくぜ」

そのまま懐に収めてしまう政宗。

「え、えぇ!だって、それは試しに買ったもので、明日改めておじさんに頼もうかと・・・」

「あぁ。だから明日俺が直にその職人に注文をつける。その方がいい」

「な、なんか違う」

「俺はその職人と仕事の話がしてぇんだ。いい腕の筆職人が膝元にいたのを知らなかったからな」

出入りの商人が持ってくる筆も確かにいい。上等なものだろう。
だけど、今手元にある筆の方が、政宗にはしっくりくる。

「いいものをから贈られた。礼を言う」

そろそろ帰るかと政宗は立ち上がる。

「だから明日は俺に付き合えよ、

「う、うん」

意地っ張りな、素直じゃない彼女が。
自分の為だと思ってしてくれたことが嬉しい。
なんだかんだで、自分の想いがに届いているのではないかと。

「他にはどこ行きたい?」

「え?」

お代を払って茶屋w出る二人。

の行きたい所に連れて行ってやるさ」

「・・・・・」

は少しだけ考え、思い切って口にする。

「紅屋」

「へぇ」

「政宗が、私に似合うっていう紅でも選んでもらおうかな・・・なんて」

えへへと照れる

「O.K。いいもの選んでやるさ」

別に紅などささなくても、充分はいい女だとは政宗は思っているが。

「ところでよ・・・・」

「んー?」

「さっき言ったバレンタインってのはなんだ?」

「・・・・・・・」

しまった、うっかり口を滑らせた。政宗はバレンタインデーと言う存在を知らなかったのだ。
普段から他国の情勢、特に英語を口にしたりするので、知っているもののと思っていた。
だが、が知っているようなイベントの存在は流石の政宗でも知らなかったようだ。

「え、えーと・・・・これと言って、特になんてことないよ・・・うん」

口が裂けても言えるものか!
好きな人に、チョコレートを贈り愛の告白をする日など言う事を。
必ずしもそうというわけではない。義理もあるし、友だち同士で楽しむこともできる。
でも・・・。

「何を隠しているんだ?バレンタインってのが何かってのを俺は聞いているだけどな」

「・・・・・は、母の日とか父の日の延長みたいなものだよ・・・・」

「嘘だな。さっきも言ったが、は嘘はつけねぇからな」

政宗からの上から目線に耐えられない。

「す」

「す?」

「好きな人に贈り物をする日!!」

それだけ言っては駆け出した。
悲鳴にも似たような声がこだましていく。
置いていかれて唖然としてしまうも、政宗は口元を緩め笑む。

「好きな人に贈り物をする日ねぇ・・・だったら俺も何か贈らないとな」

何を贈れば彼女は喜ぶだろうか?
政宗は上機嫌での後を追うのだった。







19/12/31再UP