青天霹靂



ドリーム小説
楽しさと、賑やかさが毎日続き、穏やかだなと思えた。
だが、乱世はまだ続いている。
関西を中心に治める豊臣は確実に領土を広げており油断はならない状況だ。
ただ、武田・上杉・伊達の三国同盟の影響なのか直接的な攻撃は仕掛けられていない。
それに同盟を結んだわけではないが、加賀の前田家も豊臣には屈しないと表明している。
西国・四国の毛利・長曾我部・島津もそう簡単には屈していないようだ。

「今日も政宗はいないんですね。普通国許でどっしり構えているものじゃないんですか?」

政宗の正室であるが、側室の猫御前とのんびりと過ごしていた午後。
一時期二人の仲はこじれていたようだが、それも過去のこととなっている。
猫は日々兵五郎の母親としての顔になり、武家の娘としてのしきたりなどがわからない
色々と教えてくれている。
にとって守り役の喜多とは別にまた頼れる姉ができたようなものだった。

「普通はそうでしょうが、殿のご性格を考えると・・・ご自身で確かめられる方が安心なのでしょうね」

「でも、信玄様や謙信様はどっしり構えていますよ?」

その分。配下の幸村たちが忙しいようだが。

「あらあら。様は殿が居られなくて寂しいのですね」

くすくすと笑われてしまう。

「ち、違いますよ!別に居なくても寂しいなんて思いません」

猫に指摘されて顔を赤く染める
政宗が居ずとも、の周りは常に賑やかだ。寂しいなんて思える暇がない。

「三国同盟かー・・・」

様?」

「あ、ううん。なんでもないです」

豊臣とのことが決着つけば破棄されてしまうのだろうか?
少しばかりそれが心配だ。
その場合、今度はその三国で争うことになればと思うと・・・。
には今のままで十分なのだ。
天下は確かに政宗にと願うものだが、出会った人たちとのことを思うと上手く願えないでいる。

(幸村様とか、慶次さんと争うの嫌だもんなぁ)

甘いかもしれない。
だからこの事は口にしない。

「もうじきお帰りになりますよ。そうしたら目一杯甘えたらよろしいではないですか」

「ね、猫様。甘えるって!私別に甘えませんよ!」

猫は随分変わった。
猫だって政宗の妻には変わりないのに。
そう言える余裕がすごいと思う。



*



最近どうも体の調子がおかしいと思い始めてきた。
少々けだるい気がするし、朝、起きたときすっきりしないのだ。
気持ち悪い。
そんなことを感じ。
その所為で、今朝は中々起きられず、いつもならば猫たちと食べる朝餉も一人だけ遅いものとなってしまった。

「せっかく作ってくれたのに、ごめんね・・・いつきちゃん」

伊達家の台所を預かるいつき。
彼女を前にしてのんびり食べている

「別にええだよ。具合が悪いならしょうがないべ。お医者様に診せただか?」

「んー?別にそこまでって気もするし・・・・季節的なものじゃないの?」

パクパクごくり。
食欲がないというわけでもない。
じゃあやっぱりたまたまなのだろうか?

「そうかもしれねぇけど・・・・一度診てもらったほうがいいべ」

「うーん・・・・」

何かしらたいした病でもないのに、医者に診せたと知れば政宗が煩いような気がしてきた。
必要以上に過保護になりそうで。
正直、それは鬱陶しいので勘弁してもらいたい。
ああ、違う。そこに彼らしい嫌味も加わりそうだ。

殿。具合はいかがですか?・・・・ああ、食欲があるのならば問題なさそうですね」

成実がやってきた。
政宗の留守中、彼が中心となってここを守っている。
ちなみに小十郎は政宗に着いている。

「本日、殿に届けられた文です。どうぞ」

侍女にやらせればいいものを。というようなことを彼が普通にやる。

「ありがとうございます。後で読ませていただきます」

文箱は数個。
一つは政宗からで、毎回遠出すると必ず送ってよこす。
そんなにマメな男だったのかと驚くぐらいに。

「ところで殿」

「はい?」

「・・・・・・・好き嫌い直ったのですか?」

「は?」

成実が珍しいものを見たというような目でを見ている。
なんだ?と小首をかしげるが、そばにいたいつきも「あ」と声を上げる。

「なに?いつきちゃん」

・・・ナス食ってるだ」

「ナス?」

「ですよね?あんなに毛嫌いしているモノを平然と食べているので」

小十郎お手製のナス。
どんなに美味しく調理しようがはそれを食うことを拒否する。
それでも残してはいけないといつきなどから言われると強く反論できず。
渋々飲み込むように食べる。
ナスの浅漬けを小皿に用意してあったのだが、はそれを普通に食べていた。

「・・・・・あれ?・・・・・不思議と食べられるんですけど・・・」

!や、やっぱ医者に診てもらった方がいいだよ!どこか悪いかもしれねぇべ!?」

あれほど嫌だと言っていたものを・・・。
いつきはどこか変だと騒ぎ始める。

「いつき。どうなさったのです」

そんないつ気の声を喜多が聴きつけ叱りつけた。
それどころではないと喜多に必死に説明するいつき。
喜多は少し考え、後で医者を連れてまいりましょうと答えた。





「ご懐妊でございます。おめでとうございます」

医者からそう言われて、は一瞬言葉がでなかった。

「懐妊?って・・・・」

「お子ができたのでございますよ」

「・・・・・・・・」

当然なのだが、政宗との子だ。
は顔を何度も両手で覆う。
気持ち的によくわからない。
嬉しいのだろうが、嬉しいと叫ぶほどでもないし。

子ども?
自分が母親?
はー?

などと考えてしまう。
政宗にまず報告しなくてはいけないのだが、生憎不在。
いつ頃戻るのかもわからない。

「手紙・・・手紙になんて書けばいいのかなーねーいつきちゃん」

真っ白い紙と筆を前には唸ってしまう。

「なんてって・・・おらに聞かれても困るだよ。でも政宗は知ったら喜ぶだろうから早い方がいいだよ」

「だから、なんて書いて良いかわからないの〜」

なんとなく恥かしい。
要は「あなたとの子どもができました」ってことを文面にするわけだ。

「それでいーんでないか?」

まだいつきには子どもがどうとかは興味がないものらしい。
ただ、に子が出来たことに関しては以上に喜んでいたのだが。

「いつきちゃーん」

「なら、私が書いて差し上げましょうか?」

くすくすと笑うのは側にいた成実だ。

「え。どうしようかな・・・それもいいかもと思った私は不味いでしょうか?」

「別に構わないと思いますが?ただ、いつき殿が言われたとおり、政宗様はあなたからの方が喜ばれると思いますよ?」

「・・・・・じゃあ、やっぱ成実さんに頼もうかなー」

わざとらしく言う
元鞘に戻ったとしても、相変わらず意地の張り合いをしてしまう二人のようだ。

「まだ実感湧かないんですよねー自分に子どもがって」

は文机に体を突っ伏してしまう。

「おや、そうですか?周りは実感済みですよ?」

「んだなー。が大嫌いなナス食っただけで大事だものなー」

「そんな実感のされ方嫌です」

「懐妊された場合、人によっては味覚といいますか、食に変化が現れるようですよ」

今まで食べられたものが食べられなくなったり、逆に嫌いだったものが食べられるようになったり。
異常に何かを、例えば果物なのを欲しがったりするらしい。

「あーそれはなんかわかります。無性に何かが食べたいって、私のお母さんがそうだったらしいです」

自分もそうなのかな?などと思ったりする。

「食に変化ってことは・・・おら、頑張らねぇと・・・」

これから大変だといつきは少し真面目に決意する。
と、の子どもに栄養のあるものを食べてもらわねばと思うのだろう。
その食べられなくなるってことがないようにしたいとも。

「私より、周りがはりきっていますよね・・・・」

「これからのことを思えば政宗様が一番そうなられると思いますよ」

目に浮かぶ。

「あーなんか色々不安になってくるー」

「私どもではその不安というものがわかりませんから、猫殿にお話されてはいかがですか?」

身近にいるお母さんなわけだし。
それが一番いいのかもしれない。

「ところで、文はいかがしますか?」

「・・・・・どうしましょう」

思わず苦笑してしまう。

「はいはーい。俺様参上〜ちゃんにお届けものでーす」

「わ。佐助さん!?」

しゅたッと着地する佐助。
天井裏でなく、一応縁側からのご登場だ。

「お届けものって?」

「はい、これ。まーったくやんなっちゃうよねぇ。俺のご主人様は真田の旦那なのに。独眼竜の旦那ったらさー」

政宗からの贈り物らしい。
しかも忍の使い方を間違えていると佐助はぷりぷり怒る。

「佐助さん、ごめんなさい」

「あ。ちゃんが謝ることないよー」

「わざわざ猿飛殿がということは、政宗様のお帰りはまだのようですね」

「政宗の日頃の行いのせいだな。こんな大事な時に帰ってこれねぇんだもん」

いつきはしょうがない奴だと両手を腰に当てる。
相変わらずここの身内さんたちは自分の所の殿への扱い悪いよな・・・なんて佐助は思う。

「なになに?なんかあったの?」

「え、えーと・・・」

の顔が赤くなる。

「ご懐妊ですよ。殿が」

「う、うわー成実さん、あっさり言わないでくださいよー恥かしいんですよ、私」

慌てる
佐助は口を鳴らした。

「へーマジマジ?良かったじゃないの。おめでとう。ちゃん」

「あ、ありがとうございます」

「そりゃあ独眼竜の旦那もそれ聞いたら早く帰りたくなるよねー」

「でも、まだ知らないだよ。政宗は。誰も伝えてないだ」

うわー可哀相ー。
佐助の顔がそう語っている。口に出さずともたちにもわかる。

「あ、えっと・・・まだ帰ってこないだろうから文で知らせようかなって思っていたんですけど・・・」

「そうなんだ。なんなら俺が伝えてあげよっか?」

どうせこの後とんぼ帰りなのだ。
ちゃんと政宗からの品物をに届けたと伝えるために会うことだし。

「佐助さんの口からってのも楽でいいんでしょうけど、やっぱり自分からの方がいいですよね」

「それは政宗様もお喜びなるでしょうね」

「んー・・・佐助さん!少しだけ、少しだけ待ってくださいね。今から政宗宛の文書きますから!」

長々と引っ張るものでもないだろうとは考える。
パパッと行け!勢いも大事だ!恥かしいとかなんて言っているな!と内心気合を入れる。
佐助はのんびり書いてていいよーと返事をした。
流石にすぐに出発は疲れるようだ。成実がそんな佐助に茶と菓子を出していた。



*



政宗は現在甲斐にいた。
信玄公と直接大事な話があったからだ。
使者を使ってのやり取りもいいが、手っ取り早く確実に進めようと政宗の方から出向いたのだ。
その何日目かの滞在中に佐助を使ってに贈り物をした。
だけでなく、猫や兵五郎にもだ。
使うなら自分のところの忍を使ってよねーと佐助に文句を言われるも、幸村に頼まれたら従うしかなく
佐助は飛び出していった。
それから更に数日後に佐助が戻ってきた。

「あー良かったー。独眼竜の旦那と入れ違いになったらどうしようかと思ったー」

信玄との会談は終わり奥州への帰路に着いていたら・・・。

ちゃんにはちゃんと届けてきましたよ」

「悪いな。文を送った時に一緒に持たせれば良かったんだけどな」

まったくその通りだなと思ったが黙っておく。

「あ、ちゃんから文預かっていますよ」

珍しいことをとフッと政宗の眼が和らぐ。

「そうか?」

佐助から受け取る政宗。
そんなに長文ではなく、ただ紙が一枚折ってあるだけだ。
開くとそこに一言だけ書かれていた。
それを見た政宗に向かって佐助はどこから出したのか紙吹雪を撒いた。

「独眼竜の旦那。おめでとー!」

政宗の頭に降る紙吹雪。

「さ、佐助。な、何をしているでござるか?」

一応その場にいた幸村と小十郎も佐助の行動をいぶしがる。

「ん?おめでたいことがあったから祝福してあげてんの。ほら、旦那も」

「そ、それがしもか?」

よくわからないが渡された幸村も撒く。

「・・・・・」

「あれ?どうしたの?嬉しくないの?旦那」

微動だにしない政宗に佐助が問う。

「Hey・・・こりゃどういう意味だい?」

「へ?」

からの文というか、紙切れ。
そこに書かれた一言。



   男の子と女の子どっちがいい?



とのこと。
佐助はなんで?と政宗を逆に聞き返す。

「意味、わからないですか?」

「わからねぇな」

「えー・・・・・多分これでもちゃんの精一杯なんですよー旦那」

わからない政宗を佐助は小ばかにしたような目を向けるが。
佐助は事情を知っているからだろう。

「だから、なんのことだって聴いているんだ」

「・・・・書いてあるまんまのことですよ。俺の口から言うの?折角ちゃんが自分からって言ってたのに」

佐助は面倒臭そうに頭を掻いた。早く言えと政宗が睨みつけるが、それが人に物を尋ねる態度かと面白くない。
だから。

「真田の旦那。耳貸してーあのね、ちゃんがね」

「おい!」

政宗ではなく幸村に耳打ちをして教えてしまう。

「真か、佐助!政宗殿、おめでとうござりまする!!」

政宗の両手を掴んでブンブン振る幸村。
だからなんだと政宗は佐助に問いただす。
佐助は更に小十郎にも教える。
聞いた小十郎は政宗に向かって頭を下げた。

「確かにめでたいことでございます。政宗様」

「だから!」

「猿飛。悪いが、政宗様には言わぬほうがいいだろう」

「やっぱり?」

佐助はケラケラと笑う。
小十郎までもが政宗を裏切るような真似をする。

殿から直接伝えてもらったほうがいいと、小十郎は思います」

不敵に笑う小十郎。
要はからの一言で気づかない政宗が悪いということだろう。





っ!!」

政宗は急いで甲斐から戻ってきた。
しかしその顔は不機嫌でしょうがないと見てわかる。

「なによ・・・うるさい」

対するも政宗のそんな態度に不機嫌になる。
運悪く、つわりが酷い時に政宗が声を荒げて入ってきたのだ。

「これはどういう意味だ?An?」

バッとが書いた文を突きつける政宗。
の眉がぴくりと動く。

「どういう意味って・・・・あんたまさか・・・・」

東の館へ、ここへ来るまでの間中、家臣たちなどから「おめでとうございます!」なんて言われ頭を下げられるが
その意味をまだわかっていない政宗には、自分だけが知らないこととして苛々してしまっていた。

「お前の口から聞けばいいと、小十郎が言うし・・・誰も教えやしねぇ」

「・・・・その文面で気づいてくれないわけ?」

「これで何がわかるってんだ?」

「うわっ。信じられないっ!バカ、阿呆。少し考えればわかることでしょう!?」

に罵られて政宗の顔が歪む。
わからないものはわからないのだ。
喚きだすに政宗も黙らず恒例の口喧嘩が始まってしまう。
いつもよりの様子が変だと流石に政宗も気づくが、売り言葉に買い言葉でとどまることを知らない。

「何を揉めていらっしゃるのですか?お二人とも」

そこに猫がやってくる。

「殿!様は今が一番大事な時、あまり興奮させるような真似は控えてくださいませ」

「猫さまーもうーこのバカ嫌ですー私実家に帰るー」

猫が止めてくれたことでは猫に泣きつく。

「・・・・なんだ?具合悪いのか?」

様。ほら落ち着いてくださいませ。殿、殿は身籠っておられるのですよ」

「なに?・・・俺の子か?・・・あ、だから・・・・」

ようやく意味がわかった。
生まれてくるなら男児・女児どちらがいい?そういうことだろう。

「あんた以外に誰の子だって言うのよ!バカじゃないの!最低」

はすくっと立ち上がる。

「今までお世話になりました!幸村様に泣きついてやるー」

「待て!

政宗には一番効く言葉だろう。今でも幸村に対して油断がならないと思っているのだから。
幸村にその気がないとしてもだ。
ジタバタするの腕を掴み背後から抱きかかえこむ政宗。
猫にしばらく二人にしてくれと退出を願い、猫はそれを聞き入れる。
ついでに周囲にいたギャラリーのことも頼むと。

「落ち着け、。俺が悪かった」

耳元で囁きなんとか宥めようとする政宗。

「はっきり書けばいいじゃねぇか。なのによ・・・・あ、いや・・・すぐにわからなかった俺が悪い・・・」

ただ周囲がはしゃぐのが少々面白くなくて、つい・・・・。
呟き程度に小さくなる正宗の声音には大人しくなる。
自分だって、素直に書けば済んだことだろうに。

「・・・・政宗は・・・・私との間に子どもできて嬉しい?」

「嬉しいに決まってんだろ。ずっと願っていたことだぜ?」

「ならいい。色々不安だけど、私元気な赤ちゃん産むからね」

自分を抱え込む政宗の腕にそっと触れた。

「兵ちゃんにとっても、兄弟ができるわけだし。これからもっと賑やかになるね」

「ああ」

政宗はを抱き上げる。
そして寝所へと連れて行く。

「具合悪いんだろ?無理しないで寝てろ」

「目一杯喚いたら少しは楽になったから大丈夫だよ」

「それもどうかと思うが・・・ま、いいじゃねぇか。休め」

もう幾月季節が巡れば、この館に新たな笑い声が響くだろう。
そして伊達家は益々安泰することになる。









19/12/31再UP