合縁奇縁



ドリーム小説
「女の子・・・あは、あはははは」

さん?どうなされました?」

突然笑い出したに喜多は面食らう。
目尻に涙らしきものが光る。
悲しくて泣いているのでもない、嬉しくて泣いているのでもない。

「なんか、可笑しくて」

「はい?おかしい?」

なぜ、今そんな反応が出てくるのだろうかと喜多は首を傾げる。
は女児を出産した。
勿論政宗との間にできた子だ。





【それから】





政宗は生まれた我が子に考えた名をサラッと書いた。

「政宗」

筆を置いた政宗のそばにがやってきて座った。

「おう。・・・・名前決めたぞ」

すでにさらりと半紙に名を刻んでいた。

「「いろは」」

政宗との声が重なる。
娘を抱いて笑っているに政宗は口を鳴らした。

「へぇ。こいつが読めるとはな」

「まあね。すごいでしょー?尊敬してくれてもいいよ」

「別に尊敬はしねぇ」

サラッと流す政宗。
半紙には「五郎八」と書かれている。

「産まれた子、男の子じゃなくて残念だった?」

少しだけ意地悪く聞いてみる。

「あ?何言いやがる」

「だってぱっと見、これでいろは≠ニは読まないよ。男の子の名前しか考えていなかったんでしょ?」

「お前は読めたじゃねぇか」

「そりゃあまあね」

が出産後に可笑しくて笑いがこみ上げたのには理由がある。
ただ、それを知っている者はいない。
以前、思ったことだ。
ここが過去の戦国時代とは違っていたが登場する人物たちは実在していた者たちばかりだった。
多少イメージが違っていて。
そんな中で、すでに政宗には正室がいてもおかしくないと思ったのに「愛姫」はいなかった。
田村家の姫君らしいがそれらしい名をまったく聞かなかった。
自身深く考えていなかったのだが、どうやら・・・。

(私が愛姫の代わりみたい・・・・)

政宗と愛姫の間に最初に生まれた子は女児だった。
実際はそうなるのに十五年もかかったのだが、政宗との間ではそんなに時間は経っていない。

(全部が同じって訳じゃないのだけどね。なんだか笑っちゃった)

「五郎八。それでいいだろ?」

「響は可愛いよね。いろはちゃん・・・・・あ、そうだ!政宗来てよ」

「あ?」

は立ち上がり政宗を隣の室まで引っ張る。
政宗が室に踏み入れると沢山の反物が積まれている。

「なんだこりゃ」

はおもむろに一つ手に取る。

「あー桃色でうさぎ柄だ。可愛い〜。ね?いろはちゃんにきっと似合うよ」

出入りの商人から買ったものだろうか?が喜んでいるので別にいいが。

「これね、さっき佐助さんが届けてくれたの。幸村様からの出産祝いだって。相変わらずお優しいなぁ」

真田幸村だと?
政宗の眉がピクリと動く。から反物を取上げる。

「あ、ちょっと!」

「五郎八に最初に仕立てる着物は俺が選ぶ」

「・・・・・なに、幸村様に張り合おうとしているわけ?」

呆れながらは再び反物を奪い取る。

「うるせー。お前もいつまでも真田なんぞにへらへらしてんな」

「あ。カチンと来た・・・・」

の目がスッと細くなる。

「へらへらなんかしていませーん。政宗こそいつまでもグチグチ言わないでよね!」

「あ?誰がグチグチ言ってるッて?」

「言ってるじゃない。幸村様に対して対抗心燃やしすぎ!」

「そりゃが」

「私が何!?」

火花が散っていそうな睨み合い。
侍女も家臣もまたかという目で止めもせずに放っている。

「お二人とも。お子の前でお止めくださいませ」

凛とした声が割ってはいる。

「猫様」

「なんだよ。猫」

「殿も様も、お子の前でみっともないです」

猫御前が五郎八を抱き、兵五郎と手を繋いで呆れている。
兵五郎とは政宗と猫との間に産まれたあの赤子だ。もう随分大きくなっている。

「父上、ママ上。お二人の声が向こうにまで響いておりました」

「あ。ごめんね、兵ちゃん」

流石に子どもに言われては恥かしいとは二人の方を向き笑う。
兵五郎の頭を優しく撫でて。

「そうだ。兵ちゃん。この子の名前いろはっていうの。仲良くしてあげてね、あなたの妹だから」

は兵五郎を抱え、猫の腕の中にいる五郎八の顔をのぞきこませた。

「はい!兵五郎が守ってみせます!」

「兵ちゃんカッコいい〜その点父上はダメね。いつまでも小さいことでグダグダ言って」

「ふふっ」

の言葉に猫までも噴出してしまう。

、お前な・・・あー俺が悪かったよ」

「はい、素直でよろしい」

誰であろうがには勝てない。
そんな雰囲気がする。
降参だとばかりに政宗は両手を上げた。

「政宗様。武田から使者が参りました」

「おう。今行く」

小十郎と成実が政宗を呼びに来た。

殿。使者殿と後で会われますか?」

「し、成実殿。何も今言わずとも」

にっこり笑みを浮かべる成実。それが何を意味するのか考えるのも怖い。
成実の言葉に聞いて政宗は舌打ちする。

「行くぞ、小十郎。、お前は来るな」

「来るなといわれると行きたくなるものだけど?」

「うるせー。武田の使者とは大事な話があんだ。首突っ込むなよ」

これはあくまで当主命令だと政宗は付け加える。
成実にも余計なことを言うなと目で牽制しつつ。

「成実、お前はその反物なんとかしとけ」

「・・・・なんとかと言われましてもねぇ・・・・・」

政宗は小十郎を連れてさっさと室を出て行く。
残されたたちはしょうがないとそれをただ見送った。

「猫様。猫様はどれがいいと思います?」

行ってしまった政宗のことはこの際置いといて。
は座り込み、他の反物を手に取る。
猫ものそばに行き座る。

「どれも素敵なものですわね・・・・ああ、これなんかいいではありませんか」

女の子だからなのか明るめの淡い色のものばかりだ。

「兵五郎。そなたならどれがいいと思う?」

物珍しそうに見ている兵五郎に猫が訊ねる。
兵五郎はよくわからないと首を傾げてしまう。

「にしても・・・・よくこれだけのものを贈ってこられましたな、幸村殿は」

成実はどうしたものかと苦笑する。
幸村本人は本当に善意の気持ちで贈ってよこしたのだろうが、政宗が簡単に不機嫌になるから可笑しくてしょうがない。

「幸村様というより、佐助さんのような気がしますけどね」

「ああ。そうかもしれませんね」

幸村はどんなものをと悩むだけ悩み、結局佐助が手配する。そんなところか。

「先ほど信玄公からも届きましたよ」

「なんか皆様にはよくしてもらっちゃっているなぁ。謙信様からも届けられたし」

「お花・・・・でしたね。大量に」

猫は贈られたときのことを思い返す。
真っ赤なバラの花束が贈られていたのだ。届けてきたのは前田慶次だった。
思い違いをしてしまいそうになりそうだった。

「武田も上杉も一時的なこととはいえ、我が国と同盟を結んでおりますからね」

だから贈り物も繋がりで寄越したのだろうと成実は言う。
上杉謙信はそうかもしれないが、武田信玄は少なくともと面識があるために、本当に考えて贈ってくれたかもしれないが。
そう。
現在、武田、上杉そして伊達とは同盟を結んでいる。
それは数年前になる。
織田が明智に謀反を起こされ滅んだ際に、豊臣秀吉が台頭してきた。
力で物を言わせる豊臣に対し、西国の方はじりじりと押されていった。
それでもなんとか踏みとどめていたがその魔手が政宗と幸村に向けられた。
それは単なる偶然の出来事であったが、政宗を凶刃から庇いが負傷した。
豊臣の驚異的とも呼べる侵攻になんとかせねばと武田信玄が周辺国に同盟を提案したのだ。
直接奥州が豊臣の脅威にさらされることは皆無だったが、圧倒的な力の差と責めるにも位置が悪すぎた。
彼らが本拠地としている場所へ乗り込むには通らねばならぬ他国の領地。
とりあえず、打倒豊臣という名の下、政宗は同盟を承諾した。
今の所、押しつ押されつつの攻防戦が繰り広げられている。

その話を政宗に持ってきたのは、同盟の使者となったのは幸村だった。
を甲斐から米沢へ送り届ける際、信玄公が幸村に命じたのだ。
そして上杉家との繋ぎとして謙信公と旧知の中だという前田慶次がその役を引き受けた。

話はまだある。
と猫御前のことだ。
が戻ってきたことにより一触即発となるかもしれないと家臣たちは危惧した。
何より正室と側室で派閥ができでもしたらと。
だが猫の方が身を引こうと米沢城を出ようとした。
の帰還により自分の居場所がなくなる、政宗は見向きもしなくなると感じたのだろう。
それをが引き止めた。
何をいい子ぶってとその時の猫は思ったらしいが、猫は兵五郎の母でもある。
悪いのは猫ではないのだからと、が関係の改善を願ってきたのだ。
奇麗事をと思いながらも、我が子のことを思うと猫は米沢を去ることができなかった。
猫も半ば強引に政宗に嫁がされたものだ。
しかも世継ぎの為にと。

それ以来、猫はちゃんと立場を弁え、を立てるようになった。





「お久しぶりでござる。政宗殿。それと此度はおめでとうござりまする」

深々と政宗に頭を下げ、祝いの言葉を述べる武田の使者。
政宗は面白くはなさそうであったが、贈られた物のこともあるので礼をいう。

「あんたも元気そうだな。幸村」

「それがし、それだけが取り柄でござるよ」

武田の使者は真田幸村だった。
佐助も後方に控えている。

「それで?今日は祝いを持ってきただけかい?」

「そうでござるが?」

少々ムッとする政宗。

「独眼竜の旦那ー。そんなに警戒しないでよー今じゃこの旦那にも素敵な奥さんいるんだよ〜?」

「さ、佐助ぇ!?余計なことを申すな!そ、それにまだ奥方ではない!」

くつくつと笑う佐助。わかりやすい人たちだと。
一瞬にして顔を赤くする幸村。
佐助の茶々に政宗は口許が緩む。

「へぇ。あんたもようやく身を固める気になったのか。そいつはいいな」

「だ、だからそれがしはまだ」

「いやーこれがまた旦那に似合いの人でぇ」

「佐助!」

「今度その奥方とやら連れてこいよ。俺も会ってみたいものだな。なあ?」

「ま、政宗殿!」

和やかな空気が流れる。
この男との関係も不思議なものだと政宗は思う。
最初は会えば刃を交える政宗が感じる生涯唯一の好敵手だと思っていたのに。
いや、今もその気持ちは変わらないだろう。
真剣勝負と呼べるのはたったの一度きり。
いつも何かしら邪魔が入った。
またいつか勝負が出来るのならばと思うが。
今は互いに己を高めあうことが中心となっているし、当面の敵は豊臣だ。

「旦那も早く帰りたいとか思っているでしょうけど、しばらくは御館様の命をちゃんとこなしてくださいよ?」

「よ、余計なことを申すな佐助!そ、それがしはちゃんと御館様のご命令にはしかとやりとげる!」

「なんだ、早く帰りたいのか?別にいいぜ、とっとと帰って嫁さんと仲良くやんな」

「政宗殿ぉ!」

からかわれっぱなしの幸村にその場にいた者全員笑ってしまった。

「ま。急ぎ帰る前にに顔でも見せてやれよ。喜ぶだろうよ。さっきもあんたからのプレゼントに喜んでいたしな」

急に心に余裕が出てきた。
みっともないと思いつつもいまだどこかで、に対する幸村の態度を警戒していたのだから。
それがどうだ。
幸村にも甲斐で待っている人がいると聞けば、そんなのスッとどこかへ飛んでいった。
成実が今この場にいたら、さわやかにツッコミを入れてきそうだ。





「へぇ。幸村が来てるだか?そんじゃあ政宗は気が気じゃねぇんじゃねえだか?」

畑を耕している小十郎の手伝いをしているいつき。
彼女もまだ幼さは抜けないものの日々成長している。
今では伊達家の台所を預かる者だ。

「そうでもないらしい。まったく政宗様もわかりやすいお方だ」

が関わればそうなるだ」

ケラケラと笑ういつき。
確かに政事では立派な領主として良き判断で治め民からも慕われている。

「幸村が来たなら、今日はたんとご飯を用意しなければならないなぁ」

「ああ。大変だろうが頑張ってくれ」

「・・・・んー・・・」

「どうした?」

ポツンと立ち何かを考えているいつき。
小十郎は鍬を持つ手を止める。

「なんとなくな。幸村だけじゃなくて、慶次も顔を見せそうだなと思ってな。んだら、もっとご飯用意しなきゃと」

「前田殿か・・・・あの人もふらりと来るからな・・・・」

「慶次は幸村の倍食うだ」

二人揃ったならば大忙しになりそうだ。

「だけんども。まだ大丈夫だから小十郎の手伝いしてやるだよ」

「それはすまないな」

「おらも畑仕事は楽しいからいいだよ。んで?今日は何を植えるんだべ?」

小十郎は不敵に笑った。

「ナスだ。殿のナス嫌い。この小十郎が直して見せようと思ってな」

「あー・・・・あー・・・・そりゃ大変だべ」

いつきは苦笑する。
大変というのは、のナス嫌いを直すことなのか、小十郎の手から逃げられそうにもないのことなのか。
両方かもしれない。





いつきの予想は当たった。

「ったー。あと少しだな。米沢城まで。ここまで来りゃ利もまつ姉ちゃんも追ってはこないだろうな」

「キッ!」

小猿の夢吉を肩に乗せてのんびり歩いている慶次。
風の噂でに女児が誕生したと聞いた。
だからちょっと顔を見せて祝ってやろうかと思い、米沢へと向かっていたのだ。
道中、叔父夫婦が慶次を連れ戻そうと追いかけてきたがいつもみたいに撒いてやった。

「ま。とりあえずのんびり行くかー」





その晩とても賑やかだった。
久しぶりに幸村や慶次たちに会えたから。
元々ノリのいい伊達軍。若武者たちも交えて大宴会となった。

「五郎八はお前に似ているな、

ようやく宴会も終わりそれぞれ寝付いたころ。
政宗とは東の館で静かに過ごしていた。
飲んだ酒のせいかとてもいい気分だ。

「そうかな?政宗に似て美人さんだと思うな、私は」

「そうかあ?俺はに似ていると思う」

どっちに似ている。などと何度も繰り返す二人。
中々認めない二人。
は思わず噴出してしまう。

「どっちに似ているもなにも、二人の子どもなのに。可笑しいの」

「はははっ確かに。どっちに似ていても当たり前だ」

政宗はごろりと横になりの膝の上に頭を乗せた。

「でも、女の子は父親に似るっていうよ?」

「じゃあ男は母親か?」

「最初はそうでも、大きくなると父親に似るね」

「結局親父似かよ。でもいい、次はお前似の男を産んでくれると思っているからな」

「それはどうかな〜」

「俺も無理強いはしねぇよ」

本当は知っている。
愛姫はちゃんと伊達家の跡継ぎとなる男子を産んでいる。
だか、は愛姫ではないから。
今回は偶然女子で「五郎八」と名付けられた子を産んだが。

「焦らない、焦らない」

丸々同じ歴史の流れではないのだから。

「ん?どうした?」

「別に。たださ」

「あ?」

政宗は体を起こす。
途中まで言っては口をつぐんだ。
余計な不安を政宗にさせたかと思い。
ふと思ったことなのだ、自分がこの世界に来て随分馴染んでいるが、この先どうなるのだろうかと。
だがそんな先のことなど誰にもわからないから。



「い、痛い。痛い」

政宗はおもむろにの頬を抓った。

「前にも言った。勝手にいなくなるなよ?」

ニヤッと笑う政宗が恨めしい。の意思ではそうならないと思っているとわかっているようだ。
でもどうしても政宗の前から姿を消すことになってしまう場合はある。
突然この世界に来た逆のことが起こったとしたら・・・・。

「あの言葉、まだ有効だろ?いつか俺だけを見て欲しいって・・・・」

抓った手は優しくその頬に触れている。
を見つめる唯一の左目はとても優しくいとおしい。
自分の名を呼ぶ政宗の声音も心地良く思える。
最初は反発ばかりしていたのに、しっかり政宗に惹かれていたのだから。
は政宗に向けて微笑んだ。

「私も言ったよ?お世話になったから勝手にいなくならないって」

「お前、それは」

「それに。私がずっと見ているのは政宗だけだから、いなくなったりしないよ」



「政宗の方こそ、私がいなくならないようにしっかり見ておきなさいよ」

政宗はそっとを抱き寄せる。

「ああ。約束だ」

もう何があっても大事なものは失わないように。







終わり

19/12/31再UP