君に届けたいもの。



ドリーム小説
もうすぐ2月14日。
2月14日と言えばバレンタインデー。
けど、ここじゃあまり関係ない。
関係ないと言うより、知られていない。
それは当然の話。
だって、私が居た時代での話だもん。
好きな人にチョコレートを渡して愛の告白をする日。なんてのは。
所謂イベント。
世に出て歴史の浅いものだろう。

なので、当然ここではその存在は知られてはいない。
いないけど、私もやっぱり女の子だったわけで。
好きな人に告白は無理でもチョコレートのプレゼントはしたいわけで・・・。
もうすぐ14日だな。と思ったら何かしたい!ってやる気は出たのですよ。

出たのだけど・・・・。
うーん、どうすればいいのかな?
好きな人に限らず、贈りたい人はいるんだ。
本命義理含めて。ってこと良しとしよう。
肝心なのはチョコレートだ。
チョコレート菓子は流石に見当たらないここ。
まだ輸入されていないし、チョコ菓子の生産ってないしねぇ〜
あれかな、私が知らないだけで実はあるとかって?
そう思うと、ここ甲斐にはなくとも他国にはありそうだよね。

あるとすると・・・・・伊達さんちとか?
あの人流暢に英語を話すし、その辺の事情詳しいように見えるし。
頼んでみるのもいいかな?

あ、ムリムリ。
だってそんな事したら確実に機嫌を損ねる人がいるから。

じゃあ・・・・九州にいるなんとか教って宗教団体?
あそこは完全に欧米か!ってツッコミをいれてもいいような団体だよね?
・・・・・・・。

もっと無理だ。
と言うより、あまり関わりを持ってはいけないような気がする。

うーん。じゃあどうするか・・・・。
チョコレートはないなら、他のもので代用するしかないわけで。
普通に考えて代用できるのは和菓子か。
うんうん。これが妥当だね。



妥当・・・・?いやいやいや。
妥当なんだけど、問題が出てきた!
うわ、どうしよう〜



「どうかしたでござるか?

「えっ!?ゆ、幸村君っ!?」

顔を覗きこまれて私は驚き後ろに下がった。

「・・・・・そのように逃げずとも良いではないか・・・・」

ムッと唇を尖らせる幸村君。
お子様みたいだぞー。ってツッコミたいけど、そんな事をしたら余計にすねるからやめるけど。

「ごめん。別に逃げたわけじゃ。いきなりで驚いちゃったからさ」

「それがし、何度ものことを呼んだぞ」

「あ、あーそうなんだ、ごめん。それで何?」

「うむ。一緒に団子を食べようと思って!」

満面の笑顔で幸村君は大量の串団子を私に見せた。

「お団子ね・・・・うん、食べようか」

縁側で並んで団子を食べる。
これがいつもの光景なんだけど、一部微妙に不思議世界になるんだよ。
それは。

「相変わらずの量だよね・・・」

小さなピラミッドがそこにあるんじゃないかってくらいに積みあがった串団子だ。
きな粉でもミツでもない餡子の串団子だから、積み上げられた所為で餡子潰れかかっているし・・・。

「店の主人がオマケをしてくれたのだ」

「よかったねぇ」

オマケしてくれた。なんて言っても、お店側にしてみれば幸村君は上得意さまでしょう。
幸村君が食べに行くと行かないでは売上げに差がでるもんね。

「佐助が今茶を淹れてくれている。早く食おう、

「うん」

一本の串団子を手に取り食べる。
美味しいっちゃ美味しいけど、これだよ・・・・。
隣の幸村君は嬉しそうに食べているけど、その量が尋常じゃないもん。
これを見るとバレンタインはどうしようって悩むよ、本当。

あ、うん。
私がバレンタインのプレゼントをあげたいのは幸村君だ。
幸村君は普段ならともかく、バレンタインを考えると頭を悩ませる素になる。
だって、見ればわかるとおり、食べる量が尋常じゃないんだよ!
その胃袋、ブラックホールと繋がっているんじゃね?それとも底なし沼のように底が見えないんですか!
ってくらい、幸村君は食べる。
どれだけ食べても彼の口から「お腹いっぱい」なんて言葉は聞いた事がない。
多分ね、佐助さんがこの後お茶を持ってくるって言ってたけど、別のお菓子も持ってくるはずなんだ。

「旦那。お茶持ってきましたよー。ちゃんの分もね」

「ありがとう、佐助さん」

「あとね。蒸し饅頭作りたてを買ってきたんで、そっちも食べてくださいよ」

ほらね。
佐助さんは皿に盛った饅頭を置いた。

「なんと!これは美味そうだ!もそう思うだろう?」

「あ、うん。そうだね・・・・」

胸焼けしそうになるっちゅーねん。
一度幸村君の体を解剖してみたいよ。
その体。いやいや胃袋はどうなっているんですか?って。

話を戻そう。
幸村君の食べる量が尋常じゃないから、バレンタインに特別なものとして贈る菓子をどうしたいいのか迷う。
可愛く手作りでもできればいいのだけど、生憎菓子作りは得意ではない。
しかも和菓子ってなんか作るの難しそう・・・・。
じゃあ買ってくるしかないんだけど、買うにしてもどれくらい買えば幸村君は満足してくれるの?
私のお小遣い分じゃきっとものの数分で胃袋に消えるよ!
お館様に毎月頂いているお小遣い。
コツコツ溜めても、その一瞬で消え去りそうで。
じゃあ何が形あるものにすればいいのだろうけど、なんかねー。
幸村君=菓子って構図ができあがっているんだ。
それにね、お菓子をプレゼントしたときに。

「これは美味そうだ!」

って目を輝かせて喜ぶ顔を見たいなぁ・・・って思うんだ。
あー・・・惚れた弱みって言うのかなぁ、こういうの。
だとすれば、これでもか!ってくらい沢山っ用意するしかないじゃん!
そうするにはお金!何をおいてもお金が必要!
じゃあどうする?
話は簡単己で稼げ!

「それしかないじゃん・・・」

「ほえ?なんだ?

「あ、ううん。なんでもない、お団子美味しいねぇ幸村君」

「うむ、そうだな!」

危ない、危ない。ばれてしまっては困る。



働くにしても、幸村君にばれない方法で稼ぐしかない。
幸村君は自分でも菓子を買いに行くから、当然茶屋や食事所はダメ。
私でも働けそうな場所といえば・・・・。
おぉ、あった!
旅籠。
ここで雑用でもなんでもいいから働かせてもらえれば!
飛び込みで大丈夫かな?と思ったけど、頼んでみると最初は渋られた。

「あんた、幸村様のとこの子だろう?そんな大層な方を働かせるなんてなぁ」

って。いえいえ、私はそんな大層な方じゃないですって。
渋られたけど、訳を話せば納得してくれたみたいで、私はその日から旅籠で働くことになった。
勿論幸村君には内緒。
幸村君だけでなく、佐助さんやお館様、周囲の人にはね。



***



「・・・・・・」

キョロキョロと幸村が辺りを見回しても、捜し人の姿はない。

「・・・・・どこに行ったのだ?」

朝餉を食べている時は何も言っていなかったのに、朝の鍛錬から戻るとその姿はなかった。
昼餉も食べに戻っても来ない。

「どうかしたんですか?旦那」

「佐助!を見なかったか?」

ちゃんですか?・・・・いや、俺も見ていないですけど」

「そうか・・・・どこに行ったのだろう」

「その辺で遊んでいるんじゃないですか?子どもたちがよく来ますし」

「そ、そうだな、うん」

一緒におやつを食べようと思ったが、たまにはそんな日もあるだろうと幸村は思った。
その日が戻ってきたのは、夕餉の時間前だった。
そして。

「・・・・・またおらぬ・・・・」

翌日も、翌々日もは姿を消す。
しかも一日。夕餉の時間にならないと帰ってこない。
幸村自身もやる事はあるので、一日暇だと言うわけではない。
だけど、いつも決まってと甘味を食べる時間があった。
一緒に食べ歩きをしたり、縁側でのんびりと食べたり。
様々ではあるが。
それが急になくなった。
が不在な為に、必然的にその時間は一人になる。
佐助がお茶を淹れてそばに居てくれもするが、彼も忙しいので一人の方が多い。
前はそんな時間が普通であったのに、が来てからは一緒に居るのが当たり前のようで。
その時間が楽しく感じていた。
なのに。

「なんだかつまらぬ」

幸村は頬を膨らまし、縁側に胡坐を掻いた。



***



「は?ちゃんを探れ?」

佐助は幸村から仕事を言いつけられた。
だがその内容はいかがなものだろうか?
一応佐助も、日中が姿を消してしまうと言う話は聞いていた。
佐助にしてみれば、単ににも用事があるのだろう?ってぐらいにしか思わなかった。
だけど幸村には単に。とは思えなかったようで。

「そうだ。が毎日隠れて何をしているのか調べてくれ」

「えー・・・・いやですよ、自分でやればいいじゃないですかー」

「そ、それはだな」

ちゃんにバレるのが嫌なんですよねー。つーかこんな時だけ俺を使うってずるくないですか?」

「ぬ・・・・し、しかし」

だが幸村にはできぬことだろうとはわかる。
隠密行動など。幸村の苦手とするところだ。
町中を歩くだけで目立つ御仁だ。

「その前にちゃんに聞けば済む話じゃないですか?」

「そ、それは・・・・聞いた。聞いたが・・・・・はぐらかされた」

悔しそうに唇を尖らせた幸村。

「そうですか・・・・あーはいはい、わかりました。ちょっと探ってみますよ」

「本当かっ!すまぬ、佐助!」

自分は幸村に仕えている立場ではあるが、なんとなく甘いよなと苦笑する。
主人の戦場では見せない、子どものような表情を見るとなんだが・・・。
幸村の気が済むならばと頼みを引き受けた。



の後をつける。なんて佐助にしてみれば簡単な事。
幸村の朝稽古中には屋敷を出るという。
気づかれないように佐助は後をつける。

「・・・・・一流の忍びの仕事じゃないよねぇ」

年頃の娘の様子を探るなど。
それだけ幸村はの行動が気になるのだろう。
何かあるならそれなりに話すだろうし、隠すとなるとそれなりの理由も出てくるはずだ。
万が一、何か悪質な問題にでも巻き込まれていたら困るだろう。

「およ・・・あそこは・・・」

の向かった先をあっさり見つけた。
多くの旅人が出入りしている旅籠。
しばらく佐助が付近の様子を眺めていると、旅籠の揃いの法被を着たが姿を見せる。
箒を持って店の前を掃いて。

「普通に働いているみたいだけど・・・なんでかねぇ」

が黙って働く理由が佐助にはわからない。
金銭問題が起こるような場所でもない。
元々がここを客として利用することもないわけだし。
これは直接聞いた方が早い。
佐助は屋根の上から飛び降り、の前に姿を見せた。

ちゃん。何してんの?ここで」

「っ!さ、佐助さん!?」

「いやー旅籠の看板娘に見えなくもないけどさ、なんでここで働いているのさ。
何か困った事でもあるのかな?真田の旦那も心配しているよ?」

佐助の登場、佐助の質問にはジリジリと後ずさりしてしまう。

「おーい、ちゃん。逃げることなのかな〜?」

「だ、だって・・・・佐助さんにも知られたくなくて」

「は?俺にも?なんで?」

は箒をキュッと握り締める。

「・・・・・・サプライズにならないじゃないですか」

「えと・・・・驚かしたいってことかな?」

コクリコクリと頷く
佐助は頭を掻き、そ知らぬ方向へと顔を向けた。

「んじゃま、俺様は仕事で忙しいから帰ろうかな」

「さ、佐助さん」

「じゃあね、可愛い娘さん」

佐助は深く追求するのをやめた。
そして旅籠の娘に別れを告げて帰ることのしたのだ。
にとって知られたくない事。
でも困り事が起きたから、嫌々だから、強制だからと言うわけではなさそうだ。
幸村だけでなく自分にも知られたくない、驚かしたいと。
理由はわからないが、幸村にもこれは黙っておこう。
しばらく知らぬ振りをしてあげるのがの為だろうと思って。

「いやー俺様って本当甘いなぁ〜」

ちょっとだけ、何をしてくれるのかが楽しみで。
一応幸村への報告は、本人が納得するのかわからないが。

「別におかしなことは何もないっすよー」

って伝えることにした。



***



佐助さんにアルバイト姿を見られるとは。
と言うより幸村君が心配していると言った。きっとここ数日の私の行動を不自然に思っているんだ。
まぁ普段屋敷で過ごしていたのに、急に外出ばかりしていればそう思うよね。
直接幸村君に聞かれたけど、別に。って曖昧に答えてしまったし。

それでも佐助さんは察してくれたみたいだから。
佐助さんに見られてしまったのはちょっと残念だけどね。
バレンタインのプレゼント。
幸村君が本命だけど、佐助さんとお館様にもあげるんだ。
二人にもよくしてもらっているし、幸村君とは違うけど、二人の事も大好きだから。

あと少し。
あと少しだけ待っててね、幸村君。



***



「はい。幸村君。ハッピーバレンタイン!」

「な?な?」

2月14日。
佐助の操作報告は幸村をあまり納得できぬものであったが、佐助から「あまり気にする必要ないっすよ」
などと余裕ぶられたので、幸村も我慢して待つことにした。
いつか話してくれればいいかなと思って。
何より「旦那。もう少し大人になりましょうね」なんて言われてしまえば。
そしてあとどれくらい待てばいいのだろうか?と待つこと数日。
朝になって幸村の前に菓子が置かれた。

?」

「予定より少なくなっちゃったけどね」

「いや、それでも結構あるではないか」

饅頭、団子、練りきりなどが数種類も。

「い、いや。それよりも、な、なんだ?いったい。は、はっぴいなんとかとは」

意味がわからないと幸村は目を何度もパチクリさせている。

「2月14日、今日はバレンタインデーなんだよ。と言っても私が居た場所での話しだけど」

「あぁの故郷の話だな」

「うん。その日はね、好きな人にチョコレートを渡して告白する日なんだよ」

「えっ!?」

好きな人と聞いて幸村の顔が一瞬で真っ赤になった。

「ここじゃチョコはないから、和菓子で代用したんだけど。さっき佐助さんとお館様にも渡してきたんだ」

二人にも?
そう言われて、口角が引きつった幸村。
そうだよなー普通はそうだとがっくりと肩を落として。
自分に比べれば信玄や佐助の方が何倍も頼りになるし、が惚れるのも無理はないと。

「お二人にはいつもお世話になっているからであって、私の本命は幸村君なんだけど?」

「え?」

「幸村君に喜んでもらいたくて、沢山のお菓子を用意しようと思ったんだ」

それで数日間外に働きに出ていたそうだ。
稼ぐには稼げたが、思った以上に菓子は用意できなかった。
それもそのはず。生菓子ばかりだから。
いくら幸村の胃袋が化け物じみていても、保存の利かないそれを放置してしまうと勿体無いことになりそうで。

「善哉、鍋ごと。とかって思ったんだけどね」

「そ、それがしの為に?」

「うん。そう!だって幸村君の食べる量尋常じゃないからね」

食い意地がはっているわけでもないのに。

「ちょっと予定とは違うけど。食べてね、幸村君」

「う、うむ・・・・け、けど」

菓子に手を伸ばそうとしない幸村。
キュッと拳を膝の上で握ったかと思うと、上目で窺うようにを見た。

「それがし、沢山の菓子よりも。と一緒に食べる時間を過ごせるのが一番でござる」

「幸村君・・・」

「だ、だから。これはと一緒に食べるでござるよ」

共に食べようといそいそと菓子に手を伸ばす幸村。
食べようと口を開くも、すぐさま「あっ!」と声をあげた。

「そ、それがしも菓子を用意せねばならぬ!」

「?」

「今日は、す、好きな人にちょこれーとなる菓子を渡してこ、告白する日なのだろう?」

「あー・・・まぁそうだね」

「だ、だったら!それがしもに菓子を渡さねば!そして、にす、好きと言わねば!!」

拳を握って立ち上がる幸村。

「・・・・・・・お菓子はいらないかなぁ」

「へ?」

「だって、ここにいっぱいあるし。幸村君が好きって言ってくれただけでも嬉しいなぁって。
さっき私、幸村君が本命だとか、好きな人に。って言っても、なんか軽く流されちゃったみたいだったし。
でも、今幸村君は私に告白してくれたから、それだけで充分かなーって」

「う・・・・」

幸村はの前にしゃがみ手を取った。

「す、好きでござる。が」

「私も幸村君が好きです」

軽く流したつもりはなかったのだが、色々いっぺんにあって混乱していたようだ。

「えへへ。よかった」

は幸村に抱きついた。

「なっ!!は、ハレンチでござるよ!!」

「この程度でハレンチとか言ってたら困るよ?」

「なっ!」

はニッと笑って幸村に軽く口づけた。

「油断大敵〜」

「っ〜〜!!」

屋敷内に「ハレンチでござる!」と言う声が響き渡ったのは言うまでもない。








19/12/30再UP