|
君を待つ、桜のキオク。
が自分を好きだと言ってくれた。 幸村自身も、が好きだと気づいたから、それはとても嬉しく思った。 きっと彼女はずっと自分のそばに居てくれるのだろうと喜んで。 だけど、あれ?って思った。 の言葉が幸村には引っかかった。 「大事な人が私の為にプレゼントしてくれたものだから」 「早くこの簪が似合う大人になりたいって思うよ」 「そうしたら、その人に告白でもするんだけどね」 などと言っていたが、あれはどういう事なのだ? 自分は簪を贈った記憶がないのだから。 【14】 思い切ってにそれを聞いてみた。 「はい?」 「ぬ…そんな怖い顔をするな…気になったのだから仕方ないだろう」 「………だってねぇ…」 の言う大事な人って自分じゃないの? だけど、自分はに贈り物なんかしていないのだ。 「そ、それのは。俺に向かってその人に告白をするのだ。って言ったではないか…だから…」 自分の事だとは思わなくて。 「はぁ…真面目すぎるよね、幸村君は。この辺政宗さんに報告しておこうかな」 「な、なんでそこで政宗殿が出てくる!!?は!の言う大事な人とは実は政宗殿ではないのか?奥州で俺の知らないうちに仲良くなっていたではないか」 が幸村を憐れむような目で見ている。 「な、なんだ?」 「幸村君から見て、私は相当軽い女なんだね」 「ん?は軽いじゃないか「ど阿呆!!?」 「ぐわっ!」 が本で幸村を殴った。 「?」 常日頃から信玄公と殴り合いをしている幸村には大したダメージは受けないのだが、好きな子に殴られるのは少しばかりショックである。 「天然すぎるのも問題ありだよ、まったく。軽いの意味が違う!」 幸村はの体重の事を言ってくれているのだろう。 そんな天然ぶりなど今の会話に必要ないし、話が進まなくなるだけだ。 「本当、疲れる…」 は両手で顔を覆いしゃがみこんでしまう。 「な!!!?」 覆った手、指の間からはちらっと幸村を見た。 「…………まぁ、そんな幸村君を好きなんですけどね、私は」 「うっ」 一瞬で幸村の顔が赤く染まった。 「お、おおおおお、俺もが好きだぞ!!」 「ありがと」 手を放しニッコリ笑う。 「でもまぁ、仕方ないか。幸村君は覚えていないんだし」 「?」 「実はね…あの簪をくれたのは……佐助さんなの…」 「な、なんとぉ!!!?」 幸村は両手両膝をついてがっくり項垂れた。 「だから、そうなると私は軽い女になるんですけど?」 「?」 「って、ちゃん。旦那でからかうの止めてよ〜あと、俺の事を変に巻き込むのも勘弁だよ」 「「あ。佐助(さん)」」 偵察から戻って来た佐助。 お土産だと饅頭を買って来たので食べてくださいと二人に差し出した。 相変わらず、手際のよい事で佐助はお茶の準備までしている。 「そこで信じちゃう旦那も旦那だけどね〜」 どうぞとお茶を出す佐助。 「それは私もそう思う」 「だ、だから、俺は」 慌てる幸村に佐助と二人では笑っている。 「あのね。あの簪は幸村君が贈ってくれたんだよ」 「へ?」 覚えていない。知らないと言う顔をする幸村。 「だって、記憶喪失だった幸村君が私にくれたものなんだから」 「だから旦那が覚えていないのも無理はないんですよ」 幸村は必至で思い出そうとするも、何にも思い出せない。 なぜあの日、奥州の政宗の屋敷に居たのか謎だったぐらいで。 崖から落ちたまでは覚えている。目を覚ました時、普通にその直後だったと思ったのだが、随分日が経っているのを後で聞かされ驚いたのだ。 「あの頃の幸村君は可愛かったよ〜何にでも素直な反応だからさ」 「ぬ。今の俺では駄目なのか?」 幸村はムスッと拗ねてしまう。 それを見てが笑いだすので、からかわれたと思い幸村はへそを曲げてしまう。 「それこそ。梅ちゃんじゃないけど。幸村君は幸村君だよ」 「そうそう。記憶があろうがなかろうがそこにいるのは真田幸村なんですよ、旦那」 二人は今も、あの時も幸村は幸村だったという。 言われた幸村にはわからない。 恥ずかしい話、自分の知らないもう一人の自分のした事だし、が好きなのはそのもう一人なんじゃないかと思えて。 「自分自身に嫉妬するってのも面白い話っすね、旦那」 「さ、佐助!!」 「ま。旦那はいつだってちゃんを大事に想っていましたよ」 「「………」」 と幸村。二人の顔が赤く染まる。 「あれ?二人で照れられちゃうと、俺様の方が恥ずかしいんですけど?」 「う、うるさい!佐助!!」 幸村は饅頭を頬張る。 は苦笑しつつも、湯呑に手を伸ばしゆっくり茶を飲んだ。 「梅ちゃんらしいけど…やっぱり寂しいね」 梅が相模の北条氏政に嫁ぐため甲斐を出立した。 大勢の家臣が梅を守るかのようにその出立を盛大に護衛していた。 躑躅ヶ崎の館を出る際に幸村とに笑顔で「元気でね」といった梅。 「ああ。そうだな」 ついでに。「二人がようやくくっついたから安心して嫁げるの」とも言われてしまった。 「でもさ。何もこんな寒い時期じゃなくてもいいのに。春になってからでもいいじゃんね」 「それはお館様達が決められた事だ。俺達がどうこう言えるわけでもない」 「でもさ…」 積もる雪を理由にでもすれば、もう少し梅と一緒に居られると思ったのだ。 「梅姫様の名の通り。これで相模に春が訪れるんだ、きっと」 政略結婚ではあるかもしれない。 でも、きっとこの婚姻で武田と北条はよくなるかもしれないからと…。 「だから梅ちゃんが春を告げる使者。って事?ふふっ幸村君らしいな」 「な、なんだ」 「幸村君らしくていいなって思っただけ」 褒めているんだよ。とは幸村の腕に自分の腕を絡めた。 「おおおお、おい」 「別に隠す必要ないし。こうでもアピールしておかないと幸村君が他の子に盗られちゃったら困るしね」 幸村の頬が赤く染まるも。そっぽを向きつつ幸村は頷く。 「な、ならば俺もこのままでいい…を他の誰かに盗られては俺も困るから」 そんな事はないのにな。とは思いつつも嬉しいから喜んで幸村にくっつく。 だが、思い出したようには幸村から離れた。 「?」 「政宗さんに手紙を出さなきゃ」 「へ?」 くるりと背を向け屋敷に帰るというを慌てて追いかける幸村。 「な、なんで?」 「や。政宗さん色々心配してくれたから。ちゃんと報告しないとって思って」 「あ、あとでもいいだろう?」 待った。と幸村はの手を掴んだ。 「そうだね…後でもいいかな?幸村君が何か奢ってくれるなら」 「うむ。何か食べよう。汁粉でも、揚げ饅頭もいいな」 温かいものでも食べに行こうと幸村は破顔する。 それは自分と一緒だからなのか、甘いものが食べたいからなのかどちらなのかと思いつつ。 それでも幸村の笑顔を見れば、自分の嬉しいのだから。 ちょっとした意地悪だったのかもしれない。 幸村の気を曳きたくて。 そんな事を政宗に伝えれば、政宗は大笑いするか、呆れるかどういう反応をするだろうか? 政宗にしてみればダシに使われたとでも言うかもしれない。 「ねぇ。幸村君」 「ん?なんだ?」 仲良く手を繋ぎながら歩く二人。 大きく手を振って子供みたいだ。 「春になったら、あの約束実現しようね」 「あの約束?」 幸村は少し考えるも、あの約束が何のことなのかわかり力強く頷いた。 「あぁ。そうだな。春になったらきっと桜が見ごろで綺麗だろうな」 二人が喧嘩してしまったきっかけ。 が沢山泣いてしまった出来事。 だけど、もう大丈夫だから。 ちょっと遅くなったが、あの約束を果たそう。 「楽しみだね、幸村君」 「あぁ」 「今度は遅刻しないでよ?」 「しない」 「本当かなぁ?お館様の姿を見ればすっ飛んでっちゃうのに?」 幸村の目が泳ぐ。 「そ、それはだな」 「ま。いいけどね。それも幸村君なんだから」 「褒められているのかわからん」 「そういう幸村君も私は好きだって事だよ」 ずっと幸村とはこんな感じなんだろうな。は思う。 だけど、悪くない。 今はお互いの気持ちが通じているから。 19/12/30再UP |