スキキライ。



ドリーム小説
が両手いっぱいに野菜を抱えていた。
ちょっとだけ散歩に出た帰りに出会った馴染みの人達からあれもこれも持って帰りなさいと言われて、断るに断れず両手に抱える羽目になった。

「こういうのって…やっぱ秀吉様のお人柄からなのかな…」

は秀吉夫婦に娘のように可愛がられて、自宅にも住まわせてもらっている。
だから今帰宅した場所も秀吉の屋敷だ。



「あ。清正。ただいま〜」

「あぁ、おかえり。いや、その荷物はなんだ?」

秀吉の屋敷には彼の子飼いと呼ばれる若者たちも一緒に住んでいる。
妻のねねが自身の子供のように彼らも可愛がっていた。
に声をかけたのはそのうちの一人加藤清正だった。

「ちょっと散歩に出たら、行く先々で貰ったの」

「そうか。ほら、貸せ。台所まで持って行くんだろ?」

「あ、ありがとう」

清正は同じ子飼いの石田三成、福島正則と兄弟のような感じだ。
三馬鹿なんて呼ばれて、清正はどちらかと言えば二人を抑えるような役目で。
面倒見も良い、長兄みたいだ。
も清正を頼る事が多い。
ただ。

「きゃあ!」

「おねね様!?」

清正に荷物を渡そうとしたとき、聞こえた声に彼は反応しあっという間に駆けて行った。

「………」

渡しそびれた荷物は無情にも落ちてしまう。

「…もう、清正ってば…」

わかっている。彼の一番はねねだ。
わかっているけど、毎回それを身に知らされるのは痛い。

「大丈夫ですか?おねね様」

「清正。大丈夫、ちょっと転びそうになっただけだよ」

二人の会話が聞こえる。

「早く拾って台所に持って行かなきゃ」

まだ抱えていた半分の荷物を床に置きしゃがむ
転がった野菜を一つ一つ拾うも、無性に寂しい。
そう思うのは、清正のあの態度だ。
どんなに自分に優しくしてくれても、彼の一番はねねなのだ。
秀吉の為ならばと言う気持ちは清正もあるだろうが。
それに輪をかけて、ねねに何かあれば一番に反応するのだ。
わかっても寂しいと思うのは、自分が清正に惚れているからだろう。

「なんだ?」

「お。素っ転んでぶちまけたのか?

「三成、正則」

「しょうがねぇな。手伝ってやるよ」

ニシシと笑いながら正則が野菜を拾ってくれる。
三成は手伝う気がないのだろう、拱手している。

「ありがとう」

拾い上げると、ついでに運ぶのも手伝ってくれると言う。

「しかし、ここまでの大荷物最初からお前一人では無理だろう」

「そうなんだけどね、なんか人様の好意を無駄にできなくて」

その経緯を二人に話す

「そういう時は、誰か共でもつけてもらえ。できぬなら届けてもらうぐらい考えろ」

三成が呆れた。

「そうだね。次からは散歩に出る時、三成か正則を誘ってから出るよ。そうすれば今日みたいな事にはならないしね」

「おう!任せておけ!」

正則が己の胸を叩いた。




のちょっとした手伝いをした正則。それを見ていただけの三成。
が疲れたからと室に戻って行くと、二人は珍しく同時に嘆息した。

「「………」」

二人とも理由はわかっている。

が可哀相だよなぁ…」

「わかってはいるが…清正の行動に問題がありすぎる」

「清正の一番はおねね様だもんな」

近くのより、ちょっと離れた場所のねねの悲鳴に反応するのだから相当だろう。
しかも後で知るのだが、ねねの悲鳴の理由は、干していた布団を運んでいる際に転びそうになったそうだ。
布団ごと倒れるならばそれほど衝撃も来ないだろう。
心配するだけ損だと二人は感じた。

「ま…がそれも含めて清正がいいと言うのであれば問題ないだろう」

「そうかあ?」

「人の恋路に余計な首を突っ込むだけ損だ」

元々そのようなものに興味はないと三成は言い切る。
だが、少し気になってしまうのは妹分のが絡んでいたからだろう。

「あんなにいい奴なのにな。清正も馬鹿だよなぁ」

ねねに母親以上のものを見てしまっても仕方ないと正則に言われてしまうと、それはそれで清正も不憫だと三成は苦笑してしまうのだった。




そんなある日のことだった。
秀吉、ねねから呼ばれた
室に向かうと、自分以外にも清正、三成、正則が揃っていた。
こうして揃うとなると、また戦でも始まるのだろうか?と少し不安になる。
ねねも一緒に行ってしまう為に、一人留守番となるはどうしようもない。
だからか、戦前は決まって家族揃って食事をし、楽しい時間を過ごそうと言うのだ。

(けど…何もない…)

ねねが作った美味しそうな料理は一切並ばれていない。

「おう。、そこに座ってくれ」

秀吉とねねが並び。向かいに清正が座っている。
三成と正則は少し後方で座っているが、秀吉は清正の隣に座れと命じた。

「遅くなってすみません。秀吉様」

は言われたとおりに清正の隣に正座した。

「して、用件はなんでしょうか?」

清正の問いに秀吉は軽く咳払いするも、すぐさま破顔した。

「清正、。お前ら夫婦にならんか?」

「「え!?」」

ねね以外の4人は驚く。

「まぁ、突然の話にも聞こえるかもしれんが、もぼちぼち嫁いでもいい年頃だしな。
何より、わしの所にそう言う話も来るんさ。だけど、どうせなら信頼がおける相手に嫁がせてやりたいと思うが親心じゃろ?」

秀吉の実子ではないに縁談が来るとは…秀吉の話ぶりでは、ある種の政略結婚のようなものだろう。
だけど秀吉はできるならばと、清正を推したようだ。

「ね?いい話と思わない?清正ならばを任せられるもの」

ねねも手を合わせて喜んでいる。
親代わりと言うより、ほとんど親のような気持ちはねねにもあるのだ。

「どうじゃ?悪い話じゃないだろ?」

条件として何一つ問題はないと秀吉は言い切る。

(清正と結婚って……)

言われた方のとして見れば複雑だった。
いや、感情だけの問題ならば、清正は自分の好きな人。喜ばしいことだ。
だけど、その感情だけでも思う部分が多々あり。
横目で清正を見れば、彼も少々戸惑っているように見える。
だけど、秀吉にねね…二人に勧められれば清正はきっと断らない。
そう思えた。
なんだか嬉しくない。
嬉しくないどころか、この婚儀に嫌悪すら感じた。

「秀吉様、その話あり「私はお断りします」

清正が秀吉に頭を下げ、受けようとしたと同時に、いや寧ろそれを遮るようにの声が通った。

?」

「な、なんじゃ?今…断るって聞こえたんじゃが…」

秀吉の口角が引きつる。

「はい。お断りします」

「あ、あーまだ結婚したくないとか?まぁ遊びたい気持ちはわかるけどねぇ」

ねねもが断るとは思っていなかったようで、必死で理由を口にしてみる。

「別に結婚が嫌だとか言っているわけではないです。お二人が私を心配して気遣ってくださるのはとても嬉しいです。けど、私が嫌なのは、相手が清正だからです」

は立ち上がる。

「どうしても結婚しろと仰るならば、三成か正則に嫁いだ方がマシです」

そう言いきっては室を出ていく。

「あ。おい!!!」

「まったく…」

慌ててを追いかける正則に渋々と追う三成も室を出ていった。




室内には残された秀吉、ねね、清正のみ。

「な、なんじゃあ…お前ら喧嘩でもしてんのか?」

「い、いえ」

清正にならばと太鼓判を押していた秀吉にしてみればこのような結果になるとは思っていなかったようだ。

「結婚自体は嫌じゃないんだもんね…相手が嫌だって…」

困ったものだとねねもため息を吐いた。
肝心の清正と言えば。

(地味に傷ついたんだが…)

まさかに断られると思わなかった。
結婚に関しては、自分にはまだ早い思う面は正直あった。
まだ二人のそばに居たいと思う気持ちもあったからだ。
だけど、その二人から勧められれば嫌とも言えないだろうし、いつかは来るだろうと思った。
それも相手がとなれば、見知らぬ武家の娘より馴染みもあるのでいいだろうと。
悪い話ではないし、無粋な見方をすれば、実子のない秀吉にとっては実子のように可愛がっている娘だ。
ある意味、秀吉との繋がりは一層強くなったともとれる。
ま、政治的な事を清正は考えてはいないが。
単純に。
本当に、単純にだ。
結婚相手が、娶る相手はならば悪くないと思ったんだ。
なのに、は。

「私が嫌なのは、相手が清正だからです」

本人を前に拒否をし。

「どうしても結婚しろと仰るならば、三成か正則に嫁いだ方がマシです」

だと言い切った。
自分よりあの二人の方がいいとは、これは地味に傷ついた。

(なんだよ、の奴…)

嫌われているとは思っていなかったから、この仕打ちにはへこんだ。



「おい!ってば!」

自室に駆け込んだに正則と三成が遠慮なく入ってくる。
は自室で立ち尽くしていた。

「お前…なぜあのような事を言った?清正との婚儀申し分ないだろう」

の気持ちを知っている二人にしてみれば。拒否する理由がわからないのだ。
だが、の返事は違った。

「追ってこないじゃん!」

「は?」

「追って来たの、三成と正則だけじゃん…清正は追って来てもくれないもん」

悔しいと声音から感じる。

「お前…まさかと思うが、清正の気を引きたいがために、わざと断ったのか?」

「違う!」

反転し三成に突っかかるような

「違うよ!そんな理由で断らないもん」

「ではなんだ?」

「だって…だって…私と結婚したって、清正は私の事なんか見てくれないもの!清正の一番はおねね様だから…」

そんな事はない。
そう、三成と正則ははっきりと言えなかった。

「おねね様の代わりにだってなれないもの。清正が話を受けようとしたのわかったけど、それだって、お二人に言われたからでしょ?すごい癪だよ」

「いいようには捉えられんのか?お前は」

「そ、そうだ!清正ならを大事にしてくるさ」

「二人の方がきっと大事にしてくれるもん。おねね様に何かあれば絶対すっ飛んで行くから、清正は」

清正には悪いがその光景が目に浮かんでしまった二人。

「あ…えと、ごめんね。二人とも」

急に二人に謝る

「何が?」

「その…結婚するならば、二人の方がいいって…二人にしてみれば、やっぱ二人にも好きな人ぐらいいるだろうから、急にそんな話を吹っかけられても困るものね」

このまま秀吉がそうしろと言えば、きっと二人も断れないだろうとは思ったのだろう。

「き、気にすんなっての!お、俺は別に嫌じゃねえからよ」

「まぁそうだな。知らぬ娘を連れてこられるよりはお前の方がマシと言うものだ」

二人の反応には多少なりともホッとしたように笑った。

「ありがとう。本当…二人を最初に推してくれればいいのに…二人の方が絶対大事にしてくれるもん」

笑っていたが、すぐさまの頬は膨れた。

「なんだ、それは。どういう意味だ!」

「「あ」」

外から聞こえた声。
清正が少々乱暴に入って来た。聞き捨てならないと思ったのだろう。

「言った通りの意味だけど?」

今頃来たのかとは呆れる。大方ねねに言われてやって来たのだろうと皮肉めいたことしか考えられず。

「清正よりも二人の方が私を大事にしてくれるって話」

「だから、俺との婚姻は断ったのか?」

「そうだよ」

少々怒っていたような清正だったが、はっきりと言うにたじろいだ。

「お、俺はお前を蔑ろにするつもりなんかないぞ…それに、お前に断られて地味に傷ついた。
俺は別にお前が嫁になってくれることを嫌だとは思っていないから…その、なんだ…」

今度はがたじろぐ番だった。

「お、俺のどこが悪いんだ」

断わられた理由に思い当たる節はないそうだ。
それは3人とも呆れた。だから。

「「「おねね様」」」

3人は声を合わせて言った。清正はどこだ?と辺りを見回しその姿を捜した。

「だから、違ぇって清正〜」

が言いたいのは、自分よりもお前がおねね様を大事にするだろうと言うことだ」

「な、な!?」

清正の顔が赤くなった。

「ま、待て!俺は別に、そ、そんな事ないぞ!!」

「今までの事を思い返してみればいいと思う…清正の一番はおねね様だから」

がため息を吐いた。
清正は口角が引きつっている。

「おねね様に何かあれば清正は私なんて放ってすっ飛んでいくでしょうし」

「いや。それはない!」

「そうかなぁ?実際過去に何度もあったけどね」

つい先日もあったではないか。

「う……それは謝る!けど、これから先はそんなことはしない!」

「は?」

「約束する。お前を裏切るような真似はしない!」

強気に出てきた清正。そのような言い方だと、清正はこの婚姻取りやめる気はないように聞こえる。
それには三成も気付いたようで。

「清正。その様子では、お前はを娶るのか?」

「あぁ。秀吉様にもそう話した」

「はあ?なんでよ、私は嫌だって言ったでしょ?」

「俺は嫌などと思っていないからだ」

「わ、私は絶対嫌だからね!」

ムキになって拒否する

「折角清正があー言ってんだから、素直になっときゃいいのになぁ。なぁ?」

の性格では今更引けんのだろう」

ぼそぼそっと話す正則と三成。だがの耳には聞こえたようで二人は強く睨まれた。

「と、とにかく!私は一度断ったんだから嫌なの!」

「そう言われてもな。俺はもう秀吉様に話を進めてくださるよう伝えた」

「か、勝手な事を」

「俺はお前が嫁になってくれることを嫌だと思わないし、話を断る気もない。何か問題でもあるのか?」

「お、おねね様がそうしなさいとでも言ったんでしょ」

「おねね様は関係ない」

段々立場が逆転しているようだ。

「け、けど私は…」

怖いのだ。
そうは言っても、清正の一番はねねなのだろうと思うと。
捻くれたことしか言えない自分だから、結婚してから嫌がられるよりはマシだ。

「お前は俺の言う事が信じられないのか?」

「き、清正の言う事じゃなく…私自身が信じられないから…」

は俯いてしまう。
話がいい方向に向かっているように思えても、どこかで捻くれたことしか考えられない自分が居て。

「わかった」

清正の一言にの肩がびくついた。
きっと清正は秀吉に断りの話を入れるだろうと。
だけど、この先、清正とはもう今までのような関係は築けないだろうと寂しくなった。
自業自得だとはいえ…。

「俺に時間をくれ」

「じかん?」

「あぁ。半年!いや…三か月…それもダメだな。一月だ!一月でが是と言ってくれるようにする」

ん?と清正以外は首を傾げた。

「と言うと?具体的になんだ?清正」

改めて聞かれるとは思わなかったらしく清正は顔を赤くした。

「そ、それはだな…が…お、俺の事を好きになってもらうように…だ。一月経っても、お前の気持ちが変わらないのであれば、俺も諦める。その時は三成なり、正則の嫁にでもなればいい」

「清正…」

「そ、そういう事だ!覚悟しろよ、!」

恥ずかしかったのか、清正は更に顔を赤くしたまま室から出ていった。

「………」

残された3人。

「覚悟しとけだってよ、!」

の肩を叩く正則。

「覚悟も何も…」

三成は呆れ顔だ。実際、今のは顔を両手で覆っている。顔は隠れているが、耳は真っ赤だ。

「一月もせずにこいつは落城するだろう」

「だよなぁ。だって、は別に清正が嫌いだなんて一言も言ってねえもん」

ニシシと笑う正則。
あくまでねねが一番だと言うのが気に入らなかっただけだ。
清正自身を嫌いだなんてことはないから。

「ど、どうしよう〜二人とも」

は困惑気味に二人にすがった。

「別にどうもしねえだろ?」
「実にくだらんな」

問題は何もないと二人も揃って室から出ていった。
その一月後、清正とが夫婦になったかどうかは言うまでもない。







19/12/30再UP