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油断大敵。
季節の変わり目は体調を崩しやすいようだ。 少し暑いくらいだと思い薄着で過ごしたが、翌日一気に気温が下がり。 冷たい風にさらされて身震いをしてしまって。 ちょっとうとうと舟をこいでしまったあとに、頭痛がしたので風呂に入って体を温めてから寝た。 その結果。 「風邪をひいて寝込んじゃうなんてねぇ・・・・」 「・・・・・あたま、いたいです・・・・」 困った子だねぇとねねから漏れるため息には肩身の狭い思いをしてしまう。 「言ってくれれば薬をすぐに用意してあげたんだよ?」 「そんなに大袈裟なこともないかなぁ・・・って思って」 「病を嘗めちゃいけないよ。これからは具合が悪いならちゃんと言うこと。いいね?」 「・・・・・はい」 滅多にねねに窘められることがないので、気分がへこむ。 掛け布団をギュッと掴んで引き上げて顔を隠してしまう。 「また後で様子を見に来るから、少し寝ておくんだよ」 その時に食事と薬を持ってくるから。 ねねはそう言って室を出て行く。 「・・・・・あーあー・・・・ついてないなぁ・・・・」 外は桜が咲き始めている。 昨日少し肌寒かったのに、今日は寝込んでいる自分を嘲笑うかのように、見事に過ごしやすい陽気だった。 清正達と、こんなにもいい天気ならば、花見にでも行くか。 なんて話していたのに・・・今頃楽しくやっているのかなとがっかりしてしまう。 風邪をひいた自分が悪いのだが。 「もう寝よう・・・」 つまらなくてふて腐れるよりも、素直にゆっくり養生した方が精神的にもいいだろう。 は目を瞑る。 まだ少し頭がズキズキするが、寝ていると少し楽だ。 差し込む暖かな光のおかげかしばらくすると眠気が襲ってきた。 このまま寝てしまおう・・・。 *** 「あーあー。つまんねーの。な、清正」 「ん?何がだ」 昼餉も食い終わったあと、正則が言葉通り退屈な顔を見せる。 「手が止まってる、しっかり働け馬鹿」 「んだとー!頭でっかちー!」 三成に馬鹿と言われてすぐさまムキになる正則。 だが、正則に書き物、調べ物などの事務仕事をさせる方が無理があるだろうと誰もが思う。 三成は涼しい顔ですらすらと筆を動かし正則を無視しているが。 「それで?つまらんのは仕事の話か?だったら文句言わずに早く終わらせればいいだろう」 清正がこれ以上火種を広げまいと正則を宥める。 「ち、ちげーよ。だよ」 確かに今の仕事もつまらないと感じているだろう。 正則の苦手とする分野だから。 だが正則は直接の原因はこれではないと言う。 「?」 「あぁ・・・・・あれも実に間の悪い馬鹿だな」 三成にも正則の言わんとすることがわかったのか納得していた。 「がどうかしたのか?」 清正一人は意味がわからずきょとんとしている。 「なんだ?清正・・・お前知らんのか?」 「だから何をだ」 三成は書くのをやめ、筆を置く。 少しだけ清正に顔を向ける。 「の奴熱出して寝込んでいるんだぜ」 答えたのは正則だ。 「熱?」 「あぁ。この所温度差が激しかっただろう。気の緩みもあったんじゃないか」 三成が聴いた話では・・・。 中々起きてこないにねねが様子を見に行けば、頭痛が酷いことを訴えたそうだ。 熱もあるので中々起き上がれないそうだ。 「俺、見舞いで顔を出したけど、辛そうだったぜ」 「その辛そうなに団子を贈る馬鹿が居たがな」 「い、いいじゃねぇか!好きなもの食えば早く治るかもしれねーだろ」 どうやら二人は一緒にを見舞ったようだ。 普段なら一緒に行動をすることはまずないが。 病人の側で煩いのを置いて置けないと監督のつもりで三成は一緒に行ったらしい。 「・・・・・・」 「清正?」 「あ。いや・・・そうか。が風邪を・・・・」 道理で姿を見ないなと清正は単純に思った。 「・・・・・清正。出遅れが酷すぎるぞ、お前は・・・」 じとりと三成に睨まれる清正。 更には正則にまで頷かれる始末だ。 「なんでだよ。知らなかったもんはしょうがねぇだろうが」 「言っておくが、が寝込んだのは昨日の話だ」 「は?」 「俺らが見舞いに行ったのも昨日だぜ?」 「お前らの話じゃ今朝の話のような・・・・」 「今朝とは誰も言っていないが」 「結構色んな奴が見舞いに顔を出してたぞ。清正だけだろ、一度も見舞ってねぇのは」 ねねは世話をしているし、秀吉も、利家も、そして三成、正則と見舞ったし。 ちょうど大阪に来ていた真田幸村に、くのいちや、稲姫、立花宗茂、前田慶次らにも話が届き。 を心配し見舞いに訪れていたそうだ。 「・・・・・」 「なんで、清正だけ気づかねぇんだ?」 「俺もそれを知りたいな・・・普段勘のいいお前がな・・・・」 二人にしてみれば、てっきり一番に様子を身に行きそうなのが清正だと思ったそうな。 清正は三成だけならまだしも。正則にまで好き勝手言われて屈辱を感じてしまう。 だがが寝込んでいるなど知らなかったのは事実だ。 「・・・・・」 ムッと唇を尖らせながらも、黙々と仕事を再開させる清正。 そんな彼を三成と正則は小さく笑った。 「気になるなら行けばいいだろう、馬鹿」 「そーだ。そーだ。行って来いよ、清正」 「鬼のような形相でそばに居られるのは鬱陶しい」 「仕事になんねーぞー」 「な!お、お前ら」 一言余計だ。 だが気になるのは気になるので、二人の厚意に甘えて少しばかり抜けることにした。 *** 「大分熱はひいたようだね。けど、まだしばらくはゆっくり寝ていること。いいね」 「はーい」 ねね特製のお粥を食べ、薬も飲んだ。 が横になったのを見届けてからねねが室を出た。 風邪をひいてしまったことは情けなく感じるが、全てが悪いわけではないような気持ちもあった。 「おい」 「?」 スッと障子が開き、清正が入って来た。 の枕元にどっかり腰を下ろす。 「あー清正ー」 「調子どうだ?」 「うん。大分楽になったよー」 起き上がろうとしたが、寝てろと言われた。 機嫌が悪いのか眉間に皺のよっている清正。 「忙しいのに、わざわざ来てくれたんだ。ありがとう」 「い、いや・・・・別に」 スッと顔をそらされた。 「清正?」 「・・・・・・いいから、ゆっくり寝てろ、馬鹿」 わしわしと頭をなでられた。 思わず口元がにんまりと緩む。 「風邪ひいてさ。楽しみにしてた花見にいけなくてつまんないって思ったんだけどね」 「?」 「みんながいつもより構ってくれてちょっと嬉しい」 「はぁ?」 「だって、ねね様は付きっ切りで看病してくれるし。三成や正則がお見舞い持ってきてくれるし」 普段忙しい秀吉も具合はどうだ?と何度も様子を見に来てくれた。 「私、そんなに子どもじゃないんだけどね。でも嬉しいかなーって。たまに風邪をひくのも悪くないみたい」 その分我慢することも多いのだが。 「馬鹿」 「いたっ」 ペチンと清正に額を叩かれた。 「清正〜」 「んなのに喜んでどうするんだよ。一番なのは、お前がへらへら笑って、犬みてーに庭駆け回っている方が。 皆喜ぶし、安心するんだよ。見舞う方の気持ちも考えろ」 「・・・・・・・」 は少し頬を膨らまし、恨めしそうに清正を見た。 言い方が引っ掛かるのだ。 「なんだよ」 「なんかその言い方じゃ素直に喜べない。清正から見て、私は普段、へらへらしてんの?」 「べ、別に」 思えばさっきから清正の機嫌が悪そうなことに気づいていた。 自分の言ったことに気分を害したのならば仕方ない。 見舞いに来てくれた人達に対し、申し訳ないだろう。 風邪をひくのも悪くないなどとは。 それでも、清正の言い方は引っ掛かる。 褒められたようには思えないし。 「そうじゃない。俺が」 清正は面倒臭そうに自分の髪を掻く。 「俺だけ、お前が寝込んでいるの気づかなかったのが情けなくて・・・」 「え?」 「他の奴ら、みんな・・・の心配して見舞いに行ってたのによ。俺だけ・・・。 知らなかったこと、出遅れたのが、無性に腹がたった・・・・だけさ・・・・」 は寝返りをうつ。 横になって清正の顔を見上げる。 普段も身長差があるから見上げる形が多いが、この角度は中々面白い。 不機嫌と言うより、単に拗ねているだけなんじゃないか?とここからはそう見える。 「別に私は清正が来ないことに腹を立てたとか、他の人と比べているつもりはないよ?」 目を細めて笑う。 「だって、普通に忙しいのかな?ぐらいにしか思わなかったし」 「・・・・・」 「黙っていればわからなかったんだよ?清正って正則みたいに馬鹿正直だね」 「なっ!」 清正の顔が上気する。 「まぁその辺も清正の良いところだよね。真正面に突き進む感じ?」 「褒められているように思えないんだが・・・」 「さっきのお返し」 にししと笑っては清正の膝に軽く拳を当てた。 「俺の例えもそう違いはないと思うんだが?」 「どこが?」 「へらへらは言い過ぎた。けど、馬鹿みてぇに俺のそばで笑っているお前がいねぇとつまんねぇ」 「ん?んー?それは喜んでいいのかなぁ」 馬鹿は余分だと思うが、清正のそばには居てもいいようで。 「いいんだよ、喜んでおけ」 「わ!」 またわしわし頭をなでられた。 「早く治して花見に行くぞ。桜は散るのが早いからな、しっかり養生しろよ」 「う、うん」 清正は立ち上がる。 障子に手をかけあけようとするが。あ、と言葉を漏らし立ち止まった。 「清正?」 「悪い・・・見舞いの品持ってくるの忘れた」 情けないと言わんばかりに頭を掻く清正。 室内にはにと三成たちなどが用意したのだろう見舞い品が溢れていた。 けどは気にしなくていいと笑った。 「?」 「だって、清正が来てくれたのが一番の見舞いだよ」 「ば、馬鹿野郎。何言ってんだ。じゃあな、ちゃんと寝てろよ」 顔を見せずにそのまま清正は室を出て行った。 「だって本当のことだもーん」 は笑って掛け布団をちゃんとかけ直し包まった。 「早く治そう。花見楽しみだなー」 だから少しだけ待って欲しいな。 「清正の奴、上手くやったかなー」 「さぁな。それより手が止まってるぞ。ちゃんと働け馬鹿」 清正が抜けてしまっているのだからと。 「わ、わかってるつーの!」 慌てて料紙に目を向ける正則。 三成は正則に悟られぬよう小さく笑う。 なんだかんだで清正が心配でしょうがないのだろう。 不思議な話。普段しっかり者の清正でも、のことになると少し抜けているのだから。 さてさて、どんな顔をして清正は戻ってくるのだろうか? これは見物だ。 19/12/30再UP |