春の夢。



ドリーム小説
「ユキさーん!」

が幸村の姿を見つけて駆けていく。
呼ばれた幸村は立ち止まり、が来るのを待っている。
何を話しているのかわからないが、二人は時折笑顔を見せて実に楽しそうだ。
信之はその姿を見つつも、自身の務めがあるのでそちらに集中する。
弟と妹のような子が仲良く過ごして居るのは良い事だ。
信之にとって二人は大事な家族。
二人が傷つく姿は見たくない。
楽しく笑顔でいてくれるのが嬉しい。

だけど、少しだけ妬けてしまう。
自分が仲間外れにされてしまっているような気持ちが湧いて。

「…っていうのはどうかな?」

「はい。良いと思います」

「じゃあ、決まり!」

何を話しているのだろうか、楽しそうな声だけが信之に届く。

主家であった武田家が滅んでしまい、真田家は信州にて家を守っている。
大名と言えば聞こえはいいだろうが、どちらかと言えば弱小の部類。
家督を継ぐものとして、家を守るべく毎日忙しい。

しばらくすると周囲が静かになっているのに気が付いた。
筆を止め、外へ目を向けるとすでに幸村との姿はなかった。

(どこかへ出かけたのか…)

二人はいつも一緒だ。
幸村のあとを嬉しそうにが着いていく。
幸村も彼女と一緒にいるのが嬉しいのだろう、を置いて行かないように彼女の歩幅に合わせてのんびり歩く。

本当仲が良くて妬けてしまう。

もし、自分と幸村の立場が逆だったらどうしただろうか?
と一緒にいるのが自分だったら…。

(馬鹿だな。そんな事を考えて…)

すぐさま打ち消す。
いいではないか、この状況。
幸村にも心安らげる場所があるなら。
にとっても、不安にならず心落ち着ける場所があるなら。
二人が笑ってくれているならばいい。
自分がそれを壊さないように、真田の家を守っていけばいいのだ。
武田が滅んでしまったとき、二人とも心身ともにボロボロだったから…。

「もう少し頑張るか」

家族を守りたいから。
あとで、二人からいい土産話でも聴けたらいいなと思い、信之は再び筆を走らせた。





かなり集中していたらしい。
予定よりも多く処理したようだ。
ただ頑張りすぎたのか、肩や首の辺りが張って少し痛い。
少し小腹が空いた気もする。
休憩も兼ねて食事でもとろうかとぼんやり考えていた時。

「兄上!」
「信之さま!」

幸村とが室に入って来た。
満面の笑みを浮かべている二人。何か嬉しい事でもあったのだろう。

「どうしたんだ、二人とも」

軽く右手で左肩を揉みながら、やってきた二人に顔を向ける信之。

「お務めご苦労様です。少しお休みになられませんか?」

「ユキさんとぼた餅作ったの。食べよう?」

「ぼた餅?」

信之はキョトンとしてしまう。
何故、急に二人はそんな事を言うのだろうかと。
しかも、ぼた餅を作ったとか。
信之は、二人がどこかへ遊びにでも行ったのだろうと思っていたのだ。

「信之さまはいつも働きすぎだなって思っていたの」

「兄上のお手伝いをできればいいのでしょうが…」

「私たちじゃ、何もできないし」

「兄上に少しでも休んでもらいたく、何かできないかと殿と相談しまして」

「信之さまの疲れが少しでもなくなればいいなぁって。そういうときって甘いものがいいっていうし」

信之は小さく笑う。

「二人ともありがとう。だが、そんなに気を遣わなくてもいいんだぞ」

「「遣ってません!!」」

言い切る二人に信之は声を出して笑った。

「す、すまない。そんなにムキにならずとも」

「「あ……」」

「あぁ、いただこうか。二人が作ってくれたぼた餅を」

信之がそう言うと、二人は顔を見合わせて笑った。
突っ立っていた二人はウキウキした様子で腰を下ろす。
信之の前に出されたぼた餅は少しばかり不格好で、普段から料理などしないのがよくわかる。
というより、初めてだったはずだ。

「見た目は悪いかもしれないけど、味は大丈夫だからね。ね、ユキさん」

「はい!味見もちゃんとしました!」

作り方は台所を預かる女中たちに聞いたそうだ。
彼女らから見れば、不慣れな二人の姿にきっとやきもきしたに違いない。
信之は一つ手に取りパクリと食べる。

「「………」」

信之の顔をジッと見ている二人。

「そんなに凝視されると困るのだが?」

「あ、すみません」

「だって、信之さまの口にあうかなぁって心配で」

一つ食べ終わり、指についた餡を軽く嘗めとる信之。
お茶も飲みふぅと短く息を吐いた。

「あぁ、美味いな」

信之のその言葉に二人は破顔する。

「本当!?良かった〜ね、ユキさん」

「はい」

「お前達も食べるだろう?私一人ではこんなに食べられないぞ」

二人して懸命に作ったのだろう、ぼた餅の山。
食べて貰わないと困る。

「では、いただきます」

「いっただきまーす」

可愛らしい事をしてくれるものだと信之は思う。
こそばゆいと言うか、二人の仲の良さにちょっと妬いていたのに、その二人が実は自分の為に何かできないかと考えてくれていたのだから。

「よくユキさんをバカがつくほど真面目だって言うけど、信之さまの方がそうだよね」

「え?殿…そのような話を私は聞いたことがありませんが」

馬鹿真面目。と呼ばれる事に幸村は不満を漏らす。

「本人の前で言わないでしょ。普通。あ、でもこれ悪口じゃないし、本当ユキさんって真面目だよね〜って感心している話だから」

「幸村より私の方がって事の方が心外なのだが…」

「あ、兄上…」

「どっちもどっちだよ。真田兄弟はバカ真面目だよ。真面目すぎてそれ、真顔で言うんだって呆れたことあるし」

はため息を吐いた。

「それ…とは?」

「ほら、前に武田が織田と同盟結んでいた頃。あの時、戦ですごい人と出会えたって二人は言ったでしょ?」

確か遠州で徳川に味方する為増援で向かった戦だった。
その時、織田家に歴戦の勇者と呼ばれる剣士がいたのだが、二人はその噂の主に出会えたことに喜んだ。
喜ぶのはいい。
普通ならば近寄る事もできないような人らしいので。

「それのどこが?あの方にお会いできたことに感動したのは事実ですが」

幸村は何が悪いのだ?と首を傾げる。

「その勇者さんが、ユキさん達みたいな人ならいいよ?だけど、その人女性だったじゃん」

「あぁ、そうだったな」

信之も別に感じるところはないらしい。

「いくら凄腕の剣士さんで、噂になるようなすごい人だったとしても、女性相手に「獅子のごとき勇猛さを感じる」っていう?」

「え…不味かったのでしょうか?本当にすごい方なのですよ?」

「ユキさん達の話を聞いたとき、私は男性だと思ったんだよ?だけど後日会ったら可愛い女性だったじゃん。武を褒めるのはいいけど、もうちょっと違う言葉はないかなって思うわけ」

しかもだ。幸村の場合、相手の名前を聞いて「獅子のごとき勇猛さを感じる」と言ったのだ。
どんなゴツイ名前なんだろうとは思ったそうだが、会ってみればどの辺が獅子なのか?と疑ってしまうような女性だったのだ。

「信之さまも信之さまで「獅子のごとき武者殿」とか言う?」

「う……」

「女性はそんな褒められ方をしても嬉しくないよ」

兄弟が純粋に相手の武芸の感服したのだろうが、馬鹿真面目というか、馬鹿正直と言うか…。

「以後気を付けるようにしよう」

「は、はい。気を付けます」

信之と幸村は苦笑しつつ頷いた。
話はまだ続き、その彼女は今頃どこにいるのだろうか?と懐かしんだ。

「また会えるといいですね、兄上」

「そうだな。変わりなく過ごされていると良いのだが」

「真田家に来てくれるといいよね」

彼女の腕前ならば、きっとどこの国も欲しがるだろう。

「さて、もう少しやってしまおうか。お前達のお蔭でゆっくり休むことができた」

「いい気分転換になった?」

「あぁ。ありがとう」

ただ、少しだけ体に疲れが残っている。
コキリと首を鳴らす信之。

「信之さま!私、肩たたきしてあげる!」

「は?」

「肩もみの方がいいかな。上手いよ、私」

は嬉しそうに信之の背後に回る。
信之の両肩に手を乗せる。

「ずるいです!殿!それならば私が兄上にして差し上げます!」

幸村が異を唱える。

「私の方が先だもん」

殿よりは私の方が力があります」

「強ければいいってもんじゃないよ?」

火花を散らしそうな感じでどうしようもない。

「おいおい、二人とも…」

あぁ、こんなにも思ってもらえるとは嬉しい事だ。

「喧嘩するくらいならばやめてくれ。困った弟妹だ」

「すみません。兄上」

信之に言われると幸村は素直に謝った。

「信之さま。私の事、妹って思ってくれるんですか?」

「何を今更の事を言うんだ、は。大事な妹だよ」

は嬉しそうに笑んでいる。

「ユキさん。順番ね。今日は私の番で、明日はユキさんの番」

「わかりました。順番ですね」

そう言って、は信之の肩を軽く揉み始めた。
幸村は信之の隣に腰を下ろしている。
本当に穏やかな時間だ。
信之は小さく息を吐く。

「ずっと…」

少しだけ目を伏せる。

「ずっと…三人でこうしていられるといいな…」

「いられますよ、兄上」

「そうだよ。三人一緒に仲良く過ごせるよ。だって家族だもん」

今までだってそうしてきたのだから。
二人はそう言った。

「あぁ…そうだな」

信之はそのまま目を閉じた。
願わくば、そうあって欲しいと…。







19/12/30再UP