きっと、それは寂しいからだ。



ドリーム小説
「叔父貴!叔父貴は本当にすげぇぜ!」

「叔父貴に敵う奴なんかいるもんか!」

「俺も早く叔父貴の役に立てるようになりたいもんだぜ!」

バカみたいに毎日叔父貴、叔父貴と言われて気分が滅入る。

「利様は私のことなんかちっとも見てくれないんだもん」

ツンと拗ねてしまう
話をしていても「叔父貴」の話題。
一緒に居ても「叔父貴」が姿を見せれば飛んで行く。
いつも置いてけ堀だ。

「別に勝家様が嫌いってわけじゃないけど、このままだと確実に嫌いになる!」

むむっと拳を握り締める。
が言っているのは前田利家のこと。その利家がバカみたいに慕っているのが柴田勝家だ。

「あらまぁ、それは困ったねぇ」

「ねね様だって、秀吉様が常に別の人のことばっか言っていたら面白くないでしょ?」

「まぁそりゃあそうだね」

ねねは苦笑する。
だが生憎。ねねの場合、実力行使に出るだろう。

「でもうちの人がそこまで慕う人っていないからねぇ」

主君の信長を確かに尊敬はしつつものの、別に「信長様!」などと目を輝かせていることはない。
どちらかと言えば、同じく信長に仕える明智光秀か、小姓である蘭丸の方が特別な感情を抱いていそうだ。
秀吉にも仲の良いダチ、孫市がいる。だが、別に楽しげに付き合いをしているが利家ほどではない。
それに秀吉の場合、それよりももっと性質の悪い、女性に目がない事のほうが重要だろう。
その場合、ねねの「お前様!お仕置きだよ!」の鉄拳制裁が下されるだろう。

「私は利様のことが知りたいの。利様とお話がしたいの。利様に私のこともっと知ってもらいたいの」

でも、知ってかしらずか、利家はちっとも振り向いてはくれない。

「・・・・・一緒になって勝家様のお話できないと無理なのかな」

「そんなことないよ。だけど、利家殿もしょうがないねぇ」

落ち込むを見て、ねねは溜め息が出た。
だがすぐさまポンと手を打つ。

「ねね様?」

。こうしてごらん」

ねねはに耳打ちをする。
ねねの話すことにの目が大きく見開いていく。

「大丈夫かな?」

「大丈夫。やってみないとわからないだろう?」

「そうだけど・・・・」

「これで効果がないなら、利家殿よりもっといい男を捜すんだね。なんなら私がいい人見つけてきてあげるよ」

「え、え〜そ、それは」

ねねはいったいに何を告げたのだろうか?



***



利家が両手いっぱいに果物を抱えて、秀吉の邸に帰ってきた。
彼はここに居候している。

の奴、喜んでくれるといいンだけどな・・・折角叔父貴に貰ったんだ」

お目当ての彼女を探す。

!これ、食うか?」

早速を見つけた利家は一つ果物をに向けて投げた。
はしっかりそれを受け取る。

「利様。ありがとうございます」

「いいって事よ。さっき叔父貴に貰ったんだ、俺も食ったけど美味いぜ、それは」

また叔父貴だ。
口元が引きつりそうになるも、笑顔でそうですか。なんて答える。
縁側に腰掛けて、二人はその果物を食べる。

「あ。本当美味しいです」

「だろ?」

「とても冷えてて、甘いし」

井戸で冷やしてから持ってきたそうだ。

「まだ沢山あるんですね」

「ああ、沢山貰った。あとで秀吉たちにも分けてやろうと思ってよ」

「きっと喜びますよ」

喜んでもらえたと上機嫌の利家。
ここまではいい。いつもこうならいいのにと思う。
だが、一息つけば、利家の口から出るのは「叔父貴」の話だ。

「それで、叔父貴がな」

「本当参ったぜ、叔父貴に言われるまで・・・」

「そうそう、それで叔父貴が」

我慢だ、我慢。
勝家は悪くない。勝家は昔気質の人だけど、も顔をあわせればよくしてくれる。
嫌いじゃないんだ。
利家がそう思う気持だってわかる。
わかるけど・・・・本当。もう少し自分を見て欲しいものだ。

「あ。光秀様だ」

「お。珍しいな・・・・」

秀吉と何か話していたようだ。珍しく明智光秀が秀吉と庭を歩いていた。

「利様。この果物、少し貰って良いですか?」

「ん?あ、ああいいぜ」

は数個果物を掴んで二人のところに駆けて行く。

「光秀様!秀吉様!」

二人に果物を渡している。すぐ戻ってくるだろうと思ったのだが3人で談笑し始める。
ぽつんと取り残されてしまう利家。
中々は戻ってこない。ただ果物を分けに行ったのではないか?

「・・・・・なンだよ、の奴」

暫くしてからは戻ってきた。

「遅いじゃねぇか」

「そうですか?お二人と話をしていてとても楽しくて時間があっという間に過ぎたんでしょうね」

「へー」

は利家の隣に再び腰を下ろした。
先ほどまで居た秀吉たちの姿はない。

「お二人ともすごいですよね。今も信長様に命じられた政策について話し合っていたそうなんですよ」

私なんかは聞いてもまったくわからないとは言う。

「光秀様って物腰が柔らかいし、優しく気遣ってくださるし・・・今度面白い書物を貸してくださるって」

目を輝かせて話すに利家は少し面白くなかった。
重心を後ろにさげて両手を床につける。
の話を聞いているようで聞き流してしまっている。

「秀吉様も・・・・って利様、聞いてます?」

「聞いてねぇ」

「なんですか、それ。失礼じゃないですかー」

「他の野郎の話なんか聞いても面白いわけないだろ?俺はと話をしてんだぜ?」

の目が揺らぐ。
口をつぐんで目線をそらされた。

「な、なンだよ・・・・」

「それ、利様がいいますか?」

「あ?」

「利様だって、いつも私の話聞いて下さらないじゃないですか」

「ンなことねぇだろ!?」

はすくっと立ち上がる。
違うと言い切った利家を強く睨んだ。

「嘘ばっかり。いつも勝家様のお話ばっかりじゃないですか!私はもっと利様のことが知りたいのに」

・・・」

「利様なんて嫌い!」

は利家に背中を向けて走り去ってしまった。

「おい、!」

手を伸ばすも空を切ってしまう。

「・・・・・俺、最低だな・・・・」

そんなつもりはなかった。
いつも自分の話を笑って聞いてくれているから、何も気にしていなかった。
がしがしと頭を乱暴に掻いた。



***



「利様のバーカー・・・・」

本当はもっと明るく笑って冗談っぽく言うつもりだった。
利家は普段そうなんですよ?って。
もっと私の話聞いてくださいって軽く言うつもりだった。
だけど、あまりにも今まで溜まっていたものと利家の言葉に喧嘩腰になってしまったのだ。

「利様に嫌われた〜」

それどころか自分が「嫌い!」なんて言ってしまった。
いいんだ、どうせこんな可愛げない自分より。
黙って利家の話を素直に聞いてくれる子がそばにいれば。
ねねには、利家と同じことをしてみれば?と言われたのだ。
きっと利家だって面白くないと拗ねるかもしれない。
ねね曰く「目には目を。歯には歯を」だそうだ。
でも、失敗したようだ。
は室の隅で膝を抱えて蹲る。

「もういいもん・・・・ねね様に頼んで、カッコ良くて、優しくて、私の話を聞いてくれる人見つけてもらうんだから」

恐らくねねはが失敗するとは思わなくて「いい人を探してあげる」と言ったのかもしれないが。

「ンなこと言うなよ・・・・」

は顔を上げる。
利家の声がした。
珍しく弱々しくい声音。

「俺より、カッコいい奴とか、優しい奴なんざ、沢山いるだろうけどよ・・・・」

襖一枚挟んだ隣の室から聞こえる利家の声。
思わずその襖の方には擦り寄った。

の話を聞く奴は・・・俺だけで十分だ」

「利様・・・・」

そっと襖に手を触れる。
この一枚向こう側に利家はいるのだ。
利家は襖に背を向けて胡坐を掻いている。

「悪かった。俺が・・・全部悪かった・・・・から、嫌いになンかならないでくれよ」

「利様は悪くないですよ?」

「ンな事ねぇ。俺が悪い」

自分が単純に勝家に嫉妬したからだ。
利家にとって勝家という存在は大きくて変えられない存在なのに。

「カッコよくて。優しくて、私の話聞いてくれる人、利様だけだし」

・・・・」

「利様。お話しましょう、沢山。私の話聞いてください、利様の話も聞かせてください」

コツンと襖に額をつける。
こうして自分のことを見つけてくれたのが嬉しいから。

「話をするなら、顔、見せてくれ」

「・・・・・・」

「お、おい。なンで黙るンだよ」

「だ、だって・・・・今・・・・・見せられるような顔じゃないんで・・・・」

「ンなわけあるか!」

利家は立ち上がって襖を開け放った。

「酷い、利様!」

あわわあわわとは利家に背を向けて顔を隠す。
泣いた顔なんか見せられないのに。
ぐしゃぐしゃでみっともないんだ。

、こっち向けって。頼む、顔を見せてくれよ」

「あ、あとでなら」

「そンなのダメだ。今がいい」

「だ、だって」

仕方ないと利家はをひょいと抱えたかと思うと、そのまま腰を下ろした。

「と、利様!?」

を抱えて己の膝の上に乗せた。

「顔、見せられないなら、こうやって話させてくれよ」

後ろから抱えられてすごく恥かしい。
今の自分はいったいどんな顔になっているのだろうか。

「本当に、俺のこと嫌いじゃないか?」

「嫌いじゃないです・・・あれは勢いで・・・・」

「そっか。ならいい」

キュっと利家の腕に力が込められ、首筋に利家の息がかかってくすぐったい。

「何、話すか」

「なんでもいいですよ。利様の話ならなんでも」

「あー・・・・ンな事言われてもな・・・・結局叔父貴の話になっちまいそうだしな」

困ったと利家は考え込む。

「じゃあ、こうしましょう。勝家様の所に行きませんか?」

「は?叔父貴のところに?なンで?」

「勝家様のところにいって、利様の昔の話を聞かせてもらおうかなと思って」

「ちょ!そ、それは勘弁しろよ!聞いても面白くねぇって!」

はくすくすと笑う。

「いつも利様が勝家様の昔話とかなさるじゃないですか」

「そ、それはだな・・・・」

「だから今度は勝家様に」

そんな話勝家の口から聞きたくないし、に聞かせたくない。

「勘弁してくれよ、。変わりにの話聞かせてくれよ」

「そうですか?じゃあ何話しましょうか」

「そうだなぁ・・・・」

時間が許す限り、今日は沢山話をしよう。
それでもっとあなたのことを知りたいです。あなたも私のことを知ってください。








19/12/30再UP