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先入観。
「まぁ…前からそうだろうなぁ〜…とは思っていたわけよ」 「ふんふん」 「だって、そばにいるお義母さんがお義母さんなわけでしょ?あの人はそのお義母さんに近いというか、雰囲気が似ているわけよ」 「そうかぁ?」 「雰囲気だけじゃないよ!何よりもあのお胸!大きさといい…」 「い、いや…それを言われても俺は困るんだけど…」 少女と少年が仲良く並び座って話をしている。 傍から見ればそんな風に見える。 実際、それを見かけた風魔の忍びが、「仔犬が二匹じゃれているな」と楽し気に笑っていた。 「あ〜なんていうのかな?お二人からは母性ってのがにじみ出ていると言うか、溢れていると言うか…」 「母性も何も、一人は正真正銘の母ちゃんじゃん」 「そこツッコむ?」 真顔で言うなよ。と少年に対し思ってしまう。 「だ〜か〜ら〜私が言いたいのは、直政は年上女性が好みなのよ!しかもお胸が豊満な!!」 「へぇ、そうなんだ。直政はそうなのかぁ」 とある人物の女性の好みを声高らかに言い切った少女は。 それに感心し頷いた少年は島津豊久。 二人の話題に出ているのは井伊直政だ。 元々や豊久が居たのは戦国時代と呼ばれるものだ。 その居場所がある日突然、見知らぬ世界と混ざってしまった。 見知らぬ世界は中国文学では有名な三国志の世界。 英雄、英傑と呼ばれる有名人と共に現在戦っている。 戦うとは何に? ゼウスと言う神々に対し。 何のことだ?と戸惑う人間だったが、ペルセウスという青年からの話で現状を理解し始めていた。 にしてみれば、元々井伊家の世話になっているだけで、今回も戦に出た直政達の帰りを待つ留守番だったはずなのに。 屋敷の外に出た時、たまたまなのか、理由があってかわからぬが、その融合された世界に迷い込んでしまった。 運良く直政達と再会できたのだが、現在は軍の雑用のような、手伝いのような事をして過ごしている。 なので、いまだにゼウスが、神々がと言われてもあまりピンと来ない。 寧ろ、気になっている別の事を豊久と話していたのだ。 「そのが言っている練師殿は、直政の母ちゃんと言うほど似ているのか?」 「顔とかじゃなくて、さっきも言ったよ。雰囲気、母性というのがありありな感じ? 直虎様も、練師さんも、いつもあなたを見守っていますよ。な感じ」 「俺、よくわかんねぇけど」 豊久は頭をかく。 「だって、直政の母ちゃんってどっちかと言うと一人でおどおどしていて、自信なさげな感じがするぞ。練師殿はそれこそ凛としているような」 それは少しだけわかる。 直政の義母直虎は自身に対し過小評価過ぎる部分があるのだ。 豊久はその部分の印象が強い様だ。 戦に出るとそのような事は気にせず果敢に戦っている人なのに。 「けど、直政を見守る点では優しいお義母さんって顔をしているよ」 「へぇ」 「直政は家康様と直虎様にだけは素直に言う事を聞くの。あと二人に何かあれば一番に噛みつくの」 「あはは、わかるな、それ」 「その直虎様と雰囲気似た練師さんと、最近仲がよろしいの」 「あ〜練師殿には素直なんだ、直政も」 「そうそう。状況が状況だから?そんな事を面と向かって直政に言えば、きっと…」 「「ダメだ、ダメすぎる!」」 二人して声を出して笑ってしまった。 「私に対してはいつもの倍の説教だよ、きっと」 その光景が目に見えてわかるとはため息を吐いた。 「練師さんにしても、直政ってかまいたくなるような感じなのかな?」 「俺に聞くなよ〜本人に聞けばいいじゃん」 「いやいや、聞ける!?聞けないでしょ普通」 だから豊久相手に、こうなのだ!と力説しているようなものだ。 実際、ここ最近直政と顔を合わせる時間は減った。 軍を2つ、3つに分けたり、作戦上別行動にする事もあって。 戦に出られないはほとんど動く事がない。 いつも通りに皆の帰りを待つだけなのだ。 「練師さん、年下好きかな?」 「知らないって、んな事」 「もう、豊久君。冷たい」 「話を聞いているだけマシだろう?直政ならこんな話聞く前に一蹴するぞ」 それはわかっている。 「そう言うのさ、俺よりも他の女子に聞いた方がわかるんじゃないのか?孫呉の姫さんとか真田の忍びとか。と話合いそうだぞ」 恋話か!?と逆に聞いて来そうな人もいるのだが。 なんとなく伝え方を間違えると、直政の印象を悪くする様にも感じ話す気にはなれなかった。 豊久は直政の事を知っているので、こうして話ができるのだ。 「それなんですがぁ〜少々気になる会話を耳にしましてね」 「「!?」」 どこからともなく姿を見せたのは真田家に仕える忍びくのいちだった。 「え?何が?」 くのいちは達の前にしゃがみ込み、周囲の様子を窺いながら小声で話す。 自然とと豊久もくのいちに対し耳を近づけてしまう。 「さっき、練師さんと直政さんがお話している所を見かけまして」 「あ、直政いるんだ、今」 「そこかよ、…」 てっきりどこかに行っているとばかり思っていた。 「なんだか深刻そうな感じでしてねぇ…気になるから耳を澄ませてみれば」 それって盗み聞きじゃん。豊久に言われるもくのいちは無視して話を進める。 練師が直政に対し憂いを帯びた瞳を向けていたと。 練師は先陣を切って戦う直政の姿を心配していたのだと言う。 それに対し直政は、自分の戦い方を変えるつもりはないとはっきり口にしていた。 練師はそれもわかっていると。 そこまでは良かったのだが。 直政は。 「ただ…あなたがいつも俺を支えてくれているのは、ありがたく心強く思っています。 もしよろしければ、これからも見守ってくださると嬉しいのですが」 と答えたのだと言う。 「…告白じゃん、それ」 「は?そうなのか!?」 は唇を尖らせた。 「どうなの?とか言う以前の問題じゃん。直政は練師さんに支えて貰っているみたいだし。これからもとか言うし、それが嬉しいとか…」 なんだろう、くのいちに聞いた話の所為で、少し、若干、いや、とてつもなく胸の辺りがモヤモヤする。 直政の事を考えると、キュッと胸の辺りが痛くなる。 「じゃあ、もういいや。余計な事を言うと直政に叱られるし、この話はこれで終わり!」 「ありゃりゃ」 は立ち上がった。 「私、食事の支度手伝ってくる〜豊久君、くのちゃんも。今の話ここだけにしといてね」 「おい、」 じゃあとは二人を置いて去ってしまった。 「………お前さぁ…今の話作り話とかじゃないよな?」 豊久も立ち上がり、くのいちに問う。 「作り話じゃないですよ。普通に耳にした内容ですけど、けど少し違うなぁ」 くのいちは困惑する。 「話の続きがちゃんとあるんだけど…ちょっとちんの反応みたくてやり方間違えちった」 「おいおい」 困惑しつつも少し楽し気に笑うくのいちに豊久は苦笑するのだった。 私と直政ってどんな関係だっけ? そんな事を考える。 井伊家で普通に生活をしているときは特に考えなかった。 考えたところで、直政に言えば「手のかかる妹」ぐらいの答えが出るだろう。 それに対しは「口煩い兄」と直政の事を言うのかもしれない。 そんな二人が直虎に見守られて毎日を過ごす。それが日常だった。 (……確かに戦の続く時代ではあったけど……直虎様が居て、直政が居るのが当たり前で…) 家康や忠勝に会いに行くこともあって、つい直政に対し口煩い。などの愚痴をこぼして二人にしょうがないと笑われたりもして。 だけど今はどうだ? 有名な武将が居る時代だろうが、そこの世界と融合したからと言っても結局戦続きで。 そんな中で、自分より大人な女性と楽しくやっているのだと知りたくなかった。 (練師さんは大人だもんなぁ…自分でも戦う人だし、頭もいいし、外見も性格もいい。劣るものなんてないし…) と言うより、練師だけでなく、の周りにいるどの女性も素敵な人ばかりだ。 「、どう…?おい!」 くのいちが今陣に直政が戻っていると言っていたが、その直政がに声をかけた。 だが、は足を止める事もなくそのまま無視した。 (………痛い、よ) 直政を無視してしまったことで、余計に痛みも増す。 だけど、今はいつも通り直政と顔を合わせることはできない。 止まらない痛みがどうしようもなくて。 (神様も余計な事をしてくれるよね…私まで巻き込んでくれちゃって…) 元凶を作った神々に対しつい愚痴が出る。 しばらく何も考えたくはない。 考えれば考えるほど胸の痛みが強くなっていくのだから。 「義母上。を見ませんでしたか?」 直政はここ数日姿を見せないを心配し、義母直虎に尋ねた。 「さんがどうかしたのですか?」 直虎は別段と何があるわけでもなく、普通に顔を合わせていると言う。 「いえ……」 「あ、でも…最近食欲がないみたいで…それは心配ですけど…」 慣れない世界で疲れているのかも。と直虎は言った。 にその辺の事も聞きたいが、中々会えない。 集中して探そうにも、そんな時に限って任務に呼ばれてしまう。 久しぶりに姿を見た時、呼び止めたがに声は届かず彼女は立ち止まらなかった。 自分が不在時に何かあったのではないかと思っても。 本人に話が聞けずそれを確かめる事はできない。 「直政。どうかしたのか?」 「島津!…あ、いや…」 豊久が直政に声をかけてきた。 「を見かけなかったか?探しているのだが中々見つからなくてな」 と聞いて豊久の口角が若干引きつった。 「なんだ?」 「えーと…」 「俺に何か言いたい事でもあるのか?あるならはっきり言え」 「直政にって言うか…多分なんだけどさ…」 豊久は明後日の方向を見ながらぼそぼそっと言葉に出した。 「はお前に気を遣っているんじゃないかなぁって」 「俺に気を遣う?何故だ?」 「あ〜……」 「何を知っているんだ、お前は」 直政が豊久を強く睨んだ。 その睨みから豊久は逃れることはできず、数日前にあったことを話した。 「なんだ、そのくだらない話は」 案の定。直政はくだらないと一蹴した。 「おいおい。大丈夫かぁ?昨日より辛そうな顔してるぞ」 陣地内のとある場所にはいた。 静かで居心地のいい秘密の場所。とごく一部の者だけが知っている場所だ。 「……わかんない…」 「医者にでも診て貰えよ」 「え?私、病気なの?」 「いや、俺に聞くなよ」 は腹を抱え、横になっている。 傍から見ると痛みに耐えて蹲っているように見えなくもない。 そんなを心配するのは、司馬昭だ。 めんどくせえが口癖のような彼は、昼寝を趣味としていた。 その秘密の場所に司馬昭とはいた。 何やら悩んでいる様子のを気遣って、司馬昭はこの秘密の場所である昼寝の穴場にを連れてきた。 「痛くて、痛くてどうしょうって」 「だから医者に診せればいいだろうが」 「…病気じゃ無いよ、これ」 「そんなの自分で判断するなよ」 「だって、……政…の、所為だもん…」 「?」 直政と練師の事を考えると胸が痛くなる。 原因はもうわかっている。 そしてその理由も。 だから医者に診せても仕方ないのだ。 考えないようにしていても、痛みは広がり増していく。 「司馬昭さんは…もし元姫が司馬師さんとかと知らずに仲良くなって、いったらどうする?」 「は?元姫と兄上がって…なんかすげぇめんどくせえ話だな…」 「二人は付き合ってないの?」 「いや、その、俺と元姫はなんだ……」 司馬昭は面倒臭い話だとボヤキながら頭をかいた。 「別に、俺は兄上と元姫が仲良くなってもどうもしないけど。仲違いするよりマシだろうが」 あれか?は今、まさに自分はその状態なのか?と司馬昭は考える。 「司馬昭さんは大人だなぁ」 「なんだよ、それ。別に言うほど大人ぶってもいねえよ。単にめんどうくさいのが嫌なだけだ」 「私も、さらっとそう思えればいいのになぁ…」 司馬昭は小さく息を吐いた。 「それは楽だけどさ。逃げてばっかだと後々もっとめんどうくさい事にもなるぞ」 何かから逃げているんだろ?と司馬昭に問われる。 間違っていない。 ずっと直政から逃げている。 逃げてしまったことを悔やむ気持ちもある。 「っ〜!!」 「おいおいおい。なんかヤバくねぇか?!」 「痛い、痛いよ、直政…」 先程よりも苦痛を訴えるを見て、司馬昭は抱きかかえ急ぎ中へ戻っていった。 「って、医者って誰だ?どこだ?」 司馬昭は陣地内を見渡すと、その司馬昭に気づいた直政が駆け寄った。 司馬昭と言うより、抱えているにだろう。 「!!」 豊久も一緒にやってくる。 「あ、あぁ直政殿「あなたに何かしたのですか!!?」 詰め寄って来る直政に司馬昭は何度もかぶりを振る。 「違うって!なんか具合悪いみたいで、症状が悪化しているようだから医者のとこに連れて行こうと」 「そ、そうでしたか。すみません」 医者がいる場所へ急ごうと全員駆け出した。 「…………」 「気がついたか?」 「……直、政?」 目を覚ますと、自分の顔を覗き込む直政が映った。 直政はに対し安堵しつつも、すぐさま厳しい目を向けた。 「体調が優れないならば何故もっと早く言わないんだ。司馬昭殿が気づいてくれなければどうなっていたか…」 胸の痛みをずっと気にしていたが、段々と胸よりも下に痛みを感じるようになっていた。 今回倒れた原因も、どうやらそっちの痛みの方らしく。 「………」 「左慈殿にも礼を言うんだぞ。左慈殿がお前を診てくれ、仙界の薬とやらで痛みを散らしてくれたそうだから」 左慈の診察では、精神的な負担があったようで胃炎の類だろうと。 そんな説明を聞くも、ぼんやりとしながら直政の顔をジッと見てしまう。 「あと、島津から聞いた。何をどうすれば俺が練師殿と付き合うと言うのだ。それを気遣うとか何だ?」 いっぺんに色々な事を向けられは答えられない。 「だ、って…」 「練師殿が言ってくれた言葉は、仲間として向けてくれたものだ。だから」 「直政、振られちゃったの!?」 は思わず体を起こした。 「っ…、お前は…」 直政はの頬をギュッと抓った。 「な、なんで!?」 「誰が振られただ!」 「あ、自分ではまだ振られていないとか…って?…痛い!痛いっては!!」 直政の抓る手が強くなった。 「まったく…」 直政は抓るのをやめるが、手は離れず、そのままの頬を撫でた。 「お前が考えているようなことは何もない。練師殿とはお互い仲間だと認め合っただけだ」 「だって、くのちゃんが」 「島津の話では、お前は話を最後まで聞かずに行ってしまったそうではないか。話の続きがあったと言っていたぞ」 「え。えー……」 「大体俺の好みが年上などとか、好き勝手に言うな」 「いや、年上だと思うよ普通…」 「はあ…、お前は…」 直政は嘆息しながらも、目を細め笑った。 「こんな世界だ。お前がいつも通りで安心した」 「直政…」 「久しぶりにそんなと話ができて良かった」 この数日探したけど見つからなかったと直政は呟いた。 にしてみれば、練師との仲を疑い、それに勝手に傷ついた。 結果的に何もなく自分の勘違い。 直政と顔を合わせるのは申し訳なく感じる。 けど、も今、直政と普通に会話できることに安心できた。 「直政、ごめんなさい」 「いや、いい」 「あと、手のかかる妹でごめん」 「………」 「痛っ」 直政がの額を軽く叩いた。 「俺はを妹などとは思っていない。逆にお前が俺を兄だと思っているのならばやめてくれ」 「え…」 直政とくだらない言い合いをしているのを、直虎が微笑ましく見守ってくれる。 家族のようなものだとは思っていたのに。 直政は違うのか。は唇を噛んだ。 「一人の男として見て貰えないのは情けない」 「直政」 「そう言う事だ」 直政はの頭をくしゃりと撫でて室から出て行った。 一人残されたは直政の言葉に意味に顔を赤くするのだった。 19/12/30再UP |