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ある何でもない日の話。
井伊直政がと出会って、数年程度。 数年程度ではあるが、大体どんな人間なのかわかっているつもりだ。 だから、今日もまた可笑しなことを言いだした。 そう思った。 「は?なんだ?」 「だ〜から〜、もし異世界ってのに行けたとしたら直政はどうしたい?」 「異世界だと?」 まず、そんなものがあるのか?と直政は思った。 毎度毎度、阿呆な事を言う奴だと思ったが、今回も日常じゃ考えもしない事だなと呆れた。 「もう〜直政は真面目すぎるよ?そんなに難しく考えないでよ」 直政ががどんな人間かわかっているように、も直政がどんな人間がわかっている。 なので、今自分がどんな風に考えていたのか、には表情で伝わっていたようだ。 「もしって事だよ。楽しく考えよう」 「普通はそんな事を考えないぞ」 「まぁちょっとした暇つぶしに。今、暇でしょ?」 現に縁側で二人でお茶をしていたのだから。 忙しいところでの質問ならば、「くだらない」と平気で切り捨てていたはずだ。 「だが、暇だと言われても今、話をするような内容か?それは」 「じゃあ、今しないでいつするの?」 「絶対しなくてはならない内容ではないだろう」 「直政、頭かたーい」 「お前は緩すぎる」 こういうやり取りも直政とならではだろう。 大概の人は鼻で笑うか、くだらないと話を強制的に終了してしまうかもしれない。 いや、直政の義母直虎ならば、「面白そうですね!」と一緒に楽しんでくれるかもしれない。 「まぁまぁ、とりあえず。直政ならばどうする?」 「どうすると言われてもな…」 直政は嘆息する。 は隣で茶を軽く啜った。 「確かにくだらないとか、考えても仕方ないことかもしれないんだけど… 例えば、今、まさに今!あの角から何者かに襲われでもしたらどうする?」 が一方を指さす。 「何?」 「突然の刺客に、まず逃げ道を確保するのか、咄嗟に応戦するのか。はたまた味方を呼ぶのか…って言うもしもの話もあるじゃない?それと同じ」 「同じか?」 「似たようなものだよ。もし、今。直政が異世界に飛ばされてしまった!右も左もわからない場所だった場合、まずどうする?みたいな」 そもそも異世界などあるのか?と直政は思ったが、その顔を見てが笑う。 「ない。とは言えないでしょ?だって元々私はこの時代の人間じゃないし」 元々は直政の居る時代より遙か先から来たものだと言う。 それを信じる信じないと言えば、当初は信じられるか。と思ったが。 の話などから、嘘は言っていないと信用した。 そう言われると、異世界の存在もないとは言えないのかもしれない。 「の言うこともわかるが、唐突に異世界などと言われても、俺にはよくわからないのだが…」 「そう?うーん…」 「例えば、異世界と言うのはどのような所なのだ?」 「どのようなって…今とは全然違う文化があって…人も人じゃないって言うか…普通に想像できない世界…とか?」 直政は腕を組む。 「なんだ、聞いてくるもわかっていないような感じだな」 「いやぁ、流石に異世界は私も物語とかでしかわからないし」 「それは俗に言う…昔話とは違うのか?」 「違う。とは思うけど…もっと簡単に考えるならば…犬猫が私達と同じように二足歩行で、服着て、普通に会話もできている世界があるとか」 「?」 「種族が違うって言うのかな?獣人。獣人族の世界とか、ああ魔法とか使える世界とか!」 「わかったような、わからんような…」 直政はまだ手を付けていなかった煎餅をかじった。 「って言うか、深く考えちゃダメなんだよ、こういうのは!」 「そう言うものか?」 直政にはいまだにピンとこないのだ。 「では、はどうしたいんだ?その異世界とやらで」 「私?そうだねぇ」 「まぁ、お前はどこでも逞しく生きて行けそうだがな」 「褒めてんの?それ」 「さあな」 も菓子皿に手を伸ばし、煎餅をかじった。 「否定はしないかなぁ?運はいい方だと思うし、異世界の人とも仲良くやれそう」 へらっと笑う。 「それで、イケメンと恋に落ちたらどうする!?」 「は?」 「ちょっと違うかもしれないけど、漫画…あぁ小説とか物語の世界に自分がいたらって考えてさ、物語の登場人物と恋愛に発展したら!とか」 「異世界ではないのだな、もう」 「似たような世界でしょ、ある意味あれも異世界だと思う」 「ほぅ…それで登場人物と…」 直政は豪快に2枚目の煎餅をかじった。 無性に面白くないと感じたから。 「もし…源氏物語は嫌だなぁ、光源氏とは恋愛したくないね。なんか色んな人を相手にしているし」 「そもそも光源氏がお前を相手にするとは思えないな」 「失礼な」 だがが気分を害する様子はなく笑っている。 「あとは…あ!三国志とか!!三国志いっぱいイケメン出てくるでしょ?」 「そうだったか?」 「絶対イケメンぞろいだよ!!」 違うと思う。直政は自身が読んだそれを思い浮かべるが、登場人物が全員の言うような美丈夫ではなかった気がする。 寧ろ、一部だけで、おっさんとか爺とかそんなんばかりだろう?と。 「どうする!?ねえ、直政どうする!?私が趙雲とか馬超に見初められらたら!!?」 興奮気味に直政に詰め寄る。 直政はそれを無情にも押しのける。 「くだらない」 「え〜?いいじゃん、ちょっとした妄想だよ、妄想」 「それがくだらないと言っているのだ」 いつの間にか3枚目の煎餅に手を伸ばす直政。 「知らないぞ〜可愛いちゃんが趙雲のものになっても〜」 直政は呆れてため息を吐いた。 趙雲って三国志の中でも人気のある蜀、劉備に仕える武将だったかと思い返す直政。 長坂の英雄だったか?あれ?それは張飛だったか? 確かに話の中では誠実だと言う描写があった気もするが。 大勢いる登場人物の中の一人なのでそんなに細かく覚えていない。 「趙雲にも選ぶ権利はあると思うが」 「それひどくない?」 「そうか?」 異世界とやらはどこに行ったのか、いつの間にか物語の世界を超えて英雄との恋話に発展している。 女子はこういう系統が好きなのだろうなと直政は思いながら、の話を半分程度しか聞いていない。 「もし、もしもだよ!?戦場で襲われそうになった私を趙雲が颯爽と助けてくれて」 「戦場になるような場所をふらついているに問題があるな」 「じゃ、じゃあ…賊に襲われそうになったところを趙雲が助けてくれて」 「そんな都合のいい話があるか」 「もう!ちょっとぐらい話に乗ってくれてもいいじゃんか、直政のケチー」 「の言っている事は、別に異世界でも物語の世界でもなくても今の世界でもありうる話だろう?妄想と言うより憧れだろうな、それは」 はキョトンとする。 「ありうるかな?」 「かもしれないと思うが。平気で戦場を横断していそうだ、お前は。あと誰彼構わず喧嘩を吹っかけて相手を怒らせ襲われるとかな」 「……ただの間抜けじゃん、私」 「否定はしない」 「もう!直政!!」 は直政に向かって手を振り落とそうとするが、直政の言葉でぴたりと止まる。 「だが、そんな時、しょうがないので、俺が近くに居たら助けてやる」 「……直政が?」 「居たら。の話だがな」 煎餅だけで腹が膨れそうだ。 もう何枚目を食ったのだかわからない、その分喉も乾いたので茶を飲み干す。 「うひひひ、直政が助けてくれるんだ〜」 「品のない笑いは止めろ」 「じゃあさ、あれだね。私と直政。二人で異世界に行ったとして」 「まだ続くのか…」 は直政の顔を覗き込み笑った。 「なんかあっても直政が居てくれれば大丈夫だよね、きっと」 「………」 直政はチラッとを見てから腰を上げた。 「その時は周囲に迷惑が掛からないよう面倒はみてやる」 とため息と一緒に吐いた。 「あと、万が一趙雲に見初められでもしたら全力で阻止してやる」 「なんで!?」 「趙雲が可哀想だろう、お前みたいな奴を相手にするなど」 暇つぶしは終わりだと直政はその場を離れた。 後ろでが文句を言うが、そんな事は無視だ。 「もう、直政は〜…何が起こるかなんてわからないじゃんかぁ」 異世界などと言うのは突拍子もないとはも思うが。 自身がこうして戦国の世にいる事を思えば、ないとは言い切れないだろうから。 「本当に知らないぞ〜私がすっごい英雄のものになってもさぁ」 あぁ、そう言っても直政は鼻で笑うのだろうな。 自分で口にして空しくなった。 「逆に直政が異世界の子と恋に落ちる可能性もあると思うんだけど…」 は唇を尖らせる。 だが、それも一瞬で。 「それこそくだらないな」 と言い切る直政を想像して笑ってしまうのだった。 後日。 とある事情で本当に三国志の英傑たちと出会う事になるのだが。 そこで英傑とが恋に落ちたのかはわからない…。 19/12/30再UP |