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花は桜と重ね合わせる。
日の本一の兵。 真田幸村がそう呼ばれたことは有名だ。 ドラマや映画、小説とか、ゲームや漫画など。 主人公として登場する作品も多い人気ある武将。 だが、史実の真田幸村は、信繁が本名であり幸村とは名乗っていなかったとか。 戦もそんなに経験はしていない、人質生活、浪人生活など苦労が絶えなかったとか。 教科書に載る人物ではなかったが、人気があったのでそう言う事はそんなに気にならなかった。 目の前に真田幸村がいるだけで十分だった。 「どうかしたのか?」 「………」 「?具合でも悪いの?」 肩を揺さぶられ我に返る。 「あ」 「まだ寒さが残っているから体調でも崩したのかしら?」 の顔を心配そうにのぞき込んだのは真田信之と妻稲。 今は3人で城から少し離れた場所にある桜を見に来ていた。 「大丈夫!なんでもないです。少しぼーっとしちゃって」 は慌ててかぶりを振る。 「確かに少し肌寒いけど、身体はなんともないです」 二人に心配をかけたとは元気な様子を見せつける。 「そうか?だが無理はしないでくれ」 信之はの頭に手を置き優しく撫でた。 「ありがとうございます。信之様」 「が呆けているなんて…桜に見惚れちゃったの?」 「確かに見事だ」 信之と稲は目の前にある大きな桜を見上げる。 満開に咲いている桜。 でも、風に吹かれると花弁が一枚、また一枚と散っていく。 それが幻想的と言えばそうなのだが。 「綺麗ですね、本当」 「あぁ」 「………」 も夫妻と共に桜の木を見上げる。 確かに綺麗だ。 だけど、同時に少し寂しさを感じてしまうし、ここ最近は少しだけ怖さもある。 (以前は、桜を見てもそんな風に思わなかったのに…) 桜を怖がる日が来るとは思わなかった。 小説で桜の木の下に死体が埋まっている。なんてのがあったが。 別にそれを思い出したからと言うわけではない。 戦国時代ならば、桜の木など関係なく戦場になった場所では死体がある。 それに正直その小説の内容はほとんど知らない。 読んだこともないのだから。 「兄上!」 その声に少しだけ肩がびくついた。 「幸村」 「中々お戻りになられないので、待っていられず私も来てしまいました」 声の主は真田幸村。 が桜を怖いと思う原因だ。 「一人で留守番は可哀想だったかしら?」 「だが、幸村には弁当を守る役目があるからな」 兄夫婦は幸村の登場にそんな風に笑って言う。 誰が言ったか桜が見事なので、花見でもしようと。 誘われれば断る理由もないので、着いてきたが幸村の声にここまで反応してしまうとは。 「しっかり守っておりました。なので、早く食べませんか?そこからの眺めも見事ですよ」 「そうか。それでは仕方ないな。腹を空かせた幸村もいることだし」 「えぇ参りましょうか」 「兄上!」 楽しそうだ。 兄弟仲が良くていいことだ。 そんな風に兄弟と夫婦の後姿を見てしまう。 あの輪に入るのは容易い。 3人は自分を可愛がってくれる。 自分も3人を慕っている。 だけど、今は少し寂しく怖い。 (……桜の所為だ…) 桜の? 本当に桜だけの所為か? いや違う。 楽しそうに笑っている幸村の所為でもある。 以前はそんな風に思わなかったのに。 一緒に居られるのは自身嬉しく楽しかったのに。 何も考えずに笑っていられたのに…。 何が自分をそんな風に変えてしまったのだ。 「そう思いませんか?殿」 「………」 「殿?」 「え?あ、ごめんなさい」 振り返った幸村が何か言ったが、は聞いていなかった。 「どうかしましたか?殿」 幸村は歩みを止め、立ち止まる。 「?」 「本当に大丈夫か?さっきから元気がないようだが」 稲と信之も振り返り止まった。 「だ、大丈夫です。なんでもないです!ごめん、ユキさん。なんの話?」 これでは心配してくださいと言っているようなものだ、少しばかりは焦ってしまう。 「大した話ではないので、別に良いのですが…」 何かあったのではないですか?と幸村はに問う。 なんでもないと言っても、幸村を含め、3人共きっと気にしているはずだ。 呆けた回数が減らないのだから。 「ほら!春先って眠気に襲われるじゃん。天気もいいから少し眠くてさ」 「歩きながら寝ていたのか?は」 「お弁当を食べたらそのまま昼寝をしてしまいそうね」 夫婦は気を遣ったのか、そのまま信じてくれたのかはわからないが。 の言葉にそう返してくれた。 も仕方ないですね〜とおどけながら笑って見せるが。 幸村だけはどうも納得していない様子だった。 「さ!早くお弁当食べましょう!私、先に行って全部食べちゃいますよ?」 は一人駆け出した。 「こら、!」 「うふふ。信之様。に食べられてしまわないうちに行きましょう」 「そうだな…だが、幸村。を追いかけなくていいのか?」 「兄上…」 「はこのままはぐらかしたまま逃げてしまうぞ。心配ならちゃんと話を聞いてあげるといい」 夫妻は自分達ではどうにもできないと感じていたのだろう。 がその場を離れた理由をそれらしく受け止めつつ。 幸村にはを助けろと背中を押した。 「わかりました!」 幸村はの後を追いかけた。 「いいんですか?信之様」 「どうだろうなぁ…大方の悩みは幸村の事だろうから」 「とりあえず、私達は二人が戻るまで、お弁当の番でもしていましょうか」 「そうだな。食べ終わらないうちに戻ってきてくれると良いのだが」 「まぁ信之様ったら」 幸村達とは違って夫妻はゆっくり歩き出した。 「………逃げたみたい…だよね…」 大きな桜の木の幹に額をつける。 弁当を食べちゃうぞ。なんて言いながらも、その場所とはまったく別の場所に来てしまった。 単純に道を間違えたとか後から理由は何とでも言えるだろうと考えつつ。 少しだけ時間を置くことにした。 なのに。 「殿。何があったのですか?」 「っ…ユキさん…」 「体調を崩されたのでしたら、城へ戻りましょう」 幸村にあっさり見つかった。 「大丈夫、だから」 「では何か悩み事でも?私で良ければ話を聞きます。だから、一人で抱え込まずに」 悩みと言えるのかわからない。 これはきっと感情の問題だ。 「なんでも、ない、から」 放っておいて。 そう言いたいが。 それは追いかけてきてくれた幸村に対し身勝手な答えだろう。 「ここ最近…あなたは辛そうな顔をされています。私はそれが心配です」 「私は、別に…」 辛いよ。 寂しいよ。 怖いよ。 そう言った負の感情が襲ってくる。 考えすぎだと言えば、考えすぎなのだ。 それは自分でもわかっている。 「私では…兄上や義姉上のように頼りになるとは思えませんが…話してくだされば…」 あれは誰だったのかな? 誰が言ったのかな? 「幸村は桜のようだ」 そして、それを支える信之は桜の幹だとも言っていた。 桜は好きだった。 ずっと昔から。 昔から、女の子らしい色合いは苦手だったけど、不思議と桜は見ていても気にならなかった。 桜吹雪なんてとても幻想的で綺麗なものだと思っていた。 桜を見れば、あぁ春が来たなと思えた。 なのに、ここ数年はその桜を見るとわくわくした気持ちがどこかへ逃げてしまう。 桜を見ると、辛くて、寂しくて、怖くなってしまう。 「殿?」 それは、 そう思ってしまうのは。 「ユキさんの、所為だ…」 「え?」 の肩が震える。 こんな気持ち隠してしまわないとダメなのに。 「殿、泣いて…いるのですか?」 の異変に気付いた幸村が、自分の方に体を振り向かせた。 「………っ、…」 「私の、所為と言うのは…私はどこかであなたの事を傷つけていたのですね…」 違う。 そうじゃない。 幸村に違うと言いたいのに、上手く伝えられない。 「ち、がう、ごめん」 幸村は何も悪くない。 幸村が何を言ったわけではない。 それになのに、幸村の所為にして、自分は酷い、最低だ。 こんな自分の事を心配してくれる優しい人なのに、幸村は。 「悪くない、ユキさんの、せいじゃないから…ごめんなさい、私が」 勝手に不安に。 勝手に寂しく。 勝手に怖さを。 勝手に、思い込んだだけだ。 「でも、あなたは泣いているじゃないですか」 幸村がを強く抱き寄せた。 「何があなたを泣かせるのですか?」 「………」 答えない、涙を流すに対し、幸村は少し強くを抱きしめる。 「桜が…」 「?」 「桜が怖い…ユキさんを連れて行っちゃうみたいで…」 「え?殿…?」 「だから、ユキさんは悪くない。悪いのは全部私で、私が勝手に」 涙は止まらない。 きっと幸村を困らせている。 こんな自分の事など放っておけばいいのに。 幸村は優しいから。 そんな幸村が、自分は大好きだから。 「桜の散り際と、ユキさんを一緒にされたくない…」 そう言う事だろう? 桜の散り際と幸村の生きざまが似ているとか、なんとか。 桜は散ってしまえば終わりじゃないか。 じゃあ幸村は散ってしまうような人なのか? 随分勝手ではないか。 あとはよく知りもしない、史実での真田幸村のことだ。 最期の戦でそう称賛されたとか…。 詳しくは知らない。 誰が言ったのかも、その姿を見たのかもわからないし。 けど、もしこのまま時間が、時代が進めば。 幸村はそう言う道を辿ってしまうのか? 桜のような見事な散り際を見せるのか? 「そんな桜、好きになれないよ」 幸村の背中にギュッと強く自分の腕を回した。 「確かに。桜が散る姿は綺麗ですが…散って終わりではないですよ?」 「?」 「桜はまた来年も咲きます。その次の年も…見事に綺麗な花を咲かせるのです」 「………」 「上手く言えませんが…私は散って終わりなどにしたくないです」 幸村の性格からすれば、それはそれで難しいだろうと思うが。 そこは幸村の言葉を信じたい。 信じてみたい。 幸村の言葉に、さっきまであった不安などが一気に散った。 「殿に、沢山心配をかけてしまったようですね」 「そ、れ、は…えと…」 「ありがとうございます。でも、とても嬉しいです」 礼を言われるのはおかしい。 なんだか急に恥ずかしくなる。 そう言えば、自分は今、何をしているのだ。 「ですが、殿」 「な、なに?」 「このまま二人でどこかに行きませんか?」 「へ?」 急に何を言い出すのだ、幸村は。 「あなたが私の為に泣いてくれたのは嬉しいですが、その涙の痕を兄上たちに見られると後が怖いので…」 「……あは、何、それ」 「私の所為で殿を泣かせたと知れば…兄上も、いや義姉上の怒る姿が目に浮かぶのです」 「でも、泣いて、安心して、お腹空いちゃったし、お弁当楽しみだし」 先程とは打って変わって零れるのは涙ではなく笑みだ。 だけど、なんとなく幸村から離れるのが嫌で。 「だから、もう少しだけこうやって居させてほしいな」 「っ、殿…」 「今だけでなく、これから先もずっと、ずっと…」 「私も、です。殿…」 抱きしめてくれるその腕の力はとても優しく、とても落ち着く。 次からはきっと、以前と同じように桜を愛でる事ができるだろう。 幸村と一緒に。 19/12/30再UP |