一粒万倍。



ドリーム小説
それを聞いたとき、正直羨ましさがあった。

「……もふもふだった……」

「マジですかぁ!!?」

「……あぁ……」

長身の黒づくめの男、しかも無口な彼が小柄な少女を前に頷いた。

「いいな!いいな!周泰さんいいな!!」

男、周泰のそばで地団駄を踏む少女は
傍から見れば珍しい組み合わせだと思われる。

「それって左慈さんに言えば触らせてもらえるのですか?」

「…わからない…」

「ええ!そこ重要ですよ!周泰さん!!」

「……すまない……」

「あ、真面目に謝られると困るんで」

は周泰の態度に苦笑してしまう。
一先ず自分と違って忙しい周泰とは別れて歩き出す
ここはオリンポスの神ゼウスが作ったとされる世界。
元々は遠呂智が作った三國と戦国の世を融合させた世界。
何を考えて消滅した世界を作ったのは神様の考える事はよくわからない。
オリンポス以外にもアースガルズと言う勢力の神々もいるそうだ。
そして仙界の住人達も。
色々ごっちゃごっちゃだが、三國と戦国の英雄たちは元の世界に戻る為に戦い続けている。
そんな中で、は一人だけ戦う力を持たない子だ。
武田信玄の元、真田家で世話になっている。
まさか自分もこの世界に来ることになるとは思わなかった。
二つの世界が融合しただけかと思えば、そこはゼウスの力だろう。
見たこともない別の景色もあり、見たこともない生き物も存在した。
オリンポス軍が手駒のひとつとして使っている存在だ。
一つ目の巨人だとか、死神を模したようなものだとか。
が周泰と話していたのはそれらの存在で、中でもグリフォンと呼ばれるもので盛り上がった。

も元の世界(戦国ではなく)でその存在は知っていた。
漫画やゲームの世界。特にファンタジー小説では超がつく有名な生物だ。

「いいなぁ、私もグリフォンに触ってみたい。あわよくば乗ってみたい!!」

ちょっとした憧れだろうが、実際その生物を目の前にしてそれができるかわからない。
何せ、戦う為に存在しているような話だし。
周泰が遭遇できたのは左慈という不思議な御老人の術のお蔭らしい。
だけど、しばらくしてから新たに仲間になった夫婦から聞いた話では驚いた。

「え!?飼うことができるんですか!!?」

「飼うとは違うな。わしらはあいつらを家族だと思っていたからな」

「そうさねぇ。無理に従わせようなんてことはしていないからね」

南中の王孟獲とその妻祝融。
二人はこっちの世界に来てから、グリフォンや一つ目の巨人サイクロプスと過ごしていたと言うのだ。

「家族…」

「なんだい、嬢ちゃんはあいつらに興味があるのかい?」

「慶次さん」

前田慶次も孟獲達に世話になっていたようで、家族扱いされているそうだ。

「うん!グリフォンに触ってみたい!」

「そうかい。その辺どっかに探せばいるんじゃないのか?」

「そうなの?だって元々オリンポスの兵士みたいな存在なんでしょ?」

「そう言う奴もいるが、俺達と過ごした奴は野生だったようだぜ」

「ふぁ〜野生のグリフォン…会えるかなぁ」

感動するところがよくわからないが、は少しだけ目標に近づけたようで心躍らせた。





「だとしても…一人で出歩くとなると…」

煩く言う人がいるからなぁとは唸る。
三つ巴というか、三すくみと言うか、オリンポスとアースガルズという二つの神の勢力と戦っているのが現状だ。
陣地内からほいほい一人で出歩けば心配する人がいるのだ。

「野生じゃ…こういう人の多いところには近づかないか?……けどなぁ」

グリフォンって元々は伝説の生物と言われる存在で、鷲、鷹の翼に上半身。下半身は獅子で獰猛な性格と言われている。
近づけばこちらがやられてしまうのではないか?
でも孟獲たちのような人もいるわけで。

「ダメ元で左慈さんに頼んでみようかなぁ」

それならばまだ周囲に心配をかけることはないだろう。

殿?どうかしたのですか?」

「ユキさん!?あ、ううん。どうもしないよ」

呼ばれて振り返れば真田幸村が居る。
彼は武田信玄からの守り役を任されている。
別に守られるお姫様でもないのだが、そこは単純に弱い存在だと思われての事だろう。
あとは家族的な意味合いで…。

「そうですか?何やら真剣な表情で、悩み事でもおありなのかと」

「悩み事ね…ないよ、大丈夫」

これは悩み事の類ではないなと思った。
でも、今これはチャンスではないか?
一人で陣地外を出歩くのはダメだな、幸村が一緒ならば問題ないだろう。
何せ、一番心配するのは幸村なのだから。

「ユキさん。今時間あるの?忙しくない?」

「えぇ。特に命じられていることもないので、時間はありますよ」

「じゃあ、お願い!ちょっと外に行ってみたいの!」

「外、ですか…」

外と聞いて幸村の眉間に皺がよったのをは見逃さなかった。

(やっぱりダメそうだなぁ…ユキさん頭固いからなぁ…)

明智親子のやり取りなどを見ているからだろうか?
あそこは何を言おうが、娘が飛び出していくのだが。

「あ〜ほら!ユキさんなら強いし、守ってくれるだろうし、頼りになるからさぁ」

嘘ではないのだが、これでは太鼓持ちをしているような感じになって嘘くさく感じられるか?

「え、いえ、私は」

「ユキさんと一緒なら安心できるし!」

「そ、そうですか…」

あまり反応が良くない。

「無理かな…ちょっと陣地の外に行ってみたいなと思ったんだけど」

その理由を言えば余計に反対されそうではある。

「…周泰さんか慶次さんに頼んでみるよ。二人なら」

「私が行きます!」

「え?大丈夫?」

「勿論です」

急に反応が変わった。
周泰や慶次ならばグリフォンと関わっているし、特に周泰辺りは一緒になって探してくれそうだと思ったのだ。
だけど、幸村が。と言ってくれたので気兼ねなく外に出る事ができた。

「いつもの殿ならばお一人で行かれてしまうかと思ったのですが」

「否定はしないかなぁ」

だが、外が危ないのは色んな人に言われる。
忠告を受けて一人外に出て危ない事に巻き込まれたらそれこそ大変だ。

「少しは学んでいただけだようで」

「ユキさんのお説教が煩いから〜」

「わ、私ですか?」

「あと信之様にもお説教されそうだし〜」

真田兄弟はその辺が固いと思う。

「そう言えば、最近信之様は司馬師さんと仲が良いよね」

「そのようで。兄上も喜んでいました」

「二人でどんな話をしているか、ユキさん知ってる?」

は幸村の顔を覗き込むように尋ねた。

「い、いえ…流石に会話の内容までは」

「私、知っているよ。信之様に聞いたんだ」

ニシシと楽し気に笑う

「え?兄上に?」

「あのね。弟の話だって。司馬師さんにも司馬昭さんって弟がいるでしょ?だから自然と弟の話になるって」

「わ、私の話をされても…」

「どちらの弟も自由に生きているって司馬師さんが言っていたんだって」

「そ、そうでしょうか…」

パッと見では司馬昭と幸村が同じように自由に生きているとは思えないのだが。
生きざまが似ているような事を信之は言っていた。
それが羨ましいとも。
その辺は流石にも幸村には伝えないが。

「あとね、孫権様ともお話するんだって。こっちも兄弟のことで」

「はぁ…」

「兄の視点と弟の視点だと違ったものの見方があるとか言っていたね。孫権様もお兄さんいるし」

あっちはあっちで兄の方が自由奔放だと思うが。

「色んな兄弟がいるね。まぁ色んな家族がいるわけだし」

「そうですね」

親子と言えば、子供を心配するあまり親たちで模擬戦のようなものを開き腕試しをしていたところもあった。
終盤敵が襲ってきて実戦に変わってしまったそうだが。

「今度兄弟対決とかしてみたら?どっちが勝つかな?」

「面白がっていますね、殿は」

「まぁね。中々ない機会で面白いと思うけど」

孫策辺りに話してみれば「面白れぇ!やってみようぜ!」とか言いそうだなと思った。

殿は色んな方々と仲良くやれているようですね」

「そうだね。色んな人がいて面白いし。やっぱ年が近いとかで甲斐ちゃんや元姫とか、尚香に三娘ちゃんとか。あ、銀屏ちゃんも一緒に居て楽しいよ」

「良かったです。このような世界で、あなたがどう感じているのか気になっていたので」

「ありがとう。いつもユキさんには心配をかけているね、私は」

守り役なんて面倒くさいものを任されればそうなるのだろうか。

「そのユキさんは信之様に心配かけているけどね〜」

「わ、私は兄上にそこまで心配はかけていません。寧ろ殿の方が心配をおかけしているかと」

「耳が痛いなぁ」

は笑う。

殿。そろそろ戻りませんか?あまり陣地から離れるのは…」

「もうちょっとだけ…」

は周囲に目をやるも、そう簡単にグリフォンの姿は見つからない。
野生のグリフォンなどそんなにいないのだろうか?

「いないかぁ…」

「?」

仕方ない。諦めて陣地に戻ろうか。
戻って左慈辺りに聞いてみた方がいいのかもしれない。

「ユキさん、戻ろうか…ユキさん?」

幸村がある一点を見つめている。
が幸村にもう一度問いかけようとするが、彼はを制する。
咄嗟に近くの朽ちていた城壁に身を隠すよう連れて行かれる。
森の奥からゆっくりと出てくる何か。

「あ…あれって…」

こっそり顔を出すとお目当てのグリフォンが一頭いた。

「うわうわ、グリフォン…あれがグリフォン〜」

初めて生で見られては感動するも、幸村の表情は険しい。

「まずい…武器になるようなものが見当たらない…」

「え?戦うの?ユキさん」

「できればやり過ごせればよいと思います。ですが一方的に襲われる可能性があるので」

野生のグリフォンなのか、オリンポス軍で飼われているグリフォンなのかわからない。

「そっかぁ…向こうから襲ってくる可能性もあるんだ…」

殿?」

「あ、うん…一度でいいから触ってみたいなぁって思っていたんだ」

「あなたは…」

「だって周泰さんがもふもふしているって言ってたし」

は面白くなさそうに唇を尖らせる。

「外に出たいと言う理由はそれですか?」

「あ…うん。実は…孟獲さんや慶次さんからも話を聞いてさ」

グリフォンに興味があるのだと幸村に打ち明けた。

「けど、勝家さんや典韋君は一つ目の巨人が良いとか言っていたよ〜」

無口なところが良いとか、相棒だと思えるところだとか。
それに比べればグリフォンの方が可愛いと思う。
孟獲も家族だったと言うほどだから、一番すごいのは孟獲、祝融夫妻だろう。

「あ」

「しまった!」

二人で呑気にそんな会話をしていたせいか、グリフォンに気づかれたらしい。
グリフォンは城壁を飛び越え、二人の前に降りてきた。
幸村の方は何が何でもだけは守らねばと、逃がす機会を窺うように緊張をしている。

「襲ってこない…よね」

は幸村程緊張はしていなかった。
それどころか、グリフォンから威嚇のようなものも感じない。

「もしかしてさ、この子…」

「危ないです、殿!」

「あ、うん…けどね…」

幸村はの腕を掴みその場から離れようと駆け出す。
グリフォン相手に走って逃げるのは無謀だと幸村も考えていたが。
に危害を加えるくらいならばと。

「着いてくる…。ユキさん、あの子着いてくるよ」

「え!!?」

襲ってくるわけでもなく、二人の後を着いてくる。

「人なれしているみたいだね、この子」

「………」

走るのをやめると、はグリフォンに近づく。

「本当にもふもふだぁ!」

はギュッとグリフォンに抱き付いた。
グリフォンはを襲うことなく大人しくしている。

「もしかして、君は孟獲さんの家族の子?」

孟獲と言う単語を理解できるかわからないが、そう話しかけるとグリフォンはにすり寄った。

「やっぱりそうなんだ。野生が恋しくてお別れしたとか聞いたけど、孟獲さん達に会いたくなったのかな?」

「………大丈夫なのですか、殿」

「平気だよ!ほら、ユキさんも触ってみなよ。もふもふしていて気持ちいいよ〜」

「え…」

「癒されるよ〜」

が思うほど幸村はグリフォンに興味はない。
どちらかと言えば、戦った記憶の方が強かったから。
だけど、が楽し気で、しかも幸村の名を連呼するので仕方なく近づいた。
そっと首元に触れてみれば、大人しくしてくれている。

「…確かに気持ちいいですね」

「ね!ね!癒されるでしょ?」

「…まぁ、そうですね」

「じゃあ元気出た?」

「え?」

「もう落ち込んでいない?」

「えと…」

どうなの?とに問われると、落ち込んではいないので頷く幸村。
はそれを見て満足気に笑った。

「良かった。元気が出たならば」

「私が落ち込んでいるように見えましたか?」

「少しは。何でもないような顔をしていたけどね。ペルセウスさんのこと…」

「あ…」

仲間だと思っていたペルセウス。
彼の正体はロキだと言い、アースガルズの者だったようだ。
詳しい事はわからないが、主オーディンをこの世界に呼ぶために幸村達を利用したのだと言う。
銀屏達も利用されたことに対し、怒りよりも悲しいと言っていたくらいで。
特に幸村はペルセウスと一番親しくしていた。
だから落ち込みも激しいのかと思っていたが、周囲にはそんな様子を見せていなかった。

「可愛いもの見たりとか、触ってみてもふもふしていたら癒されるでしょ?」

「だからグリフォンを探してしたと?」

「そう。ユキさんが元気になるならお安いでしょ?」

殿…ありがとうございます。ですが」

あ、これはまたお説教か?危ないマネはするなと。
だがそうではなく。

「私はあなたを見ていた方が癒されます」

「え?」

殿と一緒に居て、色んな話をして過ごすことができれば、それだけで癒されます」

「………」

は真面目にそんな事を言われるとは思っていなかったので、返事ができず。
グリフォンにかじりついてしまう。

「この所、忙しく、戦も多かったので…殿と少しでも出歩けたのは嬉しかったですよ」

「は、反則。ユキさん反則〜」

そっとの頭を幸村が撫でるので。

「可愛いものを撫でて癒されたいと思ったからですよ」

「可愛いってのは銀屏ちゃんみたいな子だよ〜」

「あなたも十分可愛いですよ、殿」

幸村は笑う。

「さ。本当にそろそろ戻りましょう」

「………この子も一緒にいい?」

「え?……」

はチラッと幸村に顔を向ける。

「この、グリフォンですか…」

大人しく、孟獲と祝融に会いたいようで姿を見せたらしい存在だが。

「ユキさんの言う、可愛いちゃんからの可愛いお願いなんですが?」

「それこそ、反則ですよ。殿。私はあなたに敵いませんので」

「よし。一緒に帰ろうね〜」

きっと皆に驚かれるだろうが、グリフォンにも理由があるようなのでいいじゃないかと。
案の定、陣地に連れ帰ると少しばかり騒ぎになるが。
孟獲、祝融と再会できたグリフォンは喜び、夫妻も嬉しそうだったので。
信長達に咎められることはなかった。

ただ。
、幸村揃って信之からはお説教されたのは言うまでもない。








19/12/30再UP