|
前途遼遠?
ユキさんと最後に会ったのは、何年前だっけ? もうずっと会っていないけど、元気かな? 元気だろうけど。 豊臣への人質として、京の都に行ってしまった。 私も一緒に行きたいと思ったけど、そんな我がままが通るはずもないってわかっていたから。 黙って、見送った。 行ったところで、何ができるわけでもないし、ただの旅行でもないし。 人質生活って言われると、ちょっと怖い。 だから、無事を願うくらいだけど…。 たまに信之様宛てに文が届いていたけど。 私がユキさんに文を出す事も、ユキさんから貰う事もなかった。 結局、私はどうしたいのだろう? それが何年経っても答えが出ずにいた。 「信之様、今、なんて?」 「も一緒に行かないか?と言ったんだ」 「どこにですか?」 「京に。だよ」 信之がに笑みを向けた。 「稲ちゃんも行くんですか?」 「いや、稲は留守番だが…」 「それじゃあ、私も行っても…」 「これは意外だな。ならば喜んでくれると思ったのだが」 「それは…」 とにかく。 信之が思うほど、今のには手放しで喜ぶほどでもなかった。 豊臣秀吉の天下となり、政の中心は京の都だ。 信之の弟幸村は数年前から豊臣への人質として、京で生活をしている。 人質なので、よほどの理由がない限り京から出る事はない。 今回、信之は秀吉に挨拶をするなどの名目で京へ行くことになったそうだ。 「とりあえず、考えておいてくれ。まだ出立までに日はあるしな」 と信之に言われ、は頷いた。 「あら、どうして?信之様が折角言ってくださったのに」 は信之の妻稲に相談していた。 「だって、稲ちゃんは行かないのに、私だけ行っても…」 「信之様は、の為にと思っているのだからいいのよ、別に」 「私の為?」 稲は小さく笑い、茶を淹れる。 スッとの前に淹れた茶を出した。 「そうよ。もう何年も幸村と会っていないのでしょう?会いたいって思わないの?」 「………」 「幸村もに会いたいって思っているだろうし、いい機会じゃない」 これも食べてと、稲は菓子も出すが、は黙ったままで手は出さない。 そんなの態度を変だなと稲は感じたらしく、稲の方が問うてきた。 「どうかしたの?」 「………」 「幸村に会いたくないの?」 「そ、そう言うわけじゃないけど…」 「じゃあいいじゃない」 「本当に、ユキさん…私に会いたいって思ってくれるかな?」 「え?」 便りがないのは元気な証拠。そんな事を聞いたことがあるが、実際どうだろうか? この数年、幸村の状況など知らない。 信之からたまに、元気にやっているようだ。とは聞いたが、それ以上の事を自分が信之に問う事もなく。 一切、こちらからは幸村に何もしなかった。 幸村からも何かあるわけではない。 だから、信之に着いて会いに行ったところでなんと言うのだろうか? 「私、ユキさんに何もしていないから…」 「そんな事はないと思うけど」 「……」 「毎日、幸村の無事を祈って、手を合わせているのは知っているわよ」 元気のないはじゃない。 とばかりに、稲はの鼻先をキュッと軽くつまんだ。 「次の機会なんて言ったら、いつになるのかわからないのよ?後悔したくないなら行ってきなさい。そして幸村としっかり会って来なさい」 「稲ちゃん…」 「ちゃんと会うまでこっちに戻っては駄目よ?」 と稲に言われ、返事をする前に信之が来たために。 稲の口から、「が一緒に行くそうですよ」と言われてしまった。 「何年ぶりになるのだ?お前達は」 あと少しで、幸村が住んでいると言う京の真田屋敷へ到着と言う所で信之がに問うた。 信之は騎乗しているが、はわざわざ信之が駕籠を用意してくれてそれに乗っている。 担ぎ手さんに対して、自分みたいなのが乗って申し訳ないと思ってしまうのだが。 小窓を開けて信之へと返事をする。 信之はの乗る駕籠と並走してくれた。 「豊臣家への人質として行く。と出てからずっと会っていないです」 「そうか、私も小田原攻め以来だから、1年ぶりぐらいになるか」 「………」 「稲も心配していたが、どうかしたのか?。私は今回の件、もっと喜んでくれると思っていたのだが」 「あ、えと…た、単純に緊張しているだけです」 それを聞いて何故だ?と信之に笑われてしまう。 「何故って言われても…緊張しているのは本当なので…」 何をしに来たのですか?とか聞かれたらどうしようか?と言う不安がある。 この数年、何もやり取りをしていなかっただけに。 今の幸村を知らない。 都で、人質生活だと言っても、都は都。 きっと自分の知らない幸村になっているかもしれない。 信之達はたまに会うから、変わっていないと思うかもしれない。 逆に、自分はどうだろう? この数年で、何か変わっただろうか? 変わった所はないと思うのだが。 「やっぱり緊張します」 と言って、は小窓を閉めてしまった。 それからしばらく駕籠に揺られていると、駕籠は止まった。 「兄上!無事のお着きで何よりです」 幸村の声が聞こえる。 真田屋敷に到着したらしい。 「あぁ、幸村。元気そうだな」 「はい。兄上も」 なんとなく、駕籠から出て行きにくい。 二人からの会話などからは幸村になんら変わった様子はないが。 「兄上…お一人ではないのですね…母上なはずはないし、義姉上もご一緒なのですか?」 お供を除外しての会話だろうが、信之がが一緒だと言うのを伝えていないようだ。 (なんか、出づらい…) 緊張がさらに強まったみたいだ。 予想されてない自分の登場に、幸村にがっかりされてしまうかもしれない。 「あぁ、実は」 信之が外から駕籠の戸を開け、手を差し伸べてくれた。 は戸惑いながらも、その手を取り、駕籠から出る。 「あ」 「を連れてきたのだ。久しぶりだろう?幸村」 は幸村の顔を伺い見る。 「は、はい。お久しぶりです、、殿…」 「久しぶり、です」 「あ、兄上!お疲れでしょう、水をご用意してあります、さぁ、屋敷へどうぞ」 お供の従者達にも休むよう、中へ招き入れる幸村。 感動的な再会などなく、あっさりしたものだと感じてしまう。 (微妙だよね、なんか…) はため息が出た。 だけど、まぁ。一応幸村と会ったことにはなるのだから、稲との約束(?)は守られただろう。 翌日から信之は忙しかった。 秀吉に挨拶に行き、各大名らとも会ったりなどし、沼田の城主として、真田屋敷でゆっくりしていることはなかった。 稲は本多忠勝の娘であるが、家康の養女でもある。 その為、同じように京に在住している家康への挨拶などもあるそうだ。 はただ、信之に着いてきただけなので、これと言って用事などない。 (あ、そうだ。稲ちゃんのお土産探しに行こう) 信之から後日一緒に稲への土産の一つである、小袖を探しに行こうと言われたので、個人的に稲への土産物を探しに行くつもりで屋敷を出た。 「何がいいかなぁ〜食べ物は無理だし…私で買えるものって金額的にも限られているし」 店を見て回るのは楽しいが、詳しい情報を知らないのでどうしたものかと悩む。 ここでの知り合いなんぞ、ほとんどいないのだから。 結局幸村ともほとんど顔を合わせていない。 何をしに、ここへ来たのかわからない。 まぁ、一応聞いた話では人質生活と言っても、秀吉に割と気に入られているようで。 そんなに苦労なく、良くしてもらっているらしい。 何も心配することなどなかったようだ。 そう言えば、京と言えば寺社仏閣がとても多い。 暇ならば、そちらへお参りに行くのもいいだろう。 有名な縁結びの神社などもあるようだから、今後をお願いしてみようか。 (…いっそのこと、信之様に娶ってもらうかな…側室って言っても、別に稲ちゃんと争う気もないし…いや、この際、稲ちゃんの侍女頭とかアリなんじゃないかな?) 結婚より就職という手もあるな。 などと考えながら歩いてしまう。 (私は…ユキさんに何を期待していたんだろう…) 同時に、期待しておいて自分から何もしない事に呆れ恥じた。 都合よく何か起こるはずもない。 だって、何もしてないのだから。 わからない。などと言っておいて、実は考えないようにしていただけだ。 本当は、幸村のそばに居たいと思っていたけど。 人質生活で、邪魔になりたくなかったし。 行ったところで何もできないから。 万が一逆に迷惑をかける様な事になったら嫌だとも思ったから。 幸村には何も伝えないまま、彼を見送った。 「殿!」 「え?」 こんな街中で名を呼ばれるとは思わなかった。 振り返ると、幸村は肩を揺らして息を整えていた。 「お、お一人で出かけるなど…危ないです」 「一応、出かける事は伝えていたのでいいかなと…」 「せめて供をつけてください」 そんなどこかの姫様みたいな事、自分がするわけないじゃないか。 沼田でも平気で一人で出かけていると言うのに。 「そんなに心配することないよ?いつもの事だし」 「ここと、沼田とでは違います!」 華やかさは確かに都と言うだけあってこちらの方が上だが。 「えと、その…殿が無粋な輩にでも、絡まれたりしたらと思うと…」 「そんな酔狂な人いないよ」 「そんな事はないです!殿は、会わぬ間に、お綺麗になられて…」 「は?」 幸村は顔を真っ赤にし、から目をそらしている。 「誰かに、連れ去られでもしたらと思うと、気が気でなく…」 「ユキさん…目、悪くなったんじゃない?」 「わ、悪くないですよ!」 幸村は口元に手を当て、小さく唸った。 「殿は…もっと自覚なさった方が良いです」 「自覚?」 「この数年で、あなたはとても魅力的になられて……」 そんな風に言われるとは思わず、の方も照れてしまう。 「そ、そんな事無いよ?私、何も変わっていないし」 「中身は変わられていないようですが、十分素敵な女性になっていますよ、あなたは」 だから、再会したあの日、駕籠から出てきたを見て幸村は言葉が出なかったそうだ。 大人になったに対し、何をどうしたらよいのかわからなかった。 だけど、このままではいけないと思い、この数日必死で仕事をこなし、無理やり休みを取ったのだと言う。 その休みでを誘おうと思っていたのだが、は出かけてしまい慌てて追いかけたと。 「い、今からでも、私にお付き合いくださいませんか?」 幸村はに手を差し出した。 「は、はい。喜んで」 は幸村の手に自分の手を重ねた。 参りましょうと、手を繋ぎ歩き出す。 「真田を出て、この数年。家の為にと必死でしたが…いつも殿の事ばかり考えていました」 「え、でも…」 「はは…文の一つもよこさないで、何を言うか。って所でしょうか?」 繋いでいる幸村の手が少し強くなった。 「本当は、あなたを連れて行きたかった。けど、未熟な私のままでは、あなたに苦労をかけてしまうと思うと…」 だから、一人前になるまで、自分からは何も言えないかったらしい。 「兄上に感謝せねば。このままでいたら、殿がどこかへ嫁がれてしまうだろうって」 「そ、それは…」 「あ、もしかして、もう誰かと婚姻を?」 「ないよ、ないけど!私的には、信之様に娶って貰えたらなぁって思っていたけど」 あくまで、形だけと言うものだが。 「ダメです。兄上にはお渡しできません」 「ユ、ユキさん」 「兄上には、義姉上がおられるので良いのです。もう我慢はやめます。誰かに盗られるくらいならば、私がこのまま殿を連れ去ります」 強気な幸村の発言に驚くが、その顔は真っ赤で。 幸村の方も中身は変わっていないなとは思った。 「じゃあ…連れ去ってください、ユキさん」 「殿…」 も照れながらではあるが、はっきりとその気持ちを伝える。 「私も、本当は…ユキさんに着いて行きたかった。けど、邪魔になったらと思うと言えなくて…」 「本当ですか?」 「うん。本当。だから、これからはユキさんと一緒にいたいな」 それが今、素直に思える気持ちだ。 「わ、私もです!殿と一緒にいたいです!!」 声を上げてしまう幸村に周囲の視線が集中してしまう。 慌てて二人はその場から逃げ出す。 「早速兄上に相談せねば」 「信之様…なんて言うかなぁ」 「喜んでくださるはずです」 離れていた数年間の悩みはあっという間に拭われた。 お互い、同じことを考えていたと思うと、この数年が勿体ないと思うが。 いや、その数年があったからこそ、想いが形になったと思えば良いのかもしれない。 19/12/30再UP |