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これからの。
ある日のことだった。 「結婚するならユキさんより信之さまがいいと思うの」 「え?」 突然すぎるの発言。 しかも笑顔で。 これには幸村も驚きと同時に衝撃を受けたわけで。 「ユキさんは恋人にするならいいんだよね」 今日は二人で京の街並みを散策していた。 久しぶりに訪れた彼女と過ごせる時間を楽しんでいた。 休憩しようと立ち寄った茶屋での事。 「あ、あの殿…唐突にそう言われましても…」 確かに兄信之は幸村から見ても尊敬できるいい男だ。 頼りになるし、頭もいいし、顔もいい、性格も悪くない。 のだが、流石にその言葉はキツイ。 「だって、ユキさん割と周り見ていないし、突っ走る事多いし」 「そ、それは…」 「信之さまは、そうじゃないし」 否定できない。 戦になれば常に前線に飛び出していってしまう。 けど、それは信之が居てくれるからできる事だとわかっているからで。 (…結局兄上がおらねば、私などでは駄目だと言っているようなものだな) 実際、武田が織田に攻められたときもそうだった。 自分は敵兵の中に突っ込むばかりで、あとで信之に叱責された。 (殿が兄上を選ぶものわかる気がする…) 段々と気落ちしていく幸村。 の話などもう耳に入っていない。 「聞いている?ユキさん」 「………はい」 「聞いていないし、もう!」 「殿。私はここで失礼します」 幸村はゆっくりと縁台から立ち上がりふらふらと歩き出してしまった。 「ちょっと、ユキさん!?」 が呼び止めても幸村の耳には入らなかった。 「はははははっ。そんな事を私に、言いに来てどうするのだ?お前は」 現在京に着ていた信之。 幸村は先ほどの出来事を信之に話していた。 信之は笑い飛ばすも、確かに言われた方は困るかもしれない。 「その…どうするのか、私にもわかりません」 「そうだな…にそう思われていたのは私も嬉しいな」 「あ、兄上」 「がそう言うのならば、そうだな。私は稲以外の者を娶るつもりはないのだが、側室で良ければを引き取ってもいいぞ」 満更ではない信之の態度。 しかし、どちらかと言えば、嫁と言うより娘としてという風に聞こえなくはなく。 「ほ、本気ですか!?兄上!!」 「さぁ、どうだろうな」 「義姉上が聞けば」 「稲は喜ぶと思うけどな。稲もを気に入っている」 それはそうだ。 稲が信之に嫁いできた際。信之よりも先に稲と打ち解けたのはだった。 「…………」 幸村は大きな背中を小さく丸めてしまっている。 兄にそのように言われてしまうと、どうしていいのかわからないのだ。 「あのな、幸村」 信之は幸村の前に腰を下ろし、幸村の頭に手を乗せた。 「はお前が周りを見ない突っ走る者だと言うが、私はそう思っていない」 「しかし、兄上。これは事実で」 「確かに多少、血の気が多く突っ走る事もあるだろうな。けど、私は真田の家を守る為に、最善の方法を選ぶ為に見極めなくてはならないんだ」 嫡男だったからな。 そう信之は言う。 織田から逃げる時も、犠牲を最小限に抑えるべく動かなくてはならなかった。 自分の判断が間違えば最小限どころか、全員が犠牲になるかもしれないから。 「お前が居てくれるから、私は自分の責務が果たせるし、安心もできるのだ」 「兄上…」 「ま。周りを見ないという点では、私もには同意したいな」 くしゃくしゃと幸村の頭を撫でる信之。 「お前…ちゃんとの話を最後まで聞いていたか?」 「え?」 「聞いていないようだな。それではが呆れるのもしょうがない」 笑いながら少し強めに幸村は頭を撫でられた。 「そうなの。ユキさん人の話を最後まで聞いていないの」 「まぁ幸村ったら」 今回信之に同行してきた稲とはいた。 去ってしまった幸村に対し、唖然としていたところに稲が通りかかったのだ。 信之に何か美味しいおやつでもないかと探していたというので、がお薦めのお店を案内していた。 「でもにも問題があると思うわ。突然言われた方は反応に困るもの」 「だから、最後まで聞いてって言うか、ちゃんと話には続きがあってこうだって言っているのに、ユキさん反応悪いんだもん」 「それはそうでしょうね…」 好きな子から、結婚するなら他の人がいいと言われたら、ショックで話の続きなどまともに聞いていられないだろうに。 ましてその相手が実の兄ならば…。 「と言うか、稲ちゃん怒らない?そんな風に私が言っちゃって。ユキさんにしてみれば、私が信之さまを好きなんです。と言っているように思うんだけど?」 「うふふ。大丈夫よ。私はちゃんと話は最後まで聞いているから。それに信之様を選ぶは目がいいと思うの」 「ユキさん選んだら、まずかったみたいな言い方だね」 「ち、違うわよ。そうじゃないわ。幸村は幸村で真面目で誠実な人だと思うわよ。義弟が幸村で私も鼻が高いもの」 「けど、真面目すぎるからなぁ…ユキさんは」 こうだと思うとそれ以外目に入らない。耳に入らない。みたいな…。 「そういう幸村だからは好きなんでしょ?」 稲に直球に言われてしまいは一瞬で顔を赤くした。 「お宅の義弟さんはそうは思ってくれていないみたいだけど?」 「幸村に対して回りくどい言い方はダメなのよ」 「だよね。すごく実感するよ」 案内した店に到着する二人。 しばし物を選ぶのに楽しむのだった。 「そこでばったり会って、ぎくしゃくしながら二人で帰っていきました」 稲は楽しそうに信之に報告した。 「仕方ないな、あの二人は。さっさとくっついてくれた方が気が楽なんだが…」 「互いにあそこまで口にしておいて、気づいていないのが稲には驚きです」 「そうだな。稲にも気づくのにな」 「信之様!?」 稲が買ってきてくれた菓子をつまむ信之。 「あははは。すまない。だが、そうだな。結局、は幸村が好きだという事だろう?」 「はい。それはもう。幸村も同じですし」 信之にお茶を出す稲。楽しそうから嬉しいに顔つきが変わっている。 「早くが義妹になってくれることを稲は願います」 「そうだな。私も…まぁ昔からを妹のように思っていたが、幸村が娶れば本当に義妹になるわけだしな」 楽しみだと夫妻は笑った。 あと少しで屋敷だという所で、幸村は立ち止まった。 「ユキさん?」 の脚も止まる。 「あ、あの…殿…先ほどは…」 「ユキさん、人の話聞かずにどこか行くかと思ったら、信之さまの所にいたなんてね…」 お兄さんに愚痴でも零していたんですか?とは呟く。 「それは、あの…」 ジッとは幸村の顔を見る。 幸村はジッと見られて顔を赤くする。 先に口に開いたのはだ。 「確かにね。結婚するなら信之さまがいいわけで、ユキさん突っ走るから苦労するだろうなって思うわけ」 まさかの再度通告に幸村は泣きそうになる。 「けどね。それに着いていくのを嫌だとか、悪いとは思っていないわけ私は」 「…え?」 「一緒に苦労してもいいなって思う人なの、ユキさんは」 最後までちゃんと聞いてよね。はぼやく。 そう言う事を続けて言っていたのだが、幸村の耳にはまったく届いていなかったのだ。 「本当。ユキさん相手だと苦労するわぁ」 「あ、あの殿!」 幸村だから仕方ない。そう笑いながらは歩き出した。 「ま。この先もユキさんは突っ走るのだろうけどね…」 真田幸村のこれからを思えばの話だ。 「殿!」 幸村はの手首を掴み引き止める。 「確かに、私はこれから先、馬鹿みたいに突き進むだけかもしれません。ですが、あなたを置いて行く真似はしません!あなたを置いて行かないように、この手を離しませんから!」 「……ユキさん…」 「だから、これからも…私のそばにいてください。殿」 「約束だよ。この手離したら許さないから」 は幸村の手を握り返す。 「なんてね。ま、その時は信之さまに泣きつくからいいけどね」 「殿!」 「あははっ。そうならないように気を付けてね、ユキさん」 は幸村の手を曳き歩き出した。 「さ、ユキさん。早く帰ってお菓子食べよう。稲ちゃんに案内した時、私も買ったんだ」 「はい。そうしましょう。今度はちゃんとあなたの話を聞きますから」 は一瞬呆気にとられるも、すぐさま笑った。 「本当だよ。ちゃんと聞いていてよね。私もユキさんの話をちゃんと聞くから」 いつか離れてしまう手かもしれないけど、今はそれを考えずにいたいのだ。 19/12/30再UP |