明日の話。



ドリーム小説
それはの何気ない一言がきっかけだった。

「ユキさんとの付き合いも長いね〜」

笑顔で言うに幸村は深く考えず「そうですね」とだけ答えた。

「長いだけあって色んな事があったし…これからもユキさんとこうして居られるのかな?」

「え?」

は深く考えていなかったみたいで、その後も変哲もない話を続けていた。
だけど、幸村の心にはなんだか棘のようにそれが刺さってしまった。





秀吉が天下を治めるようになり、世の中が争いとは離れてくるようになっていた。
幸村は京の都で生活をし、父や兄達は故郷で暮らしている。
も幸村に引っ付いて京にいるのだが。

「年齢的に相当遊んでいると思われているみたい」

は苦笑する。

「まぁ、仕方ないわね。早い子じゃ十代前半で嫁ぐから」

「甲斐ちゃんはどうするの?」

「って言われてもね…その辺の弱っちいのに嫁ぐのはごめんだわ」

甲斐とのんびり茶を楽しんでいた
話の内容は、がいまだに独身だという話だった。
話からもわかるように甲斐も同様なのだが、彼女は立場がとは違うのでそう煩くは言われないらしい。

「私はずっとユキさんに引っ付いて来ちゃったからね。このままずっと甘えるわけにもいかないか…とは思うんだけど。年齢的に別にまだ良くない?とも思えるわけで」

「あんたのそれ。周囲が理解するのは厳しいわよ」

「だって、私の居たところだと、この年齢じゃそんなに問題ないもんよー。むしろ十代前半での婚姻の方がヤバいよ」

は大袈裟に犯罪だ!とまで言い切ってしまっている。
甲斐は笑って串団子に手を伸ばす。

「ま…あんたの事情をすべての人が知っているわけでもないしね」

「そうなんだけどさ」

も餡子の串団子を頬張った。

「そう思うとさぁ…稲ちゃんって本当いい人の所に嫁いだよね」

羨ましいとはため息を吐いた。

「そうね。ある種の政略結婚みたいな所はあるけど、本人達は気にしていないみたいだし」

本多忠勝の娘、稲は幸村の兄信之に嫁いでいる。

「だったら、は幸村様に嫁げばいいんじゃないの?有力株の一人でしょ?」

「ゆ、ユキさん!?や…ん〜…」

は困惑してしまう。

「なに?嫌なの?あんた贅沢ね。幸村様以上の男狙ってんの?そんな奴そう簡単に見つからないわよ」

「違うよ!そうじゃなくて……どちらかと言えば、ユキさんから見て私って家族的な意味合いの方が強いと思うから……」

そんな話が出る雰囲気などないのだという。

「付き合い長いしね。実際、信之さまには妹みたいに可愛がってもらったらし」

たまに京に来ると久しぶりに会えた兄妹のような感覚になるのだ。

「それに…最近のユキさんなんかずっと考えてごとをしているみたいで、難しい顔ばっかりだよ」

秀吉から何か命じられたのならば、が尋ねても答えてくれないだろう。
元々幸村の性格では悩み事など話してくれるわけがないから。

「あら。何かあったのかしら?」

「さぁ?聞いても答えてくれるかわからないし。それこそ、ユキさんの方に縁談が来てもおかしくないだろうし」

「そうね。有力大名から自分の娘を!って持ち込まれてもおかしくないし。それこそ、太閤殿下の薦めとかあったら断れないでしょうし」

天下人からの薦めならば誰であっても断れないだろう。

「ま。言いたい奴には言わせておけばいいのよ。本人の気持ちだってあるんだから」

「そうできたら簡単だね、本当」

でも、甲斐ももお互い他人事のように話しているのだった。
結局本人達にはその気がないようだ。





ある日、縁側でのんびり過ごして居たと幸村。
だが幸村の悩み事はまだ続いているようで終始難しい顔をしている。

「毎日暑いね〜」

「そうですね」

「この前甲斐ちゃんと観に行ったんだけど、お芝居。面白かったよ。よかったらユキさんも今度行こうよ」

「そうですね」

はかすかに眉を潜める。

「そう言えば、左近さんが桃をくれたんだ。冷やしてあるから食べる?ユキさん」

「そうですね」

「………わさびをつけて食べると美味しいらしいよ。からしでもいいらしいけど」

「そうですね」

まったく話を聞いていない。

「やっぱりあれなのかな?ユキさんもお年頃だから、色んな縁談とか来ているのかな?」

「そうですね」

「へぇ…じゃあ早くいい人を見つけないと。邪魔者の私もどこかに引っ越さないとね」

「そうですね」

「そうですか。ふーん」

スッとは立ち上がる。

「おねね様にでも頼んで来ようっと」

室の方へは移動してしまう。

「え?あ!殿!!」

幸村は四つん這いになりながら、慌ててを追いかける。
障子を勢いよく開け放つ。

殿!」

「なに?ユキさん。私ちょっとおねね様の所に出かけてくるから」

幸村の態度に腹を立てるというより、冷めた態度で幸村に目を向ける
出かける準備を本気でしている。

「ずるいです、あの言い方は!」

「は?何が?っていうか、逆ギレするわけ?ユキさんが」

「あ、いや、その…」

滅多にと喧嘩をすることもないので、幸村はその睨みに怯んでしまう。

「ユキさんの縁談に私が邪魔なら邪魔って早く言えばいいのに。毎日悩んでいたのはその事なんでしょ?」

「ち、違います!」

「何を話しかけても上の空だし。早めに言ってくれた方が私だって…色々決心が着くのに…」

ずっとこのままなんて事はないのだとわかっている。
いつかは別々の人生を歩むのだと。
それが早いか遅いかのだけで。
わがままを言うならばそんな日など来なければいいと思う。
毎日幸村の隣で笑って居られるならばいい。
甲斐とも楽しく遊んでいられるならばいい。
大好きな人達に囲まれている生活がずっと続けばいい。

「だけど…そんなの無理だってわかっているから…」

ただの子供のわがままなのだろう。
勝手に夢の国のような存在だと思い込んでいたのかもしれない。
事実は自分は別の場所から流れ着いたようなものだから。

「ごめん。ユキさんに言ってもしょうがない事だった。ただの八つ当たりみたいなものだし」

は両頬を二三度軽く叩く。

「うん。ちょうどいいからおねね様に本気で相談してくる。このままじゃダメだもんね。いつまでもユキさんに甘えるのも悪いし」

行ってくると幸村の横を通り過ぎようとした。
だが、強い力でそれは阻止されてしまう。

「勝手に自己完結しないでください!」

幸村に腕を掴まれた。

「え?」

「私の気持ちはどうなるんですか?」

「え?ユキさんの気持ちって…?」

幸村の顔が赤くなる。

殿の話をちゃんと聞かなかった私が悪いのですが…この所、ずっと考えている事があって…」

「だから、それはユキさんに縁談でも来ているんじゃないかって」

「き、来ていませんよ!そのような話は」

「嘘だぁ。秀吉様から沢山薦められてそうなのに。あと、みっちゃんとか、大谷さんとか」

「な、ないですよ。あったとしてもお断りします!わ、私が妻に迎えたいと思うのはあなただけなのですから!」

「………え?」

「そ、それをずっと考えていました。きっかけは殿のお言葉だったのですが…」

覚えていませんか?と幸村に問われるもはかぶりを振る。
きっかけとなった言葉になど思い当たる節はない。
別段特別な話をした記憶はない。
いつもと変わりない事だと。

「そ、そうですか…はは…考えすぎていたのかもしれないですね、私は」

幸村は力なく笑う。
少し泣きそうな感じにも見える。

殿は、私との付き合いも長いと言われて。これからも一緒に居られるのか?と…」

「あぁ…そんなことも話したね。うん」

「私自身。できれば…ずっとあなたがそばに居てくださればいいと思っておりました。けど、殿にその気がないのかどうかわからず…ずっと考えておりました」

幸村の悩み事の原因が自分の一言だとは思わなかった。

「そうならそうと。言ってくれればいいのに…私は、ユキさんにお世話になっている居候の身だから…いつまでも甘えてられないのだろうなって思ったから」

「居候などと言わないでください!あなたは私にとって一番大事な方です」

「だ、だって…」

「いえ、居心地の良さに甘えていた私にも問題はあります」

幸村はの腕から手を放し、そのままの手を取る。

殿。改めて言います。私の妻になっていただきたい。ずっと私のそばに居てくださいませんか?」

「え、えと…」

すごくうれしい言葉を言われた。
けど、本当に自分でいいのか?と思ってしまう。
幸村にだったら、甲斐が言っていたように有力大名から縁談が来てもおかしくないのだから。

殿も私の話を聞いていないと思います」

「え?」

「私は言いましたよ。例えそのような話が来ても、私は断りますと言いました。私が妻に迎えたいのは殿なのですから」

そう言えばそうだったと、は苦笑する。

「ユキさん、物好きだね」

「そうでしょうか?生憎他の方が目に入らないくらいなのですが」

「あとで後悔しても知らないよ?ユキさん」

「それは絶対ありませんし、殿を後悔させる気もありません」

さっきまで慌てていた男の姿とは思えないくらい強気で言い放つ幸村。

「それで?受けてもらえるのですか?殿」

ここでお断ります。などと言えようものか。
ちょっとじらしてみたい気もするが、残念。
生憎自分も他の男が目に入らないくらい幸村しか見ていないのだから。

「喜んでお受けいたします」

と最高の笑顔で答えて見せるだった。








19/12/30再UP