インタビュア。




ドリーム小説
「あ。見て!真田様がいらっしゃるわ」

キャーと騒ぐ女の子達。
真田幸村がその姿を見せると遠巻きにだが、黄色い悲鳴が聞こえる。
それはよくある話。
日常茶飯事。
ただ、本人にはその声が届いていないと言うか、気付いていないのが現状。
騒ぐ子達も幸村に悲鳴が届くのは避けたいようだ。
はしたないなどと思うのか。
幸村に変な印象を持たれたくないらしい。

「本当。相変わらずモテモテよね。幸村様は」

呆れたような声音で言うのは甲斐。

「義弟がモッテモテで鼻が高いでしょ?稲は」

「え?別に私はそのような事考えていないわよ?」

甲斐の隣でキョトンとした顔を見せたのは幸村の義姉稲。

「でも、そうねぇ…幸村が周りに認められるのはいいことだと思うわ」

「それが嬉しいんでしょ?って話よ」

「そうなってしまうかしら」

稲は小さく笑った。

「そんな幸村様の心を射止めるのは誰なのかしらね。ねぇ?

「あ?うん、そうだね。誰だろうね」

稲よりも興味なさそうだった

「あんた…あたしの話聞いてた?」

「聞いてなかった。ごめん。だって、お稲荷さんが美味しくて」

秀吉の妻ねねお手製だから、余計に。

「色気より食い気ってどうなの?」

らしいじゃない」

3個めのお稲荷さんを頬張るに甲斐が口角を引きつらせる。

「あんた。余裕かましてくれているじゃない」

「余裕?なんの?」

「幸村様よ」

「ユキさん?」

ん?と首を傾げるに深くため息を吐く甲斐。

「本当、人の話聞いていないでしょ、あんた…」

「仕方ないわよ。だもの」

「……あの。さっきから何気に稲ちゃん酷くない?」

とりあえず、二人にもお稲荷さんを食べるように勧める。
縁側で3人。
のんびりとお稲荷さんを食べる。

「確かに…これはこれで美味しいんだけどね…」

「おねね様は本当なんでもお出来になられるのね。私も見習わないと」

「男の心を射止める前に胃袋を射止めるのも手よね。うん」

「甲斐ちゃん、料理得意なの?」

「無理」

はっきり言う甲斐には笑う。
ねねを目標にするには少々高すぎるような気もする。
だけど、ねねの料理は秀吉だけでなく大勢の者達の胃袋をがっしり掴んでしまっているくらいだ。

「でさ…。結局の所どうなの?あんたは」

「…?私?何が?」

「だーかーらー幸村様よ。幸村様!周りにキャーキャー言われちゃって気にならないの?って話よ」

「…キャーキャーって、別に私はユキさんと付き合っているわけでもないけど」

「付き合っていないけど、しっかり片想いしているじゃない」

「か、甲斐ちゃん。はっきり言わなくても…」

さっきまでは余裕があった顔つきだっただが、甲斐に片想いだと言われて瞬時に赤面してしまった。
誰かに聞かれていないかとは周囲の様子を探る。

「もう…」

誰もいないなと確認して安堵する
安堵し、お稲荷さんに手を伸ばす。

「ユキさんがモテモテなのは昔からだもん…今更って話」

もそもそ食べる

「ふーん。そんな頃から片想い中なんだ、は」

「一途でいいじゃない」

「相手に気付いてもらえないと意味ないわよ、そんなの」

「……気づいていないよね…まぁ、ユキさんだし…それに…」

はため息を吐く。

(ユキさんの好きな人…きっと私じゃないし…まぁ、私じゃなくてもいいけど…)

弱気な自分がいつもいる。
弱気なのに、変な所で強気な自分がいる。
強気?
いや、強がりだろう。

「なら、気付いてもらえるように頑張りなさいよ」

「そうね。諦めていないのならば行動に移さないと」

二人の後押しには瞠目する。
急になんなのだろうか?
それは二人にも伝わったのか、二人は顔を見合わせて笑った。

「あたし達なりに応援しているって事よ」

「そうよ。と幸村ならばとても似合いだと思うわ」

「稲はが義妹になってくれると嬉しいのよね?」

「えぇそうよ」

否定もしない稲。うふふと笑って楽しそうだ。

「あ、ありがとう。二人とも…け、けどさ…そう言われても、何をしたらいいのか…」

「別に今すぐ告白しろなんて言わないわよ」

本当だろうか?甲斐の性格では当たって砕けろ!で押しの一手のような気もする。

「少しは幸村と話をしてみれば?って話よ。一緒にいる時間を作って見なさいってこと」

「一緒に…」

ってば変に幸村様に遠慮しているでしょ?忙しいからとか言って。でもそれじゃあ、どこかの誰かに幸村様を盗られちゃうかもしれないじゃない?」

幸村を見初めるどこぞの姫など。
姫に限らず、その父が幸村を見込んでなど。

「諦めるつもりがないなら頑張りなさいよ」

「はい。いってらっしゃい。

二人は強引にの背中を押した。
困惑気味であったが、は友に笑い返した。





幸村のもとへ行く途中、色々と考えてしまう。
幸村とは武田に居た頃からの付き合いだ。
今は亡き信玄公に拾われて、を気遣った信玄が幸村をの守役に命じた。
心配しすぎと言うか、自分は高尚な存在でもないから勿体ないと思っていたが。
幸村は真摯にその役を全うしてくれた。
最初は生真面目すぎる青年に、堅苦しさを感じたこともあったが、何にでも懸命な幸村を見ていていたらなんか微笑ましくて。

年が近いこともあって、距離感は縮められたと思う。

甲斐での生活は悪くなかった。
皆が可愛がってくれたし、幸村との距離が縮み彼に対する恋心も生まれていて。
だけど、きっとずっと続くのだろうと思っていた生活は、信玄が亡くなったことであっさり壊れた。

信玄に見守られていたとはいえ、は別に武田家の者ではない。
どこぞに放り捨てられても可笑しくないのを、幸村が守ってくれた。
主家は亡くなるも、真田家はその後も色々な大名に仕え、今は豊臣に忠誠を誓っている。
何もできない自分は単に幸村に甘えているだけだ。

きっと、幸村は今でも信玄からの命令を守っているだけだろうと考えてしまう自分もいるのだ。

だから、告白なんて…と諦めている自分がいる。
そんな事を考えていると甲斐と稲が知れば、二人はどう反応するだろうか?
辛気臭いと一蹴するだろうか?
気にするなと後押ししてくれる?
それとも、じゃあもう諦めれば?と呆れられてしまうだろうか?

(単純に…ユキさんから離れたくないだけなんだろうけど…いつまでもこのままって事はないもんね…)

そのうち、本当にそのうち。
幸村は自分ではない誰かを娶るだろう。

(あぁ〜折角二人が応援してくれたのにな…)

後ろ向きな考えしか浮かばない自分に嫌になる。

「おぉ、殿ではないか。どうかなされたのか?突っ立って」

「え?」

「阿呆面がさらに阿呆に見えるぞ」

「み、三成殿!」

幸村を捜していたが、気付かないうちに歩くのをやめていたようだ。
それを通りかかった幸村、兼続、三成が見つけたようで。

「………」

「ん?本当にどうされた?三成の失言ならばいつもの事だ。挨拶代りだと思っておけばいいのだぞ」

「貴様も大概失礼な奴だと思うがな、俺は」

「いえ。ぼけっとしていたのは本当ですから。すみません、気を遣わせてしまって」

は二人のやり取りを不快に思うどころか、自然に会話に入ることができたので感謝してしまう。

「どこか具合でも悪いのですか?殿」

「ううん。どこも悪くないよ。ユキさんは相変わらず心配性だな」

に対し素早く気遣う態度をみせてくれる幸村。
優しい彼の態度に嬉しいと思う反面、どこかで義務感のようなものがあるのだろうなと皮肉を浮かべてしまう。

「確かに幸村はに対し少々過保護すぎるな。お前はこやつの父親か?」

「いやいや。幸村が構いたくなる気持ちはわからんではない」

父親か。確かに、亡き信玄に変わってと思えばそうなのかもしれない。

「どうだ。幸村。殿の嫁ぎ先など私に捜させてくれないか?」

「「え!?」」

兼続に突然の申し出にだけでなく幸村からも声があがった。

「ほう。それは面白いな。放っておけばこやつはいつまでも嫁に行きそうにない。我らで見つけてやるのも手だろうな」

意外にも三成は乗り気だ。

「や、あの…私の嫁ぎ先とか、別にそんなの…」

「まだ早いと言うか?馬鹿言うな。遅いと思われても可笑しくないんだ」

三成に真剣に考えろと言われる。
だが、の居た時代を思えば、自分の年齢では早すぎる年代で、別にそう焦る必要もないのだが。
あぁ、この時代では当たり前だと言うのを思い出す。
10代前半で30過ぎの男性に嫁ぐのもよくある話だ。
彼らから見れば、自分は相当ふらふらしているように見えるのだろう。

「なに、ちゃんと我らで相手を見定める。そう変な家に嫁がせることなどせんよ」

「お前もその方が楽だろう?幸村」

「え?」

「いい加減こやつの子守りから解放されろ。お前にはやるべきことが沢山あるんだ」

三成のその一言には眩暈を感じるほど衝撃が走った。
子守り。
そう思われているのか。
それに、いつまでもそんな役を押し付けられても困ると。

(甲斐ちゃん、稲ちゃん…なんか、無理みたい…)

稲に至っては義妹になってくれたら嬉しい。なんて言ってくれたけど。
それ以前の問題だったようだ。
だから、それでも幸村を困らせたくないと思う気持ちもあるから。
喚くとか、反発とか、そんな事をする気にもなれなくて。
今までを思えば、何もしてこなった自分が悪いわけで。

だから。

「そうだね。ユキさんにいつまでも子守りをさせておくわけにはいかないか」

「あ、殿」

「しょうがない。私の嫁ぎ先は二人に捜してもらうことにするよ」

「おぉ、そうか!」

苦笑しかでない。

「その代り。ちゃんとしたところを見つけてくださいね。思いっきり年上とか、思いっきり年下とかそんなの嫌ですからね」

流石に良いとこの大名家でも、おじいちゃんや幼子に嫁ぐのはごめんだ。
あ、いや。ある意味好きにできそうな気もするが。

「じゃ。そういう事で。あまり期待はしないですけどね…」

甲斐と稲のところへ戻ろう。
戻ってこんな結果になりましたって報告して叱られてみよう。

「はぁ?なんでそうなるわけ!?あんたってばもう〜」

なんて自分以上に怒りそうな甲斐の顔が浮かぶ。






少し。
ほんの少しだけ話がしたかっただけなのに。
少しだけ、一緒にいる時間を作りたかっただけなのに。

多分、そう言う時間はもう作れないんだ。
何を話せばいいかな?なんて考えて。

今更だけど。

ユキさんの好きな食べ物ってなに?

ユキさんの好きな場所ってどこ?

ユキさんの好きな言葉ってなに?

ユキさんの好きな物語ってなに?

ユキさんが今会いたい人って誰?

ユキさんの好きな人って誰?

…誰?なんて聞けないし、きっと自分じゃないのはわかっている。
だけど、そんな些細なことでも短い時間の中で話をしたいって。
今更だけど、幸村の事を知りたいって思っていたんだ。

(弱気とか、強がりとか言う以前に…どこかで自惚れていたのかも…カッコ悪いな、私)

でもって、幸村に感謝の言葉を述べて笑顔で嫁ぐのだろう。
幸村からもよかったですね。おめでとうございます。なんて笑顔で言われて…。

「あ、あれ?なに、急に…」

視界がぼやけた。
込み上げてくる何か。

「な、泣くこと…ないのに…」

簡単に諦めた自分を悔しく感じたからか?
何もしなかった自分を可哀相とでも思ったからか?
馬鹿馬鹿しいと強がっても、ただの強がりだから。
結局の所。

「好きだったんだ…それだけ…」

失恋したと思ってしまうと、悲しいって寂しいって気持ちが湧いて。
涙が溢れてくる。

殿!」

背後からした幸村の声に、は慌てて涙を拭う。

「なに?ユキさん」

泣いていたなど知られてはまた変に気を遣うだろう。
だけど、中々振り返る事ができない。

「さ、先ほどの話ですが」

「さっきの話?あぁ、兼続さん達が言っていた?どうかした?」

話を穿り返されるのは正直嫌だった。
じくりと胸に痛みが蘇って。だけど、なんでもないような声音で返事をして。

「わ、私は。子守りなどとは思っておりませんから!」

「…は?」

顔をあげる

「父親の心情なども持ち合わせておりません!」

「ユキ、さん?」

わざわざ言い訳を言いに来たのだろうか?
でも、実際守役だったわけで、子守りに見えても仕方ない部分もあって。

「最初は、お館様からのご命令と使命感のようなものはありました。ですが、あなたと過ごすうちに、そのようなものは消え、今ではそれ以上のものが…殿を、ずっとお慕いしておりました!」

「………」

「だから、兼続殿の申し出に、殿が承諾されたのが、私には…悔しくて…こうも簡単に人は離れるのだと思うと寂しくて…そしたら、三成殿も兼続殿も…あなたを追いかけろと」

二人が追いかけろと?
何故?とは疑問が湧く。
二人はに対し、幸村にいい加減甘えるな。と言ってきたのに。
幸村はこれからの人だから、子守りなどに時間を割くのが勿体ないと言うような…。

「あ!で、でも。お二人が言わずとも、私は殿と話をせねばと思い。なんか…癪じゃないですか。このまま何もしないで終わってしまうのが」

「…同じ、なんだ…ユキさんも」

「え?」

知らなかった。
少しも気付かなかった。
なのに、自分は幸村がそばに居てくれるのは義務とか、使命感とか、誰かに命じられたからのようなことだと卑屈に感じていたのに。

(馬鹿だなぁ。私は、本当…大馬鹿者で、でも…幸せものだ…)

さっきとは違う涙が溢れてくる。
その涙を見られるのも嫌で、見て幸村を困らせたら嫌だから。
なんでもない顔で、涙を拭って。
深く深呼吸をして。

「ねぇ。ユキさんの好きな食べ物ってなに?」

「は?す、好きな食べ物?」

は幸村の返事を待たずに次々に質問を繰り出す。

「ユキさんの好きな場所ってどこ?行きたい場所ってある?」

「ユキさんの好きな言葉ってなに?座右の銘とか」

「ユキさんの好きな物語ってなに?書物でもいいし、舞台でもいいし」

「あの。殿…」

幸村が背後で困惑しているだろうとわかる。
だけど、諦めなくていいんだとわかって頬が緩んで仕方がない。

だから、最後の質問。


「ユキさんが今会いたい人って誰?ユキさんの好きな人って誰?」


きっと、それは。


「私はね。ユキさんが大好きで、ユキさんに会いたかったよ」


精一杯の笑顔で言ってみた。







19/12/30再UP