天然素材。




ドリーム小説
「うわっ。可愛い〜!ね?甲斐ちゃん!」

「本当可愛いわね。あ…に似合うんじゃない?」

「そうかな?赤っていうと…私より甲斐ちゃんが似合うと思うよ」

女子二人の会話が聞こえてくる。
とあるお屋敷の一室でのこと。
一人は成田氏長の娘甲斐。もう一人はと言う、武田家に世話になっていた子だ。

「ま。あたしは赤でも、青でもなんでも似合うのよ」

「自信たっぷりに言える甲斐ちゃんが羨ましいよ」

「何言ってんのよ!あんただって素材は悪くないんだから、もうちょっと自信持ちなさいよ」

甲斐に背中を思いっきり叩かれる

「甲斐ちゃん、手加減してよ〜」

きっともみじの後がくっきり背中に残されているに違いないとは言う。

「気に入ったのがあったらあげるわよ。少し不格好かもしれないけど」

そこにもう一人入ってくる子。
彼女は本多忠勝の娘稲。いまでは真田信行の正室である。
ここはその真田の屋敷。

「あ。稲ちゃん〜不格好なんてそんな。どれも可愛いねって甲斐ちゃんと褒めていたんだよ」

「そうよ。もっと早くに見せてもらたかったわ」

と甲斐の目の前に広げられているもの。
それを見て二人は可愛いと感嘆の声をあげていた。
稲が手作りしたと言う髪飾り。
元々父忠勝が趣味で木彫りをしているのを見て、自分の何かやってみようかと思ったのが始まりらしい。
今日遊びにやって来た、二人に稲は初披露したのだ。

「それで、この赤い花のついた髪飾りが甲斐ちゃんに似合うと思うんだけど?」

「あたしはの方が似合うと思うわ。稲はどう思う?」

作った人ならどう感じるか思うらしい。

「そうね…甲斐は普段から赤のものが多いから…こっちの緑色のもいいと思うけど。
ほら、大柄な飾りより、こう小さ目の方が甲斐を引き立てると思うわ」

「そう?言われてみると…そんな風に思えちゃうわね」

ニシシと笑う。満更でもない様子の甲斐。

はいつもどちらかと言えば淡色のものがこのんでいるから、このくらいはっきりした赤でもいいと思うわよ。ほら、つけてあげるわ」

稲はが返事するよりも早く動き、の髪に髪飾りを挿す。

「ね?いいと思わない?甲斐」

「うんうん、いいじゃない。似合ってるわよ、!」

ビシッと親指を向ける甲斐。
稲は手鏡をにむけ、見せてくれる。

「そ、そうかな?でも、二人に言われると悪い気はしないね。えへへ」

「幸村も褒めてくれると思うわよ」

「ユ、ユキさんが!!?な、なに言っているのかな、い、稲ちゃんは」

幸村と言われての顔が瞬時に赤く染まる。
稲の義弟である真田幸村。
彼にが惚れているなど、周囲にはわかりきっている話だ。
当然、気付いていないのはその幸村当人だ。

「そうそう。幸村さまなら、なんか素で恥ずかしい台詞言いそうよね〜」

甲斐は想像してしまっているのか、少々夢を見ている。
だが、それとは裏腹には嘆息した。

「「?」」

「な、なんでもないよ」

明らかに怪しい。
二人は思ったようで、に詰め寄る。

「何?幸村さまとなんかあったの?あ。幸村さに近づこうとすると、あの子の邪魔が入るとか?」

難儀よね〜とここにはいない、幸村に仕える忍の事を言う甲斐。

「違うよ。くのちゃんはそんな事しないよー」

忍び、くのいちは幸村に仕えているものの、彼に密かに想いを寄せている。
だけど、彼女は使命を全うすることを優先しており、その想いはあえて封じている。
は彼女を思うと、自分だけ幸村に行動を起こすのを控えてしまうが。
その辺は、はっきりとくのいちに遠慮される方が嫌だと言われていた。
くのいちにしてみれば消極的な理由に自分を使われるのが嫌なのだろう。

「ただね…多分…ユキさん気付かないと思うよ…」

「「え…?」」

「その…ユキさん、こういったの興味ないみたいで…ほら、あの人天然だし」

「あ〜…まぁ、なんかわかるわね。幸村さまって鈍いし」

常に一緒に居る子の気持ちなどまったく気づいていないから。

「前に、紐で小物を作ってたのよね、あの子が…そしたら幸村さまは普通にやってみたいから教えてくれって」

稲はそれのどこが鈍いの?と首を傾げる。
大概、稲も鈍い部分があるよなと甲斐とは苦笑する。

「作り方を教えているうちに、二人の距離が縮むわけよ。でも、あの子は照れとかあるし、
まして相手は好きな人でしょ?すっと離れたのよ。でも、幸村さまはそんなの気付かないから」

「もっと近くで教えてくれないと困るって」

「………」

少しだけ稲にもわかったようだ。

「あれってさ、女の子に気を持たせるよね」

「でも無自覚だもん、幸村さまは」

今までどれだけの女子が、幸村の無自覚の行動に泣いたことだろうか。

「ユキさん天然だよねーって言っても、塩ですか?みたいな反応するし」

「て、天然のどこが悪いの?だって、自然なものでいいじゃない」

「「………」」

無反応の二人に稲は慌てた。

「稲ちゃんも天然だよね」

「わ、私?い、言われたことあるけど、そう言う意味じゃないの?」

違うと二人はあっさり否定する。

「ま。天然云々はいいとして。それで?幸村さまは気づかないんだ。がお洒落しても」

「気づかないよ。まあ、そんなに派手にしたことないけど」

は最初から幸村の反応など期待していないようだ。

「女性を褒めるって苦手そうに見えるしね、幸村さまは」

「義弟ながら情けない…」

「多分ね、新しい額当てとか、鎧とか刀の方がわかるんじゃないの?」

「ひ、否定できない。しかもすごく目を輝かせて飛びつきそうよね」

言われ放題の幸村であるが、彼を庇うものなど生憎この場にいない。
恐らくくのいちですら、その辺庇えないだろう。

「でも。この髪飾りは目を引くと思うけど?」

「そ、そうよ。いくら鈍いと言われる幸村だって気づくはずよ!」

「そうかなぁ?」

なぜそこまで信用されないのだろうか?と思うも、過去を思えばそうなってしまうのかもしれない。
甲斐と稲は幸村に見せよう!と意気込む。
当のは乗り気ではないが、幸村が褒めてくれたら嬉しいでしょ?みたいに二人に言いくるめられて、渋々従った。



***



確かに、この髪飾りは人々の目を引くようだ。
行く先々で、素敵だね。とか、可愛いね。とか、似合っているよ。などと褒められる。
正直、自分よりも髪飾りが素敵すぎるのだろうと卑下に思ってしまう部分もあるが。
甲斐と稲から。

「それはに似合っているから、髪飾りも引き立つのよ」

「そうそう。その髪飾りと相性がいいのよ、あんたは」

ともっと自信を持てと押される。

「あ。ユキさん」

幸村の屋敷(もここに居候している)に向かう途中でちょうどばったり幸村と会った。

殿。あぁ、義姉上に甲斐殿も。お出かけですか?」

「今から帰るところだったの。で、二人も呼んでね」

「そうですか。では、何かご用意いたしましょうか?甘いもの方がよろしいでしょうかね?」

と幸村の会話を聞いていた甲斐と稲は少々呆気に取られる。

「ちょっと…本当に幸村さま、気付いていないわけ?」

「そ、そんな事はないと思うけど…ほ、ほら。私達二人がいる前では言い難いとか…」

幸村に聞こえないよう小声で話す二人。
傍から見れば、客人を気遣ういい主人なのだろうが。
その前に言う事あるんじゃないだろうか?と二人は思う。

「あ…は完全に諦めたわね。目が笑ってないもの」

「本当…は冷めているわ…口角だけはあげているけど…」

の性格だ。きっと幸村に当たる真似はしないと思う。
思うが、室で一人で落ち込むに違いない。

「ここであたし達が助け舟を出してあげてもいいけど、幸村さまが自分で気付かないと意味ないし」

「人づてなんて…余計に落ち込むでしょうね」

「まぁ…幸村さまが鈍いのは今に始まった事じゃないし」

「いっそのこと、別人くらいにならないと気づかないのかしら」

二人は嘆息した。





別に幸村の鈍さは今に始まった事ではない。
今更の話だし、だからって幸村を嫌いになるわけではない。
その鈍さがたまに、本当にたまーにだが、可愛いと思ったりするわけで。

折角稲が作ってくれた髪飾りだが、仕方ない。
これはもう外そうとは決めた。
またいつか気軽に挿していれば、そのうち幸村も見慣れてくるかもしれないし。

殿」

「ん?なに、ユキさん」

「よくお似合いですね。その髪飾り」

あ。気づいてくれた。
いや、まぁ多少目立つものだから流石に幸村でも気づいたか。

「本当?ありがとう、ユキさん」

だけど、他の誰より期待もしていなかった幸村に言われたのが純粋に嬉しい。
自然とは笑顔になる。

「はい。殿によく似合っています。なんか、嬉しいですね、私も」

「え?なんで、ユキさんが?」

「あ、あぁ、いや…その…赤は私も身に着けることの多い色ですし、好きな色ですから」

幸村は後頭部を掻く。
確かに、彼は仕えていた武田の頃から、鎧も赤。
今もそれは変わらない。
武田と真田の色が単純に赤なのかと思えば、そう不思議でもないが。
幸村自身も赤を好んでいたのか。

「なんとなく、お揃いのように…あぁ!か、勝手な私の思い込みなのですが」

「ふふふっ。そんな慌てなくてもいいよ、そうだね、お揃いだね、ユキさん」

「はい」

「じゃあ、お揃いついでに…ユキさんにもこの髪飾り貸してあげようか?」

「は?」

「ユキさんが挿したら。それはそれで可愛いと思うよ」

「わ、私は可愛くなどありません!殿が挿しているから、可愛いのですよ」

先程までの不機嫌な気持ちはどこに行ったのだろうか?
幸村をからかう余裕まで出てきた。

「じゃあ、みっちゃんが挿すと、美人が二割増しになるね」

「そ、それは…単純に三成殿が怒りますよ?それに…私とお揃いがなくなってしまいます」

赤を身に着けるだけで幸村とお揃いになるのならば、こんなに安いものはないだろう。
だけど、今、幸村のそばに居る時には、この髪飾りが一番いいようだ。





「よかったわ。幸村が髪飾りにも気付いたし、の機嫌も戻ったし」

忘れ去られたようではあるが、稲は二人の様子に満足している。

「ま。赤が単純に幸村さまとお揃いならば、あたしはどうなの?って話になるけど」

呆れているのは甲斐だ。

「まぁまぁ。いいじゃないの」

「まぁね。結局は幸村さまもじゃないと意味がないって話なんでしょ?」

「拗ねないの。私はが義妹になってくれると嬉しいんだけど」

「遅かれ早かれ、いずれそうなるわよ。あーどっかにいい男いないかしらー」

甲斐は稲に行こうと促す。
目的は達成できたのだから、このまま二人にしてあげようと。

「稲。なんか美味しいもの食べに行こう」

「はいはい。お付き合いしますよ」

稲は小さく笑い、歩き出す甲斐の隣に小走りで並んだのだった。





(あぁ…言えてよかった)

内心安堵している幸村。

(話は少し強引かと思ったが…まぁ、私にしてみれば上出来ではないだろうか?)

一言、に「似合いますね」と言えた事に関してだ。
幸村は周囲に鈍いと言われているものの、正直な話。
いや、鈍いのかもしれないが、に関してはそうではないと思っている。
の変化など簡単に察することができる。
だから、先ほどの髪飾りもすぐにわかった。
わかったけど、行く先々でに声をかけまくる輩に、焦っていたのだ。

(だけど、私には上手に言葉が出ないから…)

照れや恥ずかしさが勝るし。
上手い言葉も考え付かない。
もっと気の利いたことでも言えたらいいのにと常日頃から考えていたのだ。

今日は思い切って言えてよかった。

(うん。よかった)

なんて考えているのを、は知らぬのだろう。







19/12/30再UP