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風の香
突如現れた魔王遠呂智によって、二つの時代。 三国志の世界と戦国の世が融合し別世界が作られた。 遠呂智は三国志、戦国の英雄たちに戦いを挑んだ。 二つの世界の融合などにより英雄たちは混乱してしまう。 その混乱に乗じて遠呂智は各勢力を破り着々と世界を掌握しつつあった。 破れた勢力はそのまま遠呂智に支配されてしまう。 だが、そんな絶望的な中でも英雄たちは諦めずにいた。 少しずつ、小さいながらも反遠呂智勢力を作り戦い始めた。 蜀の武将趙雲もその一人だった。 主な目的は主君劉備を探し救うものではあったが、彼の下には多くの者が集い遠呂智軍と戦っていた。 現在、趙雲軍は劉備が新帝城にいるとの情報を南中で得たため呉郡に向かって進軍中だった。 * 「殿。お疲れではありませんか?」 いくつもある竈。大きな鍋からは沸き立つ湯気と美味そうな匂いがする。 鍋をかき混ぜている少女に趙雲は声をかけた。 「趙雲さん。大丈夫ですよー。もうすぐ食事の用意ができますからね」 大半が武将、兵士という部隊の中に一人だけ一般人だとわかる少女がいた。 彼女に衛生面のことを任せている。 中々大変なことだろうが笑顔で自分たちの為に頑張ってくれている。 「あまり無理はなさらないでくださいね。あなたが倒れでもしたら元も子もないですから」 「やだなぁ、趙雲さんの心配性」 手を休めは明るく笑う。 目を細め趙雲も笑みを浮かべるも本当にを心配しているようだった。 「別に私一人が大変ってわけではないですから」 自分にやれることはこのくらいだから。 武器を持って戦えるわけでも、知略を持って策を講じることもできない。 できるのは仲間たちが無事に帰ることを祈ること。 その場所で出迎えること。 温かい食事を用意すること・・・・。 「でもあなたがいるおかげで兵士たちの士気は上々です」 本拠地を持たない進軍。 目的地が曖昧で戦をしながら進むことに疲れてしまう。 だががいると軍の雰囲気が変わってくる。 励ましてくれることが力になるのだと思う。 「本当、趙雲さん褒めすぎー私は別に」 「そうですか?皆そう思っていることですよ」 「いやいや。言われるこっちは恥かしいですから」 褒めても何もでませんよ。は軽く趙雲の背中を叩く。 趙雲は小さく笑う。 「人手が足りないようでしたらいつでも言ってください、空いている者をよこしますので」 「はい」 趙雲はそう告げるとその場から立ち去った。 その後姿を見ては呟いた。 「趙雲さんって・・・・・似ているなぁ・・・・」 誰かさんに。 丁寧な口調とか。 心配性のところとか。 恥かしげもなく人を褒めるところとか。 それが計算ではなく素であることとか。 主君に絶対の忠誠を誓っているところとか。 「うん。似てる・・・・・ふふっ」 ああ。そういえば扱う得物も似ている。 少しだけ、趙雲の方が物静かな気はするが。 「・・・・っと。こんなものかな。さあて、忙しくなるぞー」 この匂いに誘われて待ちくたびれているかもしれない。 違う意味での戦場が待っている。 美味しく出来た鍋の中身を見ては満足げに頷いた。 * 一日の終わり。もう寝るだけとなった頃。 は天幕の外に出ていた。 もうすぐ目的の呉郡だ。そこに劉備がいる。 きっと皆気持ち的に落ち着かないだろうと思ってしまう。 自身がそうだ。 自分が武田信玄など過去の大物たちに出会った時の衝撃は今でも忘れられない。 さらに昔の英雄。が居た世でもその根強い人気な劉備に会えるかもしれないのだ。 いや、趙雲たちに会ったのもすごいことだが。 「殿。こんな遅くにどうなされました?」 静かな陣営の中で配置された見張りの兵士たち以外はほぼ体を休めている。 だからの姿を見つけた趙雲は思わず駆け寄った。 「あ。趙雲さんに見つかっちゃった」 「眠れないのですか?」 「少し気晴らしに夜のお散歩です。一人で遠くに行こうなんて危ない真似はしませんから」 現に陣営の中にいるから大丈夫だろう。 「ならいいのですが」 ホッと安堵しつつも趙雲は自分が羽織っていた衣をの肩にかけた。 「風邪でもひかれたら大変ですよ」 「あ。ありがとうございます。でも、それじゃあ趙雲さんが」 「私は平気です。お気になさらず」 にっこりと笑う趙雲。 ああ、似ている。あの人に。 そう言ったら、趙雲はどんな顔をするだろうか? 「できるだけ早くお戻りください。では。私はまだ見回りをしてきますので」 「はい。おやすみなさい」 歩き出した趙雲にかけてくれた衣の礼も付け加える。 毎晩こうして彼は夜も周囲の警戒を怠っていないのだろう。 兵士たちがちゃんと休めるようにと。 だとすれば趙雲自身はちゃんと休めているのか気になってしまう。 は夜空を見上げる。 「でも・・・・似ているって思ったけど、やっぱりちょっと違う・・・・かな」 趙雲とあの人。 ぴゅーっと強い風が吹きぬけた。 ぶるりと身震いをして衣ギュッと強く引いた。 「殿!何をなさっているのですか!」 「あ。今度はユキさんだ」 趙雲と似ているなと思ったあの人。真田幸村がに向かって駆けてくる。 「こんな時間にお一人で・・・・あ、これは」 「うん。趙雲さんが貸してくれたの」 「あ、そ、そうですか・・・・」 見慣れた衣だと思ったら趙雲のだと言う。 幸村はなんとも言えない想いに駆られる。 「あ。それより、どうして夜遅く一人でふらついているのですか」 「うん。ちょっと散歩かな〜」 「でしたら私や他の誰かを呼んでください。お一人では危ないです」 やっぱり違う。 似ていると思うのだけど、こういうところが違う。 は思わず声に出して笑ってしまう。 幸村は笑われたことに少々ムッとしてしまう。 「なんですか、いったい」 「んー・・・・ふふふっ。ユキさんと趙雲さんって似ているなって思ったんだけどね」 「私と趙雲殿ですか?そ、そんなとんでもないです!私など趙雲殿の足元にも及ばないまだまだ未熟者です」 両手を振り大きく否定する幸村。 「人を気遣うところとか色々似ていると思うよ。ユキさんがお館様を尊敬しまくっているところなんか 趙雲さんが劉備様を尊敬しているところにそっくり。得物も同じ槍でしょ?」 「あ。まあ・・・・そういうところは。お互い素晴らしい方にお仕えできたと思いますよ」 「でも。ちょっと違うんだよね」 「は?」 「趙雲さんはね、心配はしてくれるけど、結構放置もしてくれるの」 「はあ」 声を何度もかけてくれるが、基本の好きにさせてくれている。 「でもユキさんはね。私のこと過保護すぎるの。私がまだここに居るって言えばきっとお供します。 とか中に戻るまでずっとついてくるだろうなって思うの」 違う?そうに問われて幸村は返答に困った。 趙雲の軍と同行するようになってからあまり一緒にいることができなくなったので なんとなくを探してしまい、を心配してしまうのだ。 幸村は俯いてしまう。 「ユキさん?」 「情け・・・ないですね、私は・・・・」 「え!?べ、別に。変な意味で言ったわけじゃないよ?ユキさん?」 これではまるでを信用していないようではないか。 「あの。あのね!私は大丈夫だから、ユキさんはどうなの?元気?どこか体の悪い所とかない?」 は幸村の正面に回りこみ、幸村の顔を覘きこみながらギュッと彼の両手を握った。 「、殿?」 「私はァ姉や趙雲さん星彩、月英さんも声をかけてくれるし、色々手伝ってもくれる。 今の私にできることって皆の後方支援ぐらいでしょ?食事とか洗濯とか。 それって別に大変だって思わない。今までユキさんと一緒に暮らしていた時にやっていたことだもん」 大阪で、二人で暮らしていた頃とやっていることは変わらない。 食事や洗濯の量が数倍、数十倍に膨れはしたが、一人で全て請け負っているわけではない。 自分で出来る範囲の手伝いをしている。その程度だと思っている。 「でも、それだけなんだ。ユキさんが今悩んでいることになんの力にもなってあげられない」 「殿。別に私は悩みなど!」 「嘘ばっかり。みっちゃんが遠呂智軍にいたこと知って落ち込んでいたでしょ」 「あ・・・・」 遠呂智の所為で大事な友の行方がわからなくなってしまった。 ただ一人だけ、石田三成が遠呂智軍にいることを趙雲と孫市から聞いた。 遠呂智軍に捕まっていた月英を助け出した時に遭遇したそうだ。 「みっちゃんだけじゃないよ。兼続さんも左近さんも慶次さんも・・・・政宗君もみんなどうしているのかな」 秀吉やねねも。 皆無事でいるだろうか? 「もし・・・・三成殿と敵対することになったら、私は戦えるのだろうか、悩みました」 「戦いたく、ないよね・・・・」 「・・・・・・」 当面の目的は劉備を救い出すこと。 その先はきっと遠呂智を倒すことが目的になるだろう。 その前に友が立ちはだかったらどうするだろうか。 だが・・・・幸村は握ってくれたの手を逆に握り返す。 「刃を交えることをせずに逃げ出したら、きっと三成殿は私を軽蔑すると思います」 「ユキさん・・・」 「なぜ、三成殿が遠呂智の下にいるのかはわかりません。ですが、いつか私の手で遠呂智から解放させてみせます」 「そうだね。ユキさんならできると思うよ」 「ありがとうございます。殿」 別に自分は何もしていないのだが。そう思いながらも感謝してくれる幸村には何か思うことがあるのだろう。 だからは素直に頷いた。 幸村はそこでハッと気づいての手を慌てて離した。 そして先ほどまでが見上げていた夜空へと視線をうつした。 二つの世界が融合してしまった為に、似ているようで似ていない星の並び。 それでも綺麗だと思えてしまうから不思議だ。 「みっちゃん。ちゃんと食事しているかな?」 も自然と夜空を見上げていた。 「してくれていると良いのですが、好き嫌いの多い方ですからね」 「慶次さんとか左近さんってお酒ばっか飲んでいそう」 「お二人はお強いですから」 「政宗君は・・・・片倉さんがついているなら問題なそう。兼続さんは大丈夫っぽい、しっかりしているし」 「そうですね。だとすると毎日あなたの料理を食べることができている私が一番幸せ者ですね」 「な!なん・・・・そんな大袈裟に言わないでよ。いつもと変わらないんだから・・・・」 恥かしいとは頬を赤く染める。 寧ろ以前よりも大雑把だ、今は。質より量だ。 そう言うと幸村はやんわりと笑った。 「そんなことないですよ。殿が作られたものはどれも美味しいです。 趙雲殿や姜維殿たちもそうおっしゃっていますから。それにいつもと同じならばいつもと同じ美味しさなんです」 「ユキさん恥かしい台詞禁止!」 「恥かしいのではなく褒めているのですよ」 「どっちも同じだよ」 ぶんぶんと首を横に何度も振る。 そんなを見て笑いつつも幸村の表情が真剣なものに変わる。 「また・・・・・以前と同じように皆と殿の手料理を食べたいですね」 三成と兼続と慶次、左近、政宗と・・・・。 あの真田邸できっといつまでも続くだろうなと思った楽しい時間が。 またやってくればいいのに。 融合してしまった二つの世界がこの先どうなるのかわからない。 元に戻るのか。このままなのか。それとも違う何かに変わってしまうのか。 「私の手料理で良ければいつでも用意するよ、ユキさん」 「殿・・・」 (だってユキさんに食べて欲しくて、美味しいって言ってもらえるように頑張ったんだもんね) 料理をするようになったきっかけを思えば。 それに自身も皆との食事の時間は好きだった。 「その時は、趙雲殿たちもご一緒だと良いですね」 「うん、そうだね。あ、そうだ。 今のうちに月英さんに点心の作り方教わろうっと。すごく美味しいって姜維さんが言ってた」 こうして他愛のない話をしているのが好きだ。 場所はどこであれ。 大好きな人と一緒に居られることを思うと。 「さ。殿、そろそろ中へ戻りましょう。体を冷やすのは良くないです」 「そうだね。ユキさんにも長いこと付き合わせちゃったし」 「わ、私は平気です!むしろ・・・・殿とこうして話ができるのが嬉しいですから・・・・」 「そ、そうなんだ。あ、えっと・・・・・私もユキさんとお話できるの嬉しいから・・・・」 互いに薄っすらと頬が赤く染まる。 「中でお茶でも飲まない?まだ眠くないからユキさんとお話していたいな」 「は、はい。喜んでお付き合いします」 あと一歩。もう一歩だけ前に進みたい。 中々口に出来ない想いを、言葉に乗せることができるように。 少しでも距離が縮めばいいな。 いや、いいなと願うだけは良くない。 一歩。 あと一歩だけでも踏み出さないとダメなんだ。 「あの。殿」 戻った天幕の中でが茶の用意をし始めた。 「ん?なに?」 「お話したいことがあるのですが・・・・聞いてもらえますか?」 「うん。いいよ」 幸村との話は好きだ。楽しいから。 そう言って微笑んでくれるを見て幸村は大きく息を吸い込んだ。 今から伝えることにあなたはどう反応をするのだろうか? 「殿。私は、ずっと・・・・・ずっとあなたのことが・・・・・」 07/05/19
19/12/30再UP
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