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心拍数。
見ているだけだった。 それだけでも、幸せだと思う自分が居て。 話ができるだけでも、そばに居られるだけでも。 一緒に笑っていられるだけでも、生きているだけでも。 そして、自分が守っていられるならばと…。 「馬鹿か。もっと欲を出せ」 友に叱られた。 「見ているだけでいいなんて、そんな奴いるか」 「え…でも」 「お前は、口でそう言っても、が他の奴のものになったら同じように笑っていられるのか?…あぁ、お前は笑いそうだがな」 「別にそれが悪いとは私も思わない。お前らしいな幸村」 もう一人の友にも言われた。 「自分が常に殿のそばに居られるのかわからないから弱気になるのだろう?」 「ふん。そんなのは理由をつけて逃げているだけだ」 「はは。三成は手厳しいな。だが、できれば最後まで自分が彼女のそばに居る事を望むべきではないか?」 「それは望んでいますが…」 「友としてだろう?信玄公に命じられた守役としてだろう?」 友は弱気の私を叱咤する。 「彼女にとって一番の人、最愛の人としてそばにいたいと思わないか?幸村」 「ただ、気持ちを伝えるだけなら、理由なんてどうでもいいと思うがな」 「まぁそれ以前に、殿が幸村の気持ちに応えるかわからんからなぁ」 それは一番怖いことだ。 殿と距離が離れることが怖い。 けど、お二人が言うように…殿が別の男の隣で笑っているのを我慢して見ているのは嫌だと思う気持ちもあって。 「だから行ってこい幸村」 「は?」 「殿に告白してこいと言っているのだよ、私達は」 「告白するまで戻って来るな」 背中を押された。 今すぐに。と言う事は驚いたけど…。 こうでもしないと、今の私は殿に想いを伝えることなどできないだろうから。 *** なんだろう?ユキさん、すごく難しい顔をして。 何かあったのかな? さっきもみっちゃんや兼続さんと険しい顔をして話をしていた。 「あ、あの…殿」 「うん」 「だ、大事な話が…あるのですが」 「大事な話?」 なんだろう。 また戦になるのかな? だけど、秀吉様が天下をとられてほとんどの大名家が秀吉様に従ったから戦になることはないのに。 大事な話って言われると、すごく緊張する。 ユキさん真剣だし。 「戦…じゃないよね?」 「いえ!戦の事ではありません」 じゃあ何? ユキさんが難しい顔をするほどの大事な話って。 私…何かしたかな? ユキさんが言い難い事? あぁ、急に不安になる。 私はユキさんに助けてもらって生活をしているから。 武田家の世話になって、お館様からユキさんを紹介されて。 いつも私のそばにいてくれたユキさん。 お館様が亡くなって、武田家も潰されてしまっても、ユキさんはずっとそばに居てくれた。 私もユキさんのお手伝いぐらいは頑張ってみたけど。 「殿」 「……は、はい」 もう、そばに居る事できないのかな? 心臓が、鼓動が、いつもより早い。 不安だけど、もう、そう決められてしまっているのならば、私が反対できるわけないし…。 ユキさんを困らせるのは嫌だから…。 「あの、私は…殿?顔色が優れませんが、どうされました?」 「え…そんな事ないと思うよ」 不安にものすごい速さで襲って来てからだと思う。 何を言われるのかすごく怖くて。 毎日楽しかったけど、それが無くなるのかな?って思うと。 「気にしないで、ユキさんの大事な話。聞くから…ちゃんと」 ユキさんに迷惑をかけちゃダメだ。 本当はね、ずっと、ずっと、ユキさんのそばに居たくて。 ユキさんの隣で笑っていられればいいなって思うけど。 「ですが、具合が悪いなら無理はダメです。さ、休みましょう、殿」 「平気!ちゃんと聞くから、ユキさんの話」 どんな事を言われても、ちゃんと受け止めないと。 *** 「告白するまで戻って来るな。とは無理な話ではないか?三成」 「そうか?」 「ここは…幸村の屋敷じゃないか…普通は私達が出るべきだと思うのだが」 三成と兼続は幸村の屋敷の一室で茶を飲んでいた。 相談されたわけではないが、なんとなく幸村の話を聞いていたのだが。 酷く弱気で、後ろ向きな幸村の言葉に三成が苛つき、そんなつもりはなかったが告白をして来い!と叱咤した。 「もし失敗したらどうするんだ?幸村は屋敷に戻れぬぞ?」 ここにはその告白相手、も一緒に住んでいるのだから。 「失敗などすると思うか?馬鹿馬鹿しい」 「あはははは。まぁそうだな。するはずがないから…きっかけをお前は与えたのだろう?」 「あんな弱腰なことを常に思っているとは思わなかったがな」 「そうか?普通ではないか?」 兼続は茶を一口飲む。 「そばに居るだけでも、些細なことでも、彼女が生きているならば。その隣に別の男が居ても…」 「苛々する」 「結果がわかっているだけにな、それは仕方あるまい」 「なぜ、お互い気付かぬのだ」 「隠しているからだろう?お互い、お互いを想ってのことだ。我々は気づいたと言うより、二人から聞いたから知っているのだからな」 でなければ、今も室から幸村を追い出さずのんびり茶でも啜っていただろう、3人で。 「豊臣の天下になって戦は減った。平和になったから、こう…人の恋愛に口出しができるのだろうな」 兼続は笑い、三成は嘆息する。 「あぁ、本当馬鹿馬鹿しいがな」 「…ん?なんだ?騒がしいな…」 「まさか、幸村の奴失敗したのではないだろうな…」 告白して来い。と追い出したのだが。 *** 「そうは見えません!いつも無理はなさらずと言っているではありませんか!」 幸村がの体調を心配し言う。 「だから、無理していないもん。ユキさんの話、用件を早く言ってよ」 「わ、私の話は…そんな事より、殿の体調の方が大事です」 「大事な話って、ユキさん言った。だったらそっちを優先すべきで」 「嫌です。殿を無理させてまでする話ではないと思います」 庭で、見つめ合う。なんてことはなく、どちらかと言えば睨みあっている二人。 様子をこっそり障子を開けて見た三成と兼続は嘆息した。 「二人とも…頑固だからなぁ…」 「………」 「三成。どうするのだ?」 「どうもせん。幸村がさっさと告白すれば済む事だろうが」 「…まぁ、正論だな…」 二人は悪化することはないだろうと信じて障子を閉めた。 「私の事はいいの。ユキさんの大事な話の方が気になるもん」 「いえ、それは…」 「言い難い事とか、都合の悪い事とかなら後で聞くより、先に聞いた方がいいし」 「え…あ、あの…」 幸村は固まる。 の表情は強張っている。 こんな時に伝えてもいいものかと悩むし、の体調の方が気になるし。 だけど、には自分の大事な話が「よくない事」だと思われているようだ。 「私。何を聞いても大丈夫だから!」 「……えと…」 はで、この屋敷を出る事とか、今後の事しか頭にない。 不安要素しか思い浮かばなくて。 三成達も言っていたが、案外この二人は似た者同士なのかもしれない。 (言われるなら早い方がいいのに…こんなドキドキは嫌だなぁ) 幸村と一緒に居るとドキドキする。 笑顔を向けられたら、少し鼓動が早くなって。 でも、つられて自分も笑顔になれる。 でも、今のドキドキは違う。 不安から来るものだから。 まして、幸村から言われることだと考えると…。 (そんな不安な顔をされると…殿の具合も気になると言うのに…) ただ、自分はを守りたいだけなのに。 この先の事はわからない。 ずっと豊臣の天下が続くのならば安心だが。 また大きく変わるような戦が起きれば? 幸村は戦に出るだろう。 でも、戦に出て、彼女に火の粉が飛ばないように戦うことはできる。 その時、が他の誰かに守られ、隣にいようとも…。 (…また逃げに入ったな、私は…) 生きてくれさえいればいい。 自分より先に彼女が逝くことがなければ。 でも。 「ふん。そんなのは理由をつけて逃げているだけだ」 「彼女にとって一番の人、最愛の人としてそばにいたいと思わないか?幸村」 友が背中を押してくれた。 当然、本音はを知らぬ者に盗られたくないし、その居心地のいい隣を譲りたいとも思わない。 できれば自分がその位置に居たい。 だけど、怖くて。が選んだのが別の人ならばと。 のそばは心地いい。 向けられる笑顔にくすぐったく感じるも、自然と自分も笑顔になる。 一緒に居ると、鼓動が駆け足になってしまう。 「殿…」 どうすれば、今苦しそうにしている顔を和らげる? 自分が苦しめているのですか? 「殿、お休みになった方が、痛っ!」 後頭部に何か当たった。 ポトリとおちたそれは三成の扇子で。 「…あ…」 扇子には兼続の護符までついていて。 『逃げ禁止』 と書かれている。 今ここで終わりにしたら、背中を押してくれた友に申し訳ない。 いつまでも自分に逃げているのも嫌だ。 「殿」 意を決し、幸村はの手を取る。 「あなたが好きです」 「え…」 「私にあなたを、この先ずっと守らせてください!」 今が一番、鼓動が早くなっている。 戦でも聞かないような鼓動が聞こえるような気がして。 「殿に、寂しい思い…絶対にさせませんから」 言えた。 今までずっと隠してきたもの、逃げてきたことを、はっきり言えた。 「ユキさん…」 取ったの手がとても温かい。 どうが応えてくれるかわからない。 その応えを聞くのは怖いが、想いを伝えられるだけでも幸村にしてみれば上出来なのかもしれないと…。 「ユキ、さん…」 「え。殿!?」 の唇が震えている。 目に大粒の涙を浮かべて。 「び、びっくりしたぁ。告白されるなんて思わなかったから」 「す、すみません」 「けど、嬉しくて。私、ユキさんに、ここ出て行くように言われるかと思ったから」 なぜ、そのような幸村は少しも自分の想いは彼女に気付いてもらえていなかったのかと落胆する。 「そのような事、思いませんし、言いませんよ…」 「ありがとう…」 は幸村に抱き着いた。 「わ。、殿」 「私も、ユキさんが好きです。だから、すごく嬉しいよ」 「あ、ありがとうございます」 不安が消えた。 同時に、ドキドキが増える。 こんな緊張もあるのだなと思って。 「なんか…ユキさんの心臓の音がすごいね」 幸村の胸に耳を当てていた。 「そ、それは…緊張するからです。あなたがすぐ近くに居て」 「緊張?」 「あ、でも。嬉しい緊張です。好きな方がそばにいると、自然とそうなりますから」 「うん。それは私も同じ。ドキドキするけど、嬉しくもあって」 いつまでも、それが続けばいいなと願う。 先はわからずとも。 この心拍が止まるその時まで…。 11/08/22
19/12/30再UP
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