アイラビューアイニジュー




ドリーム小説
最近忙しかった。
朝早く出仕し、城に向かう。夜遅くに帰っては寝るだけの日々。
そこまで仕事人間ではないはずだが、仕方ないと割り切って毎日をそう過ごしていた。

「ユキさん」

「あ。おはようございます。殿」

自室の障子が開いたかと思うと、がひょっこり顔を覗かせた。
幸村は寝ぼけ眼であったが、にむかって挨拶をした。

「おはよう。ユキさん。って言うか、もうおはようって時間じゃないけどね」

「…………え?」

「まぁ今日はお休みだって聞いていたから、黙って寝かせてあげたんだけど」

毎日疲れていたとはいえ、もうお天道様が頭上にいる時間まで寝ていたとは驚きだ。

「朝と昼。一緒だけどいいよね?」

「は、はい。すみません」

気にしないで。と笑って彼女は障子を閉めた。
身体を起こしていたものの、布団から出るわけでもなくぼんやりしてしまう。
忙しかった分、急に休みになって気が抜けたのだろう。
こんな時の敵に襲われでもしたら自分は簡単に討ち取られてしまうだろう。
そうなった場合。同じ屋敷に居るを守ることができない。

「もっと精進せねば」

密かにそのような事を誓う幸村。
けど、

「ユキさーん。ごはーん!」

の呼ぶ声が聞こえ、幸村は慌てて布団から出た。



***



半日を無駄にしたなと思いつつ、縁側でぼんやりしていた幸村。
毎日忙しなかった反動が大きすぎる。
何か行動しようとは思えなくて。

「ユキさんがそんなの風なのって珍しいね」

「お、お恥ずかしいです」

が盆を持ってやって来た。
幸村の隣に腰を下ろし、お茶と菓子を出す。

「別にいいよ。この所忙しかったものね。家に居る時ぐらい何もしたくないよね」

「あ。買い物があるなら行きます。荷物お持ちします!」

「別にないからいいよ。それに疲れているユキさんに頼むのは悪いよ」

いや、それはもう盛大に頼んでほしい。

「いえ!大丈夫です!」

他の人に頼むなんて話は絶対に嫌だ。
自分より頼れる男は彼女の周囲に沢山いるから。

(荷物運びならば、慶次殿、左近殿、あぁ、加藤清正殿も侮れない…)

「仕方ないから持ってやってもいいぞ?」

なんて三成も言いそうだし。

「私でよければいつもで力を貸そうではないか!」

と兼続も言いそうだし。
何より。

「男ならば、その程度問題ないわ、馬鹿め!」

と政宗なら強引にやりそうだし。

「お嬢さんのその可愛らしい手が怪我でもしたら大変さ」

ってさりげなく孫市は持っていきそうだし。

「あなたにそのような苦労させるなんて以ての外ですよ」

孫市に似た、いやそれ以上に歯の浮くセリフでその場を掻っ攫っていきそうなのは宗茂だ。
幸村は何度もかぶりを振る。
武田の頃から守役のような立場で彼女のそばに居たから、多少他の者より近くいられるだけだ。
だけど、きっと彼らのような積極性は自分にはないから。
少しでも彼女の視線が彼らに向くと気持ちがへこむ。

「ユキさん?」

「い、いえ。なんでもないです。お気になさらず何でも言ってください、殿!」

は小さく笑う。

「ユキさん頼もしいね」

彼女が笑ってくれた。
その言葉に心躍る。

「けど、頼むことはないよ。ありがとう」

「そ、そうですか…」

もう他の誰かに頼んでしまった後だろうか?

「でも…ユキさん暇?時間ある?」

「え?あ、ありますが…」

「うん。ならば、出かけよう」

「え?」

は立ち上がり、幸村の腕を引っ張り立ち上がらせる。

「ほら、早く!」

言われがまま彼女に着いて行った。



***



どこに行くのだろうか?
目的地を言わないの隣を歩く。
街中を歩き、活気ある人々の姿が目に入る。
途中見知った人に声をかけられ、手を振ったり反応する
相変わらず彼女は顔が広い。

「どこに行くのですか?殿」

「んー?どこかなー??」

はにんまり笑うだけで答えない。
三成の屋敷か?兼続の屋敷か?
だが向かう先に心当たりがない。
そんな町からも外れて出たのはとある川沿い。
土手を二人で歩く。
そう言えば、久しぶり過ぎて忘れていた。
とこうして過ごすのも久しぶりだったことに。
川に陽の光が反射して眩しいも、穏やかな景観に笑みが零れる。

「ほらほら、ユキさん。つくしだよ、つくし!」

「あ。本当ですね、いつの間に…」

沢山つくしが顔を見せている。
前はそんなに気にならなかったのに。

「あっち見て!菜の花だよ!」

「これはすごい」

が指差した先辺り一面が黄色に染まっている。

「あと少し先に行くとね、沈丁花が咲いているんだ。あと、桜の蕾も見られるところもあって」

早く行こうとが幸村の手を取る。

殿、そのように急がずとも」

珍しくが急かす。
だが急いで転びでもしたら危ないだろう。

「あ。ごめん…ちょっと浮かれていたのかも」

「浮かれて?」

の足が止まる。
口を閉じ、眉が八の字になる。

「ユキさんと一緒って…久しぶりだから…えと、ごめんなさい」

その手が離れそうになった。
幸村は逆にしっかりとその手に力を入れて繋ぎとめる。

「なぜ、謝られるのですか…私は、私が情けなく、恥ずかしいです…」

「ユキさん?」

「私も同じです。殿と過ごせる今がとても楽しいです」

ずっと続けばいいのに。と願うくらいで。
その隣に彼女がずっと居ればいいのにと思うくらいで。

「わ、私も!私もユキさんと一緒で今すごく楽しいよ!」

の頬が赤く染まる。
けど、それ以上に見せる微笑みに幸村もつられて笑む。

「行きましょうか、殿」

「うん」

手はしっかり繋いだまま歩き始める。
が自分に向ける笑みの意味はなんだろう?
自分を兄のように慕ってくれてのことだろうか?
異性として意識してもらえているだろうか?
わからないことだらけだ。
手を繋いだ事も、深い意味はないのだろうか?

「この間もね、甲斐ちゃん達とお団子食べて、買い物して色々見て回ったんだ」

それはそれで楽しかったとは報告してくれる。
なんとなく、娘が父親に報告する時のように見えなくもない。
だけど、が家族のようにそう報告できるのは、今は自分しかいない。
だから、家族的な目で見られても仕方ないのかもしれない。

「その時に、菜の花畑も、沈丁花も、桜も見つけたの。それで…また見たいなって思って。
今度はユキさんと一緒にって!」

えへへと向ける笑み。
悪い気はしない。今だけは自分が独占しているから。

「はい、では参りましょう、そこに」

「うん」

「あと、お団子も食べましょうね」

「そうだね。ユキさんも気に入りそうだよ、その茶屋。可愛い看板娘さんがいるから」

幸村は慌てる。

「わ、私はそのような理由で気に入るなどないですよ!!そもそも、殿がそばに居て、そのような、あ…えと………なんでもないです……」

阿呆な事を口走りそうになった。
だが、三成達が見ていれば、そこではっきり言わないお前はバカだ。
ぐらい野次が飛んできそうだ。
に家族的な目で見られることに少し寂しくは思うも、それ以上を今は望んではいけないような気がして。
今は、今で十分のような…。

殿?」

「え?」

ふと隣に目を向ければ、が口角を緩ませて笑っている。
ずっと笑っていたが、何やら笑うのを我慢しているような素振り。

「どうかしたのですか?」

「どうか…って言うか…ニヤニヤしちゃう」

「は?」

「ユキさんが可愛くて」

「か、可愛い?わ、私のどこが…私より殿方がずっと可愛いです」

「ふふふっ。あとね、嬉しくて」

今日はから楽しい、嬉しいと言う言葉を何度も聞かされる。

「ユキさんの反応がなんか嬉しくて。くのちゃんや甲斐ちゃんには悪いなーって思うけど。
抜け駆けしてよかったかも。みたいな?」

「ぬ、抜け駆け?」

「なんでもないよー」

はニマニマと笑うだけだ。
けど、これってもしかして…って思うわけで。

殿」

「ん?」

「ずっと…ずっと…私と一緒に居てくださいますか?私にはあなたが必要です」

の顔が一層赤くなった。
耳も首も真っ赤で。
ちょっとだけ泣きそうな顔をして。
あ、これは失敗したかなと思った。
が手を離し、あっ。と寂しさが湧く。
けど。

「私にもユキさんが必要です」

ギュッと幸村に抱き着いてきた。

「ユキさんが大好きだから。ずっとずっと一緒ね」

「………は、はい!」

の返事に微かに反応し遅れるが、幸村大きく頷いた。

「私も殿が大好きです。ずっと一緒です」

ずっと一緒。
それが叶い続けるかはわからないけど、今だけは、できる限りそうしたい。
そして、ずっとそう願い続けるんだ。








11/03/20
19/12/30再UP