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手、伸ばし
の最近の楽しみ。 幸村が休みになると、必ずどこかへ一緒に行く。 二人揃って。どこと決めずに思った方へと歩きだす。 今日もそうだった。 「兼続殿が教えてくれました。この先に美味しいお饅頭が売っているそうですよ」 「兼続さん。なんでそんなこと知っているの?」 あのお堅い人が街中で食べ歩きをしているとはとても思えない。 「さあ?私にもそれはわかりませんが、損はないといっていました」 ニコっと笑い、後で買いに行こうと幸村は言う。 確かに兼続情報は当てになる。ハズレが今までなかったのだ。 「じゃあ、このまま行けば兼続さんのお邸だから。兼続さんの分も買っていこうか?」 「そうしましょう」 その美味しい饅頭を売っている店を目指して歩く。 「ごめんよ、ごめんよー。急いでいるんだ、どいとくれー」 前方から聞こえる声。飛脚のようだ。 軽快な足取りで向かってくる。 少し余所見をしていたは飛脚に気づくのが遅かった。 「殿」 だが、スッと手を伸ばしの肩を抱いた幸村が飛脚に道を譲る。 「ありがと、ユキさん」 「いいえ。ぶつからなくて良かったですね」 そしてパッと手を離し再び歩き出す。 手を伸ばせる位置にいつも幸村はいる。 自分のことを大事にしてくれる。 少し甘やかしすぎやしないか?と思うこともあるが。 幸村がそうしてくれるのは、何故だろう? 単純に保護者のような立場だから? 中々聞けないから困ってしまう。 結局自分も現状に甘えているなと苦笑してしまう。 いつからだったか、幸村のことを想うようになったのは。 だから色々気にしてしまう。 「殿、あの店ですよ」 幸村に促され店に入り、美味しいといわれる饅頭を沢山買った。 兼続へのお土産用と自分たちが食べる分を。 なんとなく思ったのは、幸村から見て自分は色気より食い気なのだろうか? *** 別の日。 と幸村はまた出かけ歩いていた。 前に食べた兼続推薦の饅頭は確かに美味かった。 兼続になぜ知っていたのかを聞いたが、彼は秘密だと言って教えてはくれなかった。 「段々暑くなりますね」 「うん。梅雨明けしたらもう夏だものね。ユキさん夏好き?」 「夏、ですか?さあ、考えたことありませんね」 「そう?」 「殿はどうですか?」 「うーん。好き、かな。ムシムシした暑さは嫌いだけど、そんな日の夜は蛍が見れるし」 「去年も見ましたね、共に」 「うん。嬉しかった、あんなに蛍を見たの初めてだったし。今年も見れるかな?」 「殿が望むなら行きましょう、蛍を見に」 「本当?じゃあ約束。絶対だよ?」 「はい」 の顔を見て幸村は満足そうに頷く。 はチラリと幸村の顔を窺うようにさらに付け足す。 「行くなら、今年は皆も誘っていこうか?三成さんとか兼続さんとか」 でも蒸し暑い夜に三成は嫌だといって出歩かないかもとも付け足しながら。 幸村はなんの曇りもなく答える。 「それもいいですね。とても賑やかになりそうですね」 二人が来るなら慶次や左近も来るだろう。 「どこかで冷たいものを食べながらというのもいいですね」 「そう、だね・・・・」 ちょっと面白くなかった。 二人きりより皆と一緒の方がいいと思われたみたいで。 そう言い出したのは自分なのだが、できれば「今年も二人で」ぐらい言って欲しかった。 やはりと言うか、幸村から見ると自分は深く考える存在ではないようだ。 律儀に守っているのか。信玄との約束を。 は元々ここにいたわけではない。 道に迷ったかのように、所謂戦国時代へと来てしまった。 運が良かったのが、を保護してくれたのがかの有名な武田信玄だ。 信玄公はを娘と同じように可愛がってくれた。 そのがどこにいても危なくないように幸村を守り役としてつけたのだ。 だが信玄公は没し武田は織田に滅ぼされた。 現在、幸村は信長の後を継ぐかのように天下一統を成し遂げた秀吉に仕えている。 も一緒に来ないかと誘われ幸村と一緒に暮らしているのだ。 守り役として一緒にいるうちに幸村の人柄に惹かれていくのにそう時間はかからなかった。 何事にも真面目で固い印象を受けるが、親しくなるにつれ柔らかく笑んでくれるようになった。 その笑みを見れば、こっちまで嬉しくなるし、ツーンと胸に切なさを感じてしまう。 ああ、この人のことが好きなのだなと思い。 恥ずかしい言い方をすれば、今、自分がここにいるのは幸村に出会う為だったのではないか? そう考える。 まだ短い人生。さらに言うなら何不自由なく暮らして好き勝手していたから、誰かを好きになっても 結構あっさりしていた気がする。 でも、今は違う。 真面目に幸村のことを想ってしまう。 どうしたら、好かれるかな? 嫌われない為にはどうしたらいいのかな? 何をしたら喜んでくれる? 何をしたら笑ってくれる? 私のことはどう思っていますか? 「あ。殿、あそこの店のわらび餅が美味しいそうです。買って行きませんか?」 「うん。そうだね」 今度は誰情報だろうか? また多めに買って、三成たちにも分けるのだろう。 こんなに近くにいるのに中々想いは届かない。 一緒にいても自分の中では距離を感じる。 わらび餅を買って店を出る。 幸村は「多めに買ったので、三成殿たちにもわけましょう」と思ったとおりのことを言った。 (わかりたいのは、それじゃないのだけどな) わらび餅が入った包みを幸村は抱え歩く。 は街の風景を楽しむかのように辺りを見ながら歩く。 少しだけ幸村と距離をとって。 街の風景なんか、本当はどうでもいい。 目に映ってはいるが、別に感想などない。 周りから見れば幸村といることがどんな風に映るだろうか? 同じ年頃の女性から見れば嫉妬の対象だろうか? なんであんな子が隣にいるの?とか。 もし、自分が見たらそう思うだろうなと笑ってしまう。 (ユキさん格好いいもんね・・・・隣に並ぶなら稲ちゃんとかァ姉とかがお似合いだよね) 二人とも武家の娘らしく女性ながらも凛々しいという言葉が似合う。 そこまで考えると、以前の自分はすぐに諦めてしまった。 望みがないならもういっか〜などと簡単に。 あの頃は手を伸ばすことも諦めていた。 でも、今も挫けそうだ。 涙が出そうになる。 悔しいのと情けないのと寂しいのとが織り交ざって。 「殿!」 強く肩を掴まれた。 幸村が息を乱している。 「ふ、振り返ったらあなたの姿がなくて・・・・・驚きました」 「あ、ごめん」 少し距離を取ったつもりが、思った以上にできてしまったようだ。 しかも、考え事をして立ち止まってしまった。 それだと幸村との距離はできてしまう一方だ。 店を出てからいつものように、このまま三成殿の邸へ行きましょうかとか 慶次殿に多めに食べられてしまうかもしれませんねなどと口にしたが からの反応はなく、変だと思って振り返ったらの姿はなかった。 「話しかけても返事がないので・・・・大きな独り言のようで恥ずかしかったです」 掴んでいた手を離し、そのまま後頭部を掻く幸村。 「何かあったのですか?」 幸村はの顔を覗きこむ。 だがは首を振った。 「何もないよ。ただボーっとしていただけ」 「ボーっとて・・・・具合でも悪いのではないのですか?」 「ないよ、なんにも」 は軽く笑った。 幸村のことを考えてぐるぐるしていた気持ちだが、今の幸村の姿を見て吹っ飛んだ。 幸村の慌てぶりが可笑しくて。 一人で話していた時、周りは幸村をどんな目で見ていたのだろうかと思うと可笑しくて。 「具合が悪いようならちゃんと言ってください」 「うん」 「では、参りましょうか」 「三成さんのお邸だね」 二人は歩き出す。 隣を歩く幸村を見て少し思った。 心配してくれることに少し期待しても良いのかなと。 それは自惚れで、後で自分が傷つくかもしれないか。 少し手を伸ばし幸村の袖を掴んだ。 「殿?」 そんなに強く掴んだわけでもないのに、幸村はそれに気づいた。 「また、ボーっとして離れたら嫌だなと思って」 ちょっとしたことだけど、勇気を出す。 幸村はどんな反応をするだろうか? 子どもだなと笑うだろうか? 「でしたら。こうしましょう、殿」 幸村は袖を掴んでいたの手を取り握る。 「これなら、離れませんよ、決して」 「・・・・・」 は少しぎこちなくだが握り返す。 幸村はそれを感じ小さく笑う。 「手、伸ばして良かった」 「殿?」 「ユキさんがいつも近くにいるのに、手が届かないって思っていたから」 一拍間があく。 幸村は困ったように目線を泳がせる。 だがすぐさま、を見る。 「私はいつでも殿のそばにいます」 真剣にの目を見て。 すぐさま、頬に朱が走る。恥ずかしくなったのだろう。 「ユキさん」 「は、はい!」 「私、そんな風なことを言われちゃうと自惚れちゃうな」 「う」 「う?」 「自惚れてください」 言う幸村の顔は一段と赤くなる。 もつられてしまう。 「じゃあ、また手、繋いでいい?一緒に歩いて欲しいな」 「はい」 柔らかく優しい微笑み。が好きだと思う笑みだ。 想いが届かないと思ったから、きっとこの手も届かないと思った。 でも。 伸ばしてみて、ちゃんとあなたに届いていた。 06/07/07
19/12/30再UP
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