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琴瑟相和
「そうか、大変だったなぁ」 「うん。いっぱい怖い思いをしただろ?」 差し伸べてくれた手はすごく温かった。 「だったら、今日からわしらを親と思えばええ」 「うるさいくらい賑やかだからね。これからは楽しくなるよ」 向けてくれた笑顔が嬉しかった。 生まれ育ちがここではない、遠い世界の私を受け入れてくれた秀吉様とおねね様。 血の繋がりはないけど、私の事を本当の子どものように受け入れ、可愛がってくれた。 「いつも言っていたぜ、が可愛いって」 「どうしてもって時は、俺がを娶ってやるから安心しろ」 「おねねちゃんが羨ましいって思っていたのよ。でも、今はおねねちゃんが羨ましいって言うのよ」 秀吉様とおねね様のもとを離れても、利家様とおまつ様が私の面倒を見てくれた。 私は本当に運がいい。 一人で生きて行かねばならないとわかっていても、可愛がってくれる人がいて。 「〜これ食うか?貰ったんだぜ、美味そうだろ?」 「夕餉前に食い過ぎても知らんぞ」 「いや、こいつならば夕餉も含めて全部食うだろ」 いつも漫才みたいな、しょうもない軽口を言い合っている馬鹿兄貴達もいてくれた。 清正が長男で、みっちゃんが次男、三男が正則。 でも、案外みっちゃんの方が三男かも。と思う事もあった。 一時期、この3人が袂を分かってしまい、戦う道を選んだ。 馬鹿みたいなやり取りで、毎日が楽しかった。 これがずっと、ずっと続けば良かったのに。 現実は厳しくて。 秀吉様が亡くなると、平和だった世が乱れて戦に発展して、馬鹿兄貴達は敵対した。 3人とも、目的は同じで「家」を守るためだったのに。 結果的に、みんながみんな頑張ってくれて、馬鹿兄貴達も元に戻った。 また賑やかな毎日が戻って来た。 けど、だからって、ずっと今まで通りにはいかない。 私はそう思っていたから、ケジメというわけではないが。 自分の中で、期間を設けた。 1年。家族と過ごして、おねね様、利家様、お松さまにいっぱい親孝行をして。 そして、お嫁にいこうって。 自分で簡単に嫁ぐなどはできないけど、茶々様だったり、利家様にご相談すれば、どこか探してくれるだろうなって。 嫁いだ先で、今度は私がその「家」を守ろうって決めたんだ。 「秀吉様はもういないけど、豊臣の家はちゃんと守られて。馬鹿兄貴達も誰一人欠けずにいてくれた。だから、そろそろちゃんとしなきゃって思って。それでも、最後のこの1年くらいは、楽しい思い出いっぱい作って」 「思い出。いっぱいできて、利家様とお松さまにも、おねね様にも親孝行できたと思うから。だから、お嫁に行こうって思ったの」 それをみっちゃんだけにしか話さなかった。 呆れらるか、褒めらるか、反応が怖かったけど。 もう決めた事だから。 あとで、しっかり利家様にご相談をしようって考えていて。 なのに。 「そうか」 「それで満足したのか?」 「う、うん」 「では、俺のところに来るか」 って。 すごく驚いた。 以前、おねね様の前で、私は売れ残ったら、しょうがないからみっちゃんが貰ってくれる。 みたいな話にはなったけど。 そうなったらいいなとは思ったけど、実際はそうはならないだろうって考えていたから。 「俺はこの1年。の好きにさせて、それで満足したならばお前を受け入れようと考えていたんだが」 「前田殿にも、ちゃんと話してある。何も問題はない」 自分では口にしたつもりはなかったけど、お嫁に行くんだって、寝言みたいのをみっちゃんは聞いてくれていたようで。 だから、みっちゃんが言ってくれた事に、ただただ、純粋に嬉しかった。 【6】 石田三成にとって、というのは、出会った当初は不思議な生き物だと思った。 自分より年下なのに、物おじせずはっきりものを言う。 三成もはっきり言うが、彼女の場合は、それを周囲に煙たがられなかった。 女子だからか?愛嬌がある。とでもいうのだろうか? その辺自分と比べるのもおかしなものだから、気にせずにいたが。 秀吉夫妻の子ども。というような目では見られるようになり。 本人も夫妻を慕っていた。 その延長なのか、気づけば清正、正則を含めて馬鹿兄貴と括られるようになっていた。 あぁ、妹のようなものか。 そう考えるとしっくり来た。 毎日が賑やかで、煩すぎると感じるくらいだったが、三成にとってもそれは嫌ではなかった。 が正則と軽い喧嘩でもすれば、三成がを、清正が正則を連れて愚痴を、話を聞いて気分転換させてあげた。 でも、最終的には喧嘩などなかったかのように元に戻った。 が悩むと、三成も気づくが、自分よりも清正が早くに気づき、話を聞き元気づけていた。 清正の方が頼れるだろうと言うのはわかっているし。 自分の事も対処できない奴に、の助けなどできるわけもないと思っていたから。 でも、どこかでそれが面白くなくて。 清正ではなく、自分を頼ってくれればいいのに。と。 それでも、妹分のような目で見ていたから。 「それがいつからそうじゃないって気づいたんだ?」 「ん?あぁ…さぁな、覚えておらぬ」 「お前なぁ…」 清正が呆れる。 有馬の温泉にの願いで、清正たちと共に行ったとき。 の願いが叶ったと聞いて、三成はを嫁に迎える事を告げた。 前もって利家には相談していたので、後々問題となることはないだろう。 有馬から戻ったあと、正式に利家に挨拶に行き、話をした。 と二人でねねにも話をしに行った。 どちらも大して驚くわけでもなく、良かったと安堵してくれた。 そして、今。 三成の屋敷に清正が来ていた。 経緯を珍しく素直に話していた。 「意識した覚えはない。ただ、まぁ…売れ残ったらなどと言ったわけではなく。俺の隣にがいる事にしっくりきただけだ」 「…ま、大馬鹿のお前にしちゃ上出来か」 清正は苦笑しつつも、手元にあった饅頭を食べた。 「褒められているようには聞こえんな」 「いや、俺は昔からの気持ちを知っていたから。お前のところに嫁げることになって喜んだし、安心もしたぞ」 「そ、そうか…」 まったくそう言った気持ちを向けらていたなどとは、三成は気づけなくて恥ずかしい。 「お前はお前で、守るべき家が増えたんだ。無理しない程度に頑張れよ」 やるべき仕事量が以前より増えたから。 一人で抱え込むのが三成の性格だ。 それを清正は案じてくれているらしい。 「…肝に銘じておく」 やはりと思う。 あのまま諦めないで良かった。 戦で、考え方の違いから道を別ってしまったが、今またやり直せていることに。 「念願かなって良かった〜ってところかぁ?」 「そうだね。まさか叶うとは思わなかったけど」 正則と外を歩いている。 さっきまでねねの所に居て、その帰りだ。 三成とが収まったのだから、今度は清正と正則の番よ。とくぎを刺されてしまった。 「それよりも、あの頃よりもみっちゃんと正則が仲良しだから、私は嬉しいかな」 「ん?そうかぁ?」 「そうだよ。昔はみっちゃんの事を頭でっかちとか言っていっつも突いていたし」 「そんなこともあったか?」 今ではその三成のそばで働いている正則だから。 「ま。俺らが離れずに済んだのは、が居たからだろうな」 「え?」 「叔父貴やおねね様が俺らを息子みたいだって言ってくれても、それはやっぱ、みたい。な話であってさ。実際は家来なわけじゃん」 「えー。でも、一緒に暮らした時期もあったし、私は家族だって思っているのに」 正則は頭を掻き苦笑する。 「いや、別にそれが嫌だとか、悪いって言っているわけじゃねぇって。たださ、何か起こった時に、バラバラになっちゃうだろうなって感じではあったんだよ」 上手く言えないけど。正則は呟く。 正則が言いたいのは、身内として絆は強くあっても、何がきっかけでそれが壊れても可笑しくはないとのことだ。 時代から考えればそうなのかもしれない。 血の繋がりがあっても、裏切り、裏切られたという事はある。 「でもよ。が居てくれたから。俺らも家を守りたいって思ったし、そうする為にはどうしたらいいんだって奔走したわけで」 難しい事は言えないと正則は笑う。 家族みたいな。家族のような。といっても、結局は他人。 だけど、馬鹿兄貴達はなどと言われると、隣に居る子が本当に妹のような感じで。 「どっちにしても、これからは三成とお前は本当の家族になるんだからさ。俺、応援してっから」 「正則…」 「あ?どうかしたか?」 「まだ嫁ぐのに先の話なのに…泣かさないでよ〜」 は目に涙を浮かべてしまった。 正則の言葉に純粋に感動してしまったのだ。 「お、おい。こんなところで泣くなよ!もし、誰かに見られたら、ヤベェじゃねぇか!」 「だ、だって〜正則が嬉しいこと、言ってくれるから」 涙が止まらない。 誰にも祝福されていないわけじゃない。 寧ろ、祝福してくれる人たちばかりだ。 だけど、身内からの言葉だからか、嬉しいのだ。 「正則が、応援してくれるの、すごく嬉しい。私、頑張るから。みっちゃんとの家守れるよう頑張るから」 「お、おい…えと」 「お嫁にいっちゃうけど、私はこの先も、ずっと、清正と正則の妹だからね」 そこまで言うと、今度は正則の方が必死で口を噤んでいる。 「お、お前なぁ…」 正則までも目に涙を浮かべて。 「よ、良かったなぁ。本当良かったなぁ、三成の嫁さんになれて。いつかはお前も誰かに嫁ぐんだろうなって思ってはいたけど……それが三成で良かったなぁ」 「うん」 町中で二人してわんわん泣いてしまうのだった。 「遅い」 「「す、すみません」」 家人に案内されて室に入ると、三成が腕を組んで睨んでいる。 と正則は言い訳することなく頭を下げる。 「どこで寄り道を…ん?」 三成はと正則の目が赤い事に気づく。 「何かあったのか?お前達」 「え?何もないよ」 「お、おう」 なんでもないと言い切るも、可笑しいと三成は詰め寄る。 「おねね様に叱られたわけじゃないんだろ?」 清正は二人の行先を知っていたので、一応話を切り出しやすいようにしてくれている。 「う、うん。違うよ。おねね様には、お土産にお弁当まで頂いちゃったし」 「お、おう。沢山詰めてくれたぜ。早く食いたいよなぁ」 「じゃあ、なんだ」 三成だけは引く気はないようだ。 「何かあったのではないかと心配するではないか」 その一言に、さっきまで大泣きしていた二人の涙腺が緩む。 「三成ぃ、お前…」 「な、なんだ。急に」 涙を浮かべたかと思うと、泣き出してしまう。 「あ、あは。ごめん。泣くつもりはなかったんだけど、さっきも泣いちゃったから」 「泣いた?」 「何かあって泣いたんじゃなくて、その、感動して泣いちゃったってだけで」 それを聞いて清正は笑いだす。 三成は息を吐き、正則とは互いに顔を見合わせて鼻をすすった。 「本当にしょうがない奴らだな」 「いや、だってよぉ、清正。お前だっての花嫁姿見れば泣くと思うぞ」 「泣きはしないと思うが…」 「あ、やべ…なんか想像したら、また泣けてきた」 正則は手拭で顔を覆う。 「いつかの話じゃないが、前田殿が言った通りになりそうだな」 清正は正則を見て言った。 「が嫁ぐ日が来たら、俺達は男泣きしそうだなって言っていただろう?」 「そんな事もあったな」 「するわけがないって、三馬鹿は言い切ってくれちゃったけど」 あの頃と言っても、そんなに昔じゃないけど。 笑い話にはできるほどになったことか。 「正則は男泣きしたってことだな」 「しょうがない奴だ」 「やい、三成!お前、の事泣かしたり、困らせたりしたら俺と清正が許さないからな!!」 涙を拭って、三成に向かって指さす正則。 「そうだな。兄貴達は妹が心配だからな」 「そうだ、そうだ」 「だって、みっちゃん」 は笑っている。 三成は、嘆息する。 「お前達に言われるまでもない。が、そうだな。を泣かすようなことはしないと約束はしよう」 素直にそれを口にした三成には恥ずかしそうにするが、嬉しいのだろう笑っている。 それを見た清正と正則も満足する。 「じゃ。そろそろその土産を堪能するぞ。いい加減待ちくたびれて腹が減った」 清正は、ねねからの弁当を食べようと言った。 三成も家人に用意させた品を出し、ちょっとした兄妹だけの宴会となるのだった。 清正と正則は帰宅し、は後で三成が前田屋敷まで送っていくことになった。 二人になったことで、さっきまでの騒がしさが嘘みたいだ。 縁側で二人並んで座る。 「楽しかったね、みっちゃん」 「あぁ。相変わらず煩いがな」 でも楽しかった事は否定しないようで、は嬉しい。 またこうやって過ごせるのは本当に嬉しい。 二人が夫婦になってもそれは続くだろうか?ふとそんな事を考える。 それが三成にはわかったようで、コツンとの頭を軽く叩いた。 「きっと変わらない。それどころか、煩いくらいだぞ」 「みっちゃん」 「だから、ずっと俺の隣にいろ」 そうすれば、の願いはずっと続くだろうから。 そう言って笑いかけてくれた三成に、は笑顔で頷くのだった。 18/03/04
19/12/30再UP
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