戻らない時間。


ドリーム小説
【6】





「い、いや、俺はいい…お前達だけで行ってこい」

「「………」」

あっさり断って来た清正に三成と正則は無言で睨んだ。

「な、なんだよ」

さらには溜め息まで吐いてしまった。

「清正ぁ。なんでそんなに嫌がるんだよ。に会いたくねえってか?」

正則が我がままだなぁと珍しく清正に呆れている。
以前から正則が三成に「三人でに会いに行こうぜ!」というのを本日実行しようとしていた。
その為に清正の所へやって来たのだが…。

「あ、会いたくないわけじゃない!た、ただな…」

三成もに会おうと決めてから数日経ってしまったわけだが、それには清正の休みに合わせたのだ。
今日は秀頼の警護もなし。そんな時ならば清正を誘いやすいと思った。

「ただ、なんだ?三成だってようやく行こうって言ったのによ」

「三成?」

「余計なことを言うな、馬鹿」

話を自分に振るなと三成は軽く正則を小突いた。

「うるせー。大体お前ら変な所で頑固だよなぁ。に何か後ろめたいことでもあんのかよ」

俺はない。と言い切る正則。
そもそもこの男に隠し事などできないだろう。
言われた二人の方が返答に詰まった。
だがこのままでは話が進まないからと三成が口を開いた。

「俺は…あの大馬鹿にあんな決断をさせた事が悔しいと思った。自分が情けないと…」

「あぁ、あの縁談か…」

政略結婚の道具になること。

「あいつが、俺たちの事を思ってだと言われたが…」

「まぁな。あれには驚いたよな。そりゃあいつかはだってどっかの誰かに嫁ぐことになるだろうけど、あんなやり方は兄貴分としては嬉しくねえよな」

正則は腰に手をあて、空を見上げた。
何気なく言った正則の言葉に三成自身、若干気持ちが揺らいだ。

(……そうだな、いずれはあいつも俺達の元から離れるんだな…)

今回の事でそれが少し先に伸びたようだ。
それともまだ先なのか…そう考えると少し安堵した。

(なんで俺が安心するんだ)

「それで?それだけでに会うのを躊躇するわけじゃないだろ?」

清正の言葉に引き戻された。

「………」

「お前の事だ、乗り込んでに暴言でも吐きまくったのだろう」

「うわ。それでを泣かせたんだな、お前ひでえなぁ」

泣いた姿を見たわけではないが、きっと泣かせただろうと思う。
だけど、に問い詰めた時に出た言葉は三成の本心だ。
あのような事をされても、自分たちの為だと言われても嬉しくない。
を犠牲にしてまでなどと考えたくなかったのだ。

「泣かせた…だけで済めばよかったのだがな…」

思わずため息とでたボヤキに二人は敏感に反応した。

「三成〜お前に何したんだよ」

「会いたくない理由はそこだな」

「清正。お前には言われたくないのだがな…」

「いいから吐け!」

「う………い、勢いで…叩いてしまった」

人に手を挙げるなど正直好まれることではないのはわかる。
まして妹分であるに対してだ。

「そりゃあ、お前…どんな面して会いに行けばいいのかわからないよなぁ」

「う、うるさい」

「まぁ、だから俺達が一緒ならいいじゃん。はい、三成はこれで解決だ!今度は清正。お前だぞ」

あっさり解決だと言い切った正則。
三成自身はあれこれ深く考えまくったのに。
だがそう言うにすっきり言い切ってもらえるのはある意味清々しいとも感じた。
やはり、正則のこういう単純な部分は嫌いではない、寧ろ羨ましいとさえ思える。

「わかった。それで?清正はなんだ?お前も俺と同じでをぶん殴りでもしたのか?」

「誰がするか!」

「いや、そもそもお前はと会ったのか?正則の話じゃ縁談の話が出ても留まっていたようだが…」

あの縁談は豊臣にとって悪くないと言い切ったらしいから。

「あの時は、まぁ…あの馬鹿らしいと思ったさ。これで戦が回避されて俺達の家が残るならば問題ないと。けど同時に破談されて安心もした…から。ま、その辺は三成とは違うな」

「ぶり返すな」

そっぽを向く三成に清正は笑って悪いと答えた。

「俺はな…戦になるとわかった時に、覚悟を決めたんだ。お前を討ち取ってでも家を守ると」

「清正…」

「それを今更お前に詫びる気はないが…」

「そんな事はいい。お互い様だろう…」

ただ、三成は利家に強く言われてもその覚悟が揺らいでいたのは確かだ。

はどっちが戦に勝とうが、誰の天下になろうが、そこに俺達三人が揃っていなきゃ嫌だってさ…三成を討ち取ってでもって言葉があいつには衝撃だったんだろう」

「そうか…」

それは三成も聞いた。
天下なんて徳川に譲ればいい。豊臣が一大名に成り下がっても構わないと。
三馬鹿が仲違いしてしまうのが嫌だと。

「前田殿に言われたよ。家の事を考えている割に、そこに居る家族の事を何も考えちゃいないって…確かに、おねね様や、の事を俺達は何も考えちゃいなかったのかもな」

それをがしようとしていた事に。ただ腹を立てただけだと三成は、やはり己が情けなく感じる。

「だからだな…俺はなんとなくに顔を会わせ辛くてな…」

「清正も考えすぎなんだよ!はぜってー早く俺達に会いたいって思っているはずだぞ。
はい、清正の問題も解決な!もうぐだぐだ言うのはなし!に何か言われたならば黙ってそれを受け入れろって話だ!」

「「………」」

一番何も考えていなさそうな男がずばっと言い切った事に二人は黙ってしまった。
正則自身、清正について徳川方にいたものの、誰よりも家、家族の事を考えていたのかもしれない。
だから頑なに、三人でに会いに行こうと二人を説得したのだろう。

「わかった。行く。怒鳴られるのも詰られるのも覚悟の上だ」

清正はようやく腰を上げた。

「そうか?俺、はそんな事しねえと思うけどな」

「それだけのことを我らはしたと思っているんだよ」

いつもならば、大馬鹿。と言ってしまうところだが、今日は自分たちの方が大馬鹿だろうと言う気がした。



***



「よーし、もうすぐ焼けそうだな」

「………利家様…いいんですか?庭で焼き芋なんて…お松様に叱られてもしりませんよ?」

「いいじゃねえか、別に。それにそン時は松にも食わせちまえばいいンだよ」

先程利家と辺りを散歩していた
その途中、畑仕事をしていた夫婦からおすそ分けだと掘ったばかりの芋をもらった。
焼き芋にして食おう!と利家が言いだし、庭で落ち葉を集めて焼き始めたのだが。

に一番美味そうな奴あげっからな…大きい奴の方がいいか?」

「そんなに食い意地張っていませんから」

「いやぁ、女は好きだろ?焼き芋って」

「嫌いじゃないですけど、欲張るほど私は食べません」

「そうかあ?なんか三成達と競って食いそうな感じするけどな」

「………していないと…思いますけど?」

即答できなかったのは、違うと言い切れないような気がしたから。
あの頃は馬鹿みたいに気兼ねなくあれこれ食べたような気がして。
ちょっと忙しくなった三馬鹿でも、不思議なくらい同じことを考えていて、こぞってのもとへ様々な食べ物を持参してきたものだ。

「何だぁ?歯切れ悪いぞ」

利家がくつくつと笑うのを見て、は軽く唇を尖らせる。

「利家様の意地悪。あとでお松様に叱られても、私は助けませんからね」

「おいおい、ひでえな」

「私までお松様に叱られるのは嫌ですもん」

ぷいっとそっぽを向く
だけど、その顔はすぐさま笑みが浮かぶ。
利家夫妻との生活は楽しかった。
もう家族はいないのだろうと、秀吉夫妻のもとで暮らしていた頃には戻れないだろうと思っていたけど、同じとは言えないが、あの時と近い形で暮らしている。
関ヶ原の合戦後、馬鹿兄貴達には中々会えないが、甲斐や稲という友達との再会は果たせた。
稲は徳川方についたこともあって、この先厳しいものがあるだろうが、くのいちの話では、義弟である幸村や、その父昌幸らによって恩赦はかけられているそうだ。

「なあ、

「はい?」

「寂しくねえか?お前…近くに兄貴達がいても会えないからよ…」

「………」

彼らは彼らで忙しい。そうは思っているから、会えなくても構わないと思っている。
それが寂しくないと言えば嘘になるが、ただ…それを理由にして三人に会いに行こうとしていないだけだともわかっている。
特に三成とは、会ってもらえるか不安で。
会いに行っても追い返される可能性が高そうで。
自分から居心地のいい場所を壊してしまったのだと…。

「寂しくないですよ。利家様とお松様と一緒で寂しいなんてことないですよ。笑いの絶えない家っていいですよね」

…」

「利家様が沢山笑わせてくれますから」

それは本当の話だ。
本来ならば一人で心細くなっていたかもしれない自分を夫妻は拾い上げてくれたのだから。

「なンか、それって単に俺が笑われているって話じゃねえのか?」

「そう聞こえますか?」

「聞こえたなあ」

そう解釈するのかとは笑った。
笑うな。と利家はの頭をわしわしと撫でた。
そこへ賑やかな声が聞こえてきた。

「待て!大馬鹿!!なぜ庭から入ろうとする失礼ではないか!」

「ああ?いいじゃねえか。庭にいるって言うんだからよ」

「礼儀ってもんがあるんだよ、大馬鹿!」

「いいから早く来いよ。なんかいい匂いするしよ」

正則がずかずかとやって来た。
しかもしっかりと清正と三成の腕を掴んでやってくる。
二人はどこかバツの悪そうな顔をしているではないか。

「何だ?お前ら…」

やって来たのが三人だとわかると、は急に不安が湧いて咄嗟に利家の背中に隠れてしまう。

「す、すみません。前田殿」

「手を放せ馬鹿!」

利家の前に着き、正則は二人の腕を離した。
清正は利家に必死で頭を下げている。

「俺達、に会いに来たんすよ」

ニシシと笑う正則。

「ほう。に…よかったじゃねえか…って、お前…」

背中に隠れているに利家は呆れた。
だって会いたくないわけではない。来てくれたことを嬉しく思うが、どこか後ろめたさがあり素直に顔を出せない。
それは三成と清正の同じらしく。
が顔を隠したのは自分たちの所為だと思い、顔を背けた。

「どいつもこいつもしけた面してンなぁ…」

「まったくっすよね。女々しいんすよ。三成も清正も」

「お前は違うってか?」

「俺は別に最初からに会いに行こうぜ!って必死こいてこいつらを説得してたんすよ」

「余計な事を言うな、大馬鹿!」

三成が正則の後頭部を叩いた。

「いてえじゃねえか、三成ぃ!」

「煩い、大馬鹿」

黙れと清正がいい、彼は一呼吸する。

「すまなかった、。中々お前に会う勇気がなくてな…きっとお前は俺の事を恨んでいるだろうって…こうして生かされた身でも、どこかでお前に会う資格はないと思っていた」

「俺もだ…お前には酷い事をした。すまん…。お前が俺達の事を思ってしてくれたことでも、俺は素直にそれを受け入れられなかった…さらにはお前の頬を叩いてしまった」

「二人とも、だからに会えないって言うんだけどさ。俺は、お前に俺達三人でいる姿を早く見せたくてさ。一度は袂を分かっちまったけど、今またやり直せているんだからさ。そんなに悪く考える事ねえと思うんだけどさ」

三人がそれぞれの気持ちを言葉にした。
それでも顔を隠したままのに三人は顔を見合わせ小さくため息を吐いた。

「許してくれなんて言えないけどな…」

「お前を随分悲しませた事はわかっている」

…」

ただ今は詫びの気持ちだけ告げて帰るべきなのだろうか?
そう三人は思い始めていた。

「今度はお前の番だぞ、。折角だ。ちゃんとお前の気持ちぶつけてみろって」

利家が背中に隠れたに言う。

「会いたくなかったのか?馬鹿兄貴達に」

「利家様の意地悪…」

はおずおずとその大きな背中から姿を見せた。
俯いていたが、すぐわかる。
三人は苦笑してしまう。

「お前…本当泣き虫だよな」

「煩い!三馬鹿!」

会いたかったけど、会えないような気がして。
会いに行っても拒絶されたらどうしようと不安で。
会いに来てくれて嬉しかったけど、後ろめたさも感じて。
だけど、やっぱり。
一番に思うのは。

「お帰り!」

泣きながらだが、両手いっぱい広げて三人のもとへ駆けだした。

「「「ただいま」」」

笑って受け入れてくれた三人にはくしゃくしゃの笑顔を見せた。







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