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求めるもの。
秀吉が亡くなってから、当初は穏やかに時間は過ぎていたが。 段々と己の野心をむき出しにする者が出てきた。 天下に泰平を。そう周囲には謳っている男徳川家康。 秀吉に命じられて五大老筆頭として豊臣の政を仕切っていたが。 段々と豊臣にとって不利になるような状況がでてきた。 さらには諸大名を囲み始め、次の天下人は家康だと力を見せつけていた。 確かに家康には力もあるし、家臣にも有能な者も多い。 事実、の知っている史実では彼が天下人となり、長い徳川幕府の基礎を作り上げる人物になっている。 だけど、豊臣家を守ろうとする者達には脅威にしか映らない。 豊臣を潰そうとする反逆者だと。 豊臣の世で一つにまとまっていた世は再び乱れようとしていた。 「…だから、かな…みんなが怖い」 は膝を抱える。 政には口出せないし、自分の意見など聞き入れてもらえるわけでもない。 かといって、それを抑えまとめる力などもっとない。 最近の家は、温かくない。 「甲斐ちゃんはどうするの?」 「あたし?あたしは…」 甲斐がを訪ねにきてくれた。 彼女も色々悩むべき立場にあるだろう。 「あたしはまだいいわよ。気に入らないなら、自分でそれぶん殴りに行けるから。 けど、アンタは違うでしょ?あたしと違って自分より家族を気にしているから」 「………」 「ま。が頼むってなら、その家族一人一人ぶん殴りに行ってやってもいいけどね」 フンと鼻息荒げ甲斐は拳を突きだした。 「そう言うところ、正則と話が合いそうだね、甲斐ちゃん」 「あんな馬鹿と一緒にしないでよ」 「甲斐ちゃんがぶん殴ってすむならお願いしたいよ、本当…」 正則が言うみたいに気が済むまで殴りあって喧嘩して、勝った方の言う事を聞く。 それで済めばいいのに。 だけど、そう簡単にいかないのが人の心だろう。 「毎晩…遅くまで話し合いはしているみたいだけど…」 「あまりよくないみたいね」 「……うん。特にみっちゃんと清正だけど…二人とも前と違う」 一方が熱くなれば、一方が冷静に宥める。 気が合わないように見えて、この二人は自分たちの役割をわかっていたから。 正則を含めて3人でいつもつるんで、それなりにやって来れたのに。 その2人が自分の意見を引かずいる。 引く気がないから、譲歩する気がないから、段々と感情も混ざって雰囲気が悪くなっている。 「でも、可笑しい。二人とも結論は一緒なんだよ」 「?」 「家を守りたい。それだけの…」 豊臣と言う家を守る。 二人は考えているのはそこだ。 「だけど、守り方が違うんだよね…」 三成は自分たちの手で守りたい。 清正は大きな力を持つ家康に逆らうことなく、徳川の世でも豊臣を存続させたい。 「は…どっちの味方?」 「……わかんない…」 これから起こるだろう、起こったことをみれば、三成のやり方は無理だろう。 かといって、清正のやり方も結果的には無理だった。 「ま…そんなものよね…なるようにしかならないんじゃないの?」 甲斐はの頭に手を置いた。 数回軽く叩いて。 「だけどさ、あとで後悔することがあるくらいなら、今できること、言える事は言っておきなさいよ。何かあってからじゃ遅いわよ」 「……うん」 *** 「清正…」 「どうした、」 「どうしたって言うか…」 清正を前にしたら、言葉が浮かんでこなかった。 どうすればいいのだろうか? 何を彼に伝えればいいのだろうか? どんなにアンタが頑張っても、家は潰れてしまうんだよ。 そんな風に言えるはずもない。 「ね…もう少し、みっちゃんの話も聞いてあげてよ。もちろん、清正も、みっちゃんに話を聞いてもらうの」 「………無理だろ。平行線だ。俺もあいつも考えは変わらねぇ」 「それってさ…袂を分かつってこと?」 「………」 答えてくれないから、余計に重く圧し掛かる。 「清正…誰の為にそんな事をしているの?」 「は?」 「ねね様の為?」 「違う。おねね様の為だけじゃない、俺達、家族の」 「だったら…なんでその家族が争うの?3人が喧嘩すれば、相手の思うツボなのに…」 「」 「…ごめん…清正も、みっちゃんもちゃんと考えているのに…」 ただ八つ当たりのような言葉しか出てこなかった。 甲斐に言われたが、彼女言わんとしている事とは違うような気がした。 「みっちゃん。豊臣の天下じゃないとダメなの?」 「貴様…突然何を言うか」 「その…天下は別に家康にあげればいいじゃん」 「お前も清正と同じか?今の俺達では家康に敵わないからと、家康に従えと」 明らかに不愉快だと三成の顔が告げている。 空気だけでそれは感じる。 だけど、何かしなくては、ちゃんと伝えなくてはとは思って逃げずにいた。 「家康が天下をとれば、俺達の家は潰される!それを黙って見過ごせと言うのか、お前は!」 「やり方によっては、潰されないかもしれないでしょ」 「知ったような口を利くな!お前に何がわかる!」 部外者だと、三成に言い切られたようで胸に小さく痛みを感じた。 「………わからないよ、そんなの…けど、私は、みっちゃんと清正が喧嘩するの嫌だ」 喧嘩。それで済めばいいが、そうはならない。 正則のような喧嘩だったら、本当どれだけ楽だったか。 「正則は…清正と一緒なの?」 「おう。三成にガツンと勝って、あいつに言う事聞かせる!喧嘩奉行なめんじゃねぇ!って話だ」 少しだけ、穏やかな空間だと思った。 正則だけは変わらないでいたから。 だけど、彼は清正の意見に同意している。 「でもさ、みっちゃんの言う事も正しいのかもしれないよ?」 「お前はいっつも頭でっかちの味方だもんなー」 「別に。私は」 「お前から言ってやれよ、清正の言っている事が正しいって」 「そんな!清正の言っている事がすべて正しいとは限らないでしょ!?けど…あ」 は俯く。 「?」 「…私までみんなと喧嘩したくない……」 いつもなら互いに感情的になって、そっぽを向いてしまう。 そして互いに三成、清正の所に行って愚痴を零すんだ。 けど、今日はそれ以上になりそうで怖い。 「なんか…馬鹿みたいだよ…」 あぁ、やばい。 少し鼻がツーンとした、このままだと視界がぼやけて泣いてしまいそうだ。 *** 三成と清正の対立は完全なものになってしまった。 「今ここであの狸を倒さねば、俺達の家はなくなるんだ!」 と言う三成に対し清正が。 「だからって、今の俺達が家康に勝てる要素はあるのか?力、兵力、智謀。どれをとっても奴の方が上だ!闇雲に攻めてもこっちが潰されるだけだ!」 と反論する。 そして平行線のまま。清正は「家」を出てしまった。 三成は追いかけはしたが、結局何も答えらしい答えが彼に伝わらぬまま別れてしまった。 清正も出たことで、正則も離れてしまった。 二人だけじゃない、今徳川につくか、豊臣につくかで世は二つに分かれた。 ただ、徳川についた大名の中には清正、正則のような豊臣に恩顧をうけた者たちもいた。 「………秀吉様…みんなバラバラだよ…」 これでは彼の願った「皆が笑って暮らせる世」とは程遠い。 あの頃は嘘だったみたいだ。 事実、秀吉の天下取りは力と数で物を言わせたものとも言われている。 それを治める秀吉がいなくなれば怖いものはないし、結束力も脆いだろう。 「ねね様…なんで何も言ってくれないのかな…」 側室の茶々は何が何でも徳川には靡かぬ!と強気の姿勢だ。 だけどねねは何も言わない。 秀吉が亡くなってから表舞台に出ることはなかった。 いつも明るいねねでも、最愛の夫の死に、子供同然の三成達の衝突に心を痛めているのかもしれない。 だけど、いつものねねならば、「喧嘩はダメだよ!」と叱って仲裁をしてくれたのではないか? 「自分じゃ何もできないから…頼っちゃうんだよね…」 ただでさえ大きな城が、人が去っていくことで広く大きく感じ、寂しさもやってくる。 今まで普通に挨拶していた人たちがそこにはいない。 「おや、嬢ちゃん。一人でどうしました?」 左近がやって来た。 三成はここに残っているため、仕事もあるのだろう。 左近は腕の中に色々なものを抱えていた。 「どうしたって言うか…いつも一人ですよ、私は」 「皆が忙しいから。でしたっけ?」 「…うん」 いつぞや、左近とそんな話をした。 「でも、今は違う」 「………」 は左近から目を逸らす。 「すまない。別に意地悪を言ったつもりはないんだよ」 「ううん。左近さんの所為じゃないから…左近さん、みっちゃん元気?」 「おや。ご自分の目で確かめればいいんじゃないですかい?」 はかぶりを振る。 「最近、話しかけるのが怖い。私、馬鹿だから、みっちゃんを怒らせるような事しか言えないし…」 「嬢ちゃん…自分を卑下しちゃいけないね。逆に言えば、嬢ちゃんじゃないと殿に言えないことだってあるんだよ」 「けど!」 実際は何もできない。 ただただ、時間が過ぎるのを待つだけで。 何もできない自分が悔しくてしょうがない。 「嬢ちゃんは…どうしたい?」 「私は…」 は目を瞑る。 浮かぶは、家族と呼べる人たちと楽しく笑っていた姿。 三成と正則が軽口を言い合って、清正が宥めつつも、結局一緒になって騒ぐから。 ねねがそれを見て、お説教だと追いかけ、秀吉と笑っている自分。 利家や松も加わって、一緒に食事をしたりして…。 「以前みたいに…馬鹿言えるような、単純に笑っていられるだけでいい…。 バラバラになった家族が元に戻ってくれればいい…戦とか、天下なんて、私にはどうでもいいよ…」 我慢していたものがぷっつり切れた。 皆が皆、別の方向を向いてしまって…自分だけが取り残され、拒絶されてしまったようだ。 「嬢ちゃん」 左近は抱えていた物を置き、のそばにしゃがみ込む。 泣き出すの頭を数回撫でた。 大きな手だ。 なんだか、秀吉のような父親を思い出す。 それが余計に涙を流せてしまう。 「家なんて…家を守るなんて言って…そこに住む人は、家族はどうでもいいの?可笑しいよ…」 「そうだな。どうしようもない兄貴達だ。可愛い妹を悲しませるなんてな」 秀吉がいないから、以前と同じとはいかないのはわかる。 わかるけど、笑って暮らせる世はまだ続けられないのだろうか? 「でも、少しだけ安心しました」 涙は止まらないけど、少しだけ落ち着けた。 そうだ、この人がいたと。 「?」 「左近さんはみっちゃんのそばに居てくれるから…正則は清正と行っちゃうし。みっちゃん一人になっちゃうから…強がっていても、結構落ち込んでいると思うんだよね」 「まぁ、俺はあの人に仕えている身ですからね。けど、殿には兼続殿に幸村もいる。そう寂しくはないでしょう」 「確かに友達はいるけど、微妙に違うよ、きっと。清正と正則の存在は誰の代わりにもならないもの」 「嬢ちゃんもいる。じゃないんですかい?」 「私は…」 ただ三成を怒らせることしかできなかった。 怖くて、逃げているだけだ。 「左近さん…戦になるんですよね…きっと」 「あぁ。殿は家康を倒さねばならないと考えている。それはきっと向こうもそうだろう。 家康が天下を治めるには、豊臣やそれを支える殿は邪魔だ」 「そしたら…きっと…みっちゃんは…」 「………」 の思うことを左近は察してくれた。 だから、無言での頭を再び撫でてくれた。 (戦になれば、みっちゃんは清正、正則と戦うんだ) それを思うと、やっぱり涙は止まらなかった。 12/03/25
19/12/30再UP
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