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ふら、そわ。
秀吉が天下統一を果たしてから穏やかに時間は流れて行く。 子飼いと呼ばれる彼らもそれぞれ役職などとに着き、忙しさを増していた。 「おや。嬢ちゃん、暇そうですねぇ」 三成に仕える島左近がに声をかけてきた。 三成と一緒に居ることが多い左近だから、自然ととも顔を合わせる事が多かった。 彼は三成に仕える前に、小牧長久手で戦に参戦していた。 その時、三成達に対し、「馬鹿と大馬鹿とどうしようもない馬鹿」と言い切った。 「3人そろえば馬鹿力が出せますよ」と。 後日、そこにも加えられて4人の馬鹿扱いとなったが、左近の場合。 馬鹿にしたわけでもない、軽い冗談のようなものだったので、は気にしなかった。 「左近さん」 話しかけてくれたことが嬉しくては破顔する。 我ながら単純だと思いながらも、現状暇なので仕方あるまい。 「そうなんですよー暇なんですー」 大袈裟に肩を落とすに左近は笑った。 「そうか。じゃあ少し俺と出かけないかい?」 左近は城下に用事があるそうだ。 その誘いはにとって魅力的なもので、嬉しいものだ。 はすぐさま行く。と返事をした。 *** のんびり歩くのもいいだろうと、二人して城を出た。 歩いていると、色んな人達の顔が見えてくる。 どの人も悲壮そうな面はしていない。 秀吉の作る世は悪くないと言うことだろうか? 秀吉が目指したのは「みんなが笑って暮らせる世」 少しずつであるが、そう言う世になってきているのだろう。 それはにも嬉しいと思えるものだ。 「左近さんの用事ってなんですか?私が着いていって邪魔じゃない?」 「いやいや。むしろ嬢ちゃんに来てもらえると助かるよ」 「?」 「いやぁ…うちの殿がねぇ…」 「みっちゃん?」 左近は苦笑する。 「仕事を疎かにしない、真面目に取り組むのはいい事なんだが…」 左近は己の顎を軽くさする。 「あー…みっちゃんの事だ。休憩とかしなさそう」 「そうなんだよ。少しは体を休めて欲しいものなんだがなねぇ」 休んでくれと言っても、素直に休むような御仁ではない。 「確かに。仕事量が増えているからな。やらねばならぬと言う気持ちもわかるのだが」 天下統一を果たすのも大変だったが、その天下を乱さぬ為に、治めて行く為にも色々と大変なのだ。 「みっちゃん…手抜きしないだろうね、性格上」 「だろ?まぁ付き合いは俺より嬢ちゃんの方が長いからわかるだろうけど」 そこで左近としては少しでも、三成の気分転換になるようなものでもと思い、探しに出ようと思ったのだと。 が居てくれた方が、三成の好みなどもわかっていいと思ったらしい。 「私でわかるかな?左近さんの方が詳しそう。あと兼続さんとか幸村さんとか」 「おいおい。俺は嬢ちゃんを当てにしているんだぞ〜?」 「ご期待に沿えるよう頑張ります」 は三成の為だと袖をまくった。 *** 「………」 「何か探しものか?三成」 「清正…いや、別に…」 辺りを見回していた三成に清正が声をかける。 「お前こそ、どうした?…その手にしたものは」 清正は菓子皿を脇に抱えている。 「ん?あぁ、おねね様が大福を作ってくださってな」 清正本人は気づいていないだろうが、口角を緩めて笑んでいる。 それで本人はいいのならば、問題はないだろうと三成は黙った。 「お前だって、何持っているんだ?」 「あ…貰ったものだ。俺は食わぬから…」 金平糖なる砂糖菓子。 懐紙に包んで持っていた。 「あー清正ー三成ー」 今度は正則がやって来る。 煩いのが来たと思いつつも、清正だけでなく、自分の名も呼んだから、正則は自分にも用があるようだ。 「お前も…なんだ、それは」 両腕で抱え込んだ、果物。 「いや〜さっき、沢山収穫したからくれるってんで。遠慮なく貰ったんだよ。 お前らも食うか?流石に俺一人じゃ食いきれねぇし」 それで捜していたのか。 だが。 「でさ、あいつどこだ?」 「「?」」 正則はキョロキョロと辺りを見回す。 顔を見合す清正と三成。 「目的は同じか」 「そのようだな…」 それぞれが懐に抱えたもの。 それをどうしたいのか。 3人それぞれ、同じことを考えていたようだ。 *** 「ところで、嬢ちゃん。暇だって言ってたけど?」 「本当に暇なんですよ。秀吉様が治めるようになってから、特に」 それが嫌なわけではない、むしろ願っていた事だ。 だけど。 「みんな、忙しいんですよ…私以外の人たちは…」 「あぁ…」 「以前は家族のように一つの場所で生活をしていたけど、今は…」 秀吉の子飼いと呼ばれる三成達。 彼らは秀吉の下から独立し、それぞれ屋敷を構えている。 ねねなどからは今まで通りでいいじゃないかと言われたものの、彼らなりのケジメなのだろう。 「仕事も忙しいみたいで、中々会わないし…なんか、邪魔をするのも嫌だし…」 だけは今も秀吉夫妻のもとで暮らしている。 けど、それは酷く退屈で。 「お姫様って柄じゃないし…元々ただの庶民だし…」 習い事をいくつかしてみるも、正直どれも自分の性格に合わないものばかり。 いっそのこと、武芸でも習った方が楽しいのかもと思うも。 秀吉夫妻はやんわり反対してきた。 「友達もね…みんな…自分の国に帰っちゃったから…」 稲姫、甲斐姫、くのいち…。 彼女達にもそれぞれ勤めねばならぬことがある。 甲斐姫は比較的気軽に会いに来てくれるが、くのいちは幸村がこちらに用事がある時でないと会うことはない。 同じ年頃の子達で、気も合うので一緒に居られて楽しかった。 けど、あとの周囲に居るのは本当にお姫様と呼ばれるような武家の娘たちばかり。 稲姫や甲斐姫もそうなのだが、彼女達とは違う。 雅な遊びを好むような子ばかりで、正直話が合うはずもなく…。 「あの大きなお城は嫌いじゃないけど…みんなで暮らしていたころの方がずっと楽しいや」 「嬢ちゃん…」 いつの間にか愚痴を零していたことに気付くは慌てる。 「あ、えと。贅沢な悩みですよね!本当…裕福な暮らしをさせてもらっているのに我がまま言って…」 「まぁ少しぐらいはいいんじゃないのかい?」 そう言ってもらえると多少気は楽になる。 「嬢ちゃんは本当、あの人たちが好きなんだね」 「はい!だって私の家族ですもん」 その家族の家を守る為に今まで頑張って来たのだ、彼らは。 秀吉が父。ねねが母。三成、清正、正則が兄弟のようなもので。 三成に対し、家族的じゃない違う想いも抱えているけど、やはり家族と思える人たちだから。 以前にも寂しい思いをしたが、今も少し寂しい。 けど…。 「少しだけ…この先が怖いけど…」 「?」 「あ。なんでもないです」 は笑う。 ある事を思って、怖いと思うことがある。 けど、それを口にすることはできない…。 でも、もしかしたら?と言う願いがにあるから…。 「あれ?左近さん、あれ何ですか?」 ふと人だかりができているのをが見つけ、指差す。 「ん?行ってみるかい?」 「はい!」 興味が湧いたので行ってみる事にした。 *** 「いやぁ、すっかり遅くなっちまったねぇ…色々付き合わせちまって悪かったよ」 のんびりしすぎたと言うか、あちこち歩き回ったと言うか。 左近とはほんの少しだけの外出のつもりが、陽も暮れてからの帰宅となってしまった。 「左近さんが謝ることはないですよ。私も楽しかったですし、いっぱいご馳走になっちゃったし」 元々は働きづめな三成の為に何かないかと探しに出たのだが。 実際は自分たちが遊び楽しんでいたような結果になった。 「けどな。みんな心配しているんじゃないか?」 「まぁ…これと言って誰かに言ってでかけたわけじゃないですけど…大丈夫じゃないですか?」 門兵は二人が出かけるのを見ていただろうし。 忙しい家族と顔を合わせない日は、ほっとけば数日続く。 自分が居なくても問題はなさそうだ。 「あ。けど、左近さんはお仕事大丈夫ですか?サボったことになりません?」 「ん?俺の心配は別にいいさ。今日の仕事はちゃんと片づけてあるから」 「流石左近さんだー」 だが左近は苦笑する。 当初の目的が叶わなかったからだ。 「その時は、私がまたお供しますから、探しに行きましょう?左近さん」 「ん?そうだねぇ…俺はそれでもいいけど…」 「あー!帰って来たぜー!!」 廊下をどかどか歩いてくる正則。 大声を出してどうしたのだろうか? 「遅い。何をしていた馬鹿」 「え?あれ?」 「一言誰かに託ぐらいしていけ、大馬鹿」 「や…あの…」 正則はともかく。三成と清正がの正面に立ち、拱手しながら言った。 「……なんで?怒っているわけ?」 「一応これでも心配したんだ」 「え?」 どうも彼らに黙って外出したことがいけなかったらしい。 だけど、普段は忙しくての事など気にして居られないだろうに。 「おねね様が作ってくださった大福。お前と食べようと思ったんだ」 「おう。俺も!美味い果物、たっくさん貰ったからよ。にも分けてやろうと思ってよ」 「………」 「お前もちゃんと言え、三成」 清正が三成の背を押す。 「お、俺は別に…あ、いや…俺は甘いものは好まぬ。けど、金平糖を貰ったからな…お前に譲ろうかと思った」 3人それぞれがにと…。 捜してくれていたのか、自分を。 忙しい時間の中。気に留めてくれていたのか、彼らは。 不覚にも感動し、泣きそうだ。 「最近まともに顔を合わせないから、どうせ一人で拗ねているんだろうとは思っていたんだが」 「清正ひどい!」 泣きそうになったが、その一言で涙がすっと引っ込んだ。 代わりに笑みが零れる。 「なんか、お三方には申し訳ないことをしましたなー」 「左近」 「今までずっと俺は嬢ちゃんを独り占めしていたんですからねぇ」 「あ、だって。それは左近さんが」 三成を思って起こした行動に、が付き合うと言ったからだ。 「そうだぜ、ずりーぞ、左近。俺らずーっとを捜していたのによー」 「はい。すみませんでした」 左近が謝ることなどないのに。 「今からでも遅い事はないですよね?嬢ちゃんをお返ししますよ」 左近はに耳打ちする。 「今からは家族の時間だ。それに、どんなものより。嬢ちゃんと、家族と過ごす時間が殿にとっては一番の気晴らしだ」 と。 左近はそれじゃあと下がっていく。 残された4人はとりあえず、室へと。 は室に入って、軽く吹いた。 室の中央に大福の乗った皿、いっぱいの果物、金平糖が包まれた懐紙が置かれていたから。 「夕餉の前だから、食べられないなぁ…」 「その後に食えば太るな」 「いやいや、はぺろりと夕餉と一緒に平らげるぞ」 「なに、それ!ひどい!!」 食うのは別として、4人その場に腰を下ろす。 「なんか久々だな。こうして顔を合わすの」 「だって、3人とも忙しいじゃん」 「だからってまた我慢しようとしただろ?俺達には遠慮なんかするな」 「…うん」 家族なんだ。 左近の言う通り、三成も顔を見れば。 彼も疲れたような顔はしておらず、清正と正則相手に餓鬼みたいなやり取りを繰り広げている。 本当、自分たちと居ることが三成にとって気晴らしになるのなら。 どんなこと、どんなものより喜ばしいと思えた。 「。左近とどこに行っていたのだ?」 「うん。あのね、左近さんと…」 今日の出来事を沢山、彼らに話そう。 今日だけじゃない、ここ最近あった事を。 もし、時間があえば。今度は彼らとも出かけたいものだ。 11/07/11
19/12/30再UP
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