君からの。



ドリーム小説
ある日の事だった。

?なんだ…その荷物は…」

「あ。直君。しばらく出かけてくるね」

は旅支度をしている。

「出かけるって…近所と言う感じはしないが」

「うん。割と遠出してくる」

「どこへ?」

「えーとね…信州と江戸…かな」

「なに?」

ちょっと実家に行ってくるとは答えた。

「大丈夫!一人じゃないから」

「にゃははは〜お邪魔しておりまーす」

くのいちが姿を見せる。
彼女と一緒に実家へ戻るそうだ。
話を聞いていないと直政は言うも、「直君は忙しかったからねぇ、この所」
に苦笑されてしまった。

「直君には話せていなかったけど、直虎ちゃんには話してあったから問題ないよ」

「お前な…」

。準備はできたかしら?」

春が入ってきた。

「うん。できたよ。じゃあ行こうか」

「ええ」

は荷物を持って立ち上がる。

「春殿…まさか…」

「えぇ。私も一緒に行くの。楽しみだわ」

「きっと楽しいですよ〜」

くのいち、春、と女3人だけで信州へ行くとは。
女だけでは危険ではないか?護衛も必要ではないか?急な話で直政は行くことへ反対ができない今、そう思うのだが。

(…二人が一緒ならば問題ないか…)

賊に襲われたとしても、くのいちと春ならば問題ないような。
むしろ返り討ちにあうだろうと思えた。

「じゃあ。直君。行ってくるね。用事が済めばすぐ戻って来るから」

「あ、あぁ」

奥さんは楽しそうな笑顔で出かけていった。





達が帰って来たのはそれから2週間後だった。
にもかかわらず。は休む間もなく台所に立っている。

「何をしているのだ、は…」

「さぁ。なんでしょうかね?」

直虎と春は知っていそうな素振りでただ笑っている。
直政は春から信州での話を聞いていた。

「は?ぼた餅を作っていた?」

「えぇ。自ら、信之殿達に作っていましたよ。その後、江戸に行って家康様や忠殿達にもお渡ししました」

なぜ、ぼた餅をわざわざ作って届けるのだろうか?
しかも寒い冬だというこの時期に。

「それに付き合わされた春殿もお疲れでしょう?」

「そんなことないですよ。とても楽しかったです。それにの行動力には本当憧れてしまいますね。私は自分から動こうとは考えなかったから」

「はぁ」

春は一度だけ上田に行ったことがあるそうだ。
だが、それは戦という理由で。
だから今回。戦などと言う理由ではなく。単純に何も考えずに訪れる事ができて嬉しかったそうだ。
北条という家族はなくなってしまったけど、自分にはまだ一緒に過ごせる人がいるのだと思えて。

「それに今の時期じゃなかったら、は京まで行こうと思っていたようですよ」

「京?」

「えぇ。幸村殿にもお渡ししたかったとかで。もしかしたら、私の事も考えてくれていたのかもしれないです。京に行けば甲斐に会えるから…」

でも、流石に京は遠すぎる。
軽く行ってくると言える距離ではなかったから。
少し寂し気に言う春に直政は自分でもらしくないと思う事を言った。

「春か、夏…そのくらいにはがあなたを引っ張って行きそうですよ。京まで」

春も直政から言われるとは思わなかったようで二三、瞬きをするもすぐさま笑顔で頷いた。

「そうですね。ならば」

きっと楽しい旅になるだろうと想像をして。





それからしばらくして、が元気よく入ってきた。

「お待たせしました!」

盆を持って、春や直虎の前に皿を出す

「直虎ちゃんと春には女の子らしく、小ぶりで三色おはぎにしたよ」

「わぁ。可愛いですね」

「食べるのが勿体ないわ。

出されたものに二人は喜んでいる。
直政には意味がわからない。
何故に、実家や江戸まで行ってぼた餅を作らねばならないのだろうか?
そして、今も二人に出している。
さらに直虎が。

「先ほど皆さんからもお礼を沢山いただきましたよ。自分達にまでありがとうございました。と。皆さん本当に喜んでいますよ」

皆さん?

「うん。みんな、いつも直君の為に尽くしてくれるもの。私にできるのはこのくらいだし」

どうやら家臣にも同じようにぼた餅を作ったようだ。
話がまったく直政には見えない。
あれか?真田のしきたりみたいなものなのか?
などと考えながら直政は一人茶を飲んでいる。
自分だけわからない事だらけで、少々仲間外れにされたような気分だ。

「で?結局何がしたかったのだ?お前は」

菓子を皆に配るという事が。
しかも何気に自分は貰っていない。
なんだかそれが面白くない。
それを春に気づかれたのか、春は小さく笑っている。

。大本命さんが待っているじゃない」

「忘れられているんじゃないかと、直政はヤキモキしているんですよね?」

義母にまで言われてしまい、直政は返答に詰まる。

「忘れてなんかいないよ。だって、大本命だもの。直君は」

恥ずかしげもなくは笑顔で言い切る。

「と言うわけで…はい。これは直君の分」

隠していたかのようには後ろから皿を出してきた。

「桜あんを包んだものだよ。一番手間暇かけてます!勿論愛情たっぷりだからね」

「あ、あぁ。ありがとう」

恥ずかしいが自分が一番だと言われて嬉しくもある。
が直政に差し出したものは、が言う桜色の餡子が柔らかい生地で包まれていた。
直政は一つ手に取り食べる。
甘いと言えば、甘いが。食べてホッとしてしまうような感じがする。

「どう?味は…直君にあうかな?」

「あぁ、美味い。なんというか…やさしい味がするな」

「本当?良かった」

は胸を撫で下ろす。
直虎や春も美味しいと言って食べている。
ただ、食べているとふと先ほどの答えが出ていないと直政は思った。

。結局のところ…意味がわからないのだが」

「そうだね。ちゃんと趣旨を伝えていないものね」

わかっているのは、多くの者がに菓子を馳走になったという事だけ。
そして、大本命が自分だと言う話。

「今日はね。愛の日なんだよー!」

両手を目いっぱい広げるに直政は唖然とした。

「なんだ、それは」

「言葉の通りだよ。愛の日。大切な人に想いを伝える日なんだよ」

「そんな日があるのか?知らなかったんだが…」

「私の生まれ故郷での事だから。直君が知らないのはしょうがないよ」

「そうか…だが、ああ、いや、いい」

大切な人に想いを伝える日。だとは言ったが、その大切な人が随分多いのだなと直政は思った。
実家となる真田家、直政、直政の義母、家族である春。それに主家康に、忠勝。そして自分の家臣たちまで。
それぞれにわざわざ想いを伝えたのだろうか?
ただ、直政の考えている事を読み取ったのか、はちゃんと続ける。

「私はね。いつも周りに助けてもらっているから、それを皆に感謝したいって思って。別に告白だけが目的な日じゃないから」

家康や、忠勝にはそう言う意味で菓子を作り届けたようだ。
当日と言うのは無理だから少し時期を早めて。

「そうか…」

「少しばかりのお菓子を添えてね」

は笑顔を周囲に向ける。

(お人好しだな、は)

だが、そんな優しいところは嫌いじゃない。
自分が厳しめに家臣に接する事もあるが、が彼らを気遣ってくれる。
自分にはできない事だから。
自分の方がに感謝すべきことが多いのかもしれない。

「俺はに何もしなくていいのか?」

ふと思った事。
与えられるだけの自分。
その自分は?
に何もしなくていいのだろうか?

「え?今回は、私が皆に、直君にそうしたい。って思っただけだから。別に無理に何かをする必要はないよ」

「だが…」

「だって、私は十分直君に大切にされているからね」

そう言われると照れ臭いこともあるが、やはり少しだけ腑に落ちなかった。





「だが。やはりと思うんだ。自分だけ与えられて、に何もできないのは、俺としては腑に落ちないんだが」

夜。夫婦だけの寝所。
あれからずっと直政が考えていたことだ。

「じゃあ…直君が覚えていたら。来年何かしてくれればいいんじゃないかな?」

「来年…」

覚えている自信は少しない。
何かしら急に家康に命じられれば、そっちを優先しそうだし。
腕を組み考え込む直政。
あまりに真剣な顔で考えていたのか、そんな直政を見てが寄り添ってきた。

「そう想ってくれるだけ、私の事を考えてくれるだけ幸せだと思うんだ。だから十分だよ直君」

「……」

「私はちゃんと井伊家の嫁としてやれていますか?」

府中に居た頃より家臣も増えた。
大勢から奥方様と言われる日々だ。

「あぁ。十分すぎるほどだ。俺が不在でもしっかり家を守ってくれているから安心している」

「良かった。直君にそう言ってもらえるだけでいいよ。本当」

その言葉で十分だとは笑む。
だが、しかし。と直政は納得できない。
どうしたらよいものかと再度思案を巡らせると…ふと昼間春が言っていた事を思い出す。

「それに今の時期じゃなかったら、は京まで行こうと思っていたようですよ」

そして唯一。京にいる幸村だけには会えないから。
直政は小さく頷いた。

「直君?」

。春になったら、京に行こう」

「え?」

「勿論。家康様の許しを得てからだが。お前は幸村殿にも感謝の形を送りたかったのだろう?」

は瞠目した。

「う、うん。ユキさん…私が一番大変だった時に、沢山励ましてくれて、直君に会わせてくれようとしたり…」

あの頃かと直政は苦笑する。
信之が頑として動かなかった事に対し、幸村はの為にとあれこれ動いてくれたのだ。

「じゃあ。決まりだ。幸村殿に会いに京へ行こう。それが俺からへできる愛の日へのお返しだ」

それと、忘れてはいけない事がもう一つ。

「あぁ。それと。春殿もお連れしないとな」

「うん!春も喜ぶよ!!」

親友に会いたいだろうから。
春には、少し先だなんて話をしたが、思いのほか早く叶いそうで良かった。

「直君。ありがとう!」

は直政に抱き付いた。
直政もしっかりとを抱きとめる。

「礼を言うのは俺の方だ…」

が嫁いで来なかったら、ただの頭の固い奴だったかもしれないから。







16/02/14
19/12/29再UP