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妻の不満。
「え!?何それ!!?知らない!!」 「そうなんだ。いやぁ、中々大変だったみたいだよ〜」 関東への移住も落ち着き始めた頃、くのいちがに会いに来てくれた。 府中に居た頃より遠い場所になったのに、そんな苦労を感じさせないほどあっさりと。 友達が来てくれたことにはとても喜んだ。 ただ、その時にくのいちから聞かされた事には声を上げた。 「なんで?なんで!?」 「なんでって、あたしに聞かれてもなぁ〜太閤殿下に聞いてほしいにゃ」 「いや、会った事ないから私には無理だし」 「にゃはは。そうなんだけどね〜納得できないって顔をしているね、ちん」 若干頬を膨らませているような。 「当然でしょ」 「にゃはは。ちんも変わったねぇ」 「そ、そんな事ないよ」 「いいよ、いいよ。良い事だと思うし。ただまぁ、そっちの感覚はあたしにはわからないしね」 「え〜!?」 は両拳を握って、面白くない!と声を上げる。 「くのちゃんはユキさんがその面子に入っているから嬉しいんでしょうけど」 「にゃにゃ!嬉しいとかなんてないよ、別に!?」 「あ〜なんか稲ちゃんの誇らしげな顔も目に浮かぶ〜」 悔しい。とが畳を何度か叩く。 「あ、あたしはともかく。稲ちんはねえ…否定できないかなぁ」 くのいちは出された煎餅を食べつつ、苦笑する。 「秀吉様の目は絶対可笑しいよ!」 「お。太閤批判しますか。やるなぁ、ちん」 「茶化さないで、くのちゃん。だって、絶対、可笑しいもの!」 「にゃはは。まぁあたしはなんとも言えないし〜」 そんな二人のやり取りが戻ってきた直政の耳にも入る。 「何を騒いでいるんだ、お前は」 「あ。お帰りなさい。直君」 「お邪魔してまーす」 ケロッと表情を戻す。直政には笑顔を見せる。 人前であれほど「直君」と呼ぶなと直政に何度も注意されるも、くのいちが居ても直す気のないだが、直政ももう諦めているようで、さらりと流してしまう。 「あぁ。いらっしゃい。わざわざ遠くからご苦労な事ですね、あなたも」 に付き合って大変ですね。と直政が言っているのがわかる。 「まぁ、あたしはちんに会えるのが嬉しいから別にいいんですよ〜」 ただ遊びに来ているのではなく、ちゃんと主からの命令で来ているそうだ。 「それで何を騒いでいたのだ、は」 言われたは思い出したように眉間にしわを寄せ、それをみたくのいちが面白そうに笑った。 「直君、この前秀吉様が開いた茶会の話聞いてる?」 腰を下ろし、ごく自然に二人の会話に混ざる直政。 淹れて貰った茶を啜っている。 「茶会?…あぁ、だが結局開かれなかったらしいじゃないか。それがどうかしたのか?」 も呼ばれたかったのか?と直政は問う。 「別にそんな茶会などには興味はないよ」 「おい」 太閤秀吉の開く茶会は中々豪華なものらしく、それに対しそんな茶会と言い切るに直政は呆れれている。 「だが、その茶会がどうかしたのか?」 直政が問うも、は頬を膨らまし答えない。 何を拗ねているのだ。と直政は言うも、は腕を組み唇を尖らせるだけだ。 困っている直政を見かねてくのいちが代わりに教えてくれた。 「その茶会に旦那様が呼ばれていないのが納得できないそうですよ〜」 「は?何故俺が。家康様を差し置いて俺が出るわけにいかないだろう」 あくまで直政は家康の家臣の一人であり、主君を通り越して出るわけにはいかないと言いたいらしい。 「にゃは。その前にその茶会に家康の旦那は呼ばれないと思いますよ〜」 「何故だ」 若干主君を馬鹿にされたような感じがして直政がくのいちを睨むも、くのいちは飄々としている。 「だって、その茶会に呼ばれた男性はみんな、若い色男ばかりですから」 「………は?」 「ま。太閤殿下がその色男をダシに使って、沢山の女の子を呼んで楽しもうって言う茶会なんですけどね」 結果的に目的を正室であるねねにバレてしまった秀吉は茶会を開くことができずに終わったようなのだ。 だから直政が知っているのは茶会が開かれなかった。ただそれだけの事だった。 裏でそんな理由があるなと知る由もない。 「納得いかないよ。直君がその色男に入っていないのが!」 「…お前は…」 「だって、そうでしょ!?信之様にユキさんが入っていて、直君だって入っていてもおかしくないもの!」 しかもそれ以前にも雑賀孫市による天下の色男決定戦なるものが行われて、真田兄弟は巻き込まれていたらしい。 「直君は滅茶苦茶かっこいいのに!!」 拳を上げて言い切るに、人様の前でもある直政は額に手を当てため息を吐いている。 「良かったですね〜旦那様。ちんにこんなに言われて」 「いや、あのな…」 「知ってます?ちんと稲ちん。文で互いの旦那自慢してんですよ〜」 「な!?」 「あ!くのちゃん。それは内緒にしてよ!」 否定はしない。 「最近のちんの話は旦那様の話ばかりで、ごちそうさまって感じですよ、あたしは」 なんとなく居たたまれないような直政に対し、は否定もしないでいる。 くのいちが言う通り、は変わったのかもしれない。 若干頭のネジが緩んでいるように思えるが。 そこへ、直虎もやって来た。 「楽しそうですね。何の話で盛り上がっているんですか?」 「義母上…いえ…」 「直虎ちゃんも聞いて!秀吉様ってば酷いんだよ!」 「はい?」 話をまたぶり返すつもりなのか、直虎も巻き込みは茶会の話をし始めてしまう。 直政は完全に居たたまれなくなり、そこから逃げ出してしまう。 案の定。から聞かされた直虎も同じ反応で騒ぐ。 「それは可笑しいですね!うちの直政が呼ばれないのは可笑しいです!」 「だよね!?直君あんなにカッコいいのに。秀吉様の目は節穴だよ!」 「にゃはは。本当困ったものだねぇ、ここんちは」 くのいちだけはその様子を楽しげに見て笑っているのだった。 秀吉が天下を治め、大名同士が私的に戦を起こす事も許されないようになったのだが、何故だかある日、直政が戦の支度をしていた。 そして数日間留守にすると出かけてしまった。 何処に行くとも告げられないので、は不安になる。 「家康様。旦那様はどこに行かれたんですか?」 普通ならば家康からの命令か、さらにその上の秀吉からの命令だろう。 だが、家康は笑うだけで教えてくれなかった。 「なに、すぐに戻る。気になされるな、殿」 「えぇ…」 「大丈夫。忠勝も一緒だからな」 「小父様も?」 じゃあやはり戦なのだろうか?家族に知らせないような事ってなんだろうか? だが、それからすぐに直政は帰ってきた。 帰って来て、話を聞いてみるも、直政はなんでもないと答えた。 「なんで、教えてくれないの?隠し事するの?直君」 「別に隠し事ではない。が気にするほどの事ではない」 「だって、家康様が忠勝小父様と一緒だって言うから、戦かな?って心配で」 「戦……まぁ、あれは…模擬戦と言うか、余興みたいなものだろうからな…」 は直政をジッと見る。 「なんか、歯切れが悪い。やましい事でもあるの?」 「ない」 「だったらちゃんと話してよ〜」 直政はそれでも疲れたようで話す気にはならないようだ。 「くだらなすぎて話す気にもなれない」 と。 「…………」 「なんだ?」 「余計に怪しい……あれですか?浮気ですか?どこかで女子供作りましたか?」 「お前は、バカか!」 「だったら言ってよ!ちゃんと!」 「忠勝殿の手伝いをしただけだ!浮気などするわけないだろうが。俺にはがいる。それで十分だと何度言えばわかるんだ」 直政が言い切ったあとに、お互い顔を赤くしてしまう。 それで納得したかわからないが、はそのまま直政に抱き付いた。 直政もそれに応えるように、にそっと口付けたのだった。 それから数日経ったある日。 「直君!直君!この前小父様の手伝いをしたっての、これのこと!!?」 「なんだ、急に…」 は稲から届いた文を直政に押し付けるように見せた。 人様宛ての文を読んでいいものかと直政が戸惑っているも、さっと読んで納得した。 「……あぁ、そうだ」 「なに、その天下一夫婦決定戦って!」 「………忠勝殿が考えたものだ俺は別に」 信之に嫁いだ稲へのはなむけか?と直政は思ったらしいが、忠勝曰く。 稲への活を入れるためらしい。 単純に娘が嫁いで寂しいからだろう?と直政は口には出さなかったが。 その決定戦とやらには各地の大名夫婦に呼びかけたのだが、思った以上に受け入れ開催されたそうだ。 あの太閤夫妻までいたようだし。 「だから、まぁ…ただの祭りのような」 「なんで、うちは呼ばれないの!?」 「は?……、お前はまた何を言うのだ…」 「稲ちゃんと信之様が呼ばれて、何故私と直君が呼ばれないの!?」 突拍子もない事を言いだしたと、直政は頭を痛める。 「…」 「稲ちゃん達がいて、私達がいないのは可笑しいでしょ」 「可笑しくない。別に出る必要などない」 「なんで!直君は他の夫婦に負けてもいいわけ?」 「いや、あれにはお前は出られないぞ」 「なんで!?」 は衝撃を受けてしまう。 自分に参加権がないと言われて。 「あ、いや…あれに出た奥方たち全員は自身も武芸に長け、自ら戦に出るような方々ばかりだからな」 「……私じゃ出られないのか…」 「。あのな」 は幼子みたいに口を噤み、俯いてしまう。 「そんなので天下一の夫婦を決めるなんておかしいよぉ…」 自分が出られないと知っては鼻を啜る。 今にも泣き出しそうな妻に直政は慌てる。 「を泣かせたら今度こそ離縁してもらいます」 そう言い切った義兄の顔が浮かんだから。 だが、これは自分の所為なのか?むしろあなたの義父の所為だろう。と内心訴えてしまっている。 「。別にそのような事を気にする事はないだろう。それに俺にとってお前が」 「…が」 「は?」 「今からでも遅くない!私、直虎ちゃんに弟子入りして戦う力を身に着けてみせます!!」 泣き出すどころか闘志むき出しにする。 しかも義母に弟子入りなどと言いだした。 「待て、」 「一番身近な所に、強い人がいるんだもの。利用しない手はない!それに井伊家の嫁である私だから、教わるのに何も問題はないはず!!」 「………」 「そうだ。最初から直虎ちゃんに頼めばよかったんだ。きっと直虎ちゃんみたいな素敵な体型になれるはず!早速頼んでみなくちゃ」 そうなれば、必然的に直虎が戦場で身に着けていたあの甲冑をが着るのか? まぁあれは曽祖父が勝手に直虎に言いつけた家訓だから、別にが着る必要はないだろう。 だが、しかし。 「そのような事はしなくてよい!」 今にも飛び出しそうなを抱え込む直政。 「なんでよ!」 「は今のままで十分だ。あのような恰好、他所様に見せられるか!」 それで戦場を駆けていた義母には申し訳ないが、自分の妻が万が一同じ格好で外を出歩くような真似だけは避けたい。 「戦わずともいい。そのままので居てくれ」 「直君…」 「もうこの先戦は起こらないだろうからな。何のために太閤殿下が天下統一を果たしたと思っているのだ」 直政に言われては落ち着き、大きく頷いた。 「それに、今更が義母上みたいな体型になれるはずもないだろうが」 その一言は余計だった。 「どうせ直虎ちゃんみたいに大きな胸じゃないですよ!直君のばかぁ!!」 「ぐ……」 直政は腹にからのひじ打ちを受けてしまう。 直後直虎に泣き寝入りするに対して、直政が必死で謝る姿があったそうな。 4−UのDLC2つからのネタです。
15/10/12
19/12/29再UP
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