お留守番。



ドリーム小説
「どのくらいかかるのかなぁ」

思わずでたそんな呟き。

「あ…」

は周囲を見回し、誰も聞いていないのを確認する。
別に聞かれたって良いのだが、聞かれたら聞かれたで少々照れ臭い。

「…………」

現在直政は家康に変わって、秀吉の命を受け九州に行っている。
島津家との戦いに大友家からの援軍要請の為だ。
家康に頼まれたのだから直政としては相当張り切っているに違いない。
出立してから3日ほど経ったのだが、九州へ到着するにも時間はかかるだろう。
戦もそう簡単には行かないだろうから、が思っている以上に直政は留守にするはずだ。

「留守番なんて初めてじゃないんだけどな…」

真田に居た頃に、信之や幸村が戦などで不在だった事はある。
多少つまらないと感じても、そんなに寂しさなどは感じなかった。
誰かしら一緒にいたからだろう。
今回だってそうだ。直虎は戦には行かず残っているのだから寂しい事はないのだが、なぜかあの頃とは違っている。

さん。どうかしましたか?」

「え?あ、なんでもないよ」

直虎が顔を出す。

「お時間があるならどこかにでかけませんか?今日は天気もいいですから」

「うん。そうしようか」

直虎なりに気遣ってくれたのだろうか?
理由はどうあれその申し出は悪くないのでは頷いた。





屋敷を出た二人は茶屋へと自然に足を運んでいた。
善哉やら団子などを注文し食べている。

「最近、直虎ちゃんは戦に出なくなったんだね」

「はい。直政がいますから。そろそろ家督を譲ってもいいとは思いますよ」

「へぇ。旦那様が当主になるんだ」

だとするとこれまで以上に忙しくなるだろうし、徳川家中の中でも中心になって忙しくなりそうだ。

「旦那様は手を抜くって事知らなそうだし、そもそも適度に休憩とかも取らない感じだな」

「そうですね。真面目な子ですから。でも、これからはさんが直政を見ていてくれればいいんですよ?」

「私?」

パクりと団子を食べたは、言われたことにピンと来なかった。

さんは直政の奥さんなんですから、直政の事を支えてもらわないと」

「………うーん…」

「え?なんで微妙な顔をするんですか?さん!?」

直虎が慌てるもは苦笑する。

「支えるって言われもなんかね…どちらかと言えば、面倒を見て貰っているような感じだし」

そう言うのは直虎の方が適任ではないかと思えてしまう。
周りから直政の妻だとか、直政自身にも妻だろう?と言われてもその場は「はい」と返事をし、わかっているつもりだが、あくまでつもりな気がする。

嫁いできたばかりの事を思えば、まぁマシにはなったと思うが。

「そんな事ないですよ?さんが来てから、直政も随分優しい顔をするようになりましたし、井伊家は明るくなりました」

「優しい?…」

あれで?と思わず言いそうになったが、それは飲み込んだ。
最近ではそうかな?と。
最初は口を開けば小さないざこざが絶えなかったが、ここ最近はを気遣う態度を見せるし、ちゃんと相手をしてくれていると。

「あとは早く孫の顔を見せてくれると安心します、私は」

笑顔を直虎に向けられは団子を喉につまらせそうになった。

「わ!大丈夫ですか!?さん!!」

「ま、孫って言うから…」

赤面してしまう

「突然すぎますか?でも、いずれは授かるものでしょうし。今後の井伊家を支える子でもあるので。早くに会いたいと思うのですよ。私は」

そう言うことなのはわかる。
わかるがいまいちピンと来ない。
直政とは夫婦ではあるが、どこかまだ友達感覚と言うのが強いようで、世間一般的な奥さんという立場とは言えないような気もするのだ。

「私と旦那様の子どもねぇ…」

嫁ぐ。と言うのはそう言う話になるのだろう。
嫁ぐことを決めた理由が理由だっただけに、そこまで考えていなかったのに気付いた。

「はうぅ〜さん、深く悩まないでください。私のせいで直政との仲がこじれてしまうかと思うと…」

「そんな事ないって」

ただ、夫婦の営みがない以上、孫の顔など直虎に見せてあげる事はできないだろう。

(その辺…旦那様はどう思っているのかな?…)

実際問題として、世の中には子が欲しくてもできない夫婦もいる。
このまま直政との間に子ができないならばと考えると。

(やっぱり…そこは側室とかできるのかな…あとは親戚から養子に迎えるとか)

直虎自身、直政を養子に迎えたので、そう言うのもありなのだろうとは考える。

(う…現段階でそういう事を考えるのは違うだろうな…でも、考えてしまうのって)

割と直政の事を気にしているのだろう。
今はそばにいないから余計に。
そう思うと、一層顔に熱がこもったように感じた。





直政不在から半月経った。
なんとなくする事がなくて暇でしょうがない。
直虎みたいに武芸に勤しむ事もないのだから。
かといって、一人でフラフラどこかへ行くのもいかがなものかと考える。
忠勝は今回九州へは行っていないようなので、忠勝に会いに行こうかとも考えたが、忙しい人だろうし。
旦那が不在の間にそれもどうかと周囲に思われるのも嫌だった。

(んー…世間体を気にしているのかな??)

そうが考えるのは、第一に真田の事だった。
の行動が実家である真田を悪く言われるようになっては嫌だという事からの行動なのだが、ここ最近は直政の顔に泥を塗りたくないと考えるようになっていた。

「ねぇ、直虎ちゃん。今頃聞くのもなんだけど…」

「はい、なんでしょうか?」

「普通…一般的に武家の奥さんって何をすればいいの?」

は直虎の前にきちんと正座をし尋ねた。
普通ならば「そんな事も知らないの?」と嫌な顔をされそうだが、直虎は嫌がる事もなく教えてくれた。

「今は戦の真っ只中であれば、出陣した夫に代わり、家を守る事が重要です。戦でない平時でも、妻は家の中を守るものなんですよ」

「家を守る…」

確かに九州へ行く前の直政に「義母上を頼む」と言われたのはそういう理由があるのかもしれない。
自身は単純に直虎の方が。と思ってしまったのだが。

「もちろん。食事の準備も着物を縫うこともしますよ」

それは一般家庭でもそうだろうとは思った。
だけど、食事に関しては井伊家に台所を守ってくれている人がいるから、が出る幕などないのだ。
大名の妻ともなればその機会などもっとないと思う。
直政がもっと格下の身分だったならば、が自分で家事をしたのだろう。

「あとは、家族も重要ですが、家臣の生活にも気を配る事も大切です」

「家臣…私、今まで誰一人にも会った事がないよ…」

「まぁそれはそうでしょうね」

直政が家に家臣を招く事はないし、どちらかと言えば、家康の家臣という顔の方が強い直政だから。
それでも直政に仕える人はいるだろうから、一度会ってみたいと考える。

「一番重要なのは…子供への教育ですね」

「教育!?でも、よく聞くのは守り役が居たり、専属の先生みたいな人がいたりとか」

「それは大名ともなればそうですけど。この先二人の子供が家康様のお子様に仕えるようになるなら、その為にしっかり教育はしませんと」

「あぁ…そう言うのもあるか」

稀に自身が成り上がって行く者もいるが、それはもう才能に近いだろう。

「勿論。私もしっかりお手伝いしますからね!は〜二人の子供ってどんな子になるんでしょうね」

早く孫の顔が。と直虎が言いだす。
これでは先日の話と同じではないかとは焦る。

「私、武家の妻としてはまだまだなんだね。知らない事が多かったよ」

直虎は大丈夫だと笑む。

「知らないならば、これから知ればいいだけの話です。私も、直政もさんの味方です。これから一緒に学んで行きましょう。それに、そういう意識を持ってくださった事が私には嬉しいですから」

「はは…」

「あまり考えたくないことですが…戦ばかりの世ですから、直政が無事に帰ってこれない場合もあります。だから、その分妻は家を守らなくてはならないんですよ」

直虎の言葉は、を気遣ってなのか遠回しに言っているが、要は戦で亡くなる事を意味しているのだろう。
今現在、直政は戦をしているのだ。

「………」

改めての事を思うとは言葉も出なかった。
直政が出立前にどこに行きたい?と半ば強引とも思える態度だったのは、そう言う意味もあるのかと。
もしかしたら、あれが最後かもと…。

「本当…知らない事も多いし、覚悟も足りなかったんだね、私は」

「大丈夫です!直政はすぐにでも九州から帰って来ますから!!」

「うん」

暗い顔をするのはやめよう。
直政が不在の間は自分が家を守らないといけないのだから。

「えっと。とりあえず…旦那様の家臣さんたちはほとんどが九州に一緒に行っているんだよね」

「はい。大半の方たちは」

「じゃあ、旦那様が帰ってきたら、ちゃんと挨拶しないと」

が下を向かなくなったので、直虎は安心したようだ。

「そうですね」

「どなたから会えばいいのかな。色んな方がいるだろうし」

大勢いるだろう家臣団。聞けば元は武田家に仕えていたらしい。
それを思うと、もしかしたら一人は顔見知りぐらいはいるだろうか?

「それならば木俣守勝さんですね。家康にお仕えしていたのですが、今は直政を補佐してくださっていますよ」

頭の中にその人物の名前を気に留めておく。
どんな人物なのか楽しみだ。

「あとね!着物!私にもできるかな?一から仕立てるんでしょ?」

「はい。できますよ。ではやってみましょうか?」

「うん。やりたい!」

どんなものを作ろうか、考えただけでも楽しくなる。

「直政も喜ぶと思いますよ」

「え?」

「直政の着物を仕立ててくれるんですよね?…あれ?さん??」

の口角が引きつった。
赤面したのが自分でもよく分かった。

(う…確かに……どんなものをと考えた時…旦那様の顔が浮かんだけど…)

できれば最初は自分用にと考えていただけに口に出されると恥ずかしくなった。

さん?」

「う、うん…旦那様にね」

「はい!頑張りましょうね!」

今更違います。とは言えないから。
でも、最初は自分用に、寧ろ練習をかねてと考えていたから、いつか直政にとは思っていた。
それがこんなにすぐだとは思わなかっただけだ。

「さぁ、さん。まずは反物選びに行きましょう!直政に似合いの物を見つけなくては」

「直虎ちゃん、張り切って…直虎ちゃんが仕立ててやった方がいいんじゃない?」

立ち上がった直虎は動きが止まる。

「えと…私は針仕事は苦手なので…さんにお任せします」

「あれ?直虎ちゃん?」

「さぁ行きますよ。さん」

直虎はの手を曳いていく。

「直政が帰ってくるまでに完成させましょうね!」

「それは、ちょっと無理があるんじゃ…初心者だよ、私」

だが直虎の耳には入っておらず、関係ないとばかりにを外へ連れ出すのだった。





直政への着物を仕立てる事で、暇な時間は減った。
今更だけど、武家の妻としての役割も知った。
こんな自分を見たら、直政は驚くだろうか?

「…気味が悪いとか思われちゃうかな?」

小さく笑う
直政のそんな姿を想像してしまうも、せっせと針を走らせる。
あまり馬鹿な事ばかり考えていると失敗しそうだから。

「旦那様のお帰りと、これの完成どっちが早いかな?」

なんとなく直政の帰りが待ち遠しいなのだった。







15/05/09
19/12/29再UP