桜の一歩。




ドリーム小説
「ただいま戻りました〜」

駿河から戻って来たくのいちを幸村が出迎えた。

「ご苦労だったな、くのいち」

「いえいえ。あたしも久しぶりにちんに会えたのでなんてことないですよ」

「そうか。は元気でいたか?」

「はい。それはもう。旦那さんとも仲良くしているみたいですよ」

それを聞いて幸村は穏やかに笑った。

が嫁に行くなど想像していなかったからな。どうなる事かと心配だったが…そうか。これで一安心だな」

幸村はもうすぐ豊臣への忠誠の証として豊臣に行く。
人質生活となるのだが、それを苦とは思っていない。
真田の家の為だと思えば。
だが、井伊家に嫁いだを思うと多少心配があった。
それも杞憂のようだと幸村は安堵する。

「兄上にも報告してもらえるか?」

「はい、勿論ですよ」

そう言って幸村はその場を離れた。

(まぁ…そんなに心配はすることもないとはあたしも思うけどね)

だけど、まだ睦まじい夫婦仲。には見えないとくのいちは思った。
何度か直政の言葉と態度にが驚いているようなところがあったので。

(けどま。あのままってよりはマシか)

嫁ぐ前のを思えば。
はこの先もずっと信之の妹であることを選んだのだから。





「明日、時間がある。どこか行くか」

「どこか行きたい場所でも考えておけ」

くのいちが帰った後、直政がそんな事を言った。
突然の事で自身も驚いてしまう。
今までそんな事なかったから。
真田の家に恥をかかせないように、直政の妻として努めているつもりだ。
それでも、直政との距離はなんとかしないと不味いかと少しずつでいいから歩み寄ろうと考えたのだ。
直政からの申し出。少しは効果が出ているのだろうか?

(でも、ヤバい!なんか緊張するかも)

翌朝。そのお出かけの日なのだが、初めてという事もあってなんだか妙に緊張していた。
直政の妻となっても、それらしさがないのも周囲にはわかっているのが現状。
だから普通に出かけようなどと誘われるとは思わなかったのだ。

(ユキさんとなら何度も外に遊びに言った事はあるけど…)

他の男性とはほとんどない。
これは信之に関してもだ。
幸村とは甘味処、茶屋などによく行った。あとは散策などを目的で山歩きもした事もある。
デート。という意識はお互いなかっただろうから、ただの遊びなのだろう。

「おはようございます。さん」

「お、おはよう!直虎ちゃん」

背後から声をかけられて驚く

「どうかしましたか?」

「ううん。なんでもないよ」

ふと気づいた。
直政が出かけるぞ。と言っても、義母直虎も一緒なのではないかと。
だったら変に意識するだけ損だろう。
にしてみれば直虎が一緒の方が気分は楽だ。

「今日もいい天気ですねぇ」

「そうだね」

「お出かけをするにはぴったりですね」

そんな話をすれば、あぁ、直虎も一緒なのだとは思った。
直政と三人で朝餉も済ませる。
出かけると言われても時間指定もないし、直政が行くと言ったらその時なのだろう。
自室で、は小さく唸る。

「桃色だと子供っぽいかな?…でも赤だと私には似合わない気もするし…青の方がいいかな?」

なんとなく鏡の前で着物の色に着いて考えてしまった。
深く考えまいと思っていても、普段と違うと意識してしまい着物の色が気になった。

さん」

「はぅ!!?」

思わず直虎の口癖が飛び出してしまった。

「な、なに?」

「直政が待っていますよ」

「え?あ、うん」

「はい。いってらっしゃい」

直虎はの背中を軽く押した。

「直虎ちゃん?」

早くと言わんばかりに直虎は室からを出す。

「遅い。何をしていたんだ?」

「え?あ、ちょっと…」

「行くぞ」

待っていた直政はそれだけ言うとさっさと外に出ていく。
は慌てて草履を履いて直政の後を追う。

「いってらっしゃい〜」

直虎は笑顔で手を振って見送った。

「あ、あの旦那様?直虎ちゃんは?」

「義母上がどうしたのだ?」

「一緒じゃないの?」

「何故だ?」

何故だと聞き返されてもも困る。
てっきり直虎も一緒だと思ったのだ。
そうすれば、きっと甘味を食べるのもわいわい言いながらで楽しいだろうなと思った。

「直虎ちゃんも行くのだと思ってた」

「そうか。義母上と一緒の方が良かったか」

「……あ、そう言うわけじゃ…」

直政と二人は嫌だと誤解させてしまっただろうか?
そんなつもりはないが、直政と二人だと緊張しそうな気はしたのではっきり否定できなかった。
でも、変な意地みたいなのが出てしまう

「それは…旦那様の方じゃないの?」

「なに?」

「直虎ちゃんが居た方が嬉しいんだろうなって…」

直政が義母を慕うのは今更の話だ。
家康や忠勝から話を聞いてよくわかっているから。

「義母上は関係ない。いいから、どこに行きたい?」

直政はそっぽを向いている。

「えと…特に考えていないというか…どこに何があるのかまだよくわからないから」

「そうか…それなのによく一人で忠勝殿の屋敷に行けたな、お前は」

「まぁあの時はねぇ…」

直政は小さく笑った。

「適当にぶらつくか」

「はい」





純粋に楽しいと思えた。
目的などなく、町中を歩く。
目についたものを立ち止まっては、時には手に取って直政に見せてみたりして。

「わ。かわいい〜旦那様、ほらほら見て。桜柄の千代布だって」

「そうだな」

「あ。こっちには簪もある」

二人が歩いていたのは丁度問屋が多く立ち並ぶ市だった。
その中の、一つの店に二人は立ち寄った。
小物が多く揃っていて、一つ一つに人情味が出ている。
はその中でも桜の柄のものを気に入った。

「桜が好きなのか?」

「好きかな…桜は真田を思い出すよ。特にユキさんをね」

「ほぉ」

「ユキさんを桜の花のようだと例えた人がいたの。信之様はその桜の幹だとも言って。真田の家自体が桜に例えているのかもね」

「それは喜んでいい事なのか?桜は散り際が良いと言う者が多いからな。それを幸村に、真田に例えるのもどうかと俺は思うが」

「………」

驚いた顔をして直政を見る

「いや、すまない。気を悪くさせるつもりはなかったんだが…確かに桜は綺麗だからな」

「ううん。旦那様は信之様やユキさんと会ったことあるんだよね?」

「数える程度、戦場でな」

「じゃあなんとなくわかるんじゃない?信之様はともかく、ユキさんは…ユキさんはいつも先陣切って駆ける人だから。散る事を惜しいとも思わないから…」

「それは…俺にとっても耳の痛い話だな」

直政が苦笑する。

「周りを見ずに突っ走っていたからな、俺も…散々義母上や、家康様…忠勝殿に迷惑をかけた。だが、俺は散る事を良しとは思わない。散らぬよう最善は尽くすつもりだ」

「あは。旦那様らしいなぁ。確かにそんな事になってしまったら、直虎ちゃんも家康様も悲しんじゃうよ」

「お前は…もしそのような事になったら悲しんでくれるのか?…っ!?」

は直政の額を叩いた。

「旦那様のおバカ。そのような事になったら困るんで変な事を言わないで」

「す、すまない」

「旦那様の言葉を借りるならば、ダメだ、ダメすぎる。だよ!」

「そうだな。今のはダメすぎるな」

正直言って未だ天下は一つではない。
秀吉と家康が和睦を結んだ事により多くは秀吉に従っているが、四国、九州、関東、東北。といまだに秀吉に降る様子を見せない大名も多い。
戦がない世ではないのだ。

「詫びではないが、何か買ってやろう。どれがいい?」

「え?詫びとかいいよ、別に」

「たまには素直になれ。贈り物の一つぐらいさせて欲しい」

なんだか恥ずかしく感じるもは素直に頷いた。
そうだ。いつも自分は直政に対して素直さが足りなかったんだから。





「それで何を贈られたんですか?さん」

屋敷に戻って直虎に色々報告していた
気恥ずかしさもあるが、は直虎に直政から贈られたものを見せた。

「千代布と、懐紙入れと扇子!どれも桜の柄なんだよ」

「可愛いですね〜さんは桜が好きなんですね」

「うん」

真田を思い出すと言うのもあるが、それを直虎に話す事でもないだろう。
それを知っているのは直政だけで良いと。
だから単純に桜が好きだと言えばいいのだ。

「あ。直虎ちゃんにもお土産あるよ。お団子買って来たから一緒に食べよう」

さささと包みを取り出す
それを直虎の前で広げると串団子が顔を見せた。

「美味しいそうですね」

「うん。美味しいよ。旦那様と甘味処に言って食べたものと同じだから」

「本当に楽しい時間を過ごせたようで、私も嬉しいですよ。さん」

口を開けば言い合う事が多かった息子夫婦なだけに。





「桜が好きか…」

直政は一人書斎でそのような事を呟いた。
桜が好きだと言った
桜は真田の家のようだと例えて。
よほどの強い思いれがあるのだなと直政には思えた。

「もしかしたらどこかで張り合っているのかもな、俺は…」

数える程度しか会った事のない、の家族に。
贈り物だなんて、先日真田の家からに届いたから余計に。
慌ててかぶりを振る直政。
こんな独り言。誰かに聞かれでもしたら恥ずかしい。

「まったく…ダメだ、ダメすぎる」

男としても情けないと思わずにいられなかったから。

「旦那様」

「なんだ?」

直政の声に反応し、が襖を開けた。

「直虎ちゃんとお土産のお団子を食べるところなの。旦那様も一緒にどう?直虎ちゃんも待っているから」

「わかった。行こう」

直政は立ち上がる。

「だがな、…」

「ん?」

「いい加減、義母上への呼び方を改めろ」

「直虎ちゃんが良いって言うんだからいいでしょ」

「何?」

「それに。井伊家家訓の中に当主に対してそのように呼んではいけません。とはないから大丈夫!」

普段は家訓なんて。と言い切るがここぞとばかりに家訓を持ち出してきた。
直政はため息を吐く。

「俺が家督を継いだら、その家訓を作ってやる」

「ええ!?旦那様も家訓作成マニアになったら困るからやめてよ!」

「なんだ、そのまにあってのは…」

「なんでもいいから。とにかくダメ!それより早く!直虎ちゃんが待っているから」

「お、おい!」

は直政の背を押し急ごうと室を出るのだった。








15/04/05
19/12/29再UP