便りがないのは。



ドリーム小説
(少しは歩み寄らないとダメなんだろうなぁ…)

と、思うようになった
直政とは夫婦であるが、夫婦らしくない。
兄と妹のように見えなくもない。
しかし、先日家康や忠勝たちに紹介された時、直政は「妻のです」としっかり紹介してくれた。
少しは変わらないとダメだろうと。
直政の言葉を借りるならば、「ダメだ、ダメすぎる」なのかもしれない。



***



忠勝に会ったとき、信之からの文に自分の事が書いてあったと聞いた。
直政に嫁いで二月。
月一で信之から文は届いていたが、は返事を一度も出していなかった。
最初は井伊家での生活に慣れる為忙しくて書けないと思い込んでいたが、二度目の文が届いたときは正直、なんて書けばいいのかわからなかった。
それでは困るだろうと、書いてみるも、書いた内容は直政の事ではなく、義母直虎のとの事ばかりだった。
直政の事を書こうとすると、どうしても直虎に対しての直政の事しか出てこないから。
あと、今なら書けるのは先日米俵のような扱いを受けた。
ぐらいだろうか?

(そんな事を書いたら、すごく心配されるだろうなぁ)

でも何かしら返信しないと信之に心配されてしまうかもしれない。
実際、返事を出さないに対し、信之は心配になり忠勝への文に書いたのではないだろうか?

「うーん…と、良し!」

は少し考え行動に移した。



***



「信之様?どうかなされましたか?ため息など吐いて…」

どこか物寂し気な信之の表情に、稲は問いかけた。
信之は日当たりのよい縁側に腰を下ろしいた。

「あぁ、稲。大したことではないんだ」

稲は信之の隣に腰を下ろした。

「中々から返事が来なくてな…井伊家ではどうしているのだろうかと思って」

「まぁ」

稲はとは直接会った事がない。
稲が真田へ嫁いだ時には、彼女は井伊家に入れ替わりで行ってしまったから。
信之や、幸村、たまにくのいちからの話は聞くが、皆本当の家族のようにとても良好な関係を築けていたのだなという印象を持っていた。

「井伊直政殿とはどのような御仁なのだろう?稲は知っているのだろう?」

「はい。直政様は実直な方ですよ。最初はその実直さ故に周りとは馴染めずにいましたが、今では家康様からの信頼も厚く、とても素晴らしい方だと稲は思います」

「そうか…直政殿とも上手くやっていてくれればいいが…」

数回程度、戦で直政の事は見かけていた。
武田の赤備えのような真っ赤な甲冑をまとっていた青年だと覚えている。

の性格だと…ムキになって喧嘩でもしてしまいそうな気はするな」

信之は苦笑する。

殿は気性の激しい方なのですか?稲にはそのような印象はありませんでしたが」

「いや、激しくはないさ。ただ、少々頑固な面があってな。一度決めたら誰が相手だろうと態度を崩さない事が多いんだ」

普段は聞き分けのいい子なのに。と信之は思い出したように呟いた。

ずっとそばに居てくれるのだろうと思っていた妹分。
まさかあっさりここを出るとは思わなかった。

「大丈夫ですよ、信之様。直政様は悪い方ではありませんし、父も直虎殿もついておられますから」

徳川は敵地ではない。稲はそう言い切った。

「何より、稲もこうして新しい土地で馴染んで楽しく過ごせております。きっと殿も楽しんでおられるはずです。あまりに楽しくてどう返事を書いたらいいのか悩んでいるのかもしれませんよ?」

悪い事があって書けないのではなく、書きたい事があって迷って書けない。
前向きな稲の姿勢に信之は安堵し頷いた。

「そうだな。きっと、そうだ。どんな便りが届くのが楽しみに待つとしよう」



***



やはり信之が心配していた事など、今のにはわかるはずもないのだが。
一応、行動だけは起こしていた。

「何?新入りの話とな?」

「はい。私、旦那様の事は知らない事ばかりなので、周りの方々から聞いてみたいと思いまして。まずは忠勝小父様からと」

忠勝は今までずっと直政の世話をしていたらしい。
直政に言わせるとお節介らしいが。

「と言われても、何を話して良いのやら」

は本多屋敷を訪れていた。
忙しい忠勝の事だ、不在かと思ったが居てくれ、さらにはこうして相手までしてくれたので感謝だ。

は知らぬと言うが、から見てどう映るのだ?」

「私、ですか?……義母上馬鹿ですね」

あっさり言い切ったに忠勝は声に出して笑った。

「義母上第一。って感じはしますよ。あ、それに加えて家康様馬鹿とも取れます」

「誰でも主に忠実であるのは仕方あるまい」

そうでなければ困る事だ。

「そうなんですけどね。旦那様にとって義母上が一番大事なのだろうなって」

「否定はできぬな。直虎殿の事を今まで守ろうとしていたからこそ、新入りは突っ走っていたのだろうからな」

忠勝から聞かされた、戦に出始めた頃の直政の話。
徳川の為とはいえ、一番に手柄を得ようといつも先頭を切っていた直政。
味方の事などお構いなし、自分の体に傷がつくのも気にせず。
徳川の為と言えば聞こえがいいが、それに対して独断すぎると周りと馴染めずに居た。
ただ、直政から見ても、そんな周りが臆病になったとしか思わなかったようで、逆に忠勝に歯向かってきた。

「ただ、直虎殿が徳川に参入された頃の方が井伊家の扱いは悪かった。その為に直虎殿はかなり苦心された。その背中をいつも見ていたのだろう」

がむしゃらに働き、功を立て外様である自分を周りに認めてもらいたいから。
徳川に井伊家ありと。
それをわかり見守ってくれている家康の為に、直政は戦で突出してしまっていたそうだ。

「だが、奴は変わった。今では徳川の為に最善を尽くす戦いをするようになった」

「………」

「ん?どうした?」

「結局、旦那様は義母上と家康様が大事というのはよくわかりました」

そんなの話に聞かずともわかっていた事だ。
だけど、直政も苦労はしていたのだなと言うのはわかる。

「お前…何を拗ねているのだ?」

「別に拗ねていません」

それではまるで、自分が直虎や家康に妬いているようなものではないか。

「でも、多分同じことを義母上に聞いても、似たような話をされるのでしょうね」

そこに、虎松は賢いとか、いい子だとか付け加わるのだろう。

「大体、旦那様は私には一般的な女性の扱いをしてくれないんです」

信之を見習ってほしいものだと息巻いてしまう

「婿殿を?」

「あ。いえ、つい…」

これは失言だったとは気づく。

「信之様もユキさんも、天然ではありますけど。それなりに女性への扱いは丁寧だったので」

若干、幸村に関してはどうかと思うが、信之だけを強調するとまずいと思ったからだ。

「新入りは合格点を貰えぬか。しょうがない奴だ」

「本当、ダメすぎます」

は忠勝と一緒に笑うのだった。



***



「どこに行っていたんだ?

屋敷へ戻ると直政が待っていた。
一応家人には出かけるとは伝えたので問題ないとは思うが。
直政なりに心配をしてくれたのだろうか?

「忠勝小父様の所へ。帰りも屋敷の方が送ってくれたので問題はないかと」

「……何をしに忠勝殿の所へ?」

「内緒。私と小父様の」



そのまま通り過ぎようとしたが、首根っこを掴まれてしまう。

「旦那様!?」

「あまり忠勝殿に迷惑をかけるな」

「それ、旦那様が言う?今まで一番小父様にご迷惑をおかけしていたくせに!」

「何?」

直政の手が緩み、は逃れられた。

「小父様から、旦那様のお話を聞いていただけだよ」

「………」

「中々のやんちゃ坊主だったんだね、旦那様は」

「まったく…そんな話を聞いても面白くないだろうに」

直政は右手で顔を覆いかぶりを振る。

「確かに、旦那様の一番が直虎ちゃんと家康様だと言うのを改めて認識したので、面白くはないけどね」

「おい!」

は直政を置いて室に戻って行く。

「よし。信之さまに文を書こう。ネタはいっぱいできたし」

嬉々として信之宛ての文を書き始めるだった。



***



「………」

数日後、から届いた文を読んでいた信之。

「兄上。から文が届いたと聞きました。なんて書いてあるのですか?」

幸村も気になるようで聞きつけてやって来た。
一緒に稲もいる。

「きっと井伊家での生活が楽しいと書いてあるのでしょう?信之様」

からの便りが楽しいだと言う二人に対し、信之は苦笑した。

「兄上?」

「読んでいいぞ」

信之から手渡されたからの文を幸村は読み始める。
稲も行儀は悪いと思いつつも、ついそれを隣から覗き込んでしまう。

「………あ、あ〜…あははは。らしいとは思いますが」

「で、でも。父上と仲良くされているようで良いではありませんか。稲も嬉しく思います」

読み終えた二人は信之を気遣ってか、そんな風に口にした。

「まったく…これでは心配するだけではないか」

からの文には中々返事を出せなかった詫びと井伊家での生活は悪くない事。
家康と対面した事、忠勝という強い味方ができたと書いてあった。
義母直虎とも上手くやれていて、苦労なく生活できていると。
ここまでは普通の内容で、信之も安心できたのだが、その後がひどかった。



旦那様は義母上や家康様を大事にされるとても良い方だと思います。
ですが、少々頭の固い面があり、私はいつも説教されてしまいます。
夫婦と言うより、どこか口煩い兄がもう一人できたような感じです。



「信之様。直政様は悪い方ではないので大丈夫ですよ」

「大丈夫だ。稲の話を信じていないわけではないよ」

きっとそんな風に書いてはいるが、楽しく過ごしているのだろうと思いたい。

「ですが、兄上…私は一つ気になる事が…」

「幸村?」

真剣な眼差しで文を読み返している幸村。
幸村にはからの少々愚痴が書かれた内容に、何か不安視する事を見つけたのだろうか?

の言う…『どこか口煩い兄がもう一人できた』…というのは、兄上の事ですよね?」

「………いや、幸村の事だろう」

「私はに説教などした事はありませんが」

「私もないぞ。これは心外だ。きっと幸村の事を言っているのだと思うぞ、私は」

「兄上。認めてくださいませ。これは絶対、兄上の事です」

何を真面目に言いだすのだろうかと稲は苦笑する。

「次にに会う時が楽しみだな。ぜひとも、はっきりさせたいからな」

「ええ、楽しみです。恐らく兄上の事だと言うと思いますから」

再会した時に、兄弟喧嘩が勃発するのではないかと稲は思ったが、稲も早くに会ってみたいと思うので、その時が楽しみだと思うのだった。








15/03/22
19/12/29再UP